ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、戦利品を眺めておりますのよ!
「結構色々持って帰ってきましたわねえ……」
「とりあえず、王女達から聞いた宝物庫4つと隠されていた宝物庫3つの中にあったものは全て持ち帰ってきた。……これで鞄1つ分だ。保管する場所も考えた方がいいな」
アジトに広げられている、宝の山。これら全部、王家の宝物庫や王城のそこらへんにあったものですのよ。
「金銀宝石の類もこんだけあると、価値が分かんなくなってくるのよね」
「そうですわね。だから王家ってバカなんですのよ」
「あーなるほどね」
目も眩むような輝きの財宝の山は、見ているだけでなんだか不思議な気分になってきますわねえ。まあ、価値なんてどうでもよくってよ。ただ、キラキラしていて綺麗ですから、私はこれらが好きですわ。それが分かっていれば十分ですのよ。
「俺はとりあえず大量に酒持って帰ってきたぜ!」
「ブレませんわねえ……」
チェスタは酒ばっかり持って帰ってきましたわ。まあ、王城で出されるお酒ですから、最上の品々なのですけれど……金銀宝石よりも酒と薬が好き、とは、本当にこいつはブレませんのね!
「僕の方はまあ、楽しかったよ。革命軍が勝った後、これで図書館作ろうよ」
「あら。それは素敵ですわね」
キーブが持って帰ってきたのは、大量の本ですわ。それも、本棚ごと。
王城の図書室や禁書庫、そして文官や魔法使い、王子王女達の私室にまで踏み入って、本や金品を片っ端から持ち帰ってきたらしいんですの。本当に逞しく成長しましたわねえ!
「本を持ち帰ってきたのは良いことだな。城を焼いてしまえば本も焼ける。すると、歴史や文化がそこで一度、途切れてしまいかねん。歴史が如何に罪深いものであり、文化が如何に無価値なものであったとしても、無かったことにするべきではないからな」
お兄様はキーブのお持ち帰り内容がお気に召したようですわね。ええ。確かに本って、下手すると金銀財宝よりもよっぽど価値がありますわね。
「僕はこれです!こちらのドレスがヴァイオリア様にお似合いになるのではないかと!献上させてください!」
「あなた、衣裳部屋へ行きましたのねえ……」
そしてリタルは、大量のドレスや礼服を持ち帰ってきていましたわ。
……王族の衣裳部屋の中身を洗い浚い持って帰ってきたようですわね。ええ。最上の仕立てのドレスが沢山あったりすると、なんとも心が躍りますわぁ……。
「……なら、俺からも土産だ」
ドレスを受け取ってにこにこしていたら、ドランが別の空間鞄から、鏡台を出してきましたわ。繊細な彫刻を施された深い色の木材と、最上級の大きな鏡とでできたその鏡台は、見るからに至高の一品、といった様子ですわね。
「王女の部屋から持ってきた」
「成程」
どうやらドランは宝物庫の中身だけではなく、あちこちの家具まで持ち帰ってきたようですわね!
「じゃあ俺からは酒な。あ、あとこっちも拾ったからやるよ」
「あらどうも」
チェスタはお酒と……大粒のルビーを飾った腕輪を貰いましたわ。えっ?これ、どこで拾ったんですの?
「じゃあ僕も。はい」
「あら素敵」
キーブからは禁書を貰いましたわ!『毒と解毒の全て』という本ですわね。魔法薬系の毒について多く書かれているようですから、きっと役に立つ内容でしょうね!
「皆、お疲れ様。これでいよいよ、王城を燃やすことができますわ」
持ち帰った物の確認を終えたら、私はそう言って皆を労いましたわ。
「そういや、そうだったね。城、燃やすんだっけか。ホント、お嬢さん、燃やすの好きねえ……」
「ええ。大好きですわ!そして焼け出されてきた王族貴族をとっ捕まえて、全員別途、火炙りですわ!」
私、このためにずっと頑張ってきたのですもの。城を燃やすことが最終目標の1つなのですから、ここからは今まで以上に気合を入れていかなければなりませんわ!
「……しかし、交渉決裂、となったなら、王族が逃げるのは時間の問題だろう」
「あ、そこは問題ありませんわ」
「チェスタがやってくれましたわ。馬も馬車も、もう王城には1つも無くってよ」
「……いつの間に」
「え?最初。馬と馬車とドラゴン盗んだだけじゃ時間が余ったから食糧庫の方で酒盗ってきたんだぜ?」
ええ。チェスタにはそもそも、お酒じゃなくて、王家の足を奪ってこい、という風に命令していましたのよ。
ちなみに、王家がドラゴンを飼っているという話については昔、婚約者だったころにダクター様に聞いておりましたから、場所も大体察せていましたの。昔の経験も案外、役に立つものですわねえ。
「さあ、これで王家の人間の移動手段は、いよいよ徒歩ぐらいなものですわね?」
「そういうことになる。そして、徒歩で城を出て安全なところへ行ける、とは思わないだろう。何故なら、我々はドラゴンを所有していると知っているはずだからな!」
そう。これでいよいよ、王家の人間の逃げる道は無くなったのですわ。
逃げ場は無く、そもそも逃げるための手段が無い!王家の連中からしてみれば、とても絶望的な状況ですわね!おほほほほ!
それでも一応、王家の様子を警戒するに越したことはありませんわ。
今日はドランとキーブがドラゴンに乗って、王城の周囲を見張ることになりましたの。
フェイクとして誰も乗せていないドラゴンを数匹飛ばして、如何にも『最大戦力で城を見張りに来ている』『いつ突入されてもおかしくない』という状況を演じておきますわ。
……そして私は、いよいよ王家の終わりを目前にしながら……お兄様とお話しすることにしましたの。
この後のことについて、ね。
「ふむ。悪くないワインだ。城にあっただけのことはある」
「ええ。本当に。よかったですわぁ、これ、チェスタが回収してきてくれて。これが飲まれずに焼けていたら随分と勿体ないことになっていましたわね」
用意したワインは、チェスタがくれたものですわ。王城にあっただけあって、とても美味しいものでしたの。
確か、フルーティエ家のワイナリーの当たり年のものですわね、これ。……斃した家が作らせたものをこうして嗜むなんて、中々できない贅沢ですわね。おほほほ。
「さて……こうして話すのは久しぶりだな、我が妹よ」
ええ。お兄様と2人きりでお話しするのは久しぶりですわね。
何と言っても、お兄様、半年以上ずっと行方不明でしたから……。再会できてからも忙しくって、のんびりお話しする時間なんて持てませんでしたしね。
……でも、ずっとこのまま、という訳にはいきませんわね。ええ。
「私、お兄様にお話ししたいことがありますの。この後のことなのですけれど……」
「誰がこの国を治めるのか、という話か」
お兄様はもう、分かっておいででしたのね。私が今、何に悩んでいるのか。……流石お兄様ですわ。
「ええ。革命軍が王家を斃したならば、その後には新しくなった国が残りますわ。その国を治めるべき誰かが居ない状態で、ね」
「ふむ。私はてっきり、お前が新しい国の女王となるものだとばかり思っていたが?」
「あらっ、お兄様、そんなことを仰いますの!?」
「ははは。言うとも。……不向きだとは、思えんがな」
……お兄様はそう言って、楽し気に目を細められましたわ。全く、意地悪なお兄様ですわねえ。
「私は、お兄様こそが新たな国を治めるべきだと思いますのよ」
「だが民衆が望むのはお前だろう。『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』の名はよく聞こえているぞ?」
そうなんですのよねえ!私、あちこちで名乗りすぎましたかしら!こんなことになるなら、もう少し名乗らずにやってくるべきでしたわね!
「それでも、ですわ。ねえ、私、お兄様の方が上手くおやりになるって思っていますのよ。私が王に不向きでなかったとしても、お兄様の方が向いてらっしゃることは確かでしょう?」
「さて、どうだかな。私は、私こそ王には不向きであると考えている」
私の訴えに苦笑して、お兄様は仰いましたわ。
「王になるために必要な能力とは何だ?それが単純な武力や知力ではないことくらい、お前も分かっているだろう?」
「……ええ」
「王に必要なものは、人を惹き付ける力。求心力。カリスマ性。そういったものが、お前にはすべて備わっている」
「お兄様だってお持ちですわ、それくらい」
「そして、説得力だ」
「……説得力」
「そうだ」
お兄様は深く頷いて、私の目をじっと見つめて仰いましたの。
「……次の王がお前だ、と決まった時、民衆は納得するだろう。王家を斃すために戦ってきたお前には、確かな説得力がある。……私にはそれが無い」
深い赤色の、お兄様の瞳に私が映っていますわ。
お兄様と同じ、赤色の瞳を持ちながら、お兄様のように思いきれない、私の姿が。
「誇れ。ヴァイオリア。お前は立派にやり遂げた。そしてこれからも、立派にやるだろう。民衆はお前を望んでいる。他の誰でも納得しないだろうが、お前ならば、と思う者は多い」
「それでも……国を治められるとは、思えませんわ。私の手には余ります」
お兄様から目を逸らして、私……やっと、言えましたわ。
「自信がありませんのよ」
ずっと言いたかった言葉を。やっと、言えましたわ。
「自信が無い!?お前がか!……それはまた何とも、珍しいな」
「意地悪を仰らないで?私、これでも繊細なところもありますのよ?……私、王にはなれませんのよ。『万人の幸福のために』なんて、できませんわ」
「目指すべき国の形が、分かりませんの。目標が、見えませんのよ」
……私。今まで、目標があったからやってこられましたわ。
為すべきことも、殺すべき相手も、全てが私の道標でしたの。
道標があったからこそ、私、ここまでこれたのですわ。逆に、それらを失ってしまえば、もう動けませんのよ。
「……国って、何なのかしらね。少なくとも今の国は、血と金と死体で築き上げられた悪趣味な世界でしてよ。でも、その国を潰すために必要なものはやっぱり、血と金と死体ですのね」
私、分からなくなってしまいましたわ。
腹立たしい奴らを奈落の底へ蹴り落として、嘲笑って……その後で私がやりたかったことなんて、ありませんのよ。
私に嫌な思いをさせた奴らが嫌な思いをして死んでくれたなら、そこで私も笑いながら身を投げたっていいと思いましたの。
ええ。そうね。私、自分の終点を破滅と想定していましたのね。
元々そのつもりでしたもの。王子を殺して、私は王城に居座って……そこで徐々に王城を腐敗させていって、滅ぼして、その廃墟の上に立って……何をする気もありませんでしたわ。
「私、国がどうあるべきなのか、分かりませんわ。私は国を創り、育て、慈しむ者ではありませんわ。あくまでも国を食いものにしてのさばる悪党ですのよ」
私は悪ですの。
悪名を着せられた悲劇の被害者ではなく、悪役を演じた役者でもなく、純粋にただ、悪ですのよ。
私は選んでこうなりましたの。自らの意思で、他者を食い物にして楽しく生きることを選んでいますのよ。
そこに後悔も罪悪感も、全くありませんの。私は純粋な悪ですから。
……ですから、正義の表舞台になんて立つべきではないのではないかしら。
「為政の善悪と為政者の善悪は必ずしも関係しない。お前が悪であるとして、為政までもが悪になるとは限らん」
お兄様は唐突にそう、仰いましたわ。
「そもそも、悪とは何だ?正義とは?……3世代も前まで遡れば他国の人間を殺し続けることこそが正義であったが、今も同じものが正義と言えるか?何なら、今こそ正義はひっくり返ったぞ?かつて正義であったオーケスタ王家は、今や悪の腐れ外道一味なのだからな」
……お兄様のお言葉が、皮肉るように、それでいて優しく、強く、私へ向けられますわ。
「正しさなど追い求めるな。婦女のドレスの流行のようにコロコロと変わるものなど、追いかけたとして何も得られん」
「それは……」
確かに、そう、ですわ。
絶対的な『正しさ』が存在するというのは、ただの幻想、なのかもしれませんわね。
『正義』については、それこそ確かにコロコロと移り変わるものでしてよ。かつて大罪人であった私が、今や革命家として『悪しき』王家を打ち破ろうとしているように。
「そもそも、為政に『正しさ』など必要あるまい?愚民共が望むことといえば、『目に見える変化』と、『多少マシな待遇』だけだ。そこに美しく輝かしき王の微笑みが添えられれば、それで十二分だろうな」
……たとえ、『正しさ』というものが確固として存在していたとして、それを望む者は、確かに、居ませんわね。
自分に関係ないことならばどうでもいいのが人間の常ですし、知らないことならば存在しないも同じというのも人間の常。
民衆のほとんどは、政治からは遠い位置に居ますわ。ですから彼らは最初から、『正しさ』なんて求めない。
彼らが求めるのは、彼らにも分かるものだけ……。
「次なる正義が生まれるその時まで。『今の』正義であるお前が、お前の思うがままに、この国を築き上げていけばいいのだ。善悪を決めるのは今の正義たるお前なのだ。お前のやりたいことをやれ。それを民衆は望んでいる!」
……お兄様はそこまで仰ると、唐突に、苦笑いを浮かべて、こう付け加えられましたのよ。
「それで下手を打って、新たな『正義』が生まれたなら……その時は潔く滅ぼされよう。それが悪党たる我々の宿命だ」
「……そうね」
自然と、納得がいきましたの。
腑に落ちた、というのは、こういう事なのでしょうね。
私は悪で、『正しさ』からはきっと一番遠いのでしょうね。
でも、それと同時に『正義』ですのよ。コロコロと変わる『正義』に『今』選ばれたのは私なのですわ。
そして上手くやることが、私に望まれること。それが正しい事かどうかなんて、関係ないのね。
あとは……私が決めるのですわ。
『正義』も。『悪』も。
私が決めるのですから……私の国では、悪党こそが正義、ですわッ!
……勿論、私が上手くやっている限りで、ね!
「決めましたわ!私!女王となって新たな国を創りますわよ!」
恨むのならば、悪党を王にしてしまった自分達を恨みなさい!私はもう止まりませんわよ!
私を止めたくなったのなら……いつか、私が下手を打った時にでも、私を処刑台に登らせればよくってよ!
勿論、易々と処刑台に登る気はありませんけれど!だって私、悪党ですもの!おほほほほほ!