「お嬢さん、落ち着いて」
「これが落ち着いていられますのー!?」
だってあの王子、失踪したって!失踪したっていうことは、行方が分からないということなんじゃーなくって!?
ということは!私が!直々に!ぶち殺せなくなってしまったかもしれないということですわーッ!
一体全体何のために!私が!わざわざ城で助けてやったと思っているんですの!?勿論殺すためですわ!殺す前に死ぬなんて、ましてや消えるなんて!
絶対に!許せませんわァーッ!
「まだ失踪と決まったわけじゃあないのよ、お嬢さん」
ということで一頻りダクター様への殺意を高めたところで面子を集めて、改めて、ジョヴァンから詳しい説明が入りましたわ。
「今回、なんで王子様の失踪なんて話が出たかって言うと、そう王家が発表したからなのよ」
「王家が発表?どういうことですの、それ」
「分かんないね。本当に失踪したなら秘密裏に探しそうな気もするし、或いは本当に王子が消えた可能性もあるし」
うーん……こればっかりはちょっと分からないですわねえ。
いえ、ダクター様側には失踪する動機が十分にあるんですのよ。だって彼、キャロルと聖騎士達と一緒に殺されかけているのですもの。流石に国王までもが自分を殺す作戦に同意したと知ったら、城から飛び出しもするでしょうねえ……。
「ちなみに俺は、王子は『消えた』んじゃなくて『消された』んだと思ってるの」
……更にジョヴァンの言う通り、今回の『失踪』についてはこっちの見方もありますのよ。
要は、『王家がダクター様を諸々の口封じに殺しておいて、殺しを隠蔽するために、殺した王子は失踪したことにした』ということですわね。
これも十分にありそうなんですのよねえ……。何と言っても王家、とっておきの大作戦に大失敗していますもの。
キャロルを殺して大聖堂を奪う、なんてこともできず、更に関係者の口封じもできていない。これって王家にとっては本当にどうしようもない状況ですのよね。
……いえ、よくよく考えたらそうでもありませんでしたわ。
なんというか、王家は……もう評判は地に落ちきっていますから、これ以上、評判が下がることを気にしなくてもいいんですのよねえ……。
私が考えてみても、王家が選べる選択肢はもう残っていませんのよ。
大聖堂を懐柔して味方に引き入れて革命軍を迎え撃つ、という策は、キャロルを殺そうとしたことで不可能になりましたわ。
キャロルを殺して大聖堂を奪い取る、という策は、キャロルを殺し損ねたことで不可能になりましたわ。
……となると、王家ってもう、革命軍に対抗する手段がありませんのよねえ。精々、フルーティエ家から銃が伝わっていればそれで、といった程度かしら?でも、第5王女と第8王女から聞いた話の中に、銃や大砲のことは一切出てきませんでしたのよね。
なら王家はいよいよ、『亡命』か『逃亡』、もしくは『降伏』といった最後の手段しか選べない状況になっていると言えますわね。ええ。
……その状況で、わざわざ、ダクター様が失踪した、なんて一々言う必要があるかしら……?
「王家からの発表って、ダクター様が失踪したという事実だけですの?」
「いーや?保護してくれたら褒賞金を出す、って話だったね」
う、うーん……?となると、王家はダクター様を探させたいのかしら?でもその褒賞金とやらについても、『ダクター様がもうこの世に居ない』ということを隠すための情報かもしれませんし……。
ダクター様と王家が今更協力関係になるのは厳しい気がしますわ。殺そうとした相手と仲良くするって、相当厳しくってよ。少なくともダクター様は身の危険を感じるでしょうし……ですから、『ダクター様を城に隠して、王家が偽の情報を流す』なんてことはないはずですし、『ダクター様だけ先に亡命させて、王家がそれに合わせた情報を出してダクター様の行方を分かりにくくした』ということも無いと思いますのよねえ……。
まさか、ダクター様が本当に失踪していて、王家は一応体面のためにお触れと報奨金を出した、ということは無いでしょう。あまりにも楽観的ですわね、それは。
……と、なると。
「それ、もう王子は死んでるんじゃねえの?」
「なんかその可能性が高い気がしてきましたわぁ……」
ええ!いよいよ、ダクター様が死んだ可能性が高いですわ!
ああ、なんてこと……ダクター様が死んでしまうなんて……。私、今まで一体何のために頑張ってきたんですの?
当然、彼を含めたいけ好かない連中を皆殺しにするためでしたのよ?なのに、ダクター様が死んでしまったなら、『皆殺し』ができないじゃーありませんの!
ああ、こんなことになるくらいなら、城で助けたあの時に殺しておくんでしたわ……。もっといい殺し方をしたくて、欲張り過ぎましたわ……。
「あ、あの……ヴァイオリア様、どうか元気を出してください」
「元気出ないですわぁ……」
「嫌いな奴が死んでたってくらいでそんなに落ち込む?」
「落ち込みますわぁ……」
「いいじゃん。どーせ殺すつもりだったんだろ?死んで手間が省けたじゃねえか」
「私が殺したかったのですわー!」
そうですわぁ、私が、私が殺したかったのですわ!ダクター様に火を着けて燃やそうか、崖に括り付けて鳥に食べさせようか、錘をつけて海に沈めようか、とワクワクしながら考えていましたのに!それらの案、全部棄却ですわ!あんまりですわー!
「まあ、死んじまったもんはしょーがない。うん。考えようによっちゃあ、王家を引っ掻き回したお嬢さんのせいで王子様が殺されたって考えることもできる。ほらお嬢さん、物は考え様、よ」
「……肉親に裏切られて死んだなら、決していい死に方ではないだろう。そう思って諦めろ」
「何、まだダクターが死んだと決まったわけではあるまい。どこかで生きていると希望し、今は前へ進むのだ」
……でも、そうですわね。ええ。落ち込んでいても仕方がありませんわ。
私はダクター様の死という悲しみに背を向けて、ちゃんと前に進まなくてはなりませんわね。ええ。
ですから私、決めましたわ。
「この悲しみと悔しさを晴らすためには、王城を燃やすしかありませんわ」
燃やしますわよ!
自分のご機嫌は自分でとらなければなりませんわ。
悲しいことがあったなら、楽しいことをすればいいのですわ。
ですから私、いよいよ城を燃やしますわ!
「ようやくか。長かったな」
「すぐに燃やしたら色々と禍根が残りそうでしたしねえ……」
すぐさま城を燃やさなかったのは、1つには考える時間が欲しかったからですわ。
城を燃やすにも、色々と様式美というものがありますでしょう?ですから、どのように城を燃やすのか、じっくり考えたかったのですわ。
でもそれも大体は考えがまとまりましたし、後は実行に移すだけですわね。
そして……すぐに城を燃やせなかったのは、王家に逃げ場を与えたくなかったからですの。……いえ、逃げ場、というよりは、『言い訳』かしら?
完膚なきまでに叩きのめしてから燃やしたかったんですの。私のような悪党が正義だ悪だと騒ぐのはちゃんちゃらおかしなことですけれど、それでも王家には『悪』の印を背負って死んで頂きたいですわね。だって彼らが望んでいたのは『正義であること』だったんですもの。希望と真逆の目に遭わせてやるのが復讐というものではなくって?
……今、王家には言い訳の余地はありませんわ。
今までの治世が真面だったとは思えませんし、民衆だって思っていないでしょう。
大聖堂を取り込むこともできず、英雄とやらを生み出そうとしたのに私の演説を許しただけに終わり。
そうしていよいよ、キャロルから『王家に殺されかけた。王家は悪である。大聖堂はこの国と人民のため、革命軍を支援する』と声明を発表するでしょうし、そうなれば王家が悪ですわ。言い訳の余地なんて欠片も無く、ね。
この革命は、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの復讐』という個人的な意味を大きく超えて、『この国に蔓延る巨悪を斃す』という名目を手に入れましたの。これこそが私の理想とする状況。王家が私を『悪』として握り潰そうとしていたあの時の真逆。今度は私が『悪』の王家を握り潰す番ですの。
そして勝者は私ですわ。
歴史は勝者が作りますから、後世に語り継がれる歴史の上で、現オーケスタ国王は愚王として名を残していくことでしょう。そうして私の復讐は、100年後、200年後も続くのですわ!おほほほほほほ!
さて。いよいよ王城を燃やすと決まったのなら、最初にやるべきことは……。
「さあ!王城へ盗みに入りますわよ!」
盗み、ですわッ!
「さて。王城へ盗みに入りたい者は居るかしら?」
私がそう声をかけると、悪党共はそれぞれ答え始めましたわ。
「俺は行こう。王城の地下の様子ならある程度分かるからな」
ああ、そういえばドランもムショに入ってましたものね。
「俺は遠慮しとくわ。足手纏い待ったなしだろうし」
ジョヴァンはまあ予想通りの答えですわ。逆にここで『行く』と言っていたら驚いていましたわよ。
「俺は行くぜ。……まー、王家の城じゃあ、いい薬は手に入らねえ気がするけど」
酒はありそうですわよ。ええ。
「僕も行く。楽しそうじゃん」
そうですわねえ。私もそう思いますわ。何と言っても王家の宝物庫を漁りに行くのですもの!
「ぼ、僕も連れていってください!お役に立ってみせます!」
リタルは……ま、まあ、人手にはなるでしょう。それに彼、風の魔法で空中に浮けますからね。何かと役に立ちそうではありますわ。
「ふむ。では私も行くことに」
そうして最後にお兄様がそう仰ったので……。
「あっ、お兄様は駄目ですわ」
「なんだと!?」
お断りしましたわ!
「私の身に何かあった時には、お兄様に革命軍をお願いしなければなりませんもの。ですから、お兄様は安全策をとって、待機していてくださいまし」
「……そうか。分かった。なら私は待機しよう。仕方ないな」
お兄様に説明して差し上げますと、お兄様は残念そうな顔をしつつ、でも、私の言いたいことは分かってくださったようですわ。あっさり退いてくださいましたの。
「……『私の身に何かあった時には』とは穏やかじゃないな」
「そうかしら?」
私とお兄様のやりとりを見ていたドランは、そう言って渋い顔をしましたわ。
「王城へ盗みに入るなら、その方法は?どこから入る?まさか、危険な手段を選ぶのか?」
「いいえ、特には」
ドランへにっこり笑ってみせながら、私、今回の盗みの作戦を伝えますわ!
「今回は囮作戦で行きますわ。囮が国王や、王城中の兵士の意識を引き付けておいて……その隙に他の面子が盗みを行えばよくってよ」
私がそう言うと、ドランはもちろん、他の面子も何とも言えない顔をしましたわ。
「……ちなみにお嬢さん。その囮、っていうのは……クリスとか?」
ジョヴァンがそう確認してきましたけれど、そんなの、決まってますでしょう?
「私ですわ!」