没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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16話「強い奴ほどぶちのめすのが楽しくってよ」

 おほほほほほ!ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私、満を持してステージに登場ですわ!

 クリスは追い詰められて絶不調!一方私は絶好調!そして観客の興奮は最高潮!最高のコンディションですわね!このステージ、決して無駄にはしませんわ!

 ここをクリス・ベイ・クラリノの……そして、クラリノ家一族の、処刑場としてやりますのよッ!

 

 

 

「な……」

 クリスは私を見て驚いた顔をしていましたわ。……ということは、賭けには勝った、ということですわね。どうやらリタルが私達の情報を売ったわけではなさそうですもの。

「何故、貴様がここに居る!」

「何故?それは当然、武道大会に参加していたからですわ。それ以外に理由がありまして?」

「そんなことは聞いていない!『何故武道大会に参加しているのか』を聞いているのだ!」

 私と真っ向から向かい合って、クリスはいよいよ大混乱、ですわね。

 ええ、私の登場をまるで予期していなかったというのならこの混乱も已む無し、かしら。……でも、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアによって魔法学院の武道大会の区分が変わった』のは有名な話ですし、滅茶苦茶に強い仮面の女戦士が出てきている時点で怪しんでも良かったと思いますわぁ……。

 まあ、世間知らず極まれり、ということなのかしらね。キーブやドランの他にも、ボチボチ強い冒険者達は居ましたし、そこらへんと一緒くたにされていた、ということなのでしょうけれど。

 ……ええ。ならばこのまま、存分に混乱しているといいですわ。その間に私は、観客と貴賓席の国王王族その他諸々に向けて、宣言してやりますわ。

「私がここに居る理由なんて、さっきの人狼と大して変わりが無くってよ。ただ私は、『濡れ衣を晴らすためにここに居る』のですわ!」

 

 

 

 私の宣言にざわめく観客席。慌てふためく国王その他諸々。

 ええ。私、はっきりと言いましたわよ。『私に掛けられている嫌疑は濡れ衣だ』と。

 ……実際のところ、私に着せられている濡れ衣って実際の罪の数と比べたら本当にちっぽけなものですけれど、そんなものは関係なくってよ!ただ、あいつらが適当抜かした結果、私の罪が本当に言い当てられている、という状況は非常に気に食わないのですわッ!

 ……それに加えて、濡れ衣が1枚剥がれれば、それだけで何となく『無罪』の印象が付きまといますもの!ええ、ここは『なんとなく』『特に意味は無いけれど』『濡れ衣を晴らしに来た』でよくってよ!それだけで後は観客が、理由も動機も私の気持ちも、勝手に推し測りますわ!そこでどういう風に誤解されようが、そんなもんは私の知ったこっちゃーなくってよ!

 

 

 

 どういうことだろう、と観客達がざわめく中、私はまた、視線をクリスただ1人へと戻しましてよ。

 このころにはクリスはもう、表情に血の気の欠片も無い有様でしたわ。

 ……戦わずして準決勝を勝ち上がる予定が、随分と大事になった、といったところかしら?まあ、武道大会ですから、『戦わずして勝つ』のは最大の悪手。民衆が何を望んでここへきているのかを全く理解できてなかった、貴族特有の驕りが引き起こした悲しい事故ですわねえ。

 

「さあ、クリス・ベイ・クラリノ。あなたは先程、仰いましたわね?『武道大会を再開する』と。そして私の対戦相手だったキーブ・オルドは賢明にも棄権しましたわ。ということは『あなたの望み通り』、あなたと私で決勝戦ですわねえ」

 私が一歩だけ近づいたことで、クリスはいよいよ現実を直視しなくてはならなくなりましたわね。まあ、彼も馬鹿ではありませんから、きっともう、理解できてはいるでしょう。きっとね。

「あなたには2つの選択肢が与えられていますわ」

 私が指を2本立てつつそう言ってやれば、クリスも、観客も皆、私に注目しますわ。この感覚、嫌いじゃなくってよ。

「1つは、ここで棄権すること。戦わずして負けるなんて普通でしたら戦士の恥ですけれど、私が相手ならそうはならなくてよ。賢明な判断だったと称えられることでしょう」

「何を」

「そして、2つ目。……私と戦いたいというのなら、止めませんわ。存分にやり合いましょう。……そして、あなたはここで敗北する!」

 私は剣を抜いて、クリスに向けてやりましたわ。

「さあさあさあ!どちらがお好みかしら!?私はどっちでもよくってよ。勿論、ここへはあなたとの戦いを楽しみにして参りましたし、会場の皆様方だって戦いをお望みでしょうけれど……ええ、大丈夫ですわ。決定するのはあなたですもの!」

 

「お選びになって?棄権するのと、負けるの。どちらがお好みですの?」

 私はそう言って笑って……暗に、強要しますの。

『戦え』と。

 

 クリスは震えていましたわ。目は私を見ているようで、何所も見ていませんの。

 その感覚、分からないでもなくってよ。自分が敗北することへの恐怖に憑りつかれて、戦いへの一歩を踏み出せない状態。不安に支配された状態。今のクリスはそういう状態なのでしょうね。

 でも、ここで逃げたらそれは一生の恥。そしてここで負けても一生の恥。

 クリスは1つしか、選べませんわ。

「……いいだろう!大罪人の首、この場で貰い受ける!この国の平穏のために!」

『戦って勝つ』。その道を目指して、恐怖を理性で捻じ伏せながら、ただ私へ立ち向かうしかありませんのよ。

「あら嬉しいわ。なら私も精一杯、戦わせて頂きましょう。私の身の潔白の証明と……この国の未来のために!」

 さあ、煽られて奮い立ったクリスが剣を抜いたら、いよいよ決勝戦の始まりですわ!

 

 

 

 クリスは自分自身を奮い立たせるように、突っ込んできましたわ。結構冷静な方だと思っていましたから、これは意外な行動でしたわね。

 当然、私は迫ってきたクリスをさっと避けて、少し距離を取りますわ。するとまたクリスは私に向けて距離を詰めてきますの。

 剣は速いですし、私の動きもよく見ていますわ。少し気を抜いたら斬られてしまいそう。……でも、余裕が無い戦い方ですわね。焦りがよく分かりますわ。それから、緊張も、ね。

「ほら、そんなに緊張しないで?この戦いを楽しみましょう?」

「ほざけ!大罪人が口を利くな!」

 彼も私には負けられない事情がたっぷりとありますから仕方ないのでしょうけれど……まあ、これじゃああんまりですわね。

「少し冷静におなりなさい?」

 ですから私、クリスの首筋ギリギリに剣を繰り出してやってよ。勿論、ここで勝負ありとならない程度に、ね。

 唐突に放たれた突き、それも確実に急所を『外して』放たれたそれに、クリスがまた焦るのが分かりましたわ。

 そりゃあそうですわね。『私はあなたをいつでも仕留められる。私はあなたを舐めてかかっている』という意思表示ですもの。

「さて、クリス・ベイ・クラリノ」

 私は彼の名前をしっかり呼びながら、一度大きく距離を取って、もう一度クリスと向かい合いましたわ。

「私、折角でしたら本気のあなたと戦いたいですわ。敗北した時、あなたが言い訳できないくらいに本気のあなたと。……それとも、そのビビった状態のまま、無様に負けるのがお望みかしら?」

 煽って煽って煽りますわ。これでクリスが冷静さを取り戻してくれたら楽しめますし、逆に冷静さを欠いて自滅したらそれはそれでまあ楽しめますわ。

 私としては、全力を出したクリスと戦いたいところですけれど……。

 

 一瞬。

 一瞬でクリスは距離を詰めて、私に向けて突きを繰り出していましたわ。

 

 私は咄嗟にそれを避けながら……思わず満面の笑みを浮かべてしまいましたわ!

 これですのよ!これ!

 私はこれを待ち望んでおりましたの!

 強者との戦闘!これ以上に楽しい事ってそうそうありませんわ!

 ……私、とっても強い戦士と戦って……その戦士を徹底的にぶち負かしてやるのが、大好きなんですのよッ!

 

 

 

 努めて冷静になろうとし始めたクリスは、もうすっかり戦いに意識が集中していますわね。多少は精神の揺れが剣に表れていますけれど、それを完全に排除しろというのは難しいでしょうし、こんなもんで妥協しますわ。

 ……ええ。かなり楽しめそうですの。嬉しいことに。

 クリスの剣はまあ、貴族らしく型にはまったものではありますけれど、だからと言って弱いとは思いませんわね。

 幾つも幾つも定石を覚えてきているのでしょうね。そしてその定石を最適な場所で最適に選択できるだけの経験を積んできた、というかんじですわ。

 定石って、有効だからこその定石ですのよ。とってもお上品な剣技ですけれど、それを最高に高めたものですから、つまらないとは感じませんわ!

 一撃入れられるかと思えばあっさりと防がれて、逆にこちらの首がとられそうになる。この緊張感、久々の感覚でしてよ!

 

 ……さて。

 でも、いつまでも楽しんでばかりいるわけにはまいりませんわね。

 定石でガチガチに固められた鉄壁の相手を翻弄するにはどうすればよいか、と言ったら……簡単ですわね。定石で対応できないような、奇抜な技を使ってやればいいのですわ。

 

 私は一気に攻めの姿勢に転じますわ。

 元々、守りよりも回避よりも攻めに攻めるのが私の得意分野ですの。攻撃は最大の防御、とはよく言ったものですわねえ。私が攻撃に転じてから、一気にクリスの動きが変わりましたわよ。

 クリスは私の攻撃を捌きながら、私の動きをよく観察していますわ。……これは、隙を見せたらやられますわね。この緊張感、たまりませんわ!

 でも、クリスも防御と様子見ばかりではありませんわね。ある程度私の剣を捌いていたところで……一撃、不意を突くように入れてきましたわ。

 でも私はその剣を紙一重で躱しながら、これを好機と判断。一気に姿勢を低くしてクリスの脛を狙ってやりましたわ。

 ええ。ここまでは、定石で対応できるでしょう。脛狩りはまあまあ良く見られる戦法ですし。

 ……けれど、私の剣は2本ありますのよ。

 私はすぐさま、もう1本の剣でクリスの首を狙ってやりましたわ。

 脛と首への同時攻撃。隙だらけで、防御のことなんて何も考えていない攻撃ですけれど……まあ、当然、これらを剣1本で対応することはできませんから、クリスは回避に移ることになりますわね。

 そうして距離を取れば、剣の長さからしてクリスが優勢になる、ということも踏まえているのでしょう。

 ……でも、私がその程度も考えないとでも思いまして?

 

 私、剣を投げましたわ。

 普通だったら絶対にとらない戦法ですけれど、構わず投げましたわ。

 クリスは距離をとって尚、攻撃が飛んできた、ということにビビったようですわねえ。飛んできた剣を避けて、後退して、一度、様子見の姿勢をとりましたわ。

 でもそれが命取りでしてよ。

 クリスはもうステージの端まで追い詰められていますわ。剣を交えることを避け続けて、もう後がありませんのよ。

 でも気づいたのが遅すぎましたわね。その時には私……『2本の剣』を携えて、クリスの懐へ、飛び込んでいたのですもの。

 

 

 

 クリスは混乱しているようですわね。

 ええ。さっき、私は剣を1本投げましたもの。なのに『2本の剣』を持っている私が飛びかかって来たら、そりゃあ混乱しますわね。

 でもクリスはもう、回避し続けるわけにはいきませんわね。だって彼、もうステージの端まで追い詰められているのですもの。

 だからクリスは、私が振りかざした剣を避けようとはしませんでしたわ。真っ向から剣で打ち払いに来ましたの。

 そして、私の剣の内、先にクリスへ届くであろう剣を、クリスは自分の剣で受け止めようとして……。

 ……剣が、すり抜けましたわ。

 

「何だと」

 クリスの剣をすり抜けた私の剣は、その途端に真っ赤な炎となってクリスの剣を、腕を、そして全てを燃やしにかかりましたわ!ばっと燃え広がる炎は中々見栄えがしますわね!

 ……そして。

 最後に私が『本物の剣で』狙うのは、炎の向こう。クリスの兜の奥。

 目ン玉、ですわ。

 私、目ン玉目がけて剣を突き出しましたのよ。

 

 

 

 ……一瞬一瞬が賭けの連続でしたわ。

 剣を投げた後にも剣が2本あることに驚いて混乱してくれなかったら負け。

 剣の片方が幻覚だとすぐに悟られたら負け。

 幻覚の方の剣を防ごうとしてくれなかったら負け。

 幻覚の方の剣がクリスの剣をすり抜けて炎に変わった瞬間、ビビってくれなければ負け。

 炎もまた幻覚だと気づかれたら負け。

 そして、炎の幻覚を貫いた剣の、目玉への攻撃を防がれたら……やっぱり負けだったかしら。

 

 でも私、やりましてよ。

 私の剣はしっかりとクリスの兜のスリットをすり抜けて……目ン玉ギリギリ紙一枚のところで、停止しましたの。

 

 

 

 幻覚の魔法で増やした火はばっと掻き消え、後に残ったのは僅かに熱せられたクリスの剣とガントレット。そして、そこらへんに落ちている私の剣の1本と、クリスの兜の隙間にねじ込まれた私の剣の1本。

 目ン玉を刺し貫かれるギリギリで剣を止められて、動けないクリス。

 ……審判が勝負ありの判定を下すのに、そう時間は掛かりませんでしたわ!

 

 

 

 私の勝利が告げられた時、観客席は一瞬、静まり返って……その一瞬の後、わっと盛り上がりましたわ。

 天まで届けと言わんばかりの大歓声は、全て私へ向けられたもの。一欠片だって、クリスへは向いていませんわ。

 クリスのような、立場があって負けられなくて、負けないくらい強くて……それでいて気に食わない奴を、こうして公衆の面前でぶちのめしてやるっていうのは最高に楽しくってよ!

 

 ……さて。

 私はクリスに突きつけた剣はそのままに、観客達に向かって一礼して……貴賓席の前へと向き直りましたわ。

「ごきげんよう、国王陛下。こうしてお会いするのはお久しぶりですわね」

 唖然としたままの国王に、私、言ってやりましたわ!

「優勝した褒美を頂いてもよろしいかしら?……私の濡れ衣、晴らしていただけますわね?」

 

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