没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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21話「城を燃やして嗜むお酒は最高ですわね」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今、燃えている王城を眺めていますの!

 

 ……本当に良い眺めですわぁ。何せ、王城が燃えているんですのよ?そりゃあ当然、良い眺めですわよねえ!

 私と同じく、民衆も燃える王城を眺めていますわ。

 古き時代の終わり。新たな時代の始まり。そんな希望と微かな郷愁とを感じながら、広場に集まった民衆は皆、炎の光に顔を照らされていたのですわ。

 

 

 

「さあ、お聞きなさい!」

 私はそんな民衆の前に立ち、いよいよ革命の御挨拶、ですわね。

 横で翻るのは革命軍の旗。背後には燃え盛る城。そして眼前にはこれから私が導いていくことになる民衆。いよいよ革命ここに極まれり、といったところかしら。

「悪しき王家は滅び、忌まわしき歴史を抱く城もまた、こうして燃え落ちていきますわ!そして燃え跡に生まれるのは新たなる国!私達革命軍による、新たな国がここに生まれますのよ!」

 私の挨拶に、民衆がわっと沸きますわ。ええ。まあまあ気分が良くってよ。

「……そして、この私、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアが。僭越ながら、新たなる国を率いさせて頂きますわ。よろしいかしら?」

 そして……私の、実質上の即位宣言についても、民衆の歓声によって迎えられましたの。

 ……お兄様が、『民衆が望んでいる』と仰っておいででしたけれど、本当にこうして望まれて即位できるのですから良かったですわ。

「ありがとう。私、立派に新たなる国を導いていきたいと思いますわ」

 私はそう言って微笑んで、民衆達の声援を一身に受けましたの。

 ……『私は悪党ですわよ』とも、『万人の幸福なんて願いませんわよ』とも、『もし私がヘマをしたら滅ぼしに来なさい』とも、言いませんでしたわ。

 ええ。言いませんわ、そんなこと。

 私が王としてやっていくための意志は、私だけに必要なもの。民衆に教えてやる必要はありませんわ。

 民衆はこれから、精々私に振り回されるといいですわ。そして、悪党の、悪党による、悪党のための政治を目の当たりにしながら……振り回されていることにも気づかず、国が変わっていくことにも気づかないまま、のうのうと暮らしていればいいんですのよ。

 大丈夫よ。私、上手くやりますわ。民衆には不満を感じさせないようにしながら、たっぷりしっかり、悪辣なことをしてやりますわ!

 

「では私の、王としての最初の言葉を発表させて頂きますわね」

 さて。私は民衆を静まらせると……発表しましたわ!

「本日、この日をこの国の、革命記念日としますわ!さあ、めでたきこの日をお祝いなさい!新たな国の誕生を、輝かしい未来を祝福して……今はただ、喜び合いましょう!」

 

 

 

 ということで、民衆達は酒盛りを始めていてよ。最初はフルーティエ家の倉庫から適当に頂いてきたワイン樽や、そこら辺の貴族の家から頂いてきたお酒の瓶を出していたのですけれど、その内、どこかの誰かが王城御用達の紋の入った樽でワインを提供し始めて、いよいよ宴は盛り上がっていきましたわ。

 ……ええ。これ絶対にうちの薬中が出したモンでしてよ!

「よお、飲んでる?」

「ええ。誰かのおかげでね」

 私もお酒を頂いていたら、酒を樽で提供した薬中に早速絡まれましたわ。

「全然酔ってねえじゃん」

「私、酔えませんのよ。お忘れかしら?」

「あー、そういやそうだったっけ。ま、いいんじゃねえの。酔っぱらった王様よりはどんなに飲んでも酔っぱらわない王様の方がいいだろ?」

 そうかしら?……まあ、酔っぱらわないのですから、酔った隙を狙った暗殺などはやりづらいでしょうねえ。今この場で私を殺そうとする者が居ても、非常にやりづらいとは思いますわよ。ええ。

 

 私が飲んでいるところに、民衆があちこちからやってきては酒を注いでいきますわ。私はそれをありがたく美味しくいただきながら、それでいて全く酔わない姿を民衆に見せつけることになっていますわねえ……。

 ……まあ、飲んでも飲んでも酔っぱらわないことで、ある種の神性みたいなものが強まっていいんじゃないかしら。王は民衆と同じ人間であってはなりませんわ。一段上の存在であると、常に誇示し続ける必要がありますもの。それも、愚かではないやり方で、ね。

 そういう意味では、金をばら撒くでもなく、民衆を傷つけるでもなく、無意味な取り締まりを行うでもなく……こうして『飲んでも飲んでも酔わない、人間離れした能力』の誇示だけで『同じ人間ではない』と思わせることができるのですから、悪くなくってよ。

 

 

 

 ……そうして、宴は楽しく続いて……深夜。

 王城の炎はまだ消えていませんから、巨大なかがり火となって広場を明るく照らしてくれていますわ。ええ。深夜の屋外での酒盛りができるのは王城を燃やしたからですのよ。素敵ね。

 私、1人で王城の燃える様を見ながら、お酒を嗜ませて頂きますわ。やはり、燃える王城を見ながらのお酒はとっても美味しくってよ。

 何せ、燃える王城には私のこれまでと私のこれからが詰まっていますもの。激しい炎は過去への賛美と未来への希望。とっても気分がいいですわ。

 ですから、こんな夜に1人でお酒を飲む、ということに抵抗は無くってよ。

 流石に、国王となる人の傍にチンピラ共が居たらまずい、という気がしているのか、チェスタやドランなんかは寄ってきませんわね。キーブやジョヴァンはそれとなく、お酒の追加なり軽食なりを持ってきますけれど、他の誰かが近づいてきたらそれとなく離れていきますし。そつが無いですわね。

 リタルはできるだけ私の傍に居たいようですけれど、こちらは逆に、他の革命軍達や民衆達に押されて私の隣を維持できない状況ですわね。精々強くおなりなさいな。

 ……そして、お兄様は。

「ヴァイオリア」

 いつの間に近づいていらっしゃったのか、後ろにお兄様がいらっしゃいましたわ。暗殺者もかくやという気配の消し方。お見事としか言いようがありませんわね。

「あら、お兄様。驚かせないでくださいまし?」

「はは、それはすまなかった。……さて、少し席を外せるか?」

 ……あら?何の御用かしら。お兄様の御用でしたら、いくらでも離席しますけれど……。

 

 

 

 お兄様に連れられて、私、王城前の広場から離れていきましたわ。

 ……広場を離れるとすぐ、喧噪からも離れていきますわね。今や、王都のほとんどの人間が皆、王城前の広場に集まっているのですもの。それ以外の場所は静まり返っていて当然ですわね。

「お兄様?こちらに何かありますの?」

「ああ。……そろそろかな」

 お兄様はそう仰ると、王都の裏通りの1つへと入られて……。

 ……そこで私は、とっても素敵なものを見つけましたの。

 

「お父様!お母様!」

 そう!裏通りにいらっしゃったのは、私の親愛なるお父様とお母様でしたのよ!ああ、ずっとずっとお会いしたかったですわ!

 

 

 

「ヴァイオリア!ああ、立派になったなあ……!」

「あなたはフォルテシア家の誇りですよ、ヴァイオリア」

 お父様とお母様は、飛びついた私を抱きとめてくださいましたわ。ああ、懐かしい。本当に……これが、私がずっとずっと、取り戻したかったものの1つでしたのよ!

「今までどちらへ行っていらしたの?私、寂しかったのですわ!」

「うむ、すまん。そう思ってお兄ちゃんをお前の下へ行かせていたんだが……」

「お兄様はお兄様で、お父様とお母様とはまた別でしてよ!」

 お兄様がいらっしゃらなかったらもっと辛かったでしょうけれど、お父様とお母様がいらっしゃらないのも辛かったのですわ!ああ、我儘だなんて仰らないでね?私の親愛なる家族ですもの。離れ離れになったら辛いのは当然のことでしてよ!

「そうよね。ええ、ヴァイオリア。ずっとあなた1人で頑張って、辛かったでしょう。ごめんなさいね」

「いいえ……今こうしてお会いできただけで、もう十分でしてよ」

 私は今一度、お母様に強く抱き着かせていただきましたわ。それだけで胸がいっぱいになりますの。

 ……ああ、本当に今日はなんて素敵な日かしら!

 憎き王家は潰え、王城は燃えて!そして私が新たな国の主で、そしてそこにはお父様もお母様もお兄様もいらっしゃるのですわ!

 私……この日のこと、ずっと忘れませんわ。

 

 

 

「父上。母上。あまり時間がありませんよ」

「ああそうだった。すまんな、コントラウス」

 私がお母様に抱き着いている間に、お兄様が何か、お父様に耳打ちされましたわ。するとお父様は何かを懐から取り出して……。

「ヴァイオリア。すっかり遅くなったが、誕生日プレゼントだ」

 お父様が私に下さったのは、美しい細工の拳銃でしたわ。

 

 鉄の銃身は深い銅色で、金の装飾が為されていますわ。特に、引き金の美しさったらないですわね!

 握りの部分は深い飴色の木材でできていて、握る邪魔にならないように工夫した彫刻が入っていますのよ。

 そして……少しばかり、不思議な形状をしているところがまた、風変わりで美しいのですわ。私、一目でこれを気に入りましてよ!

「まあ、綺麗……!」

「美しさだけでなく、性能も素晴らしいものに仕上がっているぞ。何もかも、お前のための特別製だ」

 ああ、嬉しい!こんなに素敵なプレゼントを頂けるなんて、思ってもいませんでしたわ!

「お兄様が仰っていたのはこれでしたのね?」

 以前、お兄様が仰っていたことを思い出して私、そう言いましたわ。これが『誕生日プレゼント』ですものね?

 ……と、思ったのですけれども。

「いや?違うとも」

 お兄様は笑って、そうお答えになったのですわ。

 ……あら?でもこれは誕生日プレゼント、と……。で、ではこれは一体?

「それは、『去年の』誕生日プレゼントだよ。まさか、去年の分を抜きにしろなどとは言わないだろうね?」

「あなたのお誕生日は、1回も逃さずお祝いしたいのですよ、ヴァイオリア」

 ああ……私、こんなに思ってもらえて、幸せ者ですわね。

 私、フォルテシアの家に生まれて、本当によかったですわ……!

 

「そういうことだ。なので、今年の分の誕生日プレゼントはまだもう少し待ってくれ」

「はい。そういうことなら楽しみにさせて頂きますわね!」

 そうだわ。私、自分ばかり頂いて……お父様とお母様とお兄様の分のプレゼント、去年の分を用意しなくてはなりませんわ。それもまた楽しみですわね!

「少し準備に手間取っていてな。ふむ……まあ、そう遅くなく調達できるだろうから、まあ、楽しみにしておくんだよ」

「お母さんも準備していますからね。もう少しすれば、また家族そろって過ごせるようになりますよ」

 お父様とお母様はそう仰って、すぐに路地裏に停めてあったペガサスに乗って飛んで行かれましたわ。途中でお姿が掻き消えるように見えなくなったのは、風や闇の魔法を駆使した結果かしら?それとも、純粋に幻覚の魔法だったのかしら……?私もアレくらいのことができるように、精進していかなければなりませんわね!

 

 

 

「……行ってしまわれましたわぁ」

「そうだな。父上も母上も、少しお忙しいのだ。けれどお前は一目でも会いたいだろうと思って……」

「ええ!お兄様、本当にありがとう!嬉しいですわ!」

 きっと、お父様もお母様もお兄様も、とってもお忙しい中、今日という日を祝うために集まってくださったのですわ。感謝してもし足りませんわね。

 

 その後、王城前の広場へと戻っていく道すがら、お兄様にお伺いしてみましたわ。

「……ところで、お父様とお母様が用意してくださっているものって何かしら?」

「おや。誕生日プレゼントの中身を知りたがるとはな」

 だって、気になりますわ。とっても気になりますわ。

「……ふむ。まあ、言ってしまってもいいだろう」

「あら、教えてくださるの?」

「ふふ、ヒントだけだぞ」

 お兄様は優しく微笑んで……仰いましたわ。

 

 

 

「ヒントは『隣国』だ」

 

 

 

 ……あ、もしかして私、一国どころか二国の主になりますの?

 

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