ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私、この武道大会でクリス・ベイ・クラリノを使ってクラリノ家への復讐を果たすことに決めましたわ!
きっと上手くやりますわよ!ついでに私との婚約を破棄したダクター様についても大恥かかせてやりたいところですわね!
さあさあさあ!思う存分楽しませて頂こうじゃありませんの!おほほほほほほほ!
ということで、開会式が終わりましたわ。
国王がしょーもない挨拶をしていたのは適当に聞き流しましたわ。なんか『この国を導く英雄の登場に期待している』とかなんとか言ってましたけれど、多分それってダクター様やクリス・ベイ・クラリノに大いに期待をかけている、ってことなんでしょうね。ええ。間違っても他の人達への期待じゃあないと思いますわ。
その後、ルール説明が行われて、翌日からの初戦に向けてすぐ解散。
その後も観客達は『あの戦士が見目麗しかった』だの『あの戦士に勝ってほしい』だの色々と囁き合っていましたけれど、まあ、そこらへんは大方吹っ飛ぶでしょうねえ……。
さて。
この初戦の面白いところは、王都のすべてが戦場になる、という点ですわね。
町行く人々が集まるそこかしこで、いきなり戦闘が始まるのですから、民衆からしてみれば、中々面白い催しなのではないかしら。
そう。この初戦は、全ての民衆の目の中で行われるのですわ。
コロシアムの中心で戦うよりも少ない目しか届きませんけれど、その分近くに民衆の目があるのですから、少々勝手が違うでしょうね。
それに、この初戦、『正々堂々』なんてやってられないルールですのよ。
奪えば勝ち。奪われれば負け。
それだけの単純なルールなのですもの。2人が戦っているところにもう1人が突っ込んでいったって、ルール違反にはなりませんわね?
何なら、街に落ちていた何かのビラを踏んで滑って転んだせいで負けたって、それは自分のせい、ということになりますのよ。だって戦場はこの王都全部なのですもの。
……この初戦、お上品にコロシアムのステージ上で戦うのとは何から何までまるで違うのですわ。
どんな戦場でも戦える能力。
間近にある観衆の視線に耐える戦い方。
そして横槍に動じない、本当の戦闘能力。
それらが問われる戦い。それがこの初戦なのですわ!
……恐らく、国王はそんなこと、全く考えていなかったのだと思いますけれど。
特に、『横槍』については、まるで考えていなかったと思いますわ。
ということでとりあえず、私の初戦での方針が決まりましたわ。
まずは、適当に喧嘩を吹っ掛けては相手をぶち負かして勲章を奪う。
奪えるだけ奪ったら……3日目の夕方の鐘が鳴ってからが本番ですわ!
翌日の朝8時。
王都に大きく響き渡る鐘の音が、初戦1日目の開始を伝えましたわ。
……その時、私が居たのは王都の一番大きな通り。
そこで両手に剣を携え、胸には配布された勲章を輝かせ。……どう見ても挑戦者待ち、という格好ですから、鐘が鳴る前から、私の周囲には数名、参加者が武器を抜いて待っていましたのよ。
そして、鐘の合図と同時に彼らは一斉に私へ向かってやってきましたわ!
そして3分後にはその全員がその場に伸びることになりましたわ!おほほほほほ!これで勲章の数は5個!まだまだ集めますわよーッ!
大通りを闊歩していれば、自然と次の挑戦者と行き会いますから、その都度喧嘩を吹っ掛けて勲章を奪っていけばよくってよ。
……ただ、勲章が10を超えたあたりから、喧嘩を吹っ掛けようとしても逃げられるようになってしまいましたのよ。
そりゃあそうですわね。胸に11個も勲章が輝いている剣士が居たら、絶対に戦いたくありませんわよね。わざわざ負ける戦いはしたくないのが人間の常ですわ。ええ。
ただ、そうして戦いを避けられていては、私の勲章が増えませんの。私、勲章はもっともっとたくさん欲しいんですのよ。ええ。特に意味はありませんけれど、折角ですから。
ということで私、勲章は最初の1つ以外、全てマントの内側に着けておくことにしましたわ。
勲章を『全て』見える位置につけておく指示はルールにはありませんし、問題ありませんわね。元々、勲章を見える位置につけておけ、というのは、要は参加者とそうでない者を分かりやすくするため、ということだったのでしょうし。
そうしてこちら側の実力を隠して、私、まだまだ狩りに行きますわ!11やそこらじゃ満足できなくってよ!
やはりこういうものは初日のお昼前までが勢いづいていますわね。
そこまでで相当数の勲章が集まりましたわ。ええと、1、2……あら、15も集まりましてよ!中々いい調子なんじゃありませんこと!?
……ただ、まあ、勢いづいているのは初日のお昼前まで、ですわね。
それ以降はとっても伸び悩みましたのよ。ええ。
何と言っても、雑魚はほとんど狩り尽くされて、勲章を失った状態。一方、勲章を3つ以上手に入れてしまった奴らは適当に籠城でもなんでもして残り2日半を耐え忍べばいいだけですから、無用な戦いはしませんわね。
……ですから、私が狙うのは、この時点で勲章2つ、もしくは1つを抱えたまま、まだ碌に戦いもせずにうろうろしている奴らですわ。
3つに届かないけれど戦って勝てる相手がもう見つからない、という彼らは、その内、彼ら同士で戦い始めることになりますの。
だってそうですわね?勲章3つ以上を持っている奴はもう戦いに応じないか、はたまた狂戦士かのどちらかですわ。ですから、勲章3つが欲しい者は、自然と星1つもしくは2つ同士で戦い始めることになりますのよ。
……ええ。面白くありませんのよね。ここから勲章を集めようと思ったら、そういった雑魚を一生懸命探しては狩らないといけないのですもの。
ですから私、もっと面白い方法で勲章を稼ごうと思いますのよ。
まず、大量の兵士が集まっているところを探しますわ。大体は貴族街のどこかですわね。
ええ。そうですの。貴族のお坊ちゃま達は、部下を適当に2人集めて適当に勲章を譲らせれば、後は籠城しているだけで初戦を突破できるんですのよ。
でもそれってこの大会の意思に反していると思いませんこと?
ですから私、そこをつついてやることにしましたの!
「ごめんくださいまし」
適当にそこら辺の警備がガチガチの貴族のお屋敷を選んで入ったら、案の定でしたわ。中庭では勲章をつけた貴族のボンボンが優雅にティータイムなんてしてましたわ。
「私、この勲章の示す通り、参加者ですの。あなたの勲章を頂きに参りましたわ」
「なっ……ど、どこから入った!?」
「どこって、あらやだ。玄関以外から入ったように見えまして?」
見えないでしょうねえ。だって玄関から中庭までにこの屋敷の兵士が倒れているのが見えますものねえ。
あ、ちなみに兵士の中には勲章を持っているのが何人か居ましたわ!また儲かりましたわ!
「わ、悪いが僕はこれから休憩なんだ。後にしてくれないか」
「後に?ということは、戦うこと自体は厭わない、ということですわね?なら待ちますわよ」
「い、いや、その……」
まあ慌てるでしょうね。存分に慌ててくださいな。今更慌ててももう遅いですけれど。
「それとも、『もう勲章を3つ手に入れたからこれ以上戦う気はない』とでも仰るおつもり?つまらない男ね。貴族として恥ずかしくありませんの?」
安い挑発ですけれど、これに乗らない奴は戦士じゃありませんわね。
「全く……仕方ない、一戦お付き合いしよう」
ああよかった!これで乗らない奴だったら、有無を言わさず襲い掛かって勲章を強奪するより他にありませんでしたもの!合意が頂けてよかったですわ!やっぱり合意の上で強奪したいですものね!
「では賭ける勲章は幾つに致しましょう?私、20までは賭けてもよくってよ?」
「にっ……!?」
「そうだわ。互いに持っている勲章全てを賭ける、というのはいかがかしら?あなたが3つしか持っていなくても私、構いませんわよ?」
慄く貴族のボンボンを前に、私、もう楽しくって仕方がありませんわ!
「どちらにせよ、あなたはここで負けたらこのお屋敷にこもりっきりにはなれませんわよ?あなたを守る兵士達から勲章は既に頂いておりますの。欠けた1つの勲章を得るためには、怖ーいお外に出なければならなくってよ?なら、1つ賭けるのも3つ賭けるのも同じなんじゃなくって?」
ボンボンがいよいよ『大変なことになった』と気づいたようですけれど、もう遅いですわ!
この屋敷が私の目についた時点で、こうなることは決まり切っていましたもの!おほほほほほ!
……ということで、適当に貴族のボンボンを放り投げて、勲章3つを頂きましたわ。自分で了承したことですから、偉い貴族でも大事にされてきたボンボンでも、文句は言えませんわよねえ。……まあ、もし合意が頂けていなくても、勲章は3つ頂いていくつもりでしたけれど。
「く、くそ、どうすればいいんだ……今から勲章3つを集めるなんて……」
貴族のボンボンは絶望しているようですけれど、まあ、これも運命と諦めて頂戴な。
……けれど私、未来と金のある貴族のボンボンには少々優しくってよ。
「……あら。そういうことなら勲章、返して差し上げても良くってよ」
「えっ?」
「3日目の夕方の鐘が鳴った後、広場にいらっしゃいな」
私は親切にそう言ってから、貴族の邸宅を去りましたわ!
そうやって他にも何軒か貴族の屋敷を訪ねてみたのですけれど、その頃には同じことを考えついたらしい誰かが貴族の屋敷を狙っていたせいで、そこまでの稼ぎにはなりませんでしたわ……。
でもまあ、よくってよ。
3日目になればどうせ、それまで動きあぐねて勲章1つか2つの連中がぞろぞろと集まり始めるでしょうから、今度はそっちを狙いますわ!
さて。
3日目の昼にはもう、広場に行けばそれなりの数の戦闘が見られるようになっていましたわ。
要は、勲章1つや2つの雑魚達が、いよいよ勲章3つに向けて外に出てきた、ということですわね。
……その頃には中々面白いことをやっている奴らが居ましたわ。
『2人対2人で、それぞれの組から星1つだけ賭けて戦う』というルールでやっている奴らが居ましたけれど、それって要は、傭兵ですわよね。滅茶苦茶に強い奴と組んで一緒に戦ってもらう、ということですわ。中々面白いじゃありませんの。
……他にも『勲章と勲章以外のものを賭ける』だとか、『勲章は適当にスる』だとか、『数人がかりで勲章を持っている奴を襲いに行く』だとか。中々混沌を呈して参りましたわねえ……。
まあよくってよ。
私、広場の中央に立って、大きく声を上げましたわ!
「どなたか、互いに持っている勲章のすべてを賭けて勝負致しませんこと!?」
マントの内側を見せれば、そこに並ぶ勲章31個。ざわつく広場。集まる視線。
……そして、私に挑んでくる者が現れるまでに、そう時間は掛かりませんでしたわ!
ということで3日目の夕方の鐘が鳴りましてよ。これにて初戦は閉幕、ですわね。後は明日の結果発表の時まで、一切の戦いは禁止、ということで……。
さて。
「私、42ですわ!」
「俺は27」
「僕は31。やった。ドランに勝った!」
……私達3人の結果は、まあ、私が優勝なのは当然として……キーブがドランに勝ちましたわねえ。
「あら、キーブ。あなたどうやったんですの?」
「簡単なことだよ。雑魚が集まってそうな宿屋を狙った。王都の外から来てる奴らが籠れる場所なんて他に無いでしょ?」
ああー、成程。貴族を1人1人狙っていくよりは遥かに楽ですわねえ……。まあ、それでも私の方が勝っているのですけれど。おほほほほ!
「……ところでこの勲章はどうするんだ?」
さて。ドランから素朴な疑問が投げかけられましたわ。
まあそうですわね。この数の勲章……ここにあるだけで100個ありますし、これをそのまま会場へ持っていったらとんでもない騒ぎになる気がしますわ。
……でもまあ、ただ捨ててしまうのも勿体ないですものね。ええ。
「折角ですもの。これ、売りましょうか」
「はいはい、じゃあオークションでいくよー。最初の1つ目は金貨5枚から!」
……ということで、広場では競りが始まっていますわ。
私が潰しに潰した貴族のボンボンズが取り巻き達と一緒にやってきて、一生懸命勲章を競り落とそうとしていますわね。
あ、ちなみに私自身はこの競り、やってなくってよ。餅は餅屋ということで、ジョヴァンに勲章を預けて任せてしまいましたわ。取り分の半分は彼のもの、という条件を出したら、喜んでやってくれましてよ。おほほほほ。
ちなみに、遠巻きに見ている者の中には王家の兵士も居ますわ。
でも兵士達はこの競り、止められませんの。何故ですって?そんなの、『ルールに書いていないから』ですわ!
3日目の夕方の鐘が鳴ったらそれ以降の戦いは禁止。
でも、勲章の競りを行ってはいけない、ともルールにはありませんし、戦闘以外で勲章のやりとりをしてはいけない、とも書いてありませんのよ。
よって、この競りはルールの範囲内!ええ、やはり遊ぶならルールを守って楽しく遊ぶべきですものね。おほほほほ!
「……いい収入になりそうだな」
「そうですわねえ……」
今、1つ目の勲章が金貨11枚で落札されましたわ。このまま全ての在庫を売っていけば、金貨1000枚分、実に赤金貨の収入になりますわねえ……。
「ところであなた達、ここで稼いだお金はどうするか、もう決めていまして?」
半分はジョヴァンの取り分、としたのは、私達には特にお金が必要ないからでしてよ。こんな所で小金稼ぎしなくても、もうあちこちで十分に稼いでいますもの。案外、お金には困っていないのですわ。
「どうしよ。運営費として寄付してやってもいいくらいだけど」
「あら、そう。私は近場の孤児院と大聖堂にでも寄付しておくことにしますわ」
「そうか。なら俺もそれに倣うことにしよう」
……結局、『ルールには無いがやっぱりダメ!』と騒ぎ始めた王家の兵士達が貴族達を散らすまでにほとんどの勲章は競り落とされて、私達には結構な額のお金が転がり込んできましたわ。
そしてそれらのお金は……大聖堂や孤児院、何なら今回の武道大会の運営本部なんかに寄付されましたのよ。
ええ。『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』の名前で、ね。
折角ですもの。武道大会で一番輝いて英雄になる予定の私から、一足早いプレゼント、ですわ!