ごごごごきげんよう!ヴァイオリアよ!
やってしまいましたわ!うっかりいつの間にか王女2人を拉致してきてしまっていましたわ!
これ、一体いつの間に……あっ!あれですわ!中庭でお茶会していた貴婦人2人!あれが王女だったんですわ!もっとよく確認してから詰めてくればよかったですわね!
王女2人をここで連れて帰ってきてしまったということは、今、王家に真っ向から喧嘩を売ってしまっている、ということになりますわね。
私にとっては運の悪いことに、今の王家は聖女キャロル暗殺未遂事件の言い訳探しに必死ですから……王女2人が攫われた、ということが発覚し次第、『犯人は騒動を起こして王女を誘拐することが目的だったのだ』とか何とかでっち上げられそうですわね!めっちゃ腹立ちますわー!
……何なら、ダクター様をキャロル共々殺そうとしていた王家ですもの。王女2人は切り捨てるかもしれませんわね。となると、王家は『王女2人の弔い合戦』ということで出兵してくるのかしら?いえ、出兵したところで勝てないということは分かっているでしょうから、他からの同情票を集める材料にするかしら?
少なくとも大聖堂にはこのことを言ってくるでしょうねえ……。博愛のキャロルですから、王女2人が誘拐されたとなれば、流石にその上で王家を蹴り飛ばすことはできなくってよ。一応、表面上だけでも王家に同情しなければならないですし、王女捜索のための出兵を要請されたら断れない、でしょうねえ……。
か、考えれば考える程面倒ですわ!うっかりこんなもん攫ってくるもんじゃーありませんわね!
どうしようかしら!こいつらどうしようかしら!
……とりあえず第5王女と第8王女を前にしていつまでもグダグダ言っていられませんから、とっとと2人とも奴隷にしますわ。
後で解放するにしても何にしても、とりあえず脱走防止や行動の制限のために一度、奴隷にしておいた方が安全ですわ!
「大人しくしてな。その綺麗な肌に消えない傷が付くのが嫌ならね」
「ひっ……」
……サキ様の凛々しい脅しによって、王女2人は見事に委縮。奴隷の首輪を掛けられると分かっていながらも、顔の横に錆びたナイフをちらつかされれば流石にビビって抵抗できないようですわ。
人間ってやっぱり本能で生きるものですから、『ここで痛い目を見てでも逃げなくてはもっと痛い目に遭う』って分かっていても、動けませんのよねえ……。
「……っと、よし。終わったよ」
「どうもありがとうございます。こちら、お代ですわ」
サキ様に代金を払いつつ、私は早速、アッサリ奴隷落ちした王女2人の前に立ちましたわ。
第5王女は私より年上。第8王女は年下ですわね。2人で仲睦まじくお茶をしていたばっかりにこんな目に遭って、本当に可哀相ですこと。ついでにこんなん持って帰ってきてしまった私も可哀相ですわぁ……。
「わ、私達をどうするつもりですか!」
「どうか、妹だけは見逃して……」
恐怖に震える王女2人を見つつ、正直なところ『どうするかなんて私が聞きたいですわよ』と言いたいところなのですけれど、それを言ってしまっては興ざめですものね。私、にっこり笑って答えますわ。
「大丈夫。悪いようにはしませんわよ。ええ」
私の言葉を信じるか信じないかは彼女ら次第ですし、私の言葉が本当か嘘かは今後次第でしてよッ!
「どうしましょうねえ……」
……この厄介ごとが嫌だからこそ、ダクター様はわざわざ生かしてきたのに!なのに、うっかり王女を拾ってきてしまうなんて!本当にどうしたものかしらね!
「良いんじゃねーの?適当に売れば」
「あなたは思考が単純で素晴らしいですわねぇ……」
チェスタに意見を聞こうとした私が馬鹿でしたわ……。
「んー、まあ、それも悪くはないかもよ?さっさと市場に流しちまえば面倒は減るでしょ」
「それだとただ拾ってきてただ帰しただけになってしまいますわ!ちょっぴり王家が出費して、ちょっぴり私達が儲けるだけじゃありませんの!」
ジョヴァンの言い分も分かりますけれど、折角攫ってきたのですから、ちゃんと使っていきたいところですわね!
「……何なら、今すぐ城に帰してもいいんじゃあないのか」
「それはできませんのよ。だってこいつら城に帰したら、私のことを話すんじゃあないかしら?そのあたりを魔法で封じたとしても、絶対にどこかでボロが出る気がしますのよねえ……」
というか、この手口がまるっきりスコーラ王女の時と同じだから困っているのですわ!
フォーン・タート・ホーンボーンやスコーラ王女の奴隷落ち騒動が私の仕業だっていうことは流石に分かっているでしょうし、となると、今回の王城での騒動は王家と大聖堂だけの騒ぎではなく、『諸悪の根源ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』が起こした騒ぎということにされかねませんのよ!いえその通りなのですけれど!大正解なのですけれど!
「ですから、王女2人を王家に帰す時があるとすれば、死体になって帰ってもらう時ですわねえ……」
「容赦ねえなー」
仕方ありませんわ。そこらへんは王家に生まれてしまった者がこの期に及んで王城に居座っていたせいだと思って割り切って頂くしかありませんわね。
……さて。
王女はいずれ、死体にして王家に帰すか、はたまたこちらで奴隷として働かせるか、といったところですけれど……王女を攫ってしまったことによって起こるであろう諸問題にはどう対応していこうかしら?
まず、王女2人の処遇について。
これは、まあ……持って帰ってきてしまったものは仕方なくってよ。有効利用しましょう。
具体的には、今回、王城に潜入して仕入れきれなかった情報を王女2人に吐かせますわ。
宝物庫の場所ですとか、今のところの王家の動きですとか。そこらへんなら王女に聞けば分かるでしょうしね。おほほほほ。
次に、王家が同情票集めに走るであろうことの対策。
諸貴族についてはもうどうでもいいですわ。あいつらは同情票ではもう動かせませんから。だって、貴族ですのよ?損得勘定でしか動かないに決まっていますわ!
……逆に、民衆の中に、これで王家派になる奴らが居そうで困りますわねえ……。第5王女と第8王女はその美貌と優しさで人気を博しておりましたもの。まあ、その美貌はともかくとして、その優しさは搾った税金を目に見える形で少々ばら撒いたというだけのことなのですけれど……。
でも、愚民共にはそんな理屈は分かりませんものね。優しい王女様が攫われたとなれば……ましてや、その犯人が革命軍であるなどと言われたら、少々こちらの心象が悪くなりますわ!
そうなると、今はともかく、王家を皆殺しにした後のこの国の治安に関わってきますのよねえ……。今後のことを考えると、革命軍はあくまでも正義の使徒でありたいところですわ。
……なら。
王女達については……2人の株を落としてやればよいのですわね!
『ああこいつらならたとえ革命軍に惨殺されたとしてもしょうがないね』と民衆が納得するような王女2人の姿を、民衆に見せてやればいいのですわ!
そして……大聖堂の動かし方ですわね。
王女2人の救出、という名目で出兵させられることは間違いありませんけれど……その時、大聖堂は……ええと……。
……もうどうでもよくってよ!ええ、もう考えるのが面倒になりましたわ!取り繕ってやる意味なんてもうありませんわね!
大聖堂は中立の立場をかなぐり捨てて、反王家の立場をとることにしましょう!
ええ、そうしましょう!多少、大聖堂という宗教施設には似つかわしくない過激なやり方となってしまいますけれど、構いませんわ!聖女が民衆を率いて正義のために戦うのなら、その美しさに諸々の細かい問題は全て吹き飛ばされて消えることでしょう!民衆だって納得するはずでしてよ!
大聖堂が『王家が悪!今こそ革命軍と共にこの腐った王家を焼き払うべき!』と宣言してくれれば、その時点で神の御意志はこちらのもんですわ。
正義は我らにあり!神も我らと共に在り!完璧!ですわ!
……ということで、早速作業に取り掛かって参りましょう。
「さあチェスタ!あなたの薬中人生が役に立つ時が来ましたわよ!」
「嬉しいような嬉しくねえような微妙な気分だなぁ……」
ここで呼んできたのはチェスタですわ!
……私って、毒物に関してはここに居る誰よりも知識がある自信がありますわ。私自身が毒物の標本箱みたいなものですし、それはそれはもう、自信がありますのよ。ええ。
けれど……それが『薬』のことになると、少々、自信がありませんわね。
私が薬の類を嗜み始めたのって、完ッ全に毒耐性が付いてしまってからでしたの。『もしかして私、毒だけでなく薬も効かないんじゃないかしら!?』と思って飲んでみたら大当たり、薬を飲んでも全くラリらない令嬢が出来上がっていたことに後から気づいた、というくらいの話なのですわ。
ですから……まあ、薬を嗜んだ、とは言っても、その効果は碌に体験していませんの。どの薬がどういう効き目なのかもよく分かっていませんのよねぇ……。
「さあチェスタ。できるだけ気性を荒く、攻撃的にする薬は無いかしら?ついでに下品で見苦しくなってくれれば最高なのですけれど」
「攻撃的ぃ?んー……あー、それならアレ良いんじゃね?ほら、変なスライムから採る奴。名前忘れたけど」
「ああ、フツフツスライムから採れる奴ですわね?でもダメですわ。あれってほとんど持続性も無ければ効果も弱いですもの」
フツフツスライムの粘液は、沸々と怒りと活力を湧き上がらせる効果があるものですのよ。ですから気付け薬や興奮剤に使われることもありますけれど……まあ、基本的に無毒な代物ですしねえ……。
「じゃああれは?燃えてるっぽい葉っぱの奴」
「バーサクミカンの葉ですの?うーん、あれは理性が同時に吹っ飛びすぎますのよねえ……できれば、理性的に、人格はそのままで、それでいて攻撃性が増すような奴がいいんですのよ」
バーサクミカンはその実こそ食用のもので、辛みと酸味の合わさった味とエキゾチックな香りとで調理用に人気がありますけれど……その葉は、まあ、効きすぎる興奮剤、と言いますか……かつての狂戦士はバーサクミカンの葉をモッシャモッシャ食べて戦いに挑んだと聞いていますわ。ええ。そういう奴ですのよ。
「注文多いなぁ、おい」
薬中に出番があるだけ良いと思ってくださいまし!
そのままチェスタはしばらく考えていましたけれど、その内答えを出してくれましたわ。
「……だったらアレじゃね?ドラゴンの心臓」
「それって薬(ヤク)じゃなくて薬(くすり)なんじゃあありませんこと?」
「俺はアレ、ラリるために使ったことねえけどさぁ。でも薬仲間に聞いた話だとアレ、すげえらしいじゃん」
「聞いたこと無くってよ」
ドラゴンの心臓、というのは、まあ……それ自体の薬効と魔法的な効果が合わさった、天然のお薬ですの。
生命力や筋力を一時的に上げることの他、勇猛果敢に戦えるようになるですとか、恐れ知らずになれるですとか……まあ、いい効果が沢山ありますのよね。
昔から、英雄がここぞという戦いの際にはドラゴンの心臓の日干しを粉にしたものを飲んだり、或いはドラゴンの心臓を漬け込んだ酒を飲んだりしていたそうですわ。
……そして何よりも大切な効果がありますの。
それは『全能感』ですわ。
……これ、とってもいい効果ですのよ。自信たっぷりに先導されれば配下だって付いていく気になりますし、傲慢な振る舞いだって、能力の裏付けであると思わせれば勝ちですわ。そして何より、実際にドラゴンの心臓の効果で力がマシマシになりますもの。『有能なカリスマ先導者』になるにはぴったりの薬ですわね。
「全能感?っていうの?それですげえトぶって」
「薬中ってよっぽど節操無しなんですの……?」
ドラゴンの心臓なんて安いもんじゃあないでしょうに、わざわざ試すだなんて……よっぽど、物好きなんですのねえ……。
……と、思ったのですけれど。
「いや、だからさ、ただドラゴンの心臓使うんじゃねえって。合わせるんだよ」
合わせる?……というと……?
「葉っぱとか、何ならお前の『ミスティックルビー』とかと。最高だって聞くぜ」
……成程。それは盲点でしたわね。
ドラゴンの心臓から来る全能感にミスティックルビーの幸福感が合わされば、確かにトぶ、かもしれませんわ。流石は薬中。着眼点が素晴らしいですわね!
「ということは、ドラゴンの心臓で気を大きくさせておいて、そこにちょいとフツフツスライムの粘液か何かを入れてやって……ついでに更に少々、バーサクミカンの葉も入れてみたら……」
「すげえのできそうだなあ」
これですわ!これでいきますわ!
「ということで決まりましたわ。あなた達お2人にはお城へ帰って頂きますわ。勿論、死体で、という訳ではありませんわよ」
早速、王城の情報を吐かせに吐かせた後、王女2人にそう報告しましたわ。
攫っておいてちゃんとお家へ帰してあげるなんて、本当に親切ですわね!私ったら!まあ多少は情報を吐かせるために酷い目に遭ってもらいましたけれど、そんなん誤差ですわ!誤差!
「あなた達2人にはばら撒かれて困る情報なんて何も渡していませんもの。その可愛いお口で革命軍の悪口を言い募ったところで、今更誰も聞きやしないでしょうし」
王家が革命軍と対立していることは明らかですから、王家の人間が革命軍の悪口を言ったところでそもそも信憑性が薄いんですのよね。
……ましてや、そいつが中途半端に自信満々で傲慢な、嫌な奴らなら尚更ですわ。
「ということで、一応、睡眠薬を飲んでいただきましょうか。これを飲んだら帰してあげますわ。目が覚める頃には王城の前ですわよ」
私はそう言って、王女達に睡眠薬の粉薬と、お茶の入ったカップを差し出しましたわ!
ちなみに粉薬の方はドラゴンの心臓の粉末ですし、お茶の方はフツフツスライムの粘液とバーサクミカンの葉で淹れたお茶ですのよ。これじゃあ絶対に眠りませんわね。おほほほほほ。