ごきげんよう!私、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
でももうじき、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア王になりますわ!
だってにっくき国王の首と胴体は永遠にお別れとなったのですもの!あとはこの首を王城前の広場に晒して新たな国の設立を宣言してやれば終わりですわ!
……長かったですわ。ここまで。
でも私、やりましたのね。
とっても感慨深くってよ。今夜はいい夢が見られそうですわ。
「やりましたわぁ……」
「そうだな」
「ねえ、ドラン。あなたも感慨深いんじゃなくって?あなたの目的は王家殺しでしたでしょう?」
ドランを振り返って聞いてみると、ドランはなんとも複雑そうな顔をしましたわね。
「そうだな。王家殺しは目標の1つだった。……だが、どちらかと言えばこれから、だろうな」
「これから、ですの?」
「ああ。これからだ。人狼を『悪』だとした王家が『悪』だったとされた、これからが……人狼にとっては、初めての、真っ当な国の始まりになる」
……そうですわね。憎い相手を殺して終わり、というのは……まあ、少々無責任、かしらね。私が国を引っ掻き回して終わり、というだけにはできないように、ドランもまた、王家を殺して終わり、とはできないのでしょう。
「まあ、これからが見物だな。人狼を悪とした王家が悪とされて滅びたのだから、これからきっと、この国は大きく変わっていく。今までの王家が積み立ててきたものを全て塗りつぶして消していこうとするならば、きっと、人狼は当たり前に生活できるようになるだろうな」
そうね。今までの王家は『悪』でしたわ。そういうことになりましたの。何と言っても歴史を作るのは勝者、つまり私なのですからね!
……ということで、王家の思想は全部、消えますのよ。私が残そうとしなければ、全て、消えていきますの。
それは王家に対する最後の嫌がらせになるかしらね。ええ。そう思うとちょっぴり楽しみですわ。
「……これからが楽しみだ。期待しているぞ、女王」
「あらあら。まだ早くってよ」
まあ、楽しみがあるというのならば、ドランは大丈夫でしょう。目標を達成してしまって他にやることが無かったなら……その後にすることは、ふらりと消えていくことだけですから。ええ。王になるつもりなど無かった私のように、ね。
ですから……ドランは大丈夫ですわ。まだまだ動けますわね。動く気力は、まだ消えていない、ということですわね。
「あーあ。なんかドランにくっついてきたらとんでもねえことになったよなあ」
「一介のチンピラがよくもまあ、革命軍幹部になんてなれましたわね。あなた豪運にもほどがあるんじゃありませんこと?」
さて。次はチェスタですわ。
彼は……まあ、不運によって一気に義手でチンピラで薬中なかんじのコレに成り果ててしまいましたけれど、元は善良な一市民だったはず、ですのよね。
ですから……いえ、あんまり言うのも野暮かしら。何せ彼、人を殺すことに躊躇いがあるでもないですしね。十分に彼はもう、悪党ですもの。色々と心配するなんて、今更ですわ。
「俺、これからどうすっかなあ……」
「え?決めてませんの?」
「うん。ほら、ドランはどうせ、なんかやるんだろ?」
なんかって何ですの?こいつ頭で物事考えてますの?
「俺がそれに付いてくって訳にはいかねえだろうしなー……エルゼマリンでまた適当にチンピラやるのも今更なぁ……」
「でしたらリューゲル様のところでゴーレムづくりでもなさったらいかが?」
「やだよ。似合わねえって」
あ、その自覚はありますのね?ええ。私も似合うとは思いませんわ。……似合わないけれど、適任だ、とは思いますけれどね。
「あ、ヴァイオリア。そうだ。丁度いいや。俺のこと城で雇わねえ?兵士でも雑用係でもなんでもいいぜ」
「ええ、よくってよ」
「えっ」
「えっ?」
えっ?聞いておいて驚くってなんですの?こいつなんなんですの?
「……いや、俺から言ったけどよ、ちょっと……考えが無さすぎるんじゃねえの?」
「考えなしだなんてあなたに言われたくはないですわねえ……」
無礼ですわ。無礼。私が女王だったら不敬罪の判決叩きつけて土下座の刑に処していたところですわよ。
「……俺、薬中だぜ?」
「そうですわねえ」
「チンピラだし」
「学もありませんわねえ」
「学も……って先に言うんじゃねえよ」
あらごめんあそばせ。
「いや……なんでだよ?俺なんか雇っていい事、あるか?女王様が俺みたいなの雇って、何かいいことあるかよ?」
「そうね。まあ、あなたみたいなのが居た方が面白そうだと思っただけですわ。それにあなた、学のないチンピラで薬中ですけれど、全くの無能という訳ではなさそうですし」
「面白そうって……いや、そんな理由で城の兵士、選んでいいのかよ?」
チェスタが心配そうな顔をしているのは、なんだか珍しいですわねえ。……でも、勘違いしていてよ。
「あら?私、いつあなたを兵士として雇うなんて言いましたの?」
「え?兵士以外に俺ができそうな仕事ねえだろ。まさか学者として雇うとか言わねえよな?」
「学術目的であなたを雇うとしたら薬中人間のサンプルだの、実験動物だの、そういう研究される側の扱いになりますわねえ……」
それはそれで面白そうですけれどね。ええ。……真面目に考えるとしたら、薬中部分よりも義手の部分の方が研究の価値がありそうですけれどね。
「じゃあ何だよ。兵士でも学者でもないって……あ、雑用係?」
「まあ、そんなところかもしれませんわね」
私がくすくす笑うと、チェスタは益々聞きたがりましたけれど、まだ内緒ですわ。ええ。精々楽しみに待ってらっしゃいな。
「終わっちゃったね」
「そうですわね。終わってしまえば呆気ないものですわ」
チェスタが居なくなるのを見計らってやってきたキーブにそう返しつつ、私、キーブの頭を撫でますわ!
「……なんで撫でるんだよ」
「可愛いからですわぁ」
当たり前のことを聞かれても困りますわ。可愛いから撫でる。それだけでしてよ!
「……へー。つまり、お気に入りだから撫でる、ってこと?」
「まあそうとも言いますわねえ。特にあなた、今回は大活躍でしたし」
「そりゃどうも。……ま、悪い気はしないね」
そう言ってキーブは、にんまり笑いましたわ。その顔も可愛いですわ。
「ところでヴァイオリアさ、チェスタのこと、雇うの?」
「あら、聞いてましたの?」
ということは、よっぽど頑張って聞き耳を立てていたのかしら、この子。心配性ですわねえ。本当に。私がキーブを手放すつもりなんて無いってこと、言ったこと無かったかしら?
「心配しなくても、あなたの席も用意していますわよ」
「へえ。やった。まあ、心配してなかったけどね。……だって気に入ってるんでしょ?」
「本当に可愛いですわねえ、あなた!どうしてくれようかしら!このっこのっ」
あんまり可愛いことを言うもんですから、ついつい撫でるのにも力と気力がこもりましてよ!撫でますわ!全身全霊を込めて撫でますわ!
「……でも、ヴァイオリア、遠くに行っちゃうんだよな」
「え?」
撫でながら聞き返してみたら、キーブの方から私の手に頭を擦りつけるようにして撫でられにきながら、キーブは言いましたのよ。
「だって、女王様じゃん。この国で一番偉い人になるんでしょ?」
「まあ、そうですわねえ」
偉い人、というと妙なかんじがしますけれどね。……多分、キーブの想像する『偉い人』と私の想像する『女王』って何かが違うんだと思いますのよ。内情が見えている者とそうでない者の視点の差、と言いますか……。
……でも、元々奴隷のキーブからしてみたら、『女王』なんて確かに『遠くに行っちゃう』ものですわね。きっと。
「心配は要りませんわ。私、遠くへ行くにしても、あなたを連れていきますもの」
だから私はそう言いますし、キーブはこれだけじゃ納得できないのでしょうけれど……それ以上を言うのはちょいと不誠実ですものね。ええ。これ以上は言いませんわ。それでも連れていかれてくれるなら、私、キーブを連れて行こうと思いますのよ。……狡いかしら。
「ヴァイオリア様!僕、お役に立てましたか!?」
「ええ。あなた、もうすっかり役に立つようになりましたわねえ……」
さて。次はリタルね。こっちもこっちでキーブとの話が一段落するまで待って待って、ずっと待っていたようですし、ちゃんとお相手してあげなければね。だってリタルはとってもいい子ですもの。デカくなりやがったところ以外は。
「それで、リタル。『勝つ側に付いた』感想は如何?」
「……そう、ですね。確かに正解だった、と言うべきでしょうか。僕の目は確かだった……いえ……」
リタルは少し悩んでから、はにかんで答えましたの。
「『あなたに』付いてきてよかった。そう言わせてください」
「あらまあ。随分と上手ですこと」
本当になんというか、ちょっぴり怖くなるくらいに懐いていますのねえ、彼……。本当に悪いことしましたわぁ……。
「あの、もしよろしければ、これからも僕をお傍に置いて頂けませんか?剣は得意ではありませんが、あなたの騎士として新たな国を守りたいのです」
「ええ……まあ、よくってよ」
私にもちょっぴりは罪悪感がありますのよ?ですからここまできたら、もう最後までちゃんと面倒を見てあげた方がいいんじゃないかと思いましたの……。ええ、本当に悪いことしましたわぁ……。
「ところで、ヴァイオリアよ。宣誓の文句は既に決めてあるのか?」
「ええ。ある程度は」
「ふむ、そうか。まあお前のことだ。そつなくこなすのだろうな。特に心配はしていないとも」
さて。リタルを適当にあしらいつつ、私はお兄様とお話ししますわよ。
「……いよいよだな」
「……そうですわね。でも、これが終わりじゃなくて、これが始まりですわ。終わりの始まり、ですのね」
これは、私を讃える賛歌の序章。そしてきっと、賛歌の最後は滅びで締めくくられますの。
新しい国の始まりは、国の滅びの始まりでもあるのですわ。
……でも私、この道を選ぶことを、後悔しはしませんわ。決して。
「どこかでお父様とお母様も見ていて下さるかしら」
ふと、私、そう零しましたの。
娘の滅びの始まりなんて、親からしてみれば悲しむべきものなのでしょうけれど……きっと、お父様もお母様も、私が選んだ道を応援してくださると、思いますのよ。
「ん?なんだ、そうか。教えていなかったな」
……と、その時、お兄様がにやり、と笑って……。
「父上と母上だが、もうじき戻ってらっしゃるぞ。その時はきっと、お前の誕生日プレゼントを持ってきてくださるだろう」
お兄様は、そう仰いましたの。
「え?お父様とお母様が?それってどういう……」
「はーいはいはい、ちょっとごめんねー」
そんな折、唐突に聞き慣れた不吉な声がしましてよ。ええ。いっつもいっつも私に残念なお知らせを運んできてくれる役回りの骨ですわ。今回はお兄様とのお話しの腰を折ってくれやがった骨でもありますわね。
「ジョヴァン?あなたどうしてここに」
「そりゃー親愛なるお嬢さんのために馳せ参じた、ってことよ」
「……つまり戦いが終わった気配がしたからやってきた、ってことですのね?」
「そ。そーいうこと。俺はイタイのは御免だからね。危険が無くなってから来たって訳」
全く……戦いの気配を察知するのが上手いんですのねえ。ええ。本当に非戦闘員として優秀ですわあ……。要は逃げ延びるのが上手いってことですわね!
「でも俺が来て良かったでしょ?良かったって言って?」
「よかったですわぁー」
「そういう心がこもってない奴じゃなくってね?……まあいいや。絶対言うことになるぜ?なんてったって、ほら」
ジョヴァンが鞄から取り出したのは……ドレスとマント、ですの?
「お嬢さん。そのまんま表に出たらちょいとまずいぜ。恰好がね、刺激的すぎる」
「あらっ」
そうね、よくよく見たら裾はとんでもないことになってますし、返り血がとんでもないことになってますわね。おほほほほ。
「いいじゃん、そのままで。よくいるじゃねえか、このくらいのカッコしてる奴くらい」
「血はともかくとしてもねえ……俺としては、お嬢さんにはもうちょっと慎み深い恰好でいてほしいの。裏通りの商売女じゃあないんだから」
チェスタの『よくいるじゃん』は多分、アレですわ。エルゼマリンの裏通りの話ですわ。ええ。流石、薬中は目の付け所が違いますわね……。
「それに、これは女王陛下のご登場だ。ある程度は綺麗にしとくべきでしょうよ。ってことでこちらを献上に上がりました」
「あらどうも。でも、着替えて出ていったらあんまりにもわざとらしくなくって?」
「そう思ってお嬢さんが元々着てたのに限りなく近いドレスをお届け。ついでに適度な戦闘を感じさせる加工付き」
……あらほんと。よく見たら適度にダメージ加工にしてありましたわ。本来想定された程度の戦闘をこなした風、ですわね。こういうところ、気が利くというか、何と言うか……。
「どうよ。お嬢さん。俺が居てよかったでしょう?」
「ええ、そうね。あなた中々優秀ですわよ」
「そりゃあどうも。……ってことは、引き続きご利用いただけたりするのかしら?」
……本当に抜け目のないこと。
「ええ、そうね。考えておいてあげてもよくってよ」
「やったぜ。じゃあまあ、重用頂けた暁にはしっかり尽くさせていただきますからね。俺、結構一途に尽くすタイプだから」
んなこたどうでもよくってよ。まあ、手を抜くことは許しませんけれど……元々その心配はしていませんしね。
「おいおいおい、どういうことだよ、ジョヴァン。何の話してんだ?」
「ん?チェスタにゃあ関係ない話よ。俺とお嬢さん2人の話だからね」
「おいヴァイオリア。さっき俺に言った話とこっちも同じってことか?」
「ちょっと。お嬢さん。そういうの、なんで一番に俺に言ってくれないのかなあ、もう。チェスタに先を越されるなんて腹立たしいったら」
そんなんあなたが来るのが遅いのが悪くってよ。
「……ま、いいや。そういうことで今後ともヨロシクね、女王様」
「ええ、よくってよ」
ひらり、と手を振ってジョヴァンが去っていくのは、私が着替えるため、ですわね。ええ。さっさと着替えて民衆の前に出なくては。
民衆が、私の登場を待ち望んでいますものね。
……そうして5分で着替え終わった私は、王城前の広場へと、舞い戻るのですわ。
悪しき王家の滅びを宣言するため。
新たな国の誕生を宣言するため。
……そして!
「悪は滅びましたわ!今こそ、全ての悪しき過去を葬り去る時!王家の者共も、この邪悪なる城も、全てを無へ返しましょう!」
「火を!」
城を!燃やす為!ですわァーッ!