没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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6話「全裸におなりなさい」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は開会式に引き続き、またつまらない国王の話を聞き流しておりますわ……。

 

 

 

 初戦を勝ち抜けた者は、恐らく王家の想定通りか、少し多いくらいの数だったのではないかしら。

 今回、初戦を勝ち抜いたのは61名。これからこの61名でのトーナメント戦が始まりますのよ。

 ……ただ、王家が想定していたよりはずっと、貴族の姿が多いんじゃないかと思いますわ。

 だってそれもそのはず。実力も無い貴族のボンボンが、勲章を金で買ってこの場に立っているのですもの。

 昨日の夜、勲章を金で買えたのは、当然ながら金持ちばかり。よって初戦はある意味、金を持っているかどうかの戦いになってしまった、というわけですわね!

 今もステージ上に立っているのは金にものを言わせた装備の貴族達。勿論、この中にはちゃんと戦える奴もそれなりに居るのでしょうけれど……。

 ……まあ、装備の力で勝つなんて、武道大会としてはどうかしらと思いますわね!

 武道大会なのですから、己の武力で勝ち抜くべきですわ!

 下準備も策略も含めての武力ではありますけれど、無策無力の馬鹿が金だけで勝ち上がるなんて、そんなの絶対に許しませんわ!

 

 

 

「お嬢さん。こっちこっち」

「あら。席取りご苦労様」

「はいはい。ま、昨夜しっかり儲けたからね、その分くらいはご奉仕させていただきますよ」

 トーナメント戦開幕の式典が終わって、私とキーブはくじ引きの後、観客席にやって参りましたわ。

 ……61名のトーナメントですもの。私とキーブはくじ引きで後ろの方になりましたから、自分の試合は明日ですわ。折角暇なのだから、いくらか観戦し甲斐がありそうな連中の戦いを見ておこうと思いましたのよ。

「あれ?ドランは?一緒じゃねえの?」

「彼は今日が出番でしたのよ。そう待たずに見られると思いますわよ」

 チェスタはドランの行方が気になっているようですけれど、そんなん決まってますわ。選手控室ですわ。

 ……今頃、あの聖騎士の甲冑姿で控室中の選手を怯えさせているのかと思うとちょっと面白いですわね。ええ。

 

 

 

 さて。私はジョヴァンが用意してきた飲み物を飲みつつ、早速始まったトーナメント戦を見物することにしましてよ。

 ……とは言っても、面白くない戦いですわねえ。

 冒険者らしい者が出てくる時にはそれなりに楽しめるのですけれど、貴族と貴族の戦いなんて、何も面白くありませんわ!

 何と言っても彼らの戦いって、財力と財力の殴り合いでしかないのですもの。

 どっちの装備が優れているか。ほとんどそれだけの戦いなんて、見ていて何も面白くなくってよ!

 ……そんな中、第8試合まで終わったところで、キーブが首を傾げましたわ。

「……もしかして魔法使いって少ないの?」

 あらっ、それはまた随分と初歩的な……。

「そりゃあそうですわ。魔法で戦えるくらい魔法が使える者は貴重ですもの」

「へー」

 へー、て、キーブったらもしかして、自分自身の価値に気づいていませんの?それはいけませんわ!

「いいこと?あなた、とっても貴重なんですのよ?誰かに攫われたりしないように気をつけなさいね?」

 キーブには奴隷だった過去がありますわ!また攫われて奴隷にされでもしたら大変でしてよ!

「……でも、貴重って言ったって、他に居ないわけじゃないんだろ」

 ほら、とキーブが示す方では、早速第9試合が始まっていますわ。

 第9試合には……リタルが出ていますわね。観客からは大いに歓声が上がっていますわ。ええ。観客って現金ですから、見目のいい戦士に激甘ですのよねえ……。

 相手はそこら辺の冒険者のようですけれど……あっ、割とあっさり決着がついてしまいましたわ。リタルはどうやら、水の魔法を使うようですわね。水鉄砲の凶悪な奴で相手の剣を弾いて終了、でしたわ。

 そしてその試合を見ながら、キーブは言いましたのよ。

「魔法使いだったら、あのリタルとかいう奴でもいいんじゃないの?」

 

 

 

「心配しなくても、可愛いあなたを他所へやってリタルを引き入れる、なんてつもりは無くってよ」

「別に心配してないけど」

 あらぁ、不機嫌そうな顔をされてしまいましたわ。そういう顔してても可愛いんですけれどね。どうしてやろうかしらこの可愛い子。

「僕の方が強い自信はあるし、一度僕に手の内見せた以上、僕を今更どっかへやれないってのも分かってるし。別に、それ以上の理由は求めてない。ただ……その、可愛い、って……」

 キーブはステージの方をじっと見たまま、ですわね。

「……例えば、僕がもう少し身長が高い奴だったら、手、組んでた?」

 

「……組んでましたわねえ」

 考えるまでも無いですわね。ええ。

 当時、魔法使いが欲しかったのは間違いないですし、そもそも、巡り合わせといいますの?あんな出会い方をしたのですもの、当然、捕まえておきたかったのですわ。

 そこにキーブの身長はあんまり関係ありませんわねえ……ま、まあ、最初は女の子だと思って喜んでいましたけれど……。でも、女の子じゃないと最初から分かっていても、あそこでキーブを拾わない選択肢はありませんでしたわね。

「なんで?」

「ええ?そりゃ、あなたが可愛いのは嬉しいですけれど……別に、可愛いからあなたと手を組んでる訳じゃなくってよ」

 なんだか妙に聞いてきますわねえ……。ちょっと珍しくってよ。まあ、嫌じゃないですわ。こういうのもたまにはいいでしょう。

「当時の私達にはあなたの性能を細かく気にして仲間にするかどうか決めるなんて余裕はありませんでしたし、実際、仲間にしてからあなたはよく働いてくれていますから文句もありませんわ。そして今更あなたを手放す気はありませんわよ。気に入ったもの、手に入れたものをわざわざ手放す馬鹿は居ないんじゃなくって?」

 そう言ったら、キーブにぽかんとされましたわ。これ以上に無い簡潔で明快な答えだと思うのですけれど。

「……ああ、そうだわ。私があなたのこと可愛いって思うのも、きっとそれですわねえ」

「え?」

「だって、気に入ってるものは可愛く見えてしまうものじゃなくって?そう。あなた、可愛いから気に入ったんじゃないの。気に入ったから可愛いんですわ!」

 ぽかんとしていたキーブが、ふいっ、とそっぽを向いてしまいましたわ!そういうところも可愛くってよ!

「……あ、そ」

「そうですわ。あなた、私のお気に入りですの。強くて可愛くて。それって最高じゃありませんこと?」

 

「……ヴァイオリアさあ、悪党、向いてないと思う」

「そうかしら。私、自分では割と向いている方だと思っていますけれど」

 悪党に向いてない奴は楽しく放火なんてしなくってよ。多分。

 

 

 

 さて。楽しくお喋りしている間にどんどん試合は進んでいって……。

 遂に、ドランの番ですわ。

 

「……あーしてドランと普通の奴並べると、残酷なまでに体格差あるのね」

「ははは、やっぱドランはああだよなあ」

 ええ。対戦相手が少々小柄だっていうことはあるのでしょうけれど……ちょっと可哀相なくらい、見た目に差がありましてよ。

 白銀のフルフェイス甲冑の、でかいことでかいこと。対戦相手はもう自分の敗北を察しているのではないかしら。

 

「……あ、始まった」

 そうして試合が始まりましたわ。

「あっ終わりましたわ」

 そうして試合が終わりましたわ。

 ……一瞬、でしたわぁ……。

 これには会場もざわざわしてしまいますわね。ええ。

 あの如何にも重そうな甲冑が一瞬で動いて距離を詰めて、剣でも斧でもなくその拳で相手の腹部に痛烈な一撃を与えて、それで終わりでしたわ。

 一瞬で間合いを詰める速さと度胸。一撃で相手を気絶させる力と正確さ。

 それらがほんの数秒の試合でしっかり見えてしまいましたから……会場のざわめきも、すぐに大歓声へと変わってしまいますわね。

 ドランはステージ上で聖騎士らしく綺麗に一礼して、さっさと控室の方に戻っていきますわ。その姿の凛々しく雄々しくデカいこと……。

「……はは。やった。リタルとかいう奴よりドランの方が強そうじゃん」

「そうですわねえ……え?キーブ、あなたリタルに何か恨みでもありましたの?」

「べっつに」

 ……ま、まあ、いいですけれど。いいですけれどね?

 

 

 

「あ、そろそろ私、行って参りますわ」

「え?」

 試合が適当に進んでいく中、私はさっと観客席を立ちますわ。

「……何かやるの?」

「ええ。金しかない貴族共が装備の力だけで勝ち上がるのは癪ですもの」

 私は鼻歌混じりに空間鞄1つ持って、さっさと選手控室の方へと向かうことにしましたわ!

 

 

 

 私が向かう先は、選手控室……の上の階の部屋ですわ。

 倉庫か何かになっているらしいそこがガラ空きなのはもう調査済みでしてよ。

「ああ、ヴァイオリアか。丁度良かった」

 そこには既にお兄様が待機してらっしゃいましたの。お兄様の手には安心と信頼の鉄パイプ。これが無いとお兄様じゃありませんわね。

「上手くいっていまして?」

「勿論だとも。……この通り、通気口と床は改造済みだ」

 お兄様が示した先では、外へと通じる通気口の辺りが酸でも掛けたかのように溶けていて、ついでに床の一部がひび割れていますわ。

「あとはここに放せばいいだけですのね!」

「そういうことになる。ああ、扉も改造しておいた。内開きになるように蝶番を逆にしておいたぞ」

「流石お兄様ですわ!」

 お兄様のお仕事の速さにはうっとりさせられますわね!

 ……ささ、では早速。

「出ていらっしゃい」

 私が空間鞄を逆さにしてふりふりとやりますと……中から、ピンクスライムが出てきましてよ。

 

 あ、ちなみにピンクスライムというのは、人間の装備を食べることを趣味にしているヘンテコなスライムですの。おほほほほ。

 

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