没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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21話「入手してはいけないものを入手しましたわ」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今、王家の兵士を1人、適当に転がしたところですの。

 何の為にですって?それは当然、ガワを手に入れるためですわね!

 

 

 

「王家の兵士の鎧を使うのは久しぶりですわね」

「あー、お前、最近はずっと聖騎士だったっけ」

「ふむ。相変わらず低性能な鎧だな。動きにくいが、王家の兵士は枷をつけて戦う趣味でもあるのか?」

「俺からしたら、鎧なんざ全部枷みたいなもんなんですがねえ……俺はまともに動けないからヨロシク」

 私とチェスタとお兄様、そしてジョヴァンは王家の兵士の鎧を着て、山の周囲をウロウロしておりますわ。

 こんな無駄なことをしている理由は1つ!

「……あっ」

 私達の姿を見た冒険者風の一団が、逃げていきましたわ!

 ということは、アタリですわね!

 

「お待ちになってー!私達、王家の兵士じゃあなくってよ!」

「えっ?」

 声をかけながら追いかけると、冒険者達は立ち止まりましたわ。そこで私が兜を脱いでみせれば……。

「あ、ああ!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア様、ですか!?」

「ええ!そうよ!」

 冒険者達は笑顔になって、私の下へと集まってきましたわ。

 ……ええ。つまり、『王家の手の者に攻撃される自覚がある者は私達から逃げる』ということですのよ。逆に、私達を見て、様子見なり声かけなりしてくる奴らは……まあ、敵ですわね!

 

 

 

 そうして、毎晩の警邏をかかさず行った結果……革命軍のお屋敷には、もう50人を超える数の人が集まっていますの。

 向こう見ずな冒険者や、失う者も身寄りもない者。そういった者達が多いですけれど、中には下級貴族の端っこに居るような者ですとか、他国からやってきた戦士なんかも含まれていますわね。

 ……ここに奴隷達を足せば、100人近い人数になりますわ。『革命軍の会合が行われている』とするには十分な人数ですわね。ええ。

 

 会合の前夜。

 私達はいつも通りに警邏の任務について……いませんわ。

 チェスタとキーブに王家の兵士の鎧を着せて警邏させていますけれど、私は……お兄様と一緒に、ドラゴンに乗って空からの偵察、ですわ。

「……ふむ。前夜に仕掛けてくるかと思ったが、どうやらその気は無いらしいな」

 山の周りや王都の方、何ならエルゼマリンの方までぐるりと回ってみたのですけれど、王家の兵士達の姿も、クラリノ家の私設兵団らしいものも見当たりませんでしたわ。

 仕掛けてくるなら前夜か、当日の夜か……と思っていたのですけれどね。今日、姿が見えないということは、当日に仕掛けてくるつもりかしら。

「会合の真っただ中に突入、というのは見栄えがする。貴族が好みそうな手ではあるがな」

「でも私、クリス・ベイ・クラリノが来ると思いますのよ。クリスが冷静さを欠いたままならともかく、まともな頭で考えたら、当日の夜に現場へ突っ込んでくる、なんて真似はしないと思いますのよねえ……」

 こちらは既にドラゴンを仕掛けたり、道を『整備』したりと色々やっているわけですから、まあ、山の上のお屋敷まで来て頂いた方が嬉しくはあるのですけれど……こちらが居を構えているということは、準備を存分にしているということ。そのくらい、相手だって分かるはずですわ。ですから……。

「おや。我が妹よ。どうやら招かれざる客がやってきたようだぞ」

 ……あら?本当ですわ。山に向かって、人目を忍ぶように明かりもつけず、にやってくる一団……それも、恐らくは武装した集団、ですわね。

「あらお兄様。彼らこそ私達が『招いた』客人ではなくって?」

「ふはははは!確かにその通りだ!実に嬉しい客人だとも!」

 私とお兄様はそれぞれに目配せして……どちらからともなく、やってきた一団に向かって急降下しましたわ!

 

 

 

「ごきげんよう!良い夜ですわね!」

「さて、諸君らは何者だ?何の目的があって人目を忍びながら進軍しているのだ?」

 私は槍を。お兄様は鉄パイプを。それぞれに携えて、ドラゴンに跨ったまま彼らの前後に降り立ちましたわ。

 私達、さながら竜騎士のようですわねえ……。我ながらうっとりさせられますわ!

「な……き、貴様ら、フォルテシアの者か!」

「答えてやる義理は無いが、冥途の土産に教えてやろう!答えは『是』だとな!」

「さあさあさあ!ここがあなた達のお墓ですわよ!覚悟はよろしくて!?」

 ……ということで、前口上もバッチリ決めて、私とお兄様は兵士達を思う存分蹂躙しましたわよ。

 大したことのない兵士達でしたから、まあ、大して楽しくはありませんでしたわね。私は槍でザクザクやったら終わりましたし、お兄様も鉄パイプでボコボコやったら終わっていたようですし。

 まあ……実に他愛ない相手でしたわねえ……。

 

「歯応えがありませんわねえ……」

 兵士達を片付けてしまったら、辺りは再び静寂に包まれましたわ。

「ふむ、全くだ。まるで歯応えが無い。この程度の腕で我らを討ち取れると思った訳でもあるまいに……」

 お兄様もつまらなさそうに鉄パイプを振って、付いていた血を振り落としつつそう零されましたわ。

「まさかこれで終わりではないですわよね?」

「ふむ、だろうな。流石にこの弱さとなると……囮か、はたまた、身勝手な行動に出て手柄を掻っ攫おうと思った身の程知らずか。いずれにせよ、まさかこれが王家の威信をかけて投入された兵士であるはずはない」

 そうですわよねえ……。これが本命だとしたら、あんまりにもあんまりですわ!

 

「これが囮だとしたら、今頃、反対側から山に登っている者達が居る、ということになりますわね」

「そうだな。だが、先程ドラゴンで見て回ったところでは、反対側にも特に人影は無かった」

 ドラゴンってとにかく速いですし、高さが出ますから遠くまで見えますの。ですから、私達の偵察に抜けは無くってよ。

「なら彼らは囮ではなく、身勝手で身の程知らずな行動に出たどこぞの貴族、といったところかしら」

「その可能性が高い。……ふむ、この紋章は確かに見たことがあるぞ。成金と言う割に金も無い、哀れな家の者ではないか」

 あらあら、どうやら身元は割れたようですわね。尤も、『どうでもいい相手』であるということが分かったくらいで、大した収穫ではないようですけれど……。

「……ということは、本命はまだ別にいますのね?よかった」

 流石に今の奴らで終わりだったらあんまりにもあんまりでしたわ!ああよかった!敵は強ければ強いほど楽しいですものね!私、存分に期待しておりますのよ!

「ふむ……そうだな、相手も、我々がドラゴンを少なくとも1匹手懐けているということは知っているはずだ。そしてドラゴンを偵察に使うことくらいは考えるだろう。ならば、夜の進軍は少々不利、と考えるのが妥当だろうか」

「なら、本命が襲ってくるのは当日の昼、かしら?」

「だろうな。隠れる理由が無く、罠を見つけやすい。昼間の方が奴らには都合がいいだろう」

 王都からこの山まで、馬ならば数時間で辿り着きますもの。朝になってから進軍を始めても十分、間に合いますわね。

 逆に、朝になったらこちらはドラゴンを飛ばしにくいですわ。……となると、やはり彼らが攻めてくるのは明るい時間、ですわね!

 

「……さて。だが、今の歯応えの無い連中を倒して、分かったことがあるぞ」

 さて、本命がやってくる時間に見当もついたところで、お兄様は素敵な笑顔を見せてくださいましたわ!

「奴らはどうやら、一枚岩ではないらしい、ということだ」

 ええ。概ねその通りだと考えられるでしょうね。

 ……状況だけ見れば、私達は格好の獲物でしょう。居場所が分かっていて、尚且つ、仕留めれば相当な手柄になりますものね。

 ですから一発逆転を狙って、クリスを出し抜いて私を仕留めようとする者達がそれなりに居る、ということはまあ、考えつきますわ。

「こうしてちらほらと、歯応えの無い連中が来るとしたら……面倒ですわねえ」

「違いない。彼らはドラゴンに任せてしまってもよいかもしれないな。誰が何人来るのかも把握できていない以上、一々応対するのは相当に面倒だ」

 私とお兄様はまたドラゴンに乗って離陸しながら、今後の予定を話しつつ、再び空へと向かって行って……。

 

「待ってください!」

 そこに飛んできた声に、私もお兄様も驚かされましたわ。

「……えっ、なんでここに来てますの……?」

 私達に向かって馬を飛ばしてやってくるのは……リタル、でしたわ。

 

 

 

「お兄様は空へ。お姿を見られない方がよくってよ」

「うむ、そうだな。お前はどうする?」

「私は……」

 迫ってくるリタルには恐らく、ドラゴンしか見えていませんわ。特にお兄様は、丁度ドラゴンの翼の陰に隠れて、見えていないはず。

 でも、ドラゴンって今や、ほとんど私と結び付けて考えられるものですから、革命軍と全くの無関係、と主張するわけにはいかないでしょうし……。

「……私はここに残って彼の話を聞きますわ。何かあったら適当に逃げるなり仕留めるなりします」

「そうか。まあお前のことだ、心配は要らんだろうが……気を付けるのだぞ」

 お兄様はそう言って、さっと空へと飛び立たれましたわ。それを見たリタルがまた声を上げましたけれど、私は残ったままであるのを見て、後は馬を飛ばすのを優先したようですわね。

 

 ……そうして少ししたら、リタルが無事、私の前に到着しましたわ。

 命を狙いに来たならもっと遠くから魔法で攻撃してきたでしょうから、目的は殺しではない、と判断できますわね。まあ、私だったらこの距離でにこやかに話しかけながらいきなり殺しにかかることもありますけれど……。

「いらっしゃい、リタル。こんな夜更けにこんな所で会うなんて奇遇ね」

「あ、ヴァイオリア様……ぼ、僕は」

「まさか、革命軍に参加しにきた、という訳ではないでしょう?なら目的は私の討伐かしら?」

「ち、違います!」

 ちょいと意地悪してやったら、リタルは即座に否定しましたわ。

「僕、あなたとの約束を果たしに来ました!」

「……え?」

「力はそれなりについたつもりです。武道大会では優勝をあなたに捧げることができませんでしたが……お役には立てるようになれたと、思います!」

 ……ええと、約束って、もしかして、アレかしら?

「リタル・ピア・エスクランは、あなたをお助けするためにここへ参りました!」

 

 

 

「……分かってると思いますけれど、私、革命を起こすと言っていますのよ?」

「はい!」

 お返事が元気でたいへんよろしいですわ。とっても心配になりますわね!

「そしてあなたは貴族ですわね?当然、王家に仕えているという体裁ですわね?」

「その通りです!でも、今の王家のやり方はおかしいと思うのです!貴族は本来、国に仕え、民を救うためにあるのだと思っています!ならば今、僕が進むべき道は、革命軍に参加してあなたと共に戦うことです!……本当に正しい国のために!」

 あらぁ……これで嘘を吐いていたら相当な役者ですけれど、これが本心だったら相当なおバカでしてよ。

「あなた、自分が言っていること、分かっていますの?あなたの行動はあなたの一族への裏切りですわよ?」

「分かっています。……でも僕には、国王陛下もクリス兄様も、正しいとは思えないんです」

 リタルはそう言って……不意に、ふにゃ、と、表情を歪めましたわ。

「……ごめんなさい。僕が余計なことを言わなければ、クリス兄様は『人狼の糾弾』なんてしなかったかもしれないんです」

「え?」

 え、まさかリタル、やっぱり私達の情報を売りましたの?あんまりそうは見えなかったんですけれど……。

「多分、クリス兄様は僕達が話していたのを見ていたんです。そして僕は、『誰かと会っていたのか』と後で聞かれて、咄嗟に、『対戦相手だった聖騎士の方とお会いしていた』と答えてしまって……」

 ああ、そういうことでしたのね。

 クリス自身が仕入れた情報にリタルの情報が合わさって、それでクリスが動くに足りる情報になってしまった、と。まあそれなら納得ですわ。クリスの能力からしても、リタルの性格からしても、納得がいきますわ。

「ですから、その」

「だからと言って、その罪滅ぼしのために人生を棒に振るような真似はお止めなさい」

 まあ……ここまでくれば十中八九、リタルが裏切ることは無いとは思いますけれど……その上で、釘を刺しますわよ。

「これは革命ですのよ。あなたの地位をひっくり返すためのものですの。あなたが参加していい理由はありませんわ」

「いいえ!それでも僕は参加します!誰の為でもなく、僕のために!僕が、この国を正しく導くために戦いたいから、参加するんです!」

 釘を刺しましたけれど駄目ですわね。これ。意思は固いようですわ。

 うーん……ここまで妄信されるとは思っても居ませんでしたわぁ……。どうしてこうなってしまったのかしら……。

 私が悩んでいると、リタルは……巻紙を差し出してきましたわ。

 受け取って中身を読んでみると……。

「これ、漏らしちゃあ不味い奴なんじゃあありませんこと?」

「ええ。クリス兄様が立てていた作戦そのものですから」

 どう見ても私の手に渡ったらいけない奴が書いてありましたわ。クリスが決行する作戦の子細が書いてありますわ。これはヤバい奴ですわ!

「……僕はあなたに協力します。きっと勝つのはあなたです。……卑怯なようではありますが、勝つ方に付く方が賢いとは思いませんか?」

 ……あらぁ。

 それは……実によく分かってますわねえ。……これを言ってくるようなら、リタルはもうただの甘ちゃんじゃあない、ってことかしら。

 クリス側の情報をこれだけ持ってきた、というところも含めて考えると……ええ、迷っているべきではありませんわね。

 

「分かりましたわ」

 私はリタルの馬を空間鞄にさっと仕舞ってしまってからドラゴンに跨り……リタルに言いましたわ。

「後ろにお乗りなさい!」

 

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