没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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6話「詰めましたわ」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、キャロルの親衛隊として集まった100もの聖騎士(……の恰好をした奴隷やその他大勢)と一緒に、王城の門の前におりますの。

 

 王家としては衝撃でしょうね。『聖女を会食に招いたと思ったら、聖騎士の群れがついてきた』。そういうかんじだと思いますわ。

 私、これが過剰防衛だとは思わなくってよ。

 王家の狙いは間違いなく、キャロルその人ですもの。

 

 

 

 ダクター様のしつこい誘いも、急に大聖堂へ舵を切ってきた王家の挙動も、これで説明がつきますわ。

『聖女キャロルを捕らえること』。王家の狙いはこれでしてよ。

 

 キャロルを捕らえて軟禁しつつ、ダクター様との婚姻を迫るやり方もあるでしょうし、そうでなければ聖女キャロルを『事故死』させてから大聖堂を乗っ取るということもできますわね。

 ……流石に王家だって、第一案が駄目なら第二案くらいは出してくるでしょう。キャロルを落とせないなら、キャロルの首を落としてしまえ、くらいのことは考えてくるはずですわ。

 キャロル自身が人心を集めているのが現状ではありますけれど、キャロルが死んで残った大聖堂にもそれなりの力が残るでしょうし……第一、キャロルが死ねば『中立だった大聖堂がいよいよ革命軍側につく』という、王家にとって最悪の事態を避けられますわね。

 ええ。ですから私、今回の会食の誘いはそのまま、キャロルを王城に誘い込んで好きにするための誘導だと見ましたのよ。

 ……その結果がこの聖騎士軍団でしてよーッ!

 出迎えのダクター様も、恐らくバルコニーからこの様子を見ているであろう国王他、王家の連中も!目ン玉ひん剥いて驚けばいいのですわーッ!

 

 

 

「……これは、一体」

「お気になさらず。護衛です」

 流石にダクター様は目ン玉ひん剥くようなことはありませんでしたけれど、それでも十分に驚いた様子が見られますわね。ええ。驚くでしょうとも。存分に驚きなさいな!

「一体、何人の聖騎士を……」

「見ての通りの数です」

 キャロルは優秀ですから、聖騎士軍団の正確な数なんて教えませんわよ。教えたら相手が対抗するための準備の手助けをしてしまいますものね。ええ。精々頑張って聖騎士達を数えていればいいのですわ!

「お食事の会場は前回と同じお部屋ですか?なら、彼らの半分は収まるかと思います。残り半分は部屋の外や窓の外で待機させておきたいのですが、よろしいですか?」

 早速、キャロルがそう申し出ると、流石のダクター様も表情が引き攣りましたわね。ずらっと50余りの聖騎士が並んで自分達を見守る会食の様子を考えて、胃でも痛めているのかもしれませんわ。おほほほほ。

「……我々は随分と警戒されているのですね」

「そうでしょうか?勿論、護衛の同席が許されないということならそれは仕方ありません。そちらでご判断ください。私達はあくまでも招かれた側ですから」

 キャロルがそう控えめな申し出をすると、ダクター様は幾分ほっとした様子でしたけれど……。

「けれど、もし護衛を連れていけないということでしたら、『王家は聖女に護衛を連れてこられては困る』という風に解釈いたします」

 ……続いたキャロルの言葉に、いよいよ胃が痛そうな顔をしましたわ。

 ええ。キャロルは暗に、『信用を勝ち得たいのならばこちらの要求を呑め』と言っているのですもの。お上品でお淑やかなキャロルから見事な脅しが出てくるのですから、ダクター様としてもやりづらいでしょうねえ。

「……分かりました。そちらのご希望には可能な限り応えたいと考えています。王家と大聖堂の友好の為にも」

 ダクター様はそう言って……1人、王城の中へと戻っていきましたわ。

「確認をとって参りますので、しばしお待ちを」

 要は、問題の先送り、ですわね!

 

 

 

 ……さて。ここでひたすら待ち続けるのって馬鹿げていますわ。王家の都合で生まれた待ち時間をただ大人しく待って過ごしてやる義理はありませんわね!

 ということで私、キャロルとキャロルの傍に仕えているドランとに確認をとってから……そっと、その場を離れることにしましたわ。

 目的は1つ。

 城内の兵士を適当に鞄に詰めることですわ!

 

 

 

 とりあえず、最初に兵士を1人捕まえましたわ。適当にほっつき歩いている方が悪くってよ。

 さて、捕まえた兵士は早速ひん剥いて、鎧を手に入れましたわ。その鎧をもって、私はさっと物陰に移動。そこでさっさと王家の兵士の鎧に着替えましてよ!

 これで私が場内を歩いていてもある程度は誤魔化せますわね。誤魔化せなくなったら適当に鞄からドラゴンを出して逃げますわ。ドラゴンを鞄に入れておくと、窓から出れば……何なら、テラスか何かがあればそれだけでいくらでも逃げられてとっても便利ですわよ。

 さて。

 王家の兵士に扮した私が最初に向かうのは、兵士が多そうな場所……ではなくて、逆でしてよ。

 兵士が少なそうなところを狙っていきますわ。

 ……流石の私でも、複数人の兵士を同時に相手にして、1人も逃がさずに鞄に詰める自信は無くってよ。

 私の空間鞄は違法改造した代物ですし、できれば奥の手として伏せておきたいところですわね。それに何よりも、兵士が攫われているという事実はできるだけバレない方が事を進めやすくってよろしいのですわ!

 

 最初に向かったのは、人気のない廊下。城の裏側……物置や倉庫、古い資料室などがある部屋ですわね。まあ当然、利用する人はほとんどいませんわ。けれど、見張りの兵士は一応、といった様子で立っていますわね。

 ということでその兵士を早速鞄の中にしまっておきましたわ!

 これで1人目!案外あっさりと捕まえられて幸先が良くってよ!この調子でガンガン兵士を集めていきますわ!

 

 

 

 次に障害物の多い中庭へ出て、そこで沢山の兵士達を集めましたわ。

 要所要所には当然のように兵士が立っていましたから、生垣の陰から飛び出て襲い掛かりつつそいつらを鞄に詰め。

 中庭の中心の方では外に出したテーブルセットでお茶を楽しむどこぞの貴婦人らしい2人とその護衛達が居ましたから、物音を立てて護衛をおびき寄せておいてから護衛を詰め、更に貴婦人2人も詰め。

 中庭の目立たない一角で他の迷惑にならないように、かつ自主的に訓練していたらしい兵士2人の間に割って入りつつ詰め。

 ……中庭だけでも数人の兵士を捕まえることができましたわ。

 

 更に城の裏手に回りましたわ。

 そこで中庭同様、鍛錬に励んでいた真面目な兵士を見つけては詰め。

 使用人や城の仕入れの業者が通る裏門を見張っている兵士達も詰め。丁度その兵士達の交代に来た兵士達も詰め。

 休暇中だったらしく町に下りて遊んで帰ってきたらしい兵士が門番の居ない裏門を不審がっているのを見つけてそいつらも詰め。

 更に、こちらは勤務中でしょうに城のメイドと仲睦まじくやっていた兵士もメイド共々詰め。

 ……大分集まりましたわ。待ち時間の間だけ、と思ってそれほど時間は掛けませんでしたけれど、それでも20人弱の兵士が集まりましたわ。

 人攫いがこんなに簡単でいいのかしら!これだけサクサク集まってしまうと、人って何なのか分からなくなりますわね!まあこいつら大体全部まとめて奴隷にしますけれど!おほほほほほ!

 

 

 

 その後の私は兵士達の詰め所の近くの廊下の曲がり角に張って、詰め所を出てきた兵士が廊下を曲がってきたのを詰め、またやってきたのを詰め、とやって過ごしましたわ。

 ……そうこうしている間に、城の表の方が騒がしくなりましたわね。ええ。具体的には100余りの聖騎士の鎧がぶつかり合う重々しい音で騒がしいですわ。

 ということは、キャロルとその護衛達の入場が認められた、という訳ですのね。

 恐らくは数を減らして、20かそこら……どんなに譲歩したとしても40くらいの聖騎士の数で入場せよということにしたと思いますけれどね。流石の王家だって、自分達の兵ではない兵士を100人も無抵抗に受け入れないと思いますわ。

 でもそれで十分でしてよ。城への入場を許可されなかった聖騎士達は城の入り口に物々しく立っていてくれるわけですし、或いは適当に城外を散策していてくれるわけですし。それだけで王家の評判を下げられますからとってもお得ですわ。

 

 ……さて。

 キャロル達が食堂へと入っていったのを聞きながら、私は王家の兵士達の詰め所へしれっと入っていくことにしますわ。

 もし、ダクター様が城の兵士達でキャロルを害そうとしているなら、ここに兵士が揃って待機しているはず。そうでなかったなら……。

 ……私は詰め所にしれっと入って、そこに待機していた兵士達がおろおろしているのを見ましたわ。ついでに堂々とかつ忙しない動作で詰め所の中を進みつつ、奥の掲示板に貼ってあった予定表を確認するそぶりを見せつつ……兵士達の間で囁き交わされる言葉も聞いて、それからまた堂々と詰め所の中を戻って……やっぱりしれっと詰め所を出ましたわ!

 

 得られた情報はこれで十分ですわね。

 まず、兵士達の様子を見る限り、兵士達は『聖女キャロルの会食が始まったら食堂を制圧し、聖女キャロルを捕らえるように』というような指示を受けていたのでしょうね。

 けれど、直前になって『やっぱり無し』というような指示が出てきたのでしょう。恐らく、ダクター様が『確認をとって参りますので』と言って城の中へ入っていってからキャロルを招き入れるまでの間にそれらの指示が新たに出されたのでしょう。

 兵士達は直前の指示変更に大混乱。きっと『とりあえず中止だが何があっても対応できるように待機しておけ』みたいな指示も出ていますのね。詰め所の掲示板に張ってあった予定表には、『緊急事態につき警邏と警備以外の全兵は待機!』というような文言が書き加えられていましたし。

 お陰で、数名の兵士が行方不明になっていることは大きな問題になっていませんでしたわ。『あいつが居ないけれど緊急の用事でどこかに動員されているんだろう』くらいの認識のようですわね。ごたついている城内だからこそ、行方不明者はすぐには明らかにならないのですわ!聖騎士を100人余りも連れてきた甲斐がありましたわね!

 

 

 

 さて。

 それはいいんですのよ。

 兵士が動けないのはいいんですの。

 けれど、兵士を動かすのを躊躇ったからと言って、王家がキャロルを諦めるとも思えませんわ。

 きっと、すぐさま別の手段に切り替えたんだと思いますのよ。

 例えば、毒殺ですとか。

 

 まあ大丈夫だと思いますわ。キャロルには毒見役をちゃんとつけてありますもの。おほほほほ。

 ……ええ!その為のクリスですわ!

 

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