没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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5話「やっぱり理想は放火ですわ」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、キャロルと一緒にまたため息を吐いていますの。

「どうしましょう、これ……」

「……燃やしてしまった方がいいかもしれませんわねえ」

 大聖堂へ駆けつけた私の前に現れたキャロルは、困り顔で大きな薔薇の花束を抱えていましたのよ……。

 

「……ダクター様はこれを持ってやってきた、と?」

「はい。それから、こちらのお手紙を置いていかれました。『直接話す機会をお与えいただくために』と仰っておいででしたけれど……」

「あの野郎、花束に飽き足らず、手紙まで寄越しましたの!?」

 あれだけキッパリとフラれておいてそれでもまだ仕掛けてくるなんて、流石、馬鹿はやることが違いますわねえ!

「……何か裏があるのでしょうか?」

「本当だったらそれを考えるべきなのでしょうね。でもあいつらの所業ですから、『厚かましい馬鹿だから』だけでも説明がついてしまいますのよね」

 これで相手がクラリノ家ならまだ、多少は警戒の余地があるのですけれど……王家ですものねえ……。

「薔薇は一応、大聖堂の裏の納屋にでも飾っておくことにします」

「納屋に花を飾るとは斬新ですわねえ……」

「お手紙の方はもう少しお返事を待っていただこうと思っています。ダクター様のお考え便箋3枚分と会食のお誘いなのですけれど、あまりにも気乗りしませんから……」

 まあそうなりますわよね。幾ら考えを伝えたところでその考え自体が気に食わないものなのですから、キャロルが好意的に思う訳が無くってよ。

「ならいっそ、会食のお誘いは断っておしまいなさいな。そんな暇はない、と一喝してやれば向こうだって諦めるでしょう」

 ……ということで、キャロルの下に届いた手紙と花束については、サックリ処理されることとなりましたわ。

 これで王子が諦めればいいのですけれど……。

 

 

 

 ……キャロルがお断りの手紙を書いた翌々日、またしても王家の馬車がエルゼマリンの大聖堂へやってきましたわ。

 乗ってきたのは当然のようにダクター様。本当に懲りませんわねえ……。呆れながら、聖騎士達が適当に追い返していましたわ。

 更に翌日も来ましたし、何なら大聖堂から追い出されたダクター様はエルゼマリンの宿をとって、エルゼマリンに宿泊し始めましたのよ。

 これは……厄介なことになりましたわね!

 

 

 

「どうしましょう、相手に欠片も好意を感じないのに会食の誘いを受けるかどうかをここまで悩む羽目になるなんて……」

「ええ、私も予想していませんでしたわ……」

 ダクター様の粘り強さというかしつこさというかを甘く見ていたようですわね。まさかエルゼマリンに滞在し始めるとは思っていませんでしたわ。

 このままエルゼマリンに住み着かれると何かと厄介ですのよね。私達のアジトはまあエルゼマリンにあるわけですし、キャロルの大聖堂もエルゼマリンにあるわけですし。

 ……これ、本当に狙いはキャロルなのかしら?

 流石にちょっと疑い始めてきましたわよ?

 

 流石に、キャロルに嫌われているという自覚はあるでしょうね。いくら箱入り王子のダクター様でも。というよりは、人の心の機微に疎い奴から死んでいく貴族社会のてっぺんの王家に属する方ですもの。流石にこのくらいは分かって然るべきでしてよ。

 ですから、これ以上やってもキャロルの好感を得られることは無いと、ダクター様は分かっているはずなのですわ。多分。流石に。きっと。

 その上でまだキャロルに誘いをかけている、となると、最早これはキャロルの好感が目当てではない、ということになるのではないかしら?

 これしか望みが無いからしつこくも諦めきれずにキャロルへ猛攻を仕掛けているのだとしても流石に限度というものがあると思いますの。今の王家の状況を考えるなら、キャロルを狙って駄目だったならさっさと次の案を考えて実行しないと間に合わないわけですし。

 ……となると、ダクター様は何が狙いでキャロルに誘いをかけ続けているのかしら?

 これ、目的が会食自体にあると考えた方がまだ、納得がいきますのよね。

 キャロルを会食に呼び出すこと自体が王家の利益になる、という状況は……一体何かしら?

 

 

 

 考えに考えて夜が明けましたわ。そして翌日もまた、ダクター様はキャロルへのお誘いの手紙をもって大聖堂へやってきたのですわ。

 ……ここで私、考えましたわ。

 この誘い、受けてしまった方がいいのではないかしら、と。

 

 

 

 まず、私、城を大砲で全部壊して勝つのはあんまり美しくないと思っていますのよ。

 ええ。突然ですけれど、これは前から考えていたことですわ。

 お兄様が現在、大砲を用意してくださっていますけれど……これで集中砲撃して城を破壊した、となると、王家の者達がうっかり逃げ出しても捕まえにくいんですのよね。

 それから何より……私!あの城は焼きたいんですの!私の家に火を着けた連中の家に!火を!つけてやりたいんですのよッ!

 ……ということになりますと、まあ、色々と条件がありますのよね。

 まず、あの大きな城を焼くとなったら最初に宝物庫の中身は頂いておきたいですわ。城の宝物庫ですもの。焼くには勿体ないものが沢山あると思いますのよね。

 次に、純粋に焼くための準備が必要ですわ。油かしら、火薬かしら。まあ、そういったものを城の中に仕掛けなければならないのですわよね。きっと中々に骨ですわ。

 ……そして、いざ火をつけるとなった時、城は既にほとんどもぬけの殻となっていた方がやりやすいのですわ。兵士達に抵抗されると面倒ですし、王家の連中を取り逃がすのは癪ですから、彼らもきっちり捕まえた上で着火したいところですわね。

 さて。

 そう考えていったとき……私の勝利の道筋はおのずと見えてきますわ。

 まず、城内を制圧する。兵士達は各個撃破で何とかしたいところですわね。

 次に、王家の連中を捕らえる。こちらは空間鞄さえあればどうとでもなりますわ。

 続いて、宝物庫の中身などを適当に頂きつつ、油や火薬を仕掛けて……。

 ……最後に着火!ですわ!

 城が燃え上がる瞬間こそが革命軍の勝利の瞬間となるのでしょうから、派手にやりたいところですわね。何ならその時に大砲を使ってみてもいいかもしれませんわ。砲撃音と破壊の衝撃と天をも焼く炎の芸術。考えただけで素晴らしいですわねえ……早く焼きたいですわぁ……。

 

 と、考えると、できることは早めに進めてしまいたいのですわ。

 まずは城内の様子を確認しておきたいですし、もし可能ならば、今のうちに兵士を減らしておきたくもありますわね。

 盛大に花火を打ち上げるためには綿密な準備が欠かせませんわ。私の復讐の最後を彩る花火ですもの。絶対に失敗したくありませんの。

 でも、そんな準備をどうやって進めるか、という問題が残りますわね?

 ……そこでキャロルですわ。

 キャロルへの会食のお誘い、受けてしまえばよいのですわ!

 だって、キャロルの会食、という名目があれば、聖騎士の恰好をした私達は城に入り込み放題ですのよ!

 そこでちょいと王家の兵士を鞄に詰めたり、城内の地図を作ってみたりすれば、それだけでこの後が楽になりますわ!

 

 それに……私、王家の考えが、読めましたのよ。

 

 

 

 そうして翌日、キャロルは『いい加減しつこいので今回を最後にすることを条件に会食に応じます』という返事を出しましたわ。これで喜ぶ王家の連中を考えると何とも哀れですわねえ……。

 ……さて、今回、聖騎士に扮するのは私とドランとチェスタ。いつものカツアゲメンバーですわ。

 そして、ドランのガタイの良さを誤魔化すため、奴隷達の中からタッパのある奴らを適当に選出して聖騎士にすることにしましたわ!

 更についでに、クリスも今回は連れていくことにしましたの。勿論、一欠片たりとも情報を出してはいけない、と命令してありますから、連れていくのに心配は無くってよ。活用すべき箇所できっちり活用していきますわよ!

「こんな物騒な会食の準備、俺は初めて見たぜ」

「だろうな」

 ……ちょいと張り切って準備していたら、いつの間にかキャロル護衛隊どころではなく、『これから王家を攻め落とします!』とでもいうような兵団ができてしまいましたわ。でも折角ですからキャロルにはこの兵団をガッツリ連れて会食に臨んでもらいましょう。ああ、聖騎士の兵団を見た時の王家の連中の顔を想像するだけで楽しくなって参りましてよ!

「くっ……王家への攻撃に参加させられるなんて……神よ、どうぞお許しください。そしてどうか、王家に祝福を」

 クリスが何ともいじらしいことを言っていますけれど、その神の代弁者たる大聖堂はこっち側ですのよ?そこんとこ分かってますの?

「ヴァイオリア様!僕を連れていっては頂けないのですか!?」

「お前と僕は留守番。何度言ったら分かるんだよ」

 そしてリタルとキーブは今日もお留守番ですわ。魔法で戦いやすい戦場になるとは思えませんし、魔法は足が付きやすいですしね。

「ま、気を付けていってらっしゃい。お嬢さんのことだから心配要らないだろうとは思うんだけどね」

「ええ。抜かりなくやって参りますわ」

 ジョヴァンに苦笑交じりに見送られて、私達は王城へ向けて進軍を開始いたしましたのよ。

 

 ええ。存分に気を付けていきますわ。

 彼らの狙いはきっと、変わらずキャロルですもの。

 

 ……キャロルを捕らえることこそが、今回の王家の目的でしょうから。

 

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