ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は武道大会をピンクスライムで滅茶苦茶にして、更に今、武具を売って儲けていますの!
「いやー、儲かるね。楽しいぜ、こういうボロい商売は」
「楽しいなら何よりですわ」
ジョヴァンは昨夜に引き続き大儲けで喜んでいますわねえ。私も儲けの半分は貰うつもりですから、また『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』の名前で寄付でもしておこうかしら。
「装備、どれくらい売れましたの?」
「ん?お高そうな奴から順番に、お高そうな在庫ほぼ全部。安めの奴も冒険者達が買っていったりしたし、中途半端な奴が一番売れなかったね。ま、売れなかったっつっても、ほとんど在庫全部捌けた以上、売れてない内に入んないけど」
あらあら。これは売上の方も期待できそうですわねえ。ついでに、慣れない装備で明後日出場してくる貴族のボンボン共の動向も気になるところですわ。
ジョヴァンが売ったのはもちろんそれなりにいい品ですけれど、フルオーダーメイドとは違いますもの。装備頼りの貴族のボンボンの戦力は半減、何なら四半減、ぐらいに考えてよさそうですわね。おほほほほ。
「お嬢さんのトーナメント初戦は明後日のお昼頃だっけ?」
「ええ。キーブが朝一ですから、一番最後、ということになるかしら」
対戦相手の名前は何となく見覚えのある貴族のものでしたわ。まあ、瞬殺して差し上げましょうね。
「……そのまま順調に勝ち上がるとして、キーブと当たるのはいつ?」
「ええと……三回目、くらいかしら。まあ、私達全員、ベスト16には入る予定ですもの。そこらへんで仲間同士ぶち当たる可能性は高いですわねえ……」
……まあ、相手だって、王族貴族同士で潰し合わせるよりは、適当な冒険者なり聖騎士なりをぶつけて行きたいと思いますから、敵同士でぶつからないのと同じように私達同士でもぶつかりにくいとは思いますけれどね。
ジョヴァンの露店の片づけを手伝いながら、明後日以降の戦いに思いを馳せますわ。
私が最初にあたる可能性が高い敵は、ダクター様ですのよ。
クリス・ベイ・クラリノが前半戦のシード。そしてダクター・フィーラ・オーケスタ様が後半戦のシードですのよ。あと1人、後半戦に適当なシード枠が居たはずですわ。クラリノ家の身内の誰かだったように思いますけれど。
今回、初戦を通過したのは61名ですから、シード権は3人分生じていますのよ。そのシード権が初戦で取得した勲章の数などに全く関係なく決まったあたりが流石、お貴族様ですわぁ……。
「……クリス・ベイ・クラリノは前半のシードだったかしら?」
「だとすると、ドランとぶつかるってわけか」
「そうですわねえ。……まあ、勝敗は五分五分だと思いますわよ。ドランはあの通りの馬鹿力ですけれど、クリス・ベイ・クラリノの方も相当な手練れですもの」
「あ、そーなの。ふーん……俺としてはドランに勝ってほしいもんだけど」
「私だって同じ気持ちでしてよ。まあ、私は私自身の手でぶちのめしてやりたいという気持ちも強いですけれどね」
装備が売れて空になった木箱を馬車に積み込み終わって、私は馬車の荷台、ジョヴァンは御者台に乗り込んで、王都の外れの倉庫の方へ、ごとごと向かっていくことにしますわ。
「……ちなみにドランは多分、クリス・ベイ・クラリノより先にあのお坊ちゃんと当たるけど、ドランがあのお坊ちゃんをぶちのめしちゃうだろう件について何か一言」
「お坊ちゃん?ああ、リタルのことですの?ええ、是非ぶちのめして差し上げなさいな、という気持ちですわねえ」
御者台の背もたれに肘を乗せて凭れさせてもらいつつ、私は特に迷いなく答えますわ。
「え、いいの?だってあの坊ちゃん、あなたの罪を晴らしてくれるとかなんとかでしょうに」
「そのくらい私自身の手でできますもの。あのお坊ちゃんの手を借りるつもりは特になくってよ」
「あら、そーなの。それ聞いてちょっと安心したわ」
流石に、リタルが鍛えてきたとしても、ドランを破るのは厳しいと思いますわ。魔法使いと戦士の戦い方の差異をうまく利用すれば或いは、といったところですけれど……まあ、リタルに分の悪い戦いであることは間違いなくってよ。
「しかし、あの子も報われないねえ。お嬢さんに一途なのにフラれちゃってまあ」
……これに関しては、若干、良心が痛まないでもないですわッ!
そうなんですのよねえ……何をどう間違えてしまったのか、リタルったら私に入れ込んでますのよねえ……。
どう考えてもこれっておかしいんじゃなくって?というか、この状況、私に何か利点がありまして?良心が痛むだけ痛んで、特に何も利点は無い気がしますわ!つまり、餌の撒き方を間違えましたわッ!
「変に餌なんて撒かないでおけばよかったですわぁ……」
「……まあ、しょうがないしょうがない。あなたは割とすぐ方々に餌撒いちゃうタイプだから」
どこかで何かになる可能性を考えると、切り捨てていくよりは餌を撒いてしまう、というのは否めないですわ!そのせいで今、特に意味も無くリタルに懐かれていますけれど!
「今からでもリタルを利用することを考えた方がいいかしら……」
「ま、それは後でいいんじゃない?本当に必要になった時で」
……リタルが必要になる時って、どういう時かしら?全く想像できませんわぁ……。
で、でも、そうですわね。ええ。何の役に立つか分からないからこそ、保険はそうそう切りすてられないですわ。
リタルについては当面、このままでいきますわ。当初の予定通り。
「……ところでお嬢さん。昼間、観客席でキーブを口説いてたのはアレ、どうしたの?」
そろそろ馬車が倉庫に到着する、というところで、唐突にジョヴァンがそう聞いてきましたわ。そういや彼も観客席に居ましたものね。
「ああ……キーブのアレは、奴隷だった頃の癖が抜けきっていないからでしょうね。或いはヒヨコが生まれて初めに見たものを親だと思い込んじゃうアレですわ」
「あ、そーいう……」
何となくキーブの印象はそれですわね。ええ。奴隷の首輪を外した時から、私を親だと思い込んでるんじゃないかしら、あの子。
……ちょっと不憫な気はしますわね。もうちょっとマシな親なんて幾らでもいるでしょうから。
悪党に拾われてしまったのは、キーブにとっては……あんまり幸福なことじゃなかったとは、思いますわよ。でもまあ私、悪党ですから?そう思いながらも今更キーブを野に帰す気はありませんけれどね?
「はー、ほんと報われないねえ。ま、あいつが報われなくても別に俺が悲しい訳じゃないしね。いいんだけど」
「あら。私、キーブの手を放すつもりは無くってよ。私がキーブの手を放す時は、あの子がちゃんと巣立っていく時ですわ」
「それ、お嬢さんとキーブが対戦でぶち当たることがあったらその時に言ってやんなよ。男の沽券にかけてボッコボコにしてもらえるぜ」
「あらそれは楽しみですこと。一度、本気でやりあってみたかったんですのよねえ」
キーブにしろドランにしろ、何ならチェスタでもお兄様でも、私と本気で戦ったことはありませんもの。彼らが強いことはよく知っていますから、まあ……ちょっぴり血が騒ぎますのよね!ええ!
「決勝戦はクリスかドランとの対戦、ですものね。今から楽しみですわあ……」
「そうね楽しみね。ほんと罪な人」
「大罪人に何か?」
キーブには『悪党に向いてない』なんて言われましたけれど、やっぱり私、こっち向きですわねえ。自分では本当にそう思いますわ。
余計な荷物も倉庫に預けて、翌日は宿でのんびり過ごしましたわ。
今頃、会場は清掃で大変でしょうねえ。ここは王都の外れの方の宿ですからコロシアムがどうなっているのかは分かりませんけれど、まあ、人の流れが多いのはちょっぴり見えましてよ。
……逆に言うとそれくらいしか見えませんから、ちょっぴり暇ですわね!
暇に飽かせて、明日以降の戦いの準備を行いますわ。
クリスとリタルは私より先にドランに当たりそうですし、ダクター様はキーブが先ですわ。ですから私、正直なところ、見せ場はほとんど全て持っていかれると思っておりますのよ。
でも、多少は強い誰かと戦えるでしょうし、それを期待して武器の準備をしておくのがフォルテシア家の娘に相応しい身構え方ですわね。
……今回、少し迷いましたけれど、自分の血は封印する方向でいきますわ。
血を塗り付けた剣でかすり傷でも負わせればそれだけで勝てるのですけれど、逆に言うとそんな勝ち方、あんまりにも地味ですもの。折角勝つのなら、華麗に相手の武器を弾いてやるか、相手の喉に剣を突き付けてやるか、首筋に剣を添えてやるか……。まあ、そういった華やかな終わり方をしたいものですわ。
私の目標は、単純な優勝じゃありませんの。
私は、誰よりも強く美しくあることを舞台の上で証明してやらなければなりませんの。
クラリノ家の次期当主よりもフォルテシア家の娘の方が優れているのだと、はっきりさせてやりたいんですの。
……王家は今、民衆を味方につけたがっていますの。だったら私はそれを邪魔してやるべきですわね?
ですから、ここから先は小細工無しですわ。
王家もクラリノ家も他の貴族達も文句をつけられない、完璧な勝利を収めるのですもの。私がつまらない小細工をした、だなんて知れたら、私の勝利にケチが付きましてよ。
……ですから不正行為があったとしても、それは私にではなく、相手の方に、ですわね。きっと。
翌日、コロシアムは綺麗になっていましたわ。清掃ご苦労様、といったところかしら。
ピンクスライムの粘液はもう影も形も無くて、すっかり綺麗になった会場がそこにありましたわ。
さて、私もキーブも今日は雑魚との対戦ですから、そう身構えることはありませんけれど……それでも、全力を出して鮮やかな勝利を収めたいところですわね。
選手控室で待機していたら、キーブが呼ばれて出ていきましたわ。私よりもキーブの方が順番が先でしたからね。
……控室の窓から外を見ると、ステージ上が間近に見えますの。間近過ぎて全体像は見えないのですけれど、それでもキーブの雄姿を確認するには十分でしてよ。
私がそっと見守る中、キーブの向かいにはどこかの貴族のボンボンらしいのが立ち……そして、試合開始の合図があった、その瞬間。
ステージの床材がばいんっ、と跳ね上がるように盛り上がって、キーブの対戦相手は吹っ飛んでいきましたわ。
観客も皆、ぽかん、とする中、ようやく審判の『場外』という判定が出て、キーブの勝利が伝えられましたの。
……地の魔法の応用なのでしょうけれど、立派になりましたわねえ、キーブったら……。
呆れ半分感心半分で見ていたら、キーブがちら、と私の方を見て、にんまり笑いましたのよ。全くあの子ったら!後でいっぱい褒めますわ!
さて、それからまたしばらくして、ようやく私の順番がやって参りましたわ。
対戦相手の姓は『アルプルン』。クラリノ家の傍系だったはずですわ。そしてそれを証明するかのように、対戦相手は金髪碧眼の美男子でしたわ。傍系にまでこんなに濃く容姿の特徴が出るなんて、クラリノ家の血って強いんですのねえ……。
選手同士の握手の時、相手は私を見下ろしてニタリと笑いやがりましたわ。
「女が相手か。悪く思うなよ?僕は手加減は苦手なんだ」
あらこいつ、本家に勝るとも劣らない傲慢さですわねえ。潰し甲斐があってよろしいんじゃなくって?
「どうぞお構いなく。是非全力でかかっておいでになって?ああ、私は手加減して差し上げますから大丈夫よ」
売り言葉には買い言葉。ついでに握手で相手の手の骨を圧し折るくらいの力を込めて、仮面の下でにっこり笑ってやれば、流石に相手も怯みましたわねえ。私としては威勢のよさを保っていただいた方が楽しくっていいのですけれど。
「それでは、両者、構え……」
……それにしても、武道大会なんて久しぶりですわね。
この、開始前の静まり返った空間。緊張感。
そして何より!目の前にいるこの獲物を狩るこの興奮!
特にこういう『自分が負けるはずはない』と思っている奴をこれから蹴散らしてやる、この高揚感!
実に!たまりませんわねぇッ!
「始め!」
審判の声が聞こえた瞬間、私、もう嬉々として敵に向かっていきましたわ!