ごきげんよう!戦闘開始でしてよ!
獲物を狩る時は何時だって全力ですわ!自己紹介している暇なんて無くってよ!
とは言っても、余裕を失うのは美しくありませんわ。少なくとも、『余裕があるふり』はしてみせなければなりませんわね。
ということでまずは余裕を持って、相手の攻撃を回避回避回避、ですわね。
相手の武器はロングソード。左手にバックラーを装備した、まあありきたりな剣士のスタイルですわね。
そんな相手の攻撃は、まあ、ある程度読めますわよ。何といっても貴族の剣ですもの。お上品で欠伸がでそうですわね!
間抜けな剣を避けてひらひら踊るように動いてやれば、相手はどんどんイラついてきましてよ。
「いつまで逃げ回るつもりだ!」
「あーらごめんあそばせ。ただ戦ってもつまらない程度の腕前しかお持ちでないようでしたから、つい、ね?」
荒らげられた声に笑って答えれば、いよいよ剣に余裕がなくなってきてよ。
……そうして相手の剣が大ぶりになってきたところで、こちらも攻撃開始ですわ。
「では参りましょうか」
相手の剣を掻い潜って、一気に懐へ潜り込みますわ。
そう。相手の武器はロングソード。男性が使うだけあって、長くて大きい代物ですわ。
一方、私の剣はミドルソード。……懐に潜り込んだ時に強いのは、当然、私の方ですわね。
「おのれっ」
相手だって馬鹿じゃあありませんから、私が潜り込んできたのを見て、すぐに後方へ跳ぼうとしましたわ。ええ。定石通りですわね。
……けれどその時には私、もう、剣を片方、ぶん投げていてよ。
お上品な貴族の戦い方じゃあありませんから、対策もできなかったのでしょうね。飛んできた剣にビビった相手の反応は、あまりにも悪手。距離をとりながら回避行動に移れば、当然、隙だらけになりますわ。
「頂きましたわッ!」
そこへもう片方の剣を携えて突っ込んでいって、剣を弾きますわ。
キン、と鋭い音と共に、相手の剣は宙を舞いましたわ。
長い剣がこうして弾かれて宙を舞うと、何とも見栄えがしますわねえ。ええ。狙ってやりましたわ。
……勿論、ここだけでも十分に審判の判定は貰えたでしょうね。
でも私は止まりませんわ。
剣を弾いた私が狙ったのは、兜と鎧の間。
首ですわ。
ほんの僅か、首の皮一枚だけ斬り裂いて、剣の切っ先にだけ僅かに血を滲ませて。
そこで私、剣を止めましたわ。
鎧と兜の間に剣が潜り込んでいるのは、審判にも観客にもよく見えているはずですわね。
ざわり、とどよめいた観客席。そして続く、審判の勝利判定。
「勝者、ストラ・バリウス!」
審判の判定をゆったりと待ってから、私は二振りの剣をそれぞれ収めて、ステージ上、誰よりも優雅に華やかに一礼致しましたわ。
……この鮮やかな勝利に観客も盛り上がっておりますわね!ええ、観客が楽しみにしているのは、見栄えのする美しい戦いですの。
華やかに剣を弾いて。鎧と兜の隙間に剣を突っ込むという繊細な剣技も披露して。
これで盛り上がらない観客は居ませんわ!少なくとも、これで盛り上がらない奴は武道大会なんざ見に来ちゃいませんわよ!
……こうして私、観客の大歓声を受けつつ、ステージを後にすることになりましたのよ。おほほほほ。
さてさて。こうして私のトーナメント初戦は無事、華やかな勝利となりましたの。
今日でトーナメント戦2日目ですけれど、既に幾らか『あの戦士が良かった』『あの戦士を応援する』というような声が聞こえていてよ。
そして当然、その賛美は私にも向けられている、というわけですわね!
……女性の参加者は少ないですから、そういうところでも差別化できていて良い感じですわね。ええ。
「さて、私の明日の対戦相手は……あらぁ、またつまらない貴族のボンボンですわぁ……。キーブ、あなたは?」
「僕も。ああ、でも明後日には王子に当たるみたい」
あらっ。案外早かったですわね。でも、そうね。三回目の試合って、もうベスト16ですものね。そんな頃ですわよねえ……。
「……っていうか、ヴァイオリアの方こそ、明日の対戦相手、シードの奴だろ」
「えっ!?そうでしたの!?興味が無さすぎて知りませんでしたわ!」
キーブに指摘されて慌てて確認したら、あら、本当でしたわ。シード権で一回目の試合を勝たずして抜けてきた貴族のボンボンが対戦相手でしたわ……。
「これは……より一層、期待が薄れますわぁ……」
「まあ、強くないんだろうね。多分」
多分、お金でごり押ししたのでしょうね。ええ。家名を見る限り、そこまで立派な家柄でもないのですけれど、よくよく考えてみたらこの国の有力貴族であったフルーティエ家とホーンボーン家が1年以内に滅んでいたのでしたわ。つまりこの国、今、上流貴族の基準がダダ下がりですのね。盲点でしたわぁ。おほほほほ。
「あら、ドラン。あなたの次の対戦相手は誰ですの?」
ついでにドランの方も覗きに行ってみると……。
「俺は冒険者らしい。少し楽しめそうだな。その次も冒険者だ」
あらぁ……それは羨ましいですこと!まあ恐らく、前半戦の方には冒険者を固めて、冒険者同士で潰し合いさせた後、クリスあたりを決勝戦に持ってくる算段でこのトーナメントになっているのでしょうね。ええ。どう考えても貴族のボンボンよりも冒険者の方が強いですもの。
「……うわ、ドラン、準々決勝まで勝ち上がったらあいつじゃん。いいな」
「ああ、リタル・ピア・エスクランか」
そしてドランの方にはリタルもクリスも居ますから、ドランはその2人とぶつかることになりますわね。
「そいつ、僕が負かしてやりたかったんだけどな」
「安心しろ。俺が負けるつもりは無い」
「そういう問題じゃないんだけど」
……キーブはリタルに何か恨みでもあるのかしら?あ、もしかして初戦の勲章の取り合いの時に何かあったのかしら?後でちょっと聞いておこうかしら。
「で、準決勝で僕とヴァイオリア、ドランとクリス、ってことになりそうだね」
そうですわねえ。まあ、そこ全員が順調に勝ち上がっていけば、というところですけれどね。この3人なら心配はいらないと思いますわよ。
「うーん、キーブ相手に本気で挑むのはちょっぴり心が痛いですわぁ……」
「それは僕も同じ。でも手は抜かないでほしいんでしょ?」
「ええ!よく分かってますわね!流石キーブ!」
「なら、決勝戦で俺がどちらかとぶつかる時も本気で相手をしよう」
「あああ、楽しみですわ!とっても楽しみですわぁ……!」
「ちょっと、ヴァイオリア。悪いけどドランと戦うのは僕だから」
お互いに小突き合いながらケラケラ笑っていますと、後ろからちょいちょい、とチェスタにつつかれましてよ。
「おい。ちょっと路地裏、入った方がいいぜ。後ろから来てる」
チェスタの言葉に後方を確認すると……。
「あらっ」
こちらに歩いてくるのは、兵士の群れ。
……ええ。クリス・ベイ・クラリノの一団でしたわ。
私達は路地裏にさっと入って、クリスと鉢合わせしないようにしましてよ。
「……なんでこんなに兵士連れてるんだ?」
「そりゃあ、クリスはクラリノ家の跡継ぎですもの。護衛も居ますわよ」
「本人だってそこそこ強いんだよな?」
「それでも、目ン玉は前にしかついていないでしょう?後方を警戒する者が居てもいいと思いますわよ」
特にクリスは一昨日のスライム騒動での指揮が間違っていたのではないか、とあちこちから攻撃されているところですものね。護衛をつけておけば悪口をわざわざ言いに来る奴も居なくなるでしょうし、賢い選択だと思いますわよ。
……クリスは失敗なんて碌にしたことの無い奴ですわ。それは勿論、本人の生まれた家の力によって障壁が取り除かれてきたということもあるでしょうけれど、本人の実力で、という事でもあると思いますわ。
そんなクリスが、スライム騒動での指揮を間違えた。
……これは本人の心にキてると思いますわよ?完璧主義者はちょっとの失敗に病むものですもの。だからこそ、今のあの護衛の数なのでしょうし。
ですから、クリスはこの武道大会、優勝以外の何も見ていないと思いますのよ。それこそ、勝たなきゃ後が無い、くらいに思っているかもしれませんわね。
それが不正に直結しないだろうことは本人を見ていれば分かりますけれど……逆に、もう少し横槍が入ったら、彼だって道を誤る、かもしれませんわねえ……。注意しておきましょうね。
さて。その日もよく食べよく眠り、健康第一に過ごして、そして翌日の戦いでは私もドランもキーブもこれ以上ないくらい鮮やかに勝利を飾って、観客を賑わせてきましたわ!
特にキーブ!
キーブは魔法使いというもの珍しさもあるでしょうし、それ以上に、フードを目深にかぶっていても分かってしまう綺麗な顔立ちが淑女の皆様に大人気でしてよ!
貴族でもなんでもない、冒険者上がりの出場者、というところも、平民貴族問わず、『非日常』を感じさせるスパイスとなって人気に拍車が掛かっていますわね!
ちなみに私は私で、女性の出場者ですから物珍しさはありますし、何より、単純な剣技では一番派手な勝利の仕方を追求していますもの。当然、男女問わずの大人気、でしてよ!
……あ、ドランはドランですわ。ごっつい鎧のごっつい野郎が拳、時々脚で冒険者達をバタバタなぎ倒していくのは中々見ごたえがありますから、これはこれで面白がられていますわね……。
そうして迎えた第三戦。準々々決勝、ですけれど……ここで遂に、キーブがダクター様と当たりますわ。
「へー。そいつ、ヴァイオリアの元婚約者だったんだ」
「ええ、そうですわよ。愚かなことに私の暗殺計画とやらを鵜呑みにして、玉座の間で堂々と婚約破棄の言い渡しをしてくださいましたけれど」
試合の朝、私とキーブは朝食を部屋で食べながら、ちょっぴりお話ししますわ。
「……なんでそいつ、わざわざ婚約破棄なんてしたんだよ」
「さあ。ダクター様のお考えなんて知ったこっちゃなくってよ。でもまあ、あの時は私を斬り捨てた方が、王家にも上流貴族にも、何よりダクター様本人にも利益がありましたしね。仕方ありませんわ」
今思い出すと腸が煮えくり返りそうですけれど、あいつもいつか磔刑に処してやりますから今は我慢しておきますわ!
私が怒りを抑えていると、唐突にキーブが尋ねてきましたわ。
「……あのさ、ヴァイオリアは、そいつのこと、どう思ってた?どう思ってる?」
ええ?そういうこと、聞きますの?ま、まあ、対戦相手と仲間の事が気になるのは当然、でしたわね。ええ。私だって、もしキーブの恋人なんかと対戦することがあったら、ちょっと気になりますわ……。
ここで『気にしないでやっておしまいなさい』だけで済ませるのは、少し誠実さに欠けるかしら。
「そうですわねえ……婚約者、自分の伴侶となる方だと思ってましたし、フォルテシア家の振興のために必要な方だとも思っていましたわ。お話ししていてそこまでつまらなくも無かったですし、そうですわね、嫌いでは無かった、かしら」
「……へえ」
そうですわね。私、ダクター様と結婚して王家とフォルテシア家を結ぶことを考えていましたから。当然、ダクター様には好感を持たれるようにしようとしていましたし、私自身だってダクター様に好感を持てるようにしようとしていましたわね。それは間違いなくってよ。
「でも今はぶち殺してやりたいですわねえ」
でもこれも!間違いなくってよ!
元々ダクター様は結婚した後にどこかでは死んで頂く予定でしたけれど!今は『死んで頂く』ではなくて『ぶち殺して差し上げる』ことを目標にしていますわ!
「へえ」
何を聞いてきたのかと思ったら、キーブはにんまり笑って、食事を終えたお盆を持って立ち上がりましたわ。
「じゃあそいつが無様に負けるところ、見せてやるよ」
「ええ。楽しみにしてますわ」
……頼もしい事ですわねえ。ええ。存分に楽しく見させて頂くこととしますわ!