1話「とりあえずカツアゲですわ」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、大聖堂に来ていますの。
何故って?……王家がよく分からない申し入れを大聖堂にぶち込んできやがったからですわ!
「……成程。罪のない民が戦火に巻き込まれることの無いよう、大聖堂に協力要請、というわけですのね」
キャロルの下に届いた書状を読ませてもらって、王家の狙いは大体把握できましたわ。要は、他に打つ手が無いからとりあえず大聖堂は取り込んでおいて、聖騎士の戦力と大聖堂に集まるであろう民衆の支持を手に入れたい、ということなのでしょうね。ええ。
「それにしても随分と恩着せがましい文章ですこと。人狼については黙認してやるのだから協力しろ、と言っているようなものですわねえ」
「そうなんです。ここに来ても高圧的と言いますか、人狼の話を持ち出されまして……しかも、これ以上に何か裏に要求を隠しているように感じられて、どうしたものかと……」
あらあら。腹の中で何を思っていようが勝手ですけれど、それを相手に気取られるようなら三流ですわねえ。
「その書状を持ってきた三流文官が気に食わない、とでも突っぱねるのは如何かしら」
大聖堂がそれをやったら確かに少しばかり問題があるようにも思いますけれど、使者が無礼を働いた、という主張で相手の要求を突っぱねるのはよくある手法ですし、いいのではないかしら。
……と思ったのですけれど。
「それが、そうもいかなくて……」
あら、キャロルの表情が曇っていますわねえ……?
「この書状をお持ちになったのは、第七王子様ご本人なんです」
……あらぁ……。
第七王子、というと、ダクター様、ですわねえ……。あの野郎、キャロルに直接書状を持ってくるとは、ボチボチ殊勝ですこと。尤も、その態度は殊勝の真逆だったようですけれど。
それにしても、ダクター様が自らわざわざ出向いてくるとは。確かに裏に何かあることを疑いますわねえ。
「彼の様子はいかがでしたの?」
「ええ、人狼の話を持ち出したり、ヴァイオリア様の悪事についてお話しされたり、といった具合でしたが……ひとまず、大聖堂を何としても取り込みたい、という意思は感じられました。私を労ったり、大聖堂の活動に理解を示しているそぶりを見せたりなさっていたので」
成程。あからさまに媚を売りに来た、と。
その割に人狼について恩着せがましく話したり、敵である私を貶めようとしたり、そこらへんは甘いですわねえ。王族ですから、仕方ないのかしら……?
「ヴァイオリア様と敵対する道は取りたくありませんし、そもそも民のことを思うなら、いっそ王家を倒してしまった方が民のためになります。そもそもヴァイオリア様は民を巻き込むおつもりは無い訳ですし」
「まあ、私の意図なんて向こうには分かりっこないことですけれどね」
私は民衆をむやみに傷つけることはしませんわ。酪農家が家畜を殺すわけがありませんわね。それと同じですわ。
でも、王家としては、私が民衆を傷つける気満々であってくれた方が喜ばしいのでしょうし、その想定で動いているのでしょうねえ……。つくづく、民衆目線で物事が見られない連中でしてよ。
「実は、数日後に第七王子を交えた食事会が予定されていまして……」
「そこで返事を出せ、と?」
「いえ。返答に期限は設けられていません。でも……わざわざ王子と夕食会、なんて、明らかに返答を迫っていますよね?」
そうですわねえ……。
となると、大聖堂としては、返答を伸ばせるのは数日後まで。
キャロルとしては、できるだけ波風立てずにお断りしたいところでしょう。まあ、今のところは『大聖堂は中立の立場でいきます』が正解のような気もしますけれど、下手を打って大聖堂が攻撃されるようなことがあると面倒ですのよねえ……。
……となると、王家側のミスを引き合いに出してそれを理由に断る、というのが妥当なところかしら。
なら決まりですわね!
「分かりましたわ。では私、適当な村や王都の路地裏でカツアゲしてきますわ!」
「えっ」
「野郎共!適当にカツアゲか強盗、しますわよ!」
「何の話?」
ということで、アジトに戻ってきた私は、野郎共をかき集めますわよ!
「簡単な話ですわ。王家側に悪い噂を立てて、キャロルが王家との協力を躊躇う材料にするのですわ!」
早速、アジトの中で情報共有しますわよ。
ただ……。
「え?え?どうしてヴァイオリア様がかつあげすると王家の評判が下がるんですか?」
リタルだけ、付いてこれていませんわぁ……。
ええ、まあ、仕方ありませんわね。彼、根っからの貴族ですし……いえ、一年弱の武者修行中にもう少し世俗に塗れていてもよかったと思うのですけれど……。
「まず、私達がカツアゲするのは貴族ですわ。財産をため込んでいる貴族から財産をぶんどってやりますのよ」
「成程!そうすれば貴族に反感を抱いている民衆の支持を得られる、というわけですね!」
「いやいや。それだけじゃあ王家の評判を下げる理由にはできないでしょうが。もうちょっと頭使いな」
リタルが早とちりしたところでジョヴァンがリタルの頭を小突いて、話が再開しましたわよ。
「そこで、貴族から得た財産を民衆にばら撒きますのよ」
「要は、義賊として活動する、ということですか?」
まあそうなのですけれど……そこはそれほど重要じゃなくってよ!
「そうなると当然、王家としては派兵するしかありませんわね?」
「……え?」
「貴族の財産が盗まれたら、それを取り戻しに行くのが当然ですわね?」
「……あ」
ここでようやく、リタルにも分かったようですわね!
「そう!これは、王家の兵士達に民衆を襲わせるための作戦ですのよ!兵士がうっかり民衆をどつきでもしたら、それで『王家の兵士が民衆に手を上げた』と声高に叫べばいいのですわ!」
大聖堂が王家の協力要請を断る理由が無いのなら、理由を作ればいいのですわ!とっても簡単なことでしてよ!おほほほほほ!
「ということで久しぶりの盗みですわ。わくわくしますわね。ついでに屋敷を燃やしてやってもいいですけれど、王家へ被害を訴え出る貴族本人は殺してはなりませんのよねえ……となると放火はナシかしら」
「そもそも強盗と放火をセットにしちゃあダメでしょうがお嬢さん」
私としてはそこ、セットにしたいところですのよねえ……。強盗で幸せ、放火で幸せ。1粒で2度美味しい幸せセットでしてよ!
「今回は簡単な盗みと恐喝に留めておいた方がいいだろうな。革命軍幹部が動いていると思われるよりは、革命軍の末端が動いていると誤認させた方がいい。大規模な作戦は違和感を与えるだろう。動いていると思われていいのは、精々俺までだ」
あら。ドランが早速名乗り出てくれましたわねえ。それは大変に喜ばしいのですけれど……。
「……あなた、動いて大丈夫ですの?」
「特に問題はないが……どうかしたか?」
「いえ、あなた、最近体調が優れないように見えるのですけれど」
努めていつも通りに振舞っているようには見えますけれど、私の目は誤魔化せませんわよ。
武道大会で深手を負って以来、毎晩のように月光に当たるようにしているのを見ていますし、どことなく怠そうにしている姿も時々見かけますわ。それってつまり、体調が優れない、ということではないのかしら?
「いや……特に問題はない。大丈夫だ」
「そうですの?……何か隠してませんこと?」
「特には」
……絶対に何か隠していると思うんですのよねえ、これ。ただし、私に被害が及ばないような何かを。
気になりますわぁ……とっても気になりますわぁ……。
「ま、いいじゃないのお嬢さん。で、カツアゲと強盗だっけ?ドランを使うのはまあ決まりとして、他は?チェスタが一番チンピラっぽいんじゃないかしらって俺は思うけど」
「それは私も思いますわ」
「それ、俺に対する悪口か?おい」
ジョヴァンが早速、チェスタを勧めてきましたわねえ。ええ。確かにこの中だとチェスタが一番チンピラっぽいですわ。というか実際、チンピラですわ。
「まあいいけどよ。うん。で、俺とドランと、あとヴァイオリア?3人でも十分いけると思うけど、コントラウス、入れるか?」
「ふむ。実に楽しそうな催しなのだが、私は遠慮しておこう。そろそろ大砲の運搬を始めなければならないのでな。そちらへ回らせてもらう」
あら、お兄様は不参加、と。
……まあよくってよ。私とチェスタとドラン。そういえばこの3人で最初の強盗殺人放火をやったのでしたわねえ……。懐かしくってよ!
「あ、あの!ヴァイオリア様!僕もお供します!」
「あ。あなたは却下ですわ」
リタルが健気に立候補してきましたけれど、さすがにこの子を連れていくようなことはしませんわよ。ええ。
「だってあなた、貴族その人じゃありませんの。大体、あなた、どう見てもカツアゲに向いている性格には見えなくてよ」
「そ、それは……」
「大体、魔法使いはこういう所で使うと足が付きやすいじゃありませんの。今回は大人しく留守番してらっしゃいな」
リタルはしょんぼりしていますけれど、しょんぼりされたって連れていきませんわよ!どう考えてもこの子、犯罪向きじゃあありませんもの!
……クリスの『お披露目』の時も、リタルが泣きそうな顔をするからあんまり酷いことはしなかったのですわ。そうじゃなかったら全裸で広場の晒し者にした挙句自分で出したもの自分で食べさせるぐらいのことはさせてますわよ!
ま、まあ、革命軍が非人道的なことはしないという証明にもなりましたから、あれはあれで正解だったと思いますわ。ええ。
……リタルについてはどちらかというと、革命が終わった後の始末で役立ってもらうことになると思いますわ。それまではお留守番が続くでしょうけれど、そこは我慢してほしいところですわね。ええ。
さて、私達は早速、狙いに行く貴族に目星をつけ始めましたわ!
ボチボチ金を持っていそうで、被害者意識が強くてすぐ王家へ訴え出そうな、いいかんじの貴族を徹底的に探していきますわよ。
あ、ここではリタルが役立ちましたわ。最新の社交界事情を知っているのは彼だけですものね。ええ。
そうして私達は今宵の的を決めて、いよいよ王都へやって参りましたわ!
そして向かうは貴族街!高級レストランで外食したらしい貴族のボンボンを早速発見!
これ幸いということで、私達、そいつを囲みに行きますわ!
「ごきげんよう。良い夜ですわねえ。ところであなた、このあたりで黄金貨を見ませんでしたかしら?私、落としてしまったのですけれど」
突然声をかけてきた私に対して、貴族のボンボンは最初、如何にも迷惑そうな顔をしましたわ。さっさと追い払うなり、無視してやり過ごすなり、そうした手段を考えていたことは間違いありませんわね。
……けれど、私に続いて、ガタイの良い屈強な男と如何にもチンピラらしい男とが出てきたら、流石に自分が置かれた状況が分かったようですわね。
「ねえ、もう一度お伺いしますわ。私の黄金貨、見ませんでしたかしら?」
「い、いや……知らな」
「あら、すっとぼけるんじゃありませんわよ」
私は貴族のボンボンの横の壁に靴のヒールを突き立ててやりましたわ。漆喰塗りの壁はそれだけで罅を入れて、ぱらぱらと漆喰の欠片が剥がれ落ちては乾いた音を立てますわ。中々いい舞台装置でしてよ。
「あなた、持っているでしょう?お金」
「こ、これは違う。拾ったものでは……」
さて。ここで貴族のボンボンは気づくわけですわ。
黄金貨1枚と自分の命。その2つを天秤にかけている、今の状況にね!
……そうして貴族のボンボンは大人しく黄金貨を置いて逃げていきましたわ!おほほほほほほ!
それから数人、同じ要領で囲んでは優しく『お話し』して、それぞれの懐事情に見合った金額を置いていっていただきましたわ。
貴族数人をカツアゲするだけで平民の年収くらいの額は簡単に手に入ってしまうのですから、本当にボロい商売ですわねえ……。
ちなみに、私が最初に『お話し』しに行くよりも、チェスタが『ところで俺、金欠なんだけど恵んでくれねえ?いいよなあ?』と言いつつ義手に仕込まれたナイフをちらつかせる方が手っ取り早かったですし、なんならドランが武器も持たずにただ『金を出せ』と言いに行く方が手っ取り早かったですわ。私、自信を失いそうでしてよ。
夜が明ける前に王都を脱出して、王都の外れに停めておいたドラゴンに乗ってまたお山へと帰りましたわ。
明日は昼間から出歩いて、貧民達に今日の稼ぎを分け与えてやる番ですわねえ。楽しみですわ!
「お帰り。どうだった?」
「ボロ儲けですわ」
出迎えてくれたキーブに白金貨や黄金貨の他、指輪やブローチといった貴金属類までもがジャラジャラと入った袋を見せつつ、私は勝利の報告ですわ!
「明日、お金を貧民達へ分け与えに行くのはあなたとリタルに任せようかしら。見た目が良い方が好印象でしょうしね」
「僕だけじゃなくてあいつも?……まあ、いいけど」
キーブとしてはやっぱりリタルがちょっぴり気に食わないらしいのですけれど、まあ、顔面の出来で言えばこの2人がずば抜けて美少年ですもの。2人でやってもらいますわよ。
「是非お任せください!お役に立ってみせます!」
「まあ、それほど気負わないで頂戴ね。どうせ配ったものを王家の兵士が奪い返しに来るのですし」
仕事を与えられて満面の笑みのリタルでしたけれど、私の言葉を聞いて……ふと、表情を曇らせましたわ。
……そこで、リタルは言いましたの。
「……あの、ヴァイオリア様。もし王家が、今回の義賊の働きを黙認してしまったら……その、もし、配った財産を奪い返しに行かなかったとしたら、計画は上手くいかなくなるのではありませんか?」
「あら、大丈夫よ」
私、それににっこり笑って答えましたわ。
「その時は私達が兵士の鎧を着て民衆を襲えばいいだけですわ」