没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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16話「突撃ですわーッ!」

 お兄様が合図をすると、その度に大砲が火を吹きましてよ。

 轟音と共に衝撃が走り、城を守る城壁も門も、全てが崩れていきますの。これには城の兵士達もすっかりビビってしまいましたわね。

 何と言っても、このオーケスタ王国において火器はまだまだ未知の武器。フルーティエが少々やらかそうとしていただけで、元々フォルテシアの研究によって生まれたものですもの。対策も何も、できているはずがありませんのよね。

 

 兵士達が攻撃を躊躇い、大砲に驚き逃げ惑う中、またも大砲が発射されましたわ。そしてまた、城の守りは消えていきますのよ。

「撃ち方、止め!」

 お兄様が指示を出すと、大砲を操っていた奴隷達が一斉に姿勢を正し、砲撃を終了しましたわ。

 でもその時には既に城壁がすっかり取り払われて、王城がよーく見える状態になってしまっていますわね。ええ。いい眺めですわ。

 

 ……これで彼らにも分かったでしょう。

 私達が、少人数の兵士達による剣や弓だけで倒せる相手ではない、ということが!

 

 

 

「お分かりかしら!?あなた達の抵抗は全くの無駄ですのよ!さあ、大人しく投降なさい!これ以上お城を破壊するのは私も本意じゃなくってよ!」

 私が再び王城へと呼びかけると、王城から出てきた兵士達の半分程度は城の中へとわたわた戻っていき、そして残り半分はそのまま残って投降しましたわ!

 さあ、いよいよ王族は絶望しているでしょうね。

 じわじわと、しかし確かに、時計は時を刻んでいきますわ。

 投降することを選べるのは、あと30分。……さて、王族達は、果たして『選択する』ことができるのかしら?

 

 

 

「あと十分、ですわね……」

 約束の時まで残り10分。

 ここまで王城に動きはありませんわ。兵士があっという間に大砲にやられて、残った半分が寝返った、ともなれば、抵抗の意思は消えるでしょうけれど……。

「このまま出てこないつもりかしら」

「ふむ。集団自決しているかもしれんな」

 あー……それは嫌ですわねえ。まあ、そんな度胸も根性も無いとは思いますけれど……。

「でも24時間は待ちますわ。約束を違えたと言われては癪ですしね」

 少なくとも、20分前に王家の兵士の残党が出てきたのですから、そこの時点では王族は全員生きていた、と思えますのよね。

 そこから10分ちょっとで死ぬ覚悟を決めるなんて、彼らにはできないでしょうし……まあ、待ってからでもいいと思いますわ。

 

「妹よ。この後はどうする」

 お兄様がそうお尋ねになりましたので、私、お答えしますわ。

「投降してこないところを見ると、最後の最後まで抵抗するつもりなのだと思いますわ。ですから、抵抗させますわ」

「ほう」

「まだ抵抗する気なら、その抵抗もねじ伏せて、徹底的に折ってやりますわ。折れるところは全部折りたいんですのよ」

 投降してこないということは、最後まで戦う意思があるということ。なら、その意思も圧し折ってやりたいところですわね。

 ……だって、人間って一度殺すと二度は殺せませんでしょう?なら、殺す前にやれることは全てやってから殺したいところですのよね。

 その意思の一片に至るまで、全て圧し折りますわ!じゃなきゃ勿体ないですわ!王家は私に残された最後の楽しみであり、この復讐におけるメインディッシュですの!ですから、徹底的にやりますわ!体だけじゃなくて、心も精神も信念も、全て殺してやりますわ!

 

 

 

 ……そうしてそのまま、約束の24時間が経ちましたわ。

 

「悪しき王家の城を守るものは消えましたわ!精鋭部隊、突撃!」

 さあ、いよいよ突入ですわ!私は予め出していた指示通り、ほとんどの者達をこの場に残して、少数精鋭だけで城を襲いますの。

 少数精鋭、ですわ。お分かりですわね?私とドランとチェスタとキーブ、それにお兄様も加わって、おまけにリタルとクリスもくっつけましたわ!

 後は十数人ばかり、賑やかし程度に冒険者や奴隷を入れてありますけれど、彼らの動きは大体、入り口の封鎖程度ですからね。実際に王族狩りをするのは私達でしてよ。

「いいですこと!?国王は絶対に、私がやりますわ!そこだけは譲れませんわよ!」

「分かっている」

「じゃあ他の奴らは俺らでやっちゃってもいいんだよな?じゃあキーブ、俺と競争しねえ?」

「別にいいけど僕が勝つよ?」

 こいつら楽しそうですわねえ……。まあ私も楽しみですわ!

「ヴァイオリア。思う存分、やってこい。私は撃ち漏らしをやろう」

「ぼ、僕もコントラウス様をお手伝いします!誰も逃がしません!」

「ああ、どうして私がこのような、悪の所業に加担しなければならないのだ……神よ、どうか、オーケスタ王家に救いの手を……」

 こっちはこっちで1人ばっかし楽しくなさそうな奴が居ますけれど、その他は皆、楽しそうですわね!リタルもすっかり張り切ってしまっていて……もうこいつも染まるところまで染まった、ということかしら……。悪い事しましたわぁ。おほほほほ。

 

「それでは、突入!」

 ……そして私達はいよいよ、王城の中へと入っていくのですわ。

 

 

 

 数日前に入ったばかりの王城ですけれど、色々と寂しい印象になっていますわね。まあ、人が居ませんから当然かしら。

 がらんとした玄関ホール。誰も居ない中庭。……滅びる直前の城というのは、かくも物悲しいものですのね。

「ここ、なんか変だと思ったけど、もしかしてシャンデリアが無いんじゃねえの?」

「俺が盗んだ」

 ……あっ、もしかして人が居なくて寂しい雰囲気なんじゃあなくって、物が少なくて寂しい雰囲気、ですの?ま、まあ、盗んでしまったものはしかたありませんわよね。おほほほほ。

「王族の肖像画とか、どうする?燃やす?」

「そうねえ、どうせ最後にはすべて燃やしますけれど……」

「あ、だったら俺、ちょっとこれ借りるわ」

 チェスタは玄関ホールの奥、階段の上に飾ってある現王家の肖像画へ歩み寄ると……落書きし始めましたわ。

「……知性の欠片も感じられなくってよ」

「いいじゃん。どうせ燃やすんだろ?なら普段絶対にできねえことやってから燃やそうぜ」

 一理ありますわね。ええ。一理ありますわ。でもやっぱり、国王の顔に鼻毛を描き足しているチェスタを見ると、どうにも知性の欠片も感じられませんわね!

 

 それから私達は王城の中を手分けして探し始めましたわ。ドランは王家の私室。チェスタは地下。キーブは裏口。お兄様は玄関ホールの見張り。リタルは中庭。それぞれ分担して、アリ一匹通さない構えですわ。

 ちなみにクリスには『私達を助けながら、隠れている王族を探しなさい』と言っておきましたところ、ブツブツと呪詛を吐きながらリタルの方へと行きましたわ。判断力に難のある自分の親戚を助ける意図の他、中庭に潜む誰かが居ると読んでの行動らしいですわね。ええ、優秀な奴隷って本当に便利ですわ。おほほほほ。

 ……さて。

 皆があちこちを探す中、私が目指す先はただ1つ。

 玉座の間、でしてよ!

 

 

 

「ごめんあそばせ!」

 玉座の間の扉を勢いよく開くと、そこには懐かしい景色がありましたわ。

 ええ、感慨深いわね。私、ここでダクター様暗殺の濡れ衣を着せられて糾弾されたのですわ。

 尤も、あの時に私を糾弾していた奴らはもうほとんど生きてはいなくってよ。フルーティエの連中も、ホーンボーンの連中も、もう死にましたわ。クラリノ家に至っては、奴隷落ちして、今も私に使われている始末。……そう考えるとなんとも清々しい気持ちになれますわね。

 ここで糾弾されていた時から、私、随分と頑張ってきたように思いますわ。

 ムショを出て、山賊家業をやって、冒険者稼業をやりながらピンハネ嬢と戦い、ピンハネ嬢のせいでまた投獄されそうになるも脱出し、放火して、エルゼマリンの貴族街を壊滅させて、スライムを大量に放ち、フルーティエ家を没落させて、ウィンドリィ王国に魔物をけしかけ、ホーンボーン家を奴隷落ちさせた後に火刑に処し。ピンハネ嬢を処刑させ。武道大会で優勝して。クラリノ家の跡継ぎを奴隷にして……。

 ……色々やってきましたわねえ。ええ。感慨深くってよ。

 ですから……最後の最後で、国王をキッチリ殺してこの城を燃やして、華麗に締め括りますわよ!

「さあ、お覚悟なさい!あなた達に逃げ場はなくってよ!」

 私の視線の先では、国王その他、王子王女達がガタガタ震えていましてよ!

 

 

 

 カツン、と私の靴の音が部屋に響きますわ。

 天井の高い玉座の間。ステンドグラス越しに煌めく午後の光が進む私の影を作って、一歩一歩、私と共に進んでいきますわ。

 光の都合で、先に国王へ到達したのは私の影、でしたわね。私の影が国王の足にかかって、国王はそれに怯えたように体を引っ込めましたわ。

 でもそれで私から逃れられるわけもありませんわね。

 

「ごきげんよう。お久しぶりですわね。少し痩せられたのではなくって?」

 私が話しかけても、国王はまともな反応を寄越しませんわ。人間の言葉が通じなくなってしまったのかしらね。

「……やっと、この日が来ましたわね。あなた達に、フォルテシア家を貶めた報いが与えられる日が」

 私は剣を抜いて、国王に刃を向けましたわ。ぎらり、と輝く刀身の、なんと鋭く美しいこと。この輝きが国王の肉を絶ち割って、今にも赤い血飛沫を噴き上げさせるのだと思うと、いよいよドキドキしてきましたわ。

「では……最期に言い残したいことはありまして?」

「あ……あ……」

 国王は私が話しかけてもこの反応。人間としての尊厳を感じられませんわね。

「……そう。特にない、と受け取りますわ」

 ですからもう、いいことにしましょう。

「それではごきげんよう」

 私は剣を振りかざし、国王目がけて振り下ろしましたわ。

 

 

 

 その瞬間、国王がまるで見えない鎧を着ていたかのように、剣が弾かれましたの。

「ああ……あ……あ?」

 国王自身もきょとん、としていますわね。ええ。私もきょとん、ですわ。

 一体、これは何かしら。国王の身を守るための武具、ということなのかしら?やっぱり王国の主ですから、金にものを言わせた装備をたくさん所有しているのでしょうけれど……。

 ……どちらかというと、今のは単に、『魔法で剣を防がれた』感覚でしたわ。

 

「あ……ああ……そ、そうか……既に、完成していたのだな……」

 国王はそうブツブツ言いながら、恐怖の表情を徐々に和らげ……笑みを浮かべましたわ。

「ならば……貴様など、恐れるに足りん!」

 そして国王は……変形しましたわ!

 

 

 

 ええ。変形しましたわ。

 その姿は悪魔のようでもあり、ゾンビのようでもあり、醜く、邪悪で……寄せ集めや継ぎ接ぎめいた印象を与えるものでしたわ。

 そう。

 国王は異形の怪物となって、私の前に立ちましたの。

 

 ……えっ?これ、なんですの?

 

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