ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、ビラを刷っていますのよ。
「……なんで僕も手伝わされてるんだよ」
「お兄様とジョヴァンは山の整備に忙しいですし、病み上がりの人狼と手先プルプルの薬中には任せたくなかったからですわ」
「はー……ほんと、奴隷とか雇えばいいじゃん」
「いいじゃありませんの。私、こういうチマチマした作業をするの、嫌いじゃなくってよ」
「まあ、僕も嫌いじゃないけどさ……」
ぶつくさ言いながらも木版でビラを刷るキーブの隣で、私もビラを刷っていますわ。
……ビラに書いてある内容は、『革命軍募集!』というものですわね。これを大都市や王都でひっそりと撒いていますのよ。
日時は1か月後の夜。場所は、王都とエルゼマリンを結ぶ街道脇にある山の中、ですわ。……ああ、その山、私が山賊をやっていた山ですわね。またあそこで活動することになるとは、感慨深くってよ。
このビラを撒く理由は2つありますわ。
1つは純粋に、革命軍を揃えるため。
……こちらには武装はぼちぼちあるんですのよ。お兄様がこっそり作らせた大砲、続々とエルゼマリンの港から運び込まれていますの。空間鞄を使えばひっそりと輸入することも簡単ですものね。ええ。
ただ、その大砲を操る者は必要ですわ。私達だけじゃあ6基の大砲しか同時に使えませんし……。それじゃあ大砲の持ち腐れですものね。
戦力を揃える、ということは、こちらの戦力を増やすと同時に王家側の戦力を削る狙いでもありますわ。
特に、王家としては武道大会に出場していた強い戦士達を戦力として囲い込みたいところだと思いますの。でもそこを私達が先にとってしまったら……王家側は期待していた戦力が手に入らなくてやきもきすることになりますわね!それは単純に面白そうなのですわ!
そして、2つ目の理由として……『敵をおびき寄せる』のが目的ですわ。
ここで私達が革命軍募集のビラなんて配っていたら、当然、王家の誰かが気づくと思いますわ。……当然、ある程度、王家の者に見つからないような配り方をしては居ますけれど、王家の目にはつくでしょう。流石にビラ1枚も見つけられない無能だとは思いたくないですわ。
そして、王家の者達は革命軍募集のお知らせを罠だと思いつつも、全く手を出さないということはできないはずでしてよ。
何者か、スパイを送り込んでくるか、はたまた、兵士を引き連れて制圧しに来るか……。
まあ、十中八九、王家の兵士達か、適当な貴族の私設兵団かが来ると思いますわよ。例えば、クリス・ベイ・クラリノとか。
という訳で、私達は目下のところ、『革命軍募集の会合』に向けた準備をしておりますの。
ビラを刷ってはひっそりと撒いて。
会場となる山を整備して。
会場へ敵が流れ込んでくることを想定して、防衛の準備もしておりますのよ。おほほほほ。
「サキ様、ごきげんよう!」
「ああ、お嬢。いいところに来たね。丁度いいのが入ってるよ」
さて、ビラを刷り終わった私がやってきたのは奴隷商人となっているサキ様の所ですわ。
前もってお話ししておいた通りに仕入れを行って頂けましたの。その結果が……この、目の前の檻に所狭しと押し込められた、むくつけき男共ですわ!
「ご要望通り、戦えそうなやつとガタイのいいやつを揃えたよ。気性の荒さは大目に見るんだったね?」
「ええ。血気盛んなのは悪い事じゃあなくってよ。それに、彼らも自由になれるのですから、私との取引は飲むと思いますわ。反発されるような悪い条件を出す気はありませんもの。……条件の良し悪しも自分の身の程も分からないような愚者が居たなら、その時殺せばよくってよ」
「ふふ、違いないね」
私とサキ様の会話に、檻の中に少々の怯えが見られましたわね。いい傾向でしてよ。存分にビビってらっしゃいな。そして大人しく私の言うことを聞けばよくってよ。
「30居る。いくら出す?」
「青1枚で如何かしら?」
「分かっちゃいたけど、気前がいいね。よし、売った」
その場で青金貨1枚をサキ様に手渡して、代わりに奴隷の首輪の鍵の束を頂きますわ。
書類にもしっかりサインして、晴れて私はこの30人の奴隷の主人、というわけですわ。
早速、檻の中から奴隷たちを出して、パン、と手を打ちましたわ。
「整列なさい」
私の言葉にすぐに従ったのは20名余り。残り10名弱は反抗的に私を睨んでいますけれど……。
私は懐に入れていた銃を取り出して、撃ちましたわ。
ダン、と火薬の爆ぜる音が響いて、漆喰の壁を穿ちましたわね。
……これに奴隷たちは沈黙。サキ様がヒュウ、と口笛を鳴らす音だけが響きましたわ。
「整列なさい。……3度は言いませんわよ」
さて、今度は全ての奴隷がきちんと並びましたわ。大人しく言うことを聞く奴隷ばかりでよかったですわ!おほほほほ!
奴隷にいくらか説明をした後、彼らを後ろから1人ずつ、空間鞄に入れてやりましたわ。
さて、次は彼らを運ばなくてはね。
私、主な移動手段にはドラゴンを使うようになりましたの。
ドラゴン達ももう生まれて1年。飛行も安定するようになりましたし、もうおチビさんだなんて言えない程度の大きさはありますわ。
「チェスタ。1匹借りますわよ」
「ん?ああ、山の方行くのか。いいぜ。好きなの連れてけよ」
「なら今日はあなたに飛んでもらいましょうか」
すっかりドラゴン飼育係になっているチェスタのところでドラゴンを一匹借りたら、ドラゴンにはすこぶるビビられましたわね。ええ。この子達、やっぱり私に畏怖の念を抱いているようですのよ……。まあ、大人しく言うことを聞くので文句はありませんけれど……。
「ところでチェスタ。ドラゴン達の調教は上手くいっていまして?」
「え?まー……多分?」
「……心配ですわねえ」
「ま、賢いから大丈夫だろ。多分」
……今回はドラゴン達を兵器の1つとしていますの。大砲の存在はギリギリまで隠しておきたいですし、ドラゴン達も戦力に数えていいくらい大きくなりましたしね。
今はチェスタの合図で一斉にブレスを吐く練習中、ですの。ドラゴンのブレスは大人数の人間を一気に仕留めるのにとっても都合がよくってよ。
特に、山の中に拠点を構えでもしようものなら、拠点まで辿り着くための道はほとんど絞れる、なんてこともザラですわ。その道にドラゴンちゃん達を待ち伏せさせておいて、一気にブレス。うーん、考えるだけでうっとりですわぁ……。
さて、私は訓練中だったドラゴンを1匹借りて、山の方へと飛び立ちましたわ。
……私、武道大会の会場からドラゴンで脱出してしまいましたから、ドラゴンを目立たせるわけにはいかなくなってしまいましたのよ。ドラゴンが飛んでいるところにフォルテシア在り、とか言われたらたまったもんじゃーなくってよ。
ですから仕方なく、夜ですわ。夜に飛びましてよ。黒い鱗を持つドラゴンなら夜闇に十分紛れますから、王都の真上でも飛ぶのでなければ問題なくってよ。
私が辿り着いたのは山ですわ。かつて私が山賊稼業をやっていた山ですけれど……。
「あら、ドラン。あなた、傷はもういいんですの?」
「ああ。治った」
「傷が開いたら大変でしてよ?」
「全く運動しなかったら体が鈍る」
「あー、いいのいいのお嬢さん。こいつにとって山賊退治は軽い運動でしかないみたいだから」
そこではドランが山賊を縛り上げていましたわ。知らない山賊ですわね。どうやら私がここの山賊達をエルゼマリンに連れて行ってしまった後に住み着いた山賊らしいですわ。
「ここらの掃除は終わったぞ。後はコントラウスが適当に屋敷を建てるらしい」
「結構ちゃんとした奴作ってるみたいよ。さっき、内装に使いたい物のリストを貰ったとこ」
「あら素敵」
ちょいと山賊を爪先でつつきつつ、ジョヴァンのリストを見ると……まあ、お兄様らしく、『必要最低限、かつ品の良い設え』というような内装になる予定であることが分かりましたわ。
リストの中にはマホガニーの上等なライティングビューロや蔓草の織り模様が入った布を張った椅子などがあるかと思えば、鉄板を打って作っただけの燭台ですとか、椅子や机代わりにする木箱ですとか、そういった粗野な品々も記されていますわ。
山の中の革命軍の屋敷ですから、あまりゴテゴテと飾り付けるのも風情がありませんものね。流石お兄様。よく分かってらっしゃるわ。
「ちなみにあれがお嬢さんのお兄ちゃんの建ててるお屋敷ね」
ジョヴァンが示す方を見てみれば、お兄様が木の魔法や地の魔法を駆使して、立派なお屋敷を建てておいででしたわ。……まあ、例の如くゆっくり魔法でしたけれど、ええ、あと2週間もすれば立派なお屋敷になりますわね。
「さ、ドラン。この山賊達は私が処理しますわ。サキ様のところに連れて行って奴隷にしてもらいますから、あなたはもうお休みなさいな」
「しかしコントラウスが」
「お兄様は1人で何十時間でも平気で働かれますのよ?付き合っていたらあなた死にますわ」
はいはい、とドランを押してジョヴァンに預けつつ、私は連れてきた奴隷を外に出して、お兄様の下へと向かいますわよ!
「お兄様!」
「ヴァイオリア!その奴隷達は……ああ、早速手に入ったのか?」
「ええ!中々良い奴隷達ですわ!」
奴隷達ったら、今度は銃を突き付けられる前に、綺麗に整列しましたわ!お利口ですわね!
ええ、『きちんと革命軍として働けば奴隷身分から解放して差し上げますわ』と言ってありますから、後は命が惜しければきちんと従うことでしょう。
「なら丁度いい。屋敷の方はほとんど仕上がっている。後は時を待つだけだからな!人手があるなら、早速だが道を作るぞ!」
「ということですわ。あなた達!お兄様のいう事をよく聞いて、キリキリ働きなさいね!」
奴隷達をお兄様に引き渡したら、早速、お兄様は奴隷達を連れて、山道を拓きに行かれましたわ。
……これから作る山道は、革命軍を志してやってくる多くの者達の為の道になりますのよ。
それからもう1本別に『使われていないようだがそれなりに進みやすそうな道』を作っておく事にしますの。きっと王家の手の者はそこから山を登ってきますから、後はそこにドラゴン達を設置しておけば全部燃やしてくれますわ!
……というように、私、あちこちで準備に追われておりましたの。
エルゼマリンや王都ではビラを撒いたり、山では革命軍のお屋敷を作ったり。
はたまた、奴隷市場で奴隷を買い漁っては革命軍の水増し要員として育成したり。労働力にしたり。
そうして働く内に……遂に、来ましたわ。
「あの……こちらが革命軍の会合場所ですか?」
ビラを手にして会合1週間前からやって来た、冒険者風の人々!
……これで、人が集まる事は証明されましたわ!
遂に、革命軍が動き始めましたわね!