没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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12話「大丈夫かしらこの子」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアですわ!

 明日は遂に準決勝!

 ……つまり、ドランとクリスの対戦日であり、私とキーブの対戦日でもある日、ですわ。

 

 

 

 キーブ相手に戦う訳ですから、やっぱり緊張しますわね。無駄にしたくない戦いの時は、いつだって緊張しますわ。

 でも同時に、楽しみでもありますの。気分が浮き立つのは抑えられませんわ。

 ですから私、夜の散歩に出ましてよ。

 夜なら多少、町を出歩いていても正体がバレることはないでしょうし、何より月が綺麗で、とっても気持ちの良い夜なのですもの。

「本当にいい夜ですわね。まあ、狼が1匹、一緒ですけれど……」

「悪いな」

 ちなみに夜の散歩といえば1人で物思いにふけりながら、静かな街や月灯り、そして更けていく夜を楽しむ、というのがお気に入りの過ごし方なのですけれど、本日は残念ながら1人ではなくってよ。

 ドランが一緒ですわ。ええ。彼、体に穴が開いたにもかかわらずの外出ですわ。……いえ、体に穴が開いたからこそ、かしら?

「月光浴の具合はいかがでして?」

「悪くないな。この調子なら明日には動けるようになる」

 ……人気のない王都の外れの方から、更に王都の外れの方へのお散歩ですから、人の目はまずありませんわ。

 そこでドランは、存分に月の光と外の空気を浴びて、傷を治すことにしたらしいんですの。

「歩いていて負担はありませんの?」

「無い。以前やられた時より傷はずっと小さい。これなら、少し体を動かしていた方が治りが早そうだ」

 人狼って本当に分かりませんわねえ……。

 ……よく分からないから、こうして私が護衛兼介助員としてついて散歩しているのですけれどね。

 

 

 

「あら。またあなた、耳と尻尾が出ていてよ」

「そうだな」

 しばらく月の光に当たっていたら、ドランに狼の耳と尻尾が生えてきましてよ。断りを入れてから触らせてもらうことにしますわ!ふわっふわですわ!ふわっふわですわ!

「……そういえば、お前に言っておかなければならないことが1つあった」

「えっなんですのッ!?」

 ドランが急に不穏な事を言うものですから、私、結構ビビりましてよ!?これ、『悪いが死んでくれ』とかじゃあありませんわよねッ!?

「リタル・ピア・エスクランが俺に負けてあまりにも落胆していたから、理由を聞いたんだ」

 ……はい?な、なんだか話が見えませんわよ?

「そうしたら、『憧れの女性に優勝を誓った』と言っていてな」

 ああ……ま、まあ、それは知ってますわ。ただしその『憧れの女性』は聖騎士に名前を言うわけにはいかない大罪人ですけれど。

「そこで、『お前のような強者が憧れる程の女性なら、きっと笑って許すだろう』と答えた」

「まあ許しますけれど」

 というか、どちらかと言うとリタルが優勝しない方が私としては嬉しいですけれど。

「『失望させていないでしょうか、またお話しする機会を頂けるでしょうか』と言ってきたから、それには『やってみればいい。俺より強いということはないだろう』と答えておいた」

 ……えっ。

「なのでもしかしたら、リタル・ピア・エスクランが今、お前を探しているかもしれないな」

「そ……それはもっと早く言ってほしかったですわねえ……」

 それ、リタルが今ここらへんに現れる可能性があるって言ってませんこと?以前会ったのはエルゼマリンでしたから、そっちを探してくれれば鉢合わせませんけれど……。

 

 ……ということで、より人気のない方、倉庫街の方を歩いて、月光を浴びて、さて、宿に戻ろうか、というところでしたわ。

「……本当に居ましたわぁ……」

 居ましたわ。リタルが、居ましたわ!

 

 

 

「ドラン、あなたはお逃げなさい!その耳と尻尾じゃあ言い訳が立ちませんわ!」

 リタルは魔法使いですわ。気配には敏感なはず。私達が気づいてるんだから、あっちだって気づいていますわ!

「……いや」

 でもドランは、逃げることもなく、むしろ、リタルに向かって近づいていきましたわ。

「何か用か」

「え……?」

 ドランが目の前に立った時、リタルは当然、困惑しましたわね。

 リタルは良くも悪くも、普通の人、ですわ。悪党ではない、ごく普通の人。ですから、人狼に対して偏見は当然のように持ち合わせている、という事になりますわね。

 リタルは杖に手を掛けて、一瞬の間に魔法の準備をしたのが分かりましたわ。

 ……でも、ここで魔法なんざ撃たれる訳にはいきませんの。

「ごきげんよう、リタル。あなた、こんな夜にお散歩ですの?奇遇ですわね」

 ですから、私もさっさと出ますわ。

「えっ!?あ、あの、ヴァイオリア、様……?」

「ええ。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ」

 さらり、と髪をなびかせつつ、私、ドランと並んでリタルの前に立ってやりましたわ。

 これでリタルは、ドランを攻撃しよう、とは思わないはず。だって敬愛する私がドランを警戒していないのですもの。

「……あ、あの、そちらの、人狼……の方、は、ヴァイオリア様のお仲間、ですか?」

「ええ。彼は私の番犬でしてよ。乙女が夜道で一人歩き、というのも不安でしょう?」

「あ、ああ……そうだったのですね。びっくりしました」

 とりあえずドランの前に私が出て、リタルと相対することにしましたわ。リタルはほっとしたような顔をして……まだ困惑の色は残ったままはありますけれど、一応、杖から手を離しましたわ。

「さて、リタル。私、あなたの戦い、見てましたわよ」

 人狼云々に突っ込まれるよりは、先に用件を済ませてしまった方がいいと思って、私、さっさとこっちに話を持っていきますわ。

「あ……見てらっしゃった、んですか……」

 リタルは途端、しょんぼりした顔で俯いてしまいましたわ。

 ……でもここでしょんぼりされてもなんとなく夢見が悪いですから……まあ、そうですわね。ちょっぴりくらいは、優しくしてやっても、いいでしょうね。ええ。

 

「リタル。顔を上げて?ねえ、私、ちゃんとあなたの戦いを見ていましたのよ?……だから、嬉しかったですわ。あなたの成長が分かって。あなた、随分と立派になりましたのね」

 褒められた、と分かった途端、リタルの頬に赤みが差して、困惑と緊張と、たっぷりの憧憬が混ざった目を向けてきましたわ。

「風の魔法と水の魔法を同時に展開していたのなんて、中々難しかったんじゃなくて?」

「あ……は、はい。この1年間で、魔法の同時展開、凄く練習したんです。これくらいできないと、あなたをお守りすることなんてできないって、思ったから……」

 リタルはそう言って……それからすぐ、またしょんぼりした顔になりましたわ。

「ごめんなさい。僕が優勝して、あなたをきっとお救いする、なんて言ったのに、こんな様で……」

「ええ。別に良くってよ。私、自分の自由くらい自分で勝ち取りますわ」

 ですので私、さっさと言ってしまいましたのよ。ええ。

「私、出場していますのよ?気づきませんでしたの?」

 

「……えっ」

「『ストラ・バリウス』。その名前に見覚えがありませんこと?」

 教えてあげれば、リタルは途端にはっとしましたわ。ええ。私、現在残っている中で唯一の女性出場者ですからね。当然、目立ってますわ。知られていないはずが無くってよ。おほほほほ。

「……てっきり、ヴァイオリア様の得物は弓だと思っていました」

「私、剣の方が得意ですの」

 そういや、リタルには弓を使っているところしか見せた事がありませんでしたわねえ……。まあ、魔物狩りをする時には剣よりも弓を使った方が都合がいい事が多いですし、仕方ありませんわね。

 リタルは感心しきった顔でしばらく私を見ていましたけれど……はっとして、ドランの方を見て、私と見比べて……。

「あ、あの、もしかしてそちらの人狼の方、って……『エド・ハウデス』さん、ですか?今日、僕と戦った……」

 げっ!ドランの方までバラすつもりは無かったのですけれど!?

「ああ、そうだ」

 ドランも否定しませんの!?

「やっぱり……!声が似ている、とは思っていたんです!それから、背格好も、あと、雰囲気や、魔力のかんじも……」

 ……ま、まあ、リタルって相当に敏感な性質のようですわね。ドランは身体強化魔法くらいしか使いませんから、魔力が多い方じゃありませんわ。その彼の魔力のかんじを嗅ぎ取って覚えている、ということは……ううん、感覚の鋭さだけで言えば、キーブ以上、かもしれませんわねえ……。

「どうだった。お前の憧れの女性とやらは笑って許しただろう?」

「……はい。本当でした」

 ドランがにやり、とする中、リタルははにかみながら頷いていますわ。う、うーん、本当に素直ですわねえ……。

 

「あの、『エド・ハウデス』さん」

 リタルはドランの偽名(要は大会への出場登録をする時に使った奴、ですわね)を呼んで、じっとドランを見つめましたわ。

「明日、あなたは、クリス・ベイ・クラリノと当たりますよね?」

「ああ、そうだな」

 ……リタルとしては複雑でしょうねえ。

 私の仲間である彼と、親愛なる親戚のお兄さんが戦うのですから。

 と、思ったのですけれど。

「……気を付けてください。最近のクリス兄様は、何か変なんです」

「変?」

「はい。余裕が無い、というか、焦っている、というか……」

 リタルはそこで一度口を噤んで、それから、迷うように言いましたの。

「もし、僕があなたに勝っていたら、僕は棄権するように勧められていたんです」

 

 

 

「……武人ともあろう者が、随分と狡い真似をしますわね」

「ええ。僕も『お前が勝っていたらお前に棄権するよう勧告していた』と言われた時は、耳を疑いました。クリス兄様がそんなことを言うなんて……」

 どうやらリタルの話では、クリスの様子がおかしい、という事でしたけれど……勝利にこだわっている、ということかしら?

「で、ですから、あの」

「問題ない。相手が誰であろうと戦う」

 ドランはそう言って、リタルの不安の言葉を遮るようにしましたわ。

「そして、悪いが勝利は俺が貰う。お前としては親戚が敗北するというのは面白くないだろうが……」

「い、いえ!構いません!どのみち、僕が応援するのはヴァイオリア様です。あなたはヴァイオリア様のお仲間ですし……僕だって、今のクリス兄様よりは、あなたを応援しますよ」

「人狼でも、か?」

「……ヴァイオリア様のお仲間なら、人狼でも、です」

 リタルの素直で一途でちょいと頭が心配になる返事を聞いて、ドランは笑いましたわ。その笑い声が狼のそれに何となく似ていて、あーやっぱりこいつ人狼ですわ、と思わされますわね。

「だそうだ。随分と懐かれているな、お前は」

「ええ。どうしてこうなったのかしらね」

 リタル本人を前にしてするのはちょいと可哀相だったかもしれませんけれど、本心を此処で隠すべきでもありませんわね。ええ。

「そ、それはヴァイオリア様が僕に世界を教えて下さったからです!何も知らず、何もできなかった僕を、世界に連れ出してくれたから……ぼ、僕もあなたと対等な位置に、立ちたいと、思ったんです……」

 ……そしてこれですわ。素直ですわ。とっても素直ですわ。ですからめっちゃ心配ですわ!

「……それはありがとう。でも大丈夫よ。あなたの力を借りなくても、私、自力で勝利をもぎ取りますもの」

 私はめっちゃ心配になりながらもウィンク1つ飛ばして、優雅に言ってやりますのよ。

「明日は観客席で見ていなさいな。私の戦いぶりを。……魅せて差し上げますわ」

 これにリタルはまた頬を紅潮させて、元気に頷いてくれましたわ。

 ええ、本当に素直でいい子ですわね。ええ。大丈夫かしら、この子。

 

 ……まあ、明日はいよいよ、準決勝、そして決勝戦ですわ。

 リタルが言っていた、クリスの様子がおかしい、ということは気になりますけれど……それでも、私達は戦うしかありませんものね。ええ。

 精々気を付けつつ、それ以上に楽しんで戦うとしましょう。

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