ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、これからキーブの試合を見るところですわ!
キーブの対戦相手は、ダクター・フィーラ・オーケスタ様。
……私の元婚約者ですけれど、さて、一体どういう負け方をしてくれるのか、楽しみでしてよ!
第七王子の出場に観客は大いに沸いていますわね。まあ、ダクター様は元々、民衆に近しい位置で売っておいででしたから、民衆からの人気は高い方でしてよ。ええ、だからこそ、庶民からの成り上がりのフォルテシア家の娘なんかと婚約したのですけれどね。
……一方、キーブもここ数日で一気に人気急上昇中の冒険者、ですわ。
エルゼマリンギルドからの推薦でやってきた凄腕の魔法使い。それも美少年。これは当然、観客は喜びますわよねえ。
さて、この2人が戦うということで、観客席は何時にもましてミッチミチでしてよ。立ち見までギッシリな状態ですから……当然、私が座って観戦することはできませんわね。
ですから私、ちょいとばかり関係者以外立ち入り禁止の部屋に立ち入らせて頂いて、そこの窓から会場を見ていますの。ここからですと本当によく見えましてよ。特等席ですわね!おほほほほ!
2人がステージ上に出てくると、いよいよ会場は盛り上がって、司会の声も聞こえない程ですわ。
そんな中、選手2人が握手しながら何か話しているのが見えましたけれど……あ、ダクター様の表情がちょっと強張りましたわね。一方のキーブはにやり、となんとも悪どい笑みですわぁ……。折角の可愛い顔でそういう表情をしないでほしいですわね!
「両者、構え!」
審判が合図の旗を掲げると、それを合図にして選手2人は身構えて、ついでに観客席は静まり返りましたわ。この張りつめた空気、私、大好きですの。
「……始め!」
そしていよいよ両者が動き始めて、面白くなってまいりましたわ。
当然ですけれど、先に大きく動くのはダクター様の方ですわね。何と言っても彼、武器は剣ですもの。魔法使いのキーブとは違って、自ら動き回らないと攻撃を当てることすらできませんものね。
一方、キーブは攻撃するだけなら動き回る必要はありませんわ。むしろ、魔法に集中するという意味では、一切動かない方が良いですわね。
でも、動かずに居たら当然、先にダクター様の剣を当てられてしまいますから、キーブは魔法の準備をしながら回避のために動く、ということになりますわね。
キーブはダクター様の剣を避けながら、牽制の為に地の魔法を少々。ダクター様としては足元をやられるとたまったものではありませんから、攻撃一回目の後はすぐ、回避に移ることになりますわね。
でもダクター様はすぐ、次の攻撃に移りましてよ。
……これ、当然のことですわね。魔法使いを相手にするなら、速攻は必須。相手に魔法の準備の時間を与えれば与える程、攻撃が激しくなっていくのは自明の理。可能な限り攻撃を重ねて重ねて、魔法使いの集中を遮らなければ、魔法使いには勝てませんのよ。
キーブとしては、相手が鬱陶しいことこの上ないでしょうけれど……彼、やっぱり成長していますわね。
エルゼマリンの貴族街で私と戦った時とは大違いですわ。魔法の精度がとんでもなく上がっていますわね。
キーブは水の魔法と地の魔法を主軸にして、細かな攻撃を繰り出し続けていますわ。それこそ、ダクター様の攻撃と同じくらいの手数で。
……あんな戦い方で大丈夫なのかしら。魔法使いの基本は、溜めて溜めて溜めて一気に大きな一撃を放って一気に仕留める、という戦い方ですわ。小出しにしていればその分消耗戦になりますし、消耗戦になった時、辛いのは魔法使いの方ですけれど……。
しばらく、そんな戦いが続きましたわ。
けれど均衡は突如、崩れますの。
「貰った!」
ダクター様の剣がキーブの魔法を避けきって、勢いよくキーブに迫っていきますわ。
その瞬間、凄まじい光が轟音と共に広がって、会場を灼き尽くしましたの。
キーブは雷の魔法使い、でしたわ。それをずっと隠して、水や地なんかの魔法を使っていましたけれど。
でも、彼の本質は雷ですのよ。光って落ちて弾けて焼き尽くす。それがキーブの魔法でしたわ。
一番得意な魔法をギリギリまで温存したキーブは、ダクター様の接近をギリギリまで粘って、そこに雷を落としましたのよ。
ダクター様はキーブを地や水の魔法使いだと思って戦っていた訳ですから、咄嗟に空から落ちてくる雷に対応なんてできませんわ。
……というか、魔法でちまちまと攻防を続けていたのに、それと同時にこれだけの魔法を準備できるなんて、思わなかったのでしょうね。当然、予想外の攻撃に、ダクター様は怯み、防御の構えをとりましたわ。
ええ。防御の構え、ですのよ。ダクター様は、防御をしましたの。盾を掲げて、落ちてくる雷から身を守りましたの。
本来ならば、あり得ないことですわ。
当たったら一発で終わりのはずの魔法に対して、防御の構え。
これがどういうことか、といったら……ダクター様は、対魔法装備を身に着けている、ということですわ。
魔法を弱める装備、というものはまあぼちぼちありますし、打ち消す装備、というものも、確かに存在していますわ。
勿論、とんでもなく貴重な素材を使って、とんでもなく高度な技術を用いて作られるものですし、消耗品でもありますから、とんでもなく高額な代物でしてよ。これを装備できるのは金持ちの王族だからこそ、ですわ。
一撃必殺の魔法を防御だけで凌げるなんて、魔法使いからしてみれば反則のような技でしてよ!
……でも、ダクター様の装備は対魔法装備。今日の為に、そういう装備を用意していたのですわ。
キーブの雷が落ちても、ダクター様は宙に掲げた盾に守られて無傷。多少の衝撃は受けたでしょうけれど、そんなもの、大した痛手ではありませんわね。
更にダクター様は装備の力で容易く雷を凌ぎながら、雷の残滓が会場を輝かせる中、今度こそ、大きな魔法を放って隙だらけになったキーブへと迫り……。
そうして、会場を走る光が収まった時。
ダクター様は、キーブに届かなかった剣を、宙にふらつかせていましたわ。
そう。
キーブの手に握られていたのは、杖ではなくて、剣。
そしてその剣は、ダクター様の首筋に添えられていましたのよ。
……そういやあの子、魔法使いであることを隠す為に剣を一本、持っていましたわねえ!
キーブの勝利が告げられて、会場は大いに沸き立ちましたわ。
ダクター様を応援していた者達は悲鳴を上げていますけれど、同時に、美しい魔法使いが王子を出し抜いて勝ち上がった事への歓声も大きいですわね。
キーブは剣を収めつつ、少しふらついている様子でしたけれど、何より嬉しそうでしたわ。私と違って観客席には目もくれない素っ気ない態度ですけれど、観客は彼のサービスよりも、彼がやりきった笑顔で居ることの方が嬉しいはずですからこれが最高の振る舞いでしてよ!
キーブはステージを降りる前、何かダクター様に話しかけて、何とも悪どい笑みを浮かべましたわ。それにダクター様はまた表情を強張らせて……ええと、これ、どういう会話だったのかしら……?後で聞いてみる他ありませんわね。
ということで、オーケスタ王国第七王子のダクター様はここで敗退。
魔法使いに対してほぼ無敵である装備を身に着けていながら魔法使いに剣で勝負をとられたわけですから、まあ、無様な負け方ですわね!
そして何より、キーブが!キーブが素敵でしたわ!
魔法を小出しにしながらその裏で最高の一撃を準備していたという技量の高さ!
最大の一撃、雷の魔法を対魔法装備で防がせるという強気な戦略!
そして!魔法使いでありながら、剣で一本をとったという意外性!
もう何をとっても完璧な戦いでしたわ!
「お疲れ様、キーブ!素敵でしたわ!」
「うわ」
選手控室へ戻ろうとしていたキーブを途中の廊下で捕まえて思いっきり抱き着いてやりましたわ!ああ、なんて可愛い、なんて素敵な子なのかしら!
「見ていましたわよ!完璧ですわ!完璧でしたわ!」
「あ、そ。ありがと」
キーブは珍しく素直ですわねえ。それはそれは可愛らしい笑みを照れ交じりに浮かべながら、照れ以上に嬉しそうで、もう、見ている私の方が嬉しくなってきましてよ!
「どう?あいつ、負かしてやった」
「最高!最高ですわよ!対魔法装備で魔法使いに負けるなんてざまあないですわね!ええ、とっても満足がいきましたわ!」
思う存分キーブを抱きしめてから、私も大満足でキーブを離しましたわ!
……抱き着かれても文句を言わないあたり、キーブも勝利で気分が舞い上がっているようですわね!そういうところも可愛くってよ!
「ところであなた、ダクター様と何か話していましたわよね。何を話していたのかしら」
控室に戻ると2人で話しづらいですから、適当な場所を見つけて、私達はそこで話すことにしましたわ。
「ああ、あれ?開始前には『悪いが勝ち上がらせてもらうぞ』とか言われたから、『できるもんならやってみろ。僕、お前のこと大嫌いだから叩き潰せる機会が貰えてうれしいよ』って言ってやった」
「あら可愛い。なら、終わった後は?」
「『装備に金掛けたから、負けるなんて思ってなかったんだろ?ざまあねえな』って」
「あら可愛い」
この可愛い顔でそんな悪辣なこと言っちゃうんですのね、この子ったら!
「……あのさ、ヴァイオリアの『可愛い』ってホントにその意味で使ってる?」
「うーん、そうですわねえ……『気に入りましたわ!』ぐらいの気持ちですわぁ」
「あ、そ……」
私に限らず、乙女の『可愛い』は大体こんなもんだと思いますわよ。ええ。
それからキーブに試合中の話を聞きながら、彼の成長を感じて嬉しくなっていたのですけれど、よくよく考えてみたら私、この後に自分の試合がありましたわ。
「あっ、そういえば私、この後試合ですわ」
「そういやそうだったね。行ってらっしゃい」
まだ少し時間に余裕はありますけれど、遅刻したらみっともないですものね。ええ。早めに出ておかなければなりませんわ。
「……あ、そうだ、ヴァイオリア」
「何ですの?」
「勝って嬉しいから、ご褒美ちょうだい」
あらっ、可愛い!これは絶対に自分が可愛いって自覚した上でのおねだりですわ!そういうところがまた可愛いんですのよ!
「ええ、よくってよ!何が欲しいんですの?」
「ケーキ焼いてほしい。あ、当然、薬入って無い奴ね」
「そんなのでいいんですの?ドラゴン肉3頭分とかじゃなくって?」
「うん」
あらぁ、変わった子ですわねえ。でもまあ、よくってよ!
ケーキでしたら、宿の厨房を借りれば作れそうですわね。
ならさっさと試合を終わらせて、材料を買いに行きましょうか!
私は勝ちましたわ。当然ですわ。ただちょいと気分が高揚しすぎて、アッサリ勝ち過ぎたかもしれませんわね。
勝ち方は単純でしたわ。一瞬で捨て身の突きの姿勢に入って、兜の面甲の奥、目ン玉を狙ってやっただけでしてよ。まさか初っ端から突きに入ってくるとは思っていなかったようで、まあ、あっさり勝敗が着きましたわね。
兜のスリットを掻い潜った剣が目ン玉に突きつけられたのがよっぽど怖かったのか、泣きだしたのは予想外でしたけれど。
シード権で上がってきた貴族のボンボン相手にちょいと手加減が足りなかったかしら?でもさっさと終わってそれはそれで鮮やかな勝利となりましたから、良しとしましょう!
その日の夜は宿の個室でのディナーとなりましたわ。正体を隠さなければならない私達ですからあんまり大したものではありませんけれど、まあ、ダクター様が対魔法装備で魔法使いに負けるという歴史的敗北を喫してくださいましたから、その分ディナーが美味しくてよ!
「あーあ、できれば私が直々にダクター様をぶっ潰して差し上げたかったですけれど」
「いいじゃん。僕がやったんだから」
まあ、いいですわ。ダクター様を転がす機会はまた別であるでしょうし。
「ところでなんでケーキ?お嬢さんが焼いたの?」
「ええ。キーブへのご褒美、ですわ」
「へー。よかったじゃねーか、キーブ」
……何より、キーブが嬉しそうなので今回のダクター様は譲って良かったと思いますわ。ええ。
ああ!元婚約者は無様に敗れて、ついでにとっても可愛い子がにこにこしているって最高ですわね!今宵もディナーが美味しくってよ!