没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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17話「あなたじゃないですわーッ!」

 ヤバイですわ!国王が怪物になったかと思ったら、今までの威勢の無さはどこへやら、攻撃してきましてよ!

 その力は人間のそれではありませんわ!どう見てもドランの攻撃ぐらいはありますわよ!

 いきなりメキメキいって怪物になったことといい、後ろでガタガタ震えっぱなしの王子王女といい、まるで状況が分かりませんわ!

 なんなんですの!?これ、なんなんですのーッ!?

 

 

 

 混乱してつっ立ってたらぶち殺されることは間違いありませんわね。ええ。ですから私、動きますわ。

 怪物と化した国王の腕が私目がけて振り下ろされて、私が飛び退いた直後、私が居た場所の床を叩き割っていきましたわ。

 ここの床って大理石ですのよ?確かにそこまで頑丈な石じゃあありませんけれど、それにしたって素手で分厚い石の板材を叩き割れるってどういうことなんですの!?本当にドランと同程度の力を手に入れてしまったということなのかしら!?

「ちょ、ちょっと!あなた、何なんですの!?」

「私は力を手に入れたのだ!王の血の成せる技だ!どうだ、素晴らしいだろう!」

 あっ、これ、言葉が通じるんですの?まさか怪物になってからの方が言葉が通じるようになるなんて思いませんでしたわ!

「貴様ら汚らわしい逆賊など、全員葬り去ってくれる!」

 ……けれど、言葉が通じたとしても、これじゃあ話になりませんわね。

 

 ええ。ここは華麗にこの怪物をぶち殺して差し上げるとしましょう。

 

 

 

 私、ドランと戦ったことはありませんけれど、彼と戦ったらこんなかんじかもしれませんわ。

 まず、国王の繰り出す攻撃は全て、馬鹿みたいな速度で馬鹿みたいな強さですのよ。

 怪物と化した国王の腕は熊のそれと同じかそれ以上の大きさ。いっそ子供ドラゴンの手足と同じくらいはあるかもしれませんわね。

 そんなものが、馬鹿みたいな力で繰り出されるんですの。床を割るのは勿論、玉座の間の飾り柱もあっという間に折れ飛びましたわ!

 ただ……まあ、ドランと国王の一番の違いを上げるとすると、技術、ですわね。

 ええ。国王はただ、『力を手に入れただけ』に見えますわ。武術の基礎くらいは教養として学んでいるのでしょうけれど、逆にそれ以上のものは身に着けていないように見えますわね。

 けれど、純粋な力というものはそれだけで厄介なものですわ。

 国王は『王の血の成せる技』だと言っていましたけれど……ということは、王家に伝わる秘術、とか、そういうものを使ったのかしら……?ところで、後ろで震えている王子王女達は逃げないのかしら……?気になるところは沢山ありますわねえ……。

 

 

 

 さて。そこらへんを気にしていると死にますわ。割とヤバいですわ。馬鹿みたいに腕を振り回すだけの相手だって、流石にこの速さと威力を持っているなら十分に強敵ですわよ。早速、着ていたドレスの裾が持っていかれましたわ!というか、私が裾を斬りましたわ!

 もし私が寸でのところでドレスの裾に剣を突き立てていなかったら、ドレスの裾ごと私が持っていかれていましたわねえ!本当に油断も隙もありゃーしませんわ!

 何というか、相手にしている感覚としては、知能の低い、体の小さい、小回りの利くドラゴン……といったところかしら?ええ。つまり厄介な相手ですわ。

 ……まあよくってよ。とりあえず、目の前の怪物から生き残りつつ、奴を殺すことに集中しましょう。

 

 相手の攻撃を避けながら、なんとか攻撃の隙を探しますわ。

 何と言っても相手の強みはその力。筋力が増しているのか、はたまた身体強化魔法によるものなのかは分かりませんけれど、まあ、そういう結果が出ていますわね。

 しかも、相手はずっとその攻撃を繰り出し続けているのに全く攻撃が鈍りませんわ。これは体力の方も怪物ですわね。

 ……ええ。何せ、相手は怪物になっていますもの。ドラゴン並みの力がありながらドラゴンより小回りが利いて、アンデッド並みに体力がある。オーガに少し似ていて、でもずっと醜い何か。

 目の前にいる相手はそういう相手ですわ。本当にこれ、一体何なのかしら?

 考察するのは……今の状態では難しいですわね。ええ。

 何せ、隙がありませんのよッ!

 

 不覚ですわ。たかが国王一匹と思っていましたけれど、怪物になったら中々やるじゃあありませんの。

 ドラゴンでしたらその動きの鈍さを隙として私の血の矢を撃ちこんでやるところですし、アンデッドなら聖水でもぶっ掛けるか燃やすかしていますわ。オーガだったら適当に首を刎ねればよくってよ。

 でも、国王の成れの果ての怪物相手じゃ、それもできませんわね。

 私が居た場所が、どんどん崩れていきますわ。今や、玉座の間の床はすっかりひび割れ砕けて、足場がすっかり悪くなっていましてよ。

 私としては、砕けた床に足をとられないように気をつけながら怪物の攻撃を躱し続けるばかり、といったところかしら。

 何か……何か、相手の行動が、読めてくれば……勝機は、あるのですけれど。

 

 

 

「ちょこまかと……大人しく死ね!」

「それはごめんですわねえ!」

 怪物の振り下ろした腕が、また私の居た床を砕き、振り抜いた腕が、私が屈んだ上を通り過ぎていきますわ。

 更にこの怪物、魔法までもを使うようになりましたのよ。衝撃のようなものが襲い掛かってきて、流石の私もこれには参りましたわ。

 天井から吊るされていた水晶細工のシャンデリアが魔法の衝撃に耐えかねて割れ砕けて、鋭い刃のようになって降り注ぎますの。本当に碌でもないですわッ!

「逆賊が!今まで散々、我らを馬鹿にしておいて……今更、生きて帰れるとは思うなよ!」

「こちらの台詞ですわよ、『小悪党』!」

 私の安い挑発に乗って、怪物はいよいよ激高し、衝撃のような魔法も増えてきましたわ。

 ……魔法を使うのですから、魔力は消費しているはず。魔力には絶対に限界がありますわ。その限界まで、出し尽くさせれば……。

 

 ふと息が詰まって、体の自由が利かなくなって、そこで私、初めて、自分が衝撃の魔法を食らったことに気づきましたわ。

 吹き飛ばされて、宙を舞って……床に叩きつけられたところに、怪物の腕が迫りましたの。

 

 

 

 怪物の腕が、ゆっくりと、一瞬一瞬時を止めながら進めていくように、私に近づいてきましたわ。

 あの腕がぶつかれば、当然、私は死にますわね。

 ……でも、そんなの御免ですわ。

 むざむざと殺されるくらいなら、相手も殺しますわ。

 ええ。そうよ。私はフォルテシアの娘。未来と引き換えに最強の毒を得た、対王家兵器ですのよッ!

 

 

 

 怪物の手の先に、ほんの僅かな傷でも負わせることができれば、それで勝ちでしたわ。

 私を叩き潰した怪物は、私からあふれ出た血をもろに浴びて、その傷口から毒を取り込んで……そして、死ぬはずでしたもの。

 ……でも、そうはなりませんでしたのね。

「何をしているんだ、お前は」

「……ちょいと腑抜けてましたわ。でももう心配なくってよ」

 私の目の前で怪物の腕を受け止めていたのは、天井からやってきたドランでしたわ!

 

 

 

「おのれ!人狼め、どこから出てきた!」

 怪物の次の攻撃は、またしてもドランに受け止められましたわ。

 それにドランはにやりと笑うと……耳と尻尾を出しましたわ!

「月から来た、とでも言えば満足か?」

 その瞬間、ドランの力が上回ったようですわね!怪物はドランに腕を掴まれて、そのまま投げ飛ばされましたのよ!

 

 玉座の間の扉をぶち破って、怪物は廊下へ放り出されましたわ。ドランはそれを油断なく見つめながら、聞いてきましたのよ。

「私室には誰も確認できなかったのでこちらへ合流しに来た。……これはどういう状況だ?あの怪物は何だ?」

「国王がトチ狂いましたわぁ」

「成程な。……加勢するが、いいな?」

「ええ。是非。悔しいですけれど、あなたの力が必要ね」

「それは光栄だな」

 まあ、仕方が無くってよ。折角ですから国王は私1人の力で殺したかったところですけれど……今はそれはナシ、ですわ。

 今はそれどころじゃあありませんもの。

 

 

 

「私の予想では、国王の使った魔法は王家に伝わる秘術、でしょうね」

「そんなものがあるのか」

「あっても不思議ではなくってよ。何せ、この国は他国に戦争吹っ掛けては勝って、それによって成り立ってきた国ですのよ?」

 つまり、それだけの力があったってことですわ。今は周辺国も腑抜けだらけですけれど、オーケスタ王家の成立当時はもっと強かったはずですもの。当時、周辺国に喧嘩吹っ掛けて勝ち続けることができたなら、それは何か、秘術があったということではなくって?

「怪物になる魔法で戦争を勝ち抜いたと?」

「いいえ?あの魔法、きっと本来ならちゃんと人間の形になるのだと思いますわ。けれど、少しばかり、時間か準備か技量か、或いはそれら全部かが足りなかった。そんなところではないかしら」

 私が国王を殺そうとした時の反応を見る限り、国王としてもこの魔法が成功するとは思っていなかったのではないかしら。それがたまたま上手い事はたらいて……でも完成には至らず、国王を超人ではなく怪物へと変えたのではないかしら。

「そうか。なら、あれをどうにかするのは……」

「キーブが欲しいですわね。魔法を解くにしても、私じゃあちょいと荷が重くてよ」

 私達の視線の先では、怪物が扉の残骸を踏み砕きながらこちらへ戻ってきていますわ。

 その姿は先ほどまでよりもなんだか……なんだか、大きく、醜くなっていますわね。

 ……もしかして、また一段階強くなっていたりするんじゃなくって……?

 

 

 

 一気に私達へ迫ってきた怪物へ、ドランが立ち向かいましたわ。

 ドランは腰を落として、怪物の体当たりを受け止めて……でも、その表情に先程までの余裕はありませんわね。

「手伝いますわよッ!」

 私もただ見ているだけなんて、そんなことはしませんわ!腑抜けている時間はもう終わりですのよ!

 私は私の血を塗った剣を翻して、怪物に斬りつけましたわ!

 ……けれど、剣が弾かれましたの。

「えっ」

「魔法の装甲、か!?」

 な、なんてことですの!?剣が弾かれるって、どういうことですの!?なんかおかしいんじゃなくって!?こんなんズルですわ!

「そういえば、さっきも同じように剣を弾かれましたわね……」

「それは、悪い報せだな……!」

 ドランはここまで怪物を受け止めていましたけれど、どうやら力で勝てなくなってきたようですわ。一瞬の読み合いの後、ドランは怪物の力を逸らして利用して、怪物を後方へと倒しましたわ。

 ……そして、次に迫ってきた怪物の攻撃を、必死になってまた止めましたけれど……どうやら恐ろしいことに怪物は、さっきよりも力を増しているようですわね。

 

 このままじゃあドランだって持ちこたえ続けられないのは明白ですわ。何とかしなくては。

 ……そうよ。この怪物を怪物にしているのが魔法だというのならば、魔法をどうにかしてしまうのが一番いい手でしょう。

 そして、それができるのはドランではなくて……できればキーブがいいですけれど……今ここに居る者としては、私、ですのよ。

 ですから、私が何とかしなくてはなりませんわ。さもなきゃ、これ、最悪の場合……負けるかもしれませんわ。

 

 

 

 その時でしたわ。

 突如、玉座が吹き飛びましたの。

 そして、その下から現れたのは……。

「地下、なんも居なかったからこっち来たけど、もしかして俺の出番?」

「あなたじゃないですわァーッ!」

 チェスタでしたわ!現れたのはチェスタでしたわ!

 でもあなたじゃないですわ!キーブよ!今、来てほしかったのはキーブですのよォーッ!

 

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