没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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24話「敗者には相応しい末路をご用意しますわ!」

 クリスの剣を受け止めて、私はその力の強さに驚かされましたわ。

 ……武道大会の時より、受け止めた手に重みと衝撃を強く感じましてよ。

 武道大会の時のクリスは緊張と混乱の中にあったから弱かったのか、はたまた、今のクリスが狂気に触れて、力を抑制することなく発揮しているということなのか。

 理性の箍を失ったクリスは、今まで以上の強敵に見えますわ。

 ……これは楽しめそうですわね!

 

 

 

 クリスが振るった剣の速いこと速いこと。まるでお兄様の鉄パイプですわねえ。それを紙一重で躱して、私は少し大きく距離を取りましたわ。

 ……すると、クリスは私を追ってすかさず踏み込んできますの。攻めの姿勢、ということですわね!

「困りましたわねえ、隙が見つかりませんわぁ……」

 繰り出された突きをこれまたなんとか躱してぼやけば、クリスはそれに答えることも無く、すぐさま次の突きを繰り出してきますのよねえ。

「ああもう!」

 そこへ落ちてきたのは雷でしたわ。

 クリスに落ちた雷はクリスに傷を負わせることこそありませんでしたけれど、確実に視界を奪いはしましたのよ。だって眩しいじゃありませんの、雷。

 キーブが作ってくれた時間、無駄にはできませんわね。私、さっとその場を離脱して、キーブが手招きしていた岩陰へと退避しましたわ。

「気が利きますわね。どうもありがとう」

「ありがとうとか言ってる場合じゃないだろ!ヴァイオリア!さっきの、毒矢じゃなかったのかよっ!」

 あら。鬼のような形相で詰め寄られたかと思ったら、そこが気になりましたのね?

 確かに、矢はクリスの腕にぶっ刺さっていますけれど、クリスはぴんぴんしていますものねえ。

「ええ違いましてよ!」

 ということで、答えは『否』ですわ。クリスへ放った矢は普通の矢ですの。血なんて一滴も使いませんでしたわ。私の血で染めた毒矢でしたら、今、もう既に勝っていたでしょうねえ。おほほほほほ。

「……なんでだよ。僕に当たるかもしれなかったから?」

「いいえ?もっと別の理由ですわよ」

 さて、休憩はここまでにしましょうか。そろそろクリスの目も戻ったようですしね。

「さて、キーブ、リタル。あなた達はここを離れて、ドランの方に加勢して頂戴」

「……いいのかよ」

「ええ。ジョヴァンの方はほっといてよくってよ。彼の方に兵は居ないと読んでいますの。そうでなくても、そっちには行かないで頂戴ね。あなた達が行くのはドランの方よ」

「いや、ジョヴァンの心配じゃなくて。ヴァイオリアの方だよ!」

 キーブが苛立ったようにそう言えば、横からとっても不安そうな顔のリタルが出てきましたわ。

「ヴァイオリア様、僕は……」

「リタル。あなたの仕事は私にくっついてることじゃあなくってよ。分かったらさっさとドラン達の方へ行って頂戴。あそこを片付けてからこちらをお願い。ここは私1人で十分でしてよ」

 さて。もう時間はありませんわね。2人の返事は待たずに私、クリスに向かって飛び出していきますわよ。

 早速、クリスは私に気づいて襲い掛かってきましたけれど、私の後ろではキーブとリタルが走り出していますわ。そちらにも意識がいってしまったクリスの剣は、少々腑抜けた太刀筋になりましたの。

「あら、余所見していていいんですの?」

 その一瞬の隙をついて、突きを繰り出しましたわ。

 狙ったのは、クリスの腕ですわね。私の剣はガントレットの隙間に入り込んで、クリスの腕を傷つけましたわ!

 勿論、腕を斬り落とすなんて芸当はできませんわねえ。クリスもすぐに私の剣を振り払って攻撃に転じてきましたし。

 ……でも、剣士が腕に傷を負うのは中々の痛手でしてよ。痛みはどうやったって人間の動きを鈍らせますもの。傷を与えれば与える程、こちらの勝利が近づくのですわ。

「さあさあ!こちらですわ!」

 私はクリスの剣を避けつつ、大きめに距離を取りましたわ。

 続いて、またクリスが距離を詰めてきたなら、また距離をとって、また詰められたらまた取って……。

 少しずつ、少しずつ、移動していきますのよ。

 

 

 

 南の道で戦い始めましたけれど、そこから王都の反対側の道の方へと動いていけば、木々が多くなりますわ。

 障害物が増えてくると、クリスとしては戦いづらいでしょうね。クリスだって魔物討伐なんかはしたことあるでしょうけれど……こういった場所で、人間とやり合うのはもしかすると初めてかもしれませんわね。綺麗に整備された闘技場での戦いが本分である彼にとって、不利な戦場であることは間違いなくってよ。

 ……更にクリスは、ここに罠が仕掛けられていることを警戒して、明らかに動きが鈍りましたわね!

 ええ、とってもお利口だこと!そう!彼にとってここは敵地!攻め入る側のクリスには碌な準備が無くっても、こちら側には一月あまり、準備する時間があったのですもの!罠の1つや2つ、仕掛けられていて当然と考えるのは実に妥当ですわね!

 ……けれど、私に言わせてみれば、あるかどうかも分からない罠を警戒して、その結果動きが鈍るというのは……本末転倒ですわね。一番、やってはいけないことだと思いますわよ。

 リスクを恐れて消極的になること。それこそが最大のリスクなのですわ。ですから、ここでの正しいふるまいは……罠のリスクを切り捨てて、突っ込んでいくことですのよ。

「どうしましたの?まさか、木が沢山あるところでは落ち着いて戦えない、とでも仰るおつもりかしら?」

 私が煽ってやると、クリスは益々、疑念を深めたようですわね。つまり、『ここへ誘導してきて、ここまで露骨に煽ってくるのだから、この場所には絶対に何かある』と。

 その疑念のせいで、クリスの動きはすっかり鈍っていますわね。私が斬りかかっても防戦一方でしてよ。

 ……戦っている途中で、私、少々あからさまに一部の地面を避けたり、一部の木に触れなかったりしているのですけれど……それがまた、クリスの疑念を強めさせる材料になっているようですわ。

「随分と腑抜けた太刀筋ですわねえ。少し臆病が過ぎるんじゃあなくって?」

「黙れ!卑怯者め!」

 卑怯だと思うなら、わざわざその卑怯者の陣地に戦いに来るもんじゃあなくってよ。

「……ほら。またもう一撃、入ってしまいましたわよ?」

 適当に嘲笑いつつ、今度はクリスの鎧の間を縫って、脇腹を切り裂いてやることに成功しましたわ。

 ……そろそろ、クリスも焦ってきたようですわ。傷を負えば負う程、戦えなくなっていく。それはクリスにもよく分かっているはずでしてよ。

「さあ、次はどこかしら?脚?胸?或いは……そうね、武道大会で『見逃してあげた』目玉を差し出すというのなら、それでもよくってよ!」

 ですから私、ここでクリスをもう一煽りしてやりますわ。

 元より理性より狂気と衝動によって動いていたような状態のクリスは、私の言葉に思い出したくないものを沢山思い出したようですわね。

 彼にとって、武道大会での敗北は、人生の中でも1、2を争う汚点でしょうから。

 ……そして、クリスにはその汚点、ものすごく効くはずですわ。だって、その汚点のせいで、今のクリスは狂気に傾いてしまっているのですもの。

「貴様だけは何としても殺す!国のためにも、今、ここで貴様は殺さなければならん!」

「あら、国のためって仰いますけれど、あなたの言う『国』って一体何のことなのかしらね」

 ぞっとするほど速く繰り出されたクリスの剣を、なんとか剣で逸らして躱して、次の一撃をまたなんとか掻い潜りますわ。

 やっぱりクリスって、狂気まじりの時の方がよっぽど強いですわね!

 ……でも、私はその上を行きますのよ!

 

 

 

「別に、正義のために働けなんて言いませんわ。私だって悪党ですもの」

 私、今まで散々避けていた地面の一部に向かって、小石を蹴り飛ばして見せましたわ。

 あくまでもさりげなく。……でも、そのさりげなさが却って謎を生む、というわけですわね。

 クリスの注意深い観察には、見事、私の不審な行動が捉えられている、ということですわ!

「ただ、1つだけ。……あなたが本当に守りたいものは、国でも建前でもなかったんじゃなくって?あなたは自分の地位と名声が大切なのでしょう?」

「黙れ!大罪人風情が、知ったような口を……!」

 クリスは私の言葉に耳を貸さないようにしているのか、少しばかり動揺した様子を見せましたわね。ええ、本当に不器用ですこと。綺麗事を並べ立てて生きている貴族なだけはありますわ。貴族の傲慢さは嫌いじゃあありませんけれど、傲慢を傲慢と自覚できないのは単なる阿呆ですわね。

「……なのに地位と名声が大好きな自分は認められない、というのは見苦しいまでに不器用ですわねえ。あなた、いっそ開き直ってしまえばよろしいのですわ」

 私の今までの動作を見てクリスは、私が何らかの罠を作動させる、と思ったのでしょうね。踏み込んできそうだったところを方向転換して距離を取りましたわ。

 ……でもその後ろには、やっぱり私が触れないようにあからさまに気を付けていた木が、ありますのよ。

「悪くなくってよ。地位と名声。いいじゃありませんの。ええ、傲慢な方、私は大好きよ?私だってそうですもの。傲慢であれ。傲慢である事を許されるまでに強者であれ。……そう。もしあなたが許されないのなら、それはあなたが弱いからですわね!」

 クリスがはっとした時にはもう遅くってよ。私は、クリスの後ろの木に、石を投げましたわ。

「文句があるなら私に勝ちなさい!勝てないならば無様に這い蹲って死になさい!弱者を踏み躙って脚光を浴びる生き方を選んだのはあなたですもの。その覚悟はとっくにおありなんでしょうねッ!?」

 木に向かって飛んでいった石を追って、クリスの視線が動きましたわ。

 何が起きるか分からない、という疑念の中で、あちこちへ注意が向いて、ぐっと警戒が強まって、でも、どんなに強まったとしても、分散している警戒なんて……何の役にも立ちませんわね。

 そこへ私が斬りかかれば……クリスの反応は、遅れましたわ。

「……そして、あなたの不器用で滑稽な生き方について、最後にもう1つだけ」

 一瞬だけ、鍔迫り合いになりましたわ。

 でも、それも一瞬のこと、でしたわね。

「私だったら、もっと上手くやりましたわよ」

 次の瞬間、私、クリスの剣を弾き飛ばしていましたのよ。おほほほほほ!

 

 

 

 クリスは拍子抜けした様子でしたわ。

『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアが何か罠を使ってくるだろうと思っていたら何も起きなかった』。そんな顔をしていますわねえ。

 そりゃあそうですわ!だって私だって、この辺りの罠の存在なんて知らないのですもの!仮に罠があったとしても、知らないものは利用できませんわよねえ!

「さて、これで終了、ですわね」

 剣を弾かれた途端に動かなくなったクリスに向けて剣を繰り出して、武道大会の再現のように、また目ン玉ギリギリ手前で剣を止めてやりましたわ。

 

 今度こそいよいよ動けなくなったクリスと、そのクリスへ剣を突き付けている私。

 ……そこへ、拍手が起こりましたの。

「いや、中々いい腕前ではないか、ヴァイオリア。成長したな」

「お兄様!見てらっしゃったの?」

 木の陰から出てらっしゃったお兄様は、満面の笑みを浮かべてらっしゃいましたわ。お褒めのお言葉を頂けるなんて、頑張った甲斐がありましたわね!

「けどねお嬢さん。頼むから次からは、人が罠仕掛けたあたりでウロウロしないで頂戴」

 あら、気づいたらジョヴァンも出てきていましたわ。……隠れるのは得意なんですのねえ、彼……。

「もしかして、この辺りにも罠、ありましたの?」

「あったよ。ありました。それで俺が切っときました。ったく、お嬢さんが引っかかっちゃったら目も当てらんないでしょ」

 あらそれはどうも。……まあ、上手くいったのですから過程はどうでもよくってよ!

「大体ね、お嬢さん。俺のところに応援が来るって話はどうなったの?俺、一人寂しくちらほら来る兵士を罠にかけちゃー処理してたんだけど?もうちょっと兵士が多かったら俺、もう死んでたかもよ?」

「あら。そこんとこはお兄様がいらっしゃるから何とかなると思いましたわ」

「ふはははは!見事な読みだな!我が妹よ!その通りだ!王都の反対方向は手薄になると判断して私はそちらへ動いていたぞ!」

 あらやっぱり。心配なんて必要無かったようですわね!おほほほほほ!私の読みは完璧でしたのよーッ!

 

「……さて。お前を褒めるのもこの辺りにして、こいつの始末をしてしまわなければな」

 お兄様が指し示す先に居るのは……当然ですわね。クリスですわ。

「ええ、そうですわね。さっさとやってしまいましょうか」

 私はクリスの前に立って……にっこりと、笑い掛けましたわ。

「ねえ、クリス・ベイ・クラリノ様?あなた、私に負けましたの。大罪人だの反逆者だのを討伐しようと意気揚々と乗り込んできておいて、負けましたのよ。お分かりかしら?」

 クリスは答えませんでしたわ。でももう、兜の奥の目には、覇気がありませんの。

 現実を直視しないようにしているらしい狂気がちらついて見えますけれど、まあ、その程度ですわね。時間をかければきっと、現実がちゃんと理解できましてよ。

「そして、敗者に相応しい末路はご存じかしら?」

「……さっさと殺せ。情けは要らん」

 あら、ようやく口を開いたと思えば、『殺せ』ときましたわね。よく分かってらっしゃいますこと。

『文句があるなら勝て。勝てないなら死ね。』そう言ったのは私ですしね。ええ。

 ……ただ、その通りにしてやる程、私は甘くはありませんのよ。

「あらそう。なら答えは『いいえ』ですわ。私はあなたを殺しはしませんし、かといって情けなんて欠片もかけてやりませんわよ」

 私はにっこり笑って……言ってやりましたわ。

「大体、殺せと言ってくる相手を殺すなんて、あまりにもナンセンスですわ。死を望む者に死を与えたところで、そんなのただのご褒美じゃありませんの」

 

 言うまでも無く、クリスにはよく理解できていることでしょう。だからこそ彼は『殺せ』と言っているのですわ。

 要は、『殺すより酷いことはしないでくれ』という懇願。こんなもの、聞いてやる義理はありませんわねえ!

「あなたには見せしめになってもらいますわよ。革命軍に楯突く貴族がどういうことになるのか。それをよーく、他の貴族連中に見せて差し上げてくださいな?」

 

 

 

 舌を噛み切れないように猿轡を噛ませて、適当に鎧を剥いで縛り上げて、無力化は完了ですわ!

 ……さて。ここからがお楽しみ、でしてよ!

 

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