ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、クリス・ベイ・クラリノを生け捕りにしてわくわくしているところですの!
彼は『さっさと殺せ』なんて言っていましたけれど、そんなにもったいないこと、するはずがありませんわ!
クリス・ベイ・クラリノはこれから、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアを黙らせようとした貴族がどうなるか』を知らしめるための見せしめとして働くことになりますのよ!おほほほほほほ!
ということで、無力化したクリスは例の如く空間鞄の中に適当に入れて運搬しまして……先にこっちの処理ですわ。
「はい、出てきてよくってよ」
ええ。クリスが先に送り込んできていた『間諜』を始末しますの。
空間鞄を逆さにして振って、中に入れておいた間諜を床に転がしましたわ。
「あなた、クリス・ベイ・クラリノのところの人間らしいですわね」
私がそう詰め寄ってやれば、もう言い逃れはできないと悟ったのか、黙ってじっと私の隙を窺い始めましたわ。まあ、隙なんて作りませんし、逃がす気はありませんけれど。
「そう警戒しなくてもよくってよ。あなたにはいいお話を持ってきましたの」
私はそう前置きして、間諜野郎を安心させるためににっこり笑いつつ……間諜を出す前に部屋の外の廊下に転がしておいたクリスを引きずってきましたわ。
「この通り、あなたの主は負けましたのよ」
「そ、そんな……クリス様!?嘘だ、そんな、クリス様が負けるなんて……!」
はい。これがやりたかったのですわ。
これ、間諜からしても雇い主が負けるというショッキングな出来事でしょうけれど、ショックを受ける様子を目の前で見せられているクリスにとっても中々嫌なことだと思いますのよ。
自分が負けたせいで部下が1人危険な目に遭っている、という自責の念……ではなく、あくまでも『クリス様が負けるなんて』と言われることによって現実を直視しなくてはならない苦しみ、でしょうね。ええ。クリスは自分のところの兵士を全員捨て駒にする気でしたもの。自責の念なんてあるわけがなくってよ!
「さあ、間諜さん?あなたには2つの道が残されていますわ」
クリスの反応を楽しんだら、早速間諜には提案を持ち掛けますのよ。
「1つ目の道は、ここで死ぬこと。……私は慈悲深いですから、あなたはここで殺してあげても良くってよ。クリスにはもっと面白いことをやってもらいますけれどね」
『慈悲深いから殺す』。この言葉の意味を悟ったのか、間諜はクリスをちら、と見て、哀れみの表情を浮かべましたわ。それもまた、クリスにとっては大層屈辱的でしょうねえ!
「そしてもう1つの道は、ここでクリス・ベイ・クラリノを裏切って、お家へ帰ることですわ」
「え?」
……そしてもう1つの道を提示すれば、間諜野郎はぽかんとしましたわ。そりゃあそうでしょうね。『お家へ帰る』なんて道があるとは思っていなかったでしょうから。
「本当ですわよ?あなたには傷1つつけずに帰してもいいと思っていますの。勿論、ちゃんとクリスを裏切ってもらいますけれど……これから『死んだ方がマシ』な目に遭う彼に対して、今更義理立てする必要はありませんわね?」
「そ……それは……」
間諜はまた、ちらちらとクリスを見ていますけれど、クリスとしてはもう何も言えませんわね。裏切るな、というのはあまりにも惨めでしょうし、かといって裏切られるのも癪でしょうし。
クリスにとって一番喜ばしい間諜野郎の選択は『自発的にクリスを裏切らず死ぬ道を選ぶ』事でしょうけれど……まあ、そうはなりませんわね!
「あなたがやるべきことは2つ。1つ目は、このお屋敷にあなた以外の間諜が紛れ込んでいるかを正確に報告すること。もう1つは、『クリスが嫌がること』を思いつく限り教えることですわ。ね?簡単でしょう?」
はい。
結局、間諜は見事、クリスを裏切りましたわ!
他に潜んでいるという間諜についても分かりましたし、成果は上々ですわね。
あ、ちなみに『クリスが嫌がること』で出てきたのは普通の人間なら誰でも嫌がるようなことでしたから正直なところどうでもよかったですわね。
でも、1つずつぶっ飛んだ内容が出てきてはそのたびにクリスの表情が険しくなるのを見ているのは楽しかったですわ!
その後、紛れ込んでいた間諜共をすっかり全員お山の外へ放り出してやったら、いよいよクリスの番ですわね!
私は夜を待ってから、クリスを空間鞄の中に入れて、ドラゴンに乗って飛び立ちましたわ!
「へえ。傷は無いし、いい状態だね。……中々いい腕だ」
「お褒めに与り光栄ですわ」
私がやってきたのはエルゼマリンのサキ様のお店ですわ。ここで何をするか、といったら……1つしかありませんわね!
クリスは周囲に並ぶ檻や、その中に入れられている人を見て、自分の末路を悟ったようですわ。でももう遅くってよ。
「これは中々上物の奴隷だ。こっちで買い取ってもいいけど、売ってくれる?」
「申し訳ありませんけれど、これはこっちで使いますのよ」
「だろうね。……はい、できた」
私とサキ様が雑談している間に、もう準備はできましたわ。
クリスの首にはもう、奴隷の首輪が嵌っておりますの。これでクリス・ベイ・クラリノは今から私の奴隷ですわ!
クリスには一通り、禁止事項を叩き込みましたわ。
『自殺しないこと』なんて生温い言い方はしませんわ。『あなたはあなたの能力の限りを尽くして常に生き延びる努力をしなければならない』という言い方をさせてもらいましたの。同時に、『主人に関わる全ての情報を漏らすことを禁じる』という禁止事項も入れておきましたわ。
他にも諸々、これはやっていいこれは駄目、これは許可を得ないと駄目、これは能力の限りを尽くして避ける……といった契約をどんどん増やしていって……そうしてやっと、クリスの猿轡を外すことができましたわ!
「貴様!決して許しはしないぞ!地獄に堕ちろ!」
「ええ、それで結構ですわ。あなたの許しなんて必要ありませんし、地獄も案外楽しいところだと思いますし」
ちなみに、クリスには暴言の類を禁止していませんわ。何故かというとその方が面白いからですわ。
反抗的過ぎるのは考えものですけれど、全く反応が無いのはあんまりにも味気ないですものね。
「さて。その首輪、気に入って頂けたかしら?王家の『犬』には相応しいんじゃあなくって?」
「ふざけるな!さっさと殺せ!こんなことをして何になる!」
あらあら、会話が通じませんわねえ。うーん……まあ、仕方ないかしらね。クリスだって、奴隷になってすぐですし、まだ自覚が無いのですわ。
「では、とりあえず……お座り!」
なので早速、命令を出してやりましたの。
クリスは始めこそ抵抗しようとしていましたけれど、命令に従わない時、奴隷の首輪は絞まりますわ。そして、クリスは『自分の能力の限りを尽くして常に生き延びる努力をしなければならない』ので、首が絞まって死ぬ、なんてことは回避しなければならないのですわ。それも、手を抜いて、なんて許されませんの。彼は全力で、死を回避しなければならないのですわ!
……ということで、クリスは見事、お座りしましたわ。こうしてみると大型犬みたいに見えてくるから不思議ですわねえ。
「貴様……!何がしたい!」
「言ったでしょう?あなたには見せしめになってもらう、と。はい、お手」
私が出した手の上にぽん、と手を乗せながらも、クリスはこちらを睨みっぱなしですわ。ただこちらの指示に従っているだけでは面白くありませんものね。これくらい反抗的な方がよくってよ。
「さあ。今晩の内にしっかりと奴隷の自覚を持つとよくってよ。そして明日のお昼には王都の広場で奴隷としてのあなたをお披露目しましょうね!」
私がそう言ってやりますと、クリスはいよいよ強くこちらを睨んできますけれど、睨みながらも『お手』ですから何も怖くなくってよ!おほほほほほ!
……そして翌日。
私はドラゴンに乗って王都まで向かいましたわ。
当然、王都は『ドラゴンといえばヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』と思っていますから、警戒しましたわね。
でも関係無くってよ!私、構わずに広場の真ん中へ降りましたわ。
そして!
「さあクリス、いらっしゃい」
広場に集まった人々の視線の中!クリスが登場ですわ!
クリスの恰好は敢えて奴隷らしくしていませんの。鎧も剣も奪いましたけれど、服はそのままですわ。奴隷らしく粗末な麻の服を着せてもよかったのですけれど、それですと貴族の奴隷落ちらしくないですから敢えての選択でしてよ。
その代わり、クリスの首には奴隷の首輪!そして!首から提げている看板には『私は革命軍に敗北して奴隷になりました』の文字!
これならクリスの現状がよく分かって良くってよ!
「さあ皆さん、ご覧くださいまし!こちら、クラリノ家のご子息のクリス・ベイ・クラリノですわ!」
私が見せようとしようがしまいが、民衆の視線はもうすっかりクリスへ向いていますわね。まあ当然でしてよ。
そこへ、ドラゴンを見て集まってきた兵士達も取り囲んで、クリスは見事、衆人環視に晒されることになりましたの。
本人を見てみると、もうそれはそれは可哀相になる表情ですわねえ。
「見ての通り、彼は私達革命軍を攻撃しに来て無様に敗北しましたの。今日から彼は革命軍で働く奴隷ですわ。今まで貴族階級として平民から暴利を貪っていた分を働いて返して頂こうと思いますのよ。勿論、彼が十分に働いたなら、その時は新しい王国の住民として受け入れますわ」
私の説明は実に『革命軍』っぽくできていますでしょう?しれっとこのくらいのことは言えなければ令嬢としてやっていけませんのよ!おほほほほ!
「さあ、クリス。王都の皆様にご挨拶なさい」
そして私が背を押すと、クリスはぎゅっと唇を噛み締めていましたけれど、奴隷は奴隷ですわ。命令は絶対。クリスは私の命令を聞かざるを得ないのですわ!
「……私はクラリノ家の私設兵団を指揮しておきながら、兵士達を捨て駒として扱い……その上、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアと戦って、無様に敗北した」
流石、クラリノ家の秀才。ちゃーんと教えた通りに言えますのね。元の能力が高い分、奴隷としても優秀ですわねえ。
「今まで行ってきた貴族としての振る舞いは間違っていた。この国の貴族も王族も、生まれが貴族王族であったというだけの凡人だ。私もこれからは身の程を弁え、奴隷として革命軍に仕えることにする……」
最後の方はなんとも弱弱しい言い方でしたけれど、まあいいでしょう。兵士も民衆もよく見ていますから、クラリノ家の跡取りの末路は知れ渡るでしょうしね!
「お分かりになったかしら?よろしくて!?革命軍は貴族を貴族だからといって特別扱いなんてしませんわよ!今後も革命軍に盾突く貴族が居たらそいつらは残らず奴隷落ちですわ!」
私はしっかり宣言してからまた、ドラゴンに飛び乗りましたわ。クリスも私に従って、ドラゴンに乗りましたわね。
ここで兵士達は慌てて私を取り押さえようとし始めましたけれど、もう遅くってよ!私のドラゴンはふわりと飛びあがって、もう兵士達の手の届かないところまで上がってしまいましたの。
「それでは皆様、ごきげんよう!」
最後にそうご挨拶したら、私、お山の方へ帰りますわ!
これで私が帰る場所はバレますけれど、元々山の上に革命軍の居を構えているという事は王家に知れ渡っているはずですから問題なくってよ!攻めてきたければ攻めてくればいいのですわ!勿論、もしそこで負けたら、クリスのように無様な奴隷落ちを果たすわけですけれどね!おほほほほほほ!
……ということで、クリスを辱めることに成功しましたわ。気分がよくってよ。
クリスは私を恨みがまし気に見ていますけれど、因果応報ですわよ。私に濡れ衣を着せて玉座の間で糾弾すると、奴隷落ちさせられて王都の広場で見せしめにされる、ということですわね。
さて。
クラリノ家はこれで間違いなく没落ですわね。跡取りがこんな状態ですから。
傍系から養子をとってきてもいいでしょうけれど、それにしても、貴族としての面子は丸潰れ。今後は一族揃って生きにくいことになるでしょう。
あとはまあ、クリスを時々王家の広場に連れてくるくらいで勘弁して差し上げるとして……。
……問題は、革命軍の方ですわ。
私、とりあえずクリスや王家を糾弾するために革命軍なんて始めていますけれど……これ、折角ですからもう少し続けてみましょう。
どうせ王家はぶち転がすのですし、構わないでしょう。コソコソと暗殺するよりも、大義名分を背負ってぶん殴りに行った方がスカッとしますわね!
他の利点としては……そうですわねえ、ドランが多少、喜ぶかもしれませんわね。ええ。
ということで私、革命を起こしますわ!しっかりこの国をひっくり返しますわ!
そしてこの国を、手に入れますわよ。