没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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22話「戦いなさい!戦うのですわ!」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 

 革命からおよそ3か月。

 この頃にはもう、ごたごたしていた諸々もある程度片付いて、私はいよいよ、仕事の内容を『革命の後片付け』から『新たな国づくり』へと転換させていますの。

 ……ええ。思っていたよりもずっと早かったですわ。これも、民衆の理解あってのことかしらね。

 民衆の理解に一役買ってくれたのがキャロルでしたわ。あの子が新たな王国の設立を祝福してくれたおかげで、どっちつかずだった一部の民衆も新たな国についてくるようになりましたわ。

 大聖堂との仲は良好。女王と聖女が仲良くお茶をしている様子を見せつけさせてもらったりして、私はどんどん自分の地位を安定させていったのですわ!

 

 ……けれどどうしても、前王家側の残党も居ますもの。そういった連中は……こっそり、始末させてもらいましたわ。

『女王直属の騎士』を使って、ね。

 

 

 

 女王になってすぐ、汚れ仕事と手を切れるはずはありませんわね。

 鞄農園で葉っぱを生産させているのをやめるつもりはありませんし、エルゼマリンの裏通りの居心地の良さを捨てる気はありませんし。

 ……ですから、そういう所と私とを繋ぐ、信頼のおける者達を『女王直属の騎士』としてこっそり任命してありますの。

 ええ。ドランもチェスタも私の騎士扱いで雇っていますのよ。ついでにジョヴァンは私が個人的に取引している商人ということにしてありますし、キーブは王国の魔法研究室に配属されつつ、ついでに私直属の騎士にもしてありますわ。更についでに魔法研究室の制服を可愛いドレスにしようとしたら怒られましたわ。駄目でしたわ。仕方ないから私室に招いた時にこっそり着せますわ!

 それから、リタルは文官の役に就かせていますわね。彼は表向きの用事で使っても問題ありませんから便利ですわねえ。本人が貴族として教養を身に着けてきた分、使い勝手は悪くありませんのよ。

 あ、ちなみにクリスは兵士長の任に就かせましたわ。何といっても、前王家から寝返ってきた兵士達はクリスと顔見知りだったりしますもの。扱いが上手いのは当然ですわね。そしてクリスですから、多少扱いが雑でも大丈夫ですわ。便利ですわね、彼。

 

 ……ということで、私の『騎士』達は王国の裏の世界で暗躍しては、今の王国に害をなす者達を始末してくれていますのよ。

 ここのところが前国王とは違うところですわね。

 国の汚い部分を見てみぬふりで押し通すのは愚かですわ。汚い部分があるのなら、自分が汚い手を使ってでも知りに行かなければなりませんの。そして汚い部分さえも手中に収めてはじめて、まともに国が動かせるんじゃないかしら。

 

 

 

 新たな城は建設中ですから、私室は王都の一角の貴族街のお屋敷の1つ、ということになっていますのよ。公室は建設中の城の傍にお兄様が作って下さった仮ごしらえの集会所がありますから、そこですわね。

 ……そして今夜も私は私室へ戻って、休む前に報告を受けることにしますわ。

「今回始末したのはホーンボーン家の傍系だった連中だな。前王家派を名乗りつつ、地下で仲間を集めようとしていたらしい。連中の集会所に乗り込んで、全員殺すか生け捕りにするかしてきた」

「あら、それはご苦労様。やっぱり敵は始末するに限りますわねぇ」

「そうだな」

 今日、報告に来たのはドランでしたわ。いつも日替わりで誰かが来てくれるのですけれど、まあ、ドランの報告は割としっかりしているので安心できますわ。ちなみに、一番安心できない報告者は当然ですけれどチェスタですわ。時々ラリりながら報告に来てくれますわ。本当に安心できませんわ。

「では、生け捕りにした者達はいつも通りに処理して頂戴。サキ様によろしく伝えておいて頂戴ね」

「ああ。……それから、別件なんだが」

 あら。今日の報告は少し長めですわね。いつもでしたらこの後少し雑談をして終わり、という程度なのですけれど……。

「一部の元貴族が妙な動きをしている」

「妙な動き?革命返し、というわけではなくって?」

 今夜ドラン達にぶっ潰されたというホーンボーン家の傍系達のように、私を殺して元の王国を取り戻そうとする連中が居る、という話なら分かりますのよ。ええ。そういう連中を始末するためにドラン達が動いてくれている訳ですし。

 けれど、『妙な動きをしている』というのは……?

「どうやら、お前に取り入ろうとしている奴らが居るらしい」

 

 

 

「取り入ろうと……?それっていつものことなんじゃなくって?」

 当然ですけれど、私が女王である以上、この国で一番の権力者ですわ。

 そして、強い権力はその権力に擦り寄ろうとする者達を集めてしまうもの。特に、権力に慣れてしまった元貴族共は、私に擦り寄っていい暮らしをしようとしていますわね。

 ええ。当然ですけれど私、そんなに甘くなくってよ。

 元貴族共は前王家についていた者達ですわ。つまり、無能揃いですわね。私、働きもしない連中を『熱心に擦り寄ってくるから』なんてくだらない理由で重用したりはしませんわ。無能には無能らしい地位について頂きますのよ。

 というか、貴族なんて制度は消し去りましたわ!王でもない癖に妙に威張り散らす『権威』が居るなんて、邪魔以外の何物でもありませんもの!

 この新たな国では『王とそれ以外、時々奴隷』という身分制度にしてありますわ。貴族なんて要りませんの。この国を動かすのは私ですわ。横から茶々を入れつつ甘い汁だけ吸っていこうとするような無能共にくれてやる地位なんて無くってよ!

 ……と、まあ、ですから私、終始こんな具合に振る舞っておりますのよ。

 元貴族が『前の王国では貴族だった』という何の役にも立たない箔を見せびらかしながら擦り寄ってきたら『不敬』の一言で屋外なり肥溜めなりブタ箱なりにぶち込んでやっていますわ。或いは度を過ぎるようなら、ドラン達にお願いして棺桶にぶち込んでもらっていますわ。

 ……でも、今回は違う、という事なのね?

 

「ああ。まあ、始末してもいいんだろうが、放っておくと次の連中が湧いて出るだろうからな。報告はしておくべきだろうと思った」

「あら。それは深刻ですわね。それで、『妙な動きをしている』『取り入ろうとしている』というのはどういう事ですの?」

 妙に歯切れの悪いドランを前に私がそう尋ねると……ドランは少し困ったような顔をしつつ、言いましたのよ。

 

「お前と婚姻関係を結ぼうとしている連中が大勢いるぞ」

 

 

 

「……ちんたまが」

「もげると知っている者は少ないだろう」

 ああ、そうでしたわねえ……。私の血が毒だということは極秘情報ですわ。私の最大の武器ですもの。公表してやる理由がありませんわ。

 けれど……そこを隠しておくせいで、ちょいと面倒なことになっていますわねえ……。

「何なら、お前との間に子を成せなくても問題ないと思っている連中も居るだろう。とりあえず、夫とその家族、という繋がりが得られればいいんだからな。何なら、次の王は夫の家の誰か、というようにできれば最高だ、などと考えているかもしれない」

「鬱陶しい連中ですわぁ……」

 ドランが報告を躊躇った理由も分かりますわね。なんとも生々しいお話でしてよ。

 けれど、確かに私が唯一の権力となってしまった今、こういう擦り寄り方をしてくる連中が出てくるのは当然のことですわね。ええ。もっと予想しておくべきでしたわぁ……。

「……お前自身は、結婚の予定は無いのか」

「無いですわねえ……。ええ。というか、しないつもりですわ」

 正直に答えると、ドランからは少し意外そうな顔をされましたわ。

「まあ、当然ですわね?伴侶に選びたいような殿方が見つかったとして、その方のちんたまもぐ訳にはまいりませんし……ちんたまもげてもいい野郎とは特に結婚する理由がありませんわね」

 更に正直に答えたら、ドランには複雑そうな顔をされましたわ。

「なので、もし跡継ぎが必要ならお兄様の子を、と考えておりますわ。それなら問題は無いでしょうし」

「……なら、子を成す必要はないだろう。それでも結婚はしない、と?」

「そうですわね。特にする意味がありませんわ。虫避けの為だけに結婚、というのもねえ……」

 むしろ、下手なしがらみを作ってしまうのは得策ではありませんから、結婚はしない方がいいでしょうね。ええ。

 じゃなきゃあまた貴族のような存在が生まれてしまうことになりますもの。それでは本末転倒でしてよ。

 

「……ダクター王子に操を立てている、ということか?」

「は?」

「一応は婚約者だったわけだろう。あいつは」

 ……ということで返答していたら、なんかちょっとすごい方向へ飛躍されてしまいましたわ。なんだか既視感のあるやり取りなのですけれど……あ、そういやこんなやりとり、以前、ジョヴァンとやりましたわね。なら答えも決まっていて簡単ですわ。

「まあ、彼のことを想っていると言えばそうですわねえ。さっさと見つけ出してぶち殺して差し上げたいですわ」

「成程な。それはそうだろう。だが、殺しながら義理立てすることはできる」

 ……複雑な事を言ってきますわねえ。ジョヴァンと同じくらい性質が悪くってよ。

「ご心配なさらずとも、あいつに立ててやる義理なんて欠片たりともありませんわよ。ついでに、捧げてやる人生もありゃしませんわね」

 私がそう答えても、まだドランは何となく納得していないような顔ですけれど……まあ、勝手に疑う分には構いませんけれど、実害は出さないでほしいですわね。ええ。

 

 

 

「まあ、そういうことですの。私、伴侶は得ないつもりですわ。特にそう発表することも無いとは思いますけれど……」

「……だが、このままでは絶対に、婚姻の申し入れが殺到するだろうな。今は元貴族に留まっているが、その内、他国の王族からも婚姻の申し入れが来るだろう」

「あ、それ考えてませんでしたわ……」

 よくよく考えてみたら、女1人で治めている国なんて、他国からしてみたら相当美味しい餌なんじゃなくって?

 私が女1人であることにつけこんで、婚姻という手段を用いた侵略行為を狙ってくる他国も出てくるかもしれませんわ。

「そういった厄介ごとを避けるためにも、いっそ特定の相手が居ると公言してしまった方がいいと思うが」

「えええ……」

 何と言うか、悉く意外ですわねえ。本当に。

「……キーブかリタルあたりはどうだ」

 えっ!?本当に意外ですわねッ!?

 

「キーブは駄目よ。あの子は真っ当なところでちゃんと幸せになるのですから」

 なのでさっさとそこは釘を刺しておきますわよ。ええ。キーブはちゃんと、幸せになるのですわ!決まってますのよ!それはもう決まってますのよ!

「そしてリタルじゃあ、ちょいと綺麗過ぎましてよ。これ以上彼をこっち側に引っ張り込むのは可哀相ですわぁ……」

「ならチェスタはどうだ」

「綺麗じゃなきゃーいいってもんじゃーありませんわよ」

「だろうな」

 分かってんなら最初っから聞くんじゃありませんわ!笑ってるんじゃあありませんわ!ぶん投げますわよ!

「次はジョヴァンやあなた自身、なんて言うんじゃないでしょうね?」

「流石にそれは言わない。俺もジョヴァンも、身の程は弁えている。女王陛下の夫が務まる性分じゃあないな。厄介事を望んでもいない」

「安心しましたわぁ……」

「……あいつは『愛人でいい』くらい言ってのけそうだが……まあ、結局は面倒が勝るだろうな。あいつもあれで、金と自由は愛で代替可能らしいが、逆に愛を金と自由で代替することもできる性質らしい」

 あー、容易に想像がつきましたわ。ええ。そもそも、夫だろうが愛人だろうが、利益よりも不利益が勝つならば絶対になりませんわね、ジョヴァンは……。

 

「……まあ、俺達はともかくとして、お前は身の振り方を考えておいた方がいい。面倒事はその内、確実に来るからな」

「その時はあなたに片っ端から始末してもらいますわよ」

「他国の王族も、か?それは荷が重い。割に合わねえな」

 ああー……そうなんですのよね!そうなんですわ!

 この国の中のことならまだしも、国の外のこととなると、あんまりにも面倒なのですわ!

 ああ、本当に、面倒な……面倒ですわ!あーッ!面倒ですわーッ!

 

 

 

 さて。

 翌日から早速、面倒事がやってきましたわ。

 ……ええ。そうですのよ。

 旧貴族共が、すり寄ってきましたわ!

 

 とりあえず擦り寄ってきた貴族共は全員追っ払いましたわ。優雅に追っ払うのも大変でしてよ。これが人気のないところだったらこの世から追っ払っていましたけれど、一応、公衆の面前ですからね。この世からサヨナラバイバイな訳にもいかず、随分と苦労しましてよ。おほほほほ。

 ……それにしても、本当に貴族っていうもんは掌返しが大好きですわね!ついこの間まで『反革命軍』を掲げていた貴族も、今や私に擦り寄るチャンスを耽々と狙っている有様。強者や権力者に擦り寄りたい気持ちは分かりますけれど、それにしてもあんまりなんじゃあなくって?

「……王になるとこういう苦労もあるんでしたわねえ」

 そういや私もダクター様との婚約が決まるまではあっちこっちから引っ張りだこでしたわ。勿論、フォルテシア家の財産狙いの碌でもない連中から、ですけれど。

「そ、そうですよ!ヴァイオリア様!どうにかしてヴァイオリア様に取り入ろうとする奴らは、絶対にもっとたくさんいます!クラリノ家の残党も狙っているようで、僕はとても心配です……」

 昼間は私の傍に居ることが多いリタルは、ドランよりも婚姻云々の心配をしていましたわ。この子が一番心配性なんじゃないかしら。

 けれど、クラリノ家の残党も狙ってる、って、それ、リタルも含まれるんじゃありませんこと……?あなた、自分の立場、分かってますの……?あなた、一応クラリノ家の傍系でしたのよね……?

「クラリノ家はクリスを使って黙らせておけばよくってよ。その他の連中にしても、適当にその都度黙らせておけばいいのですわ」

「結構な手間になると思いますが……」

 うー……手間は仕方なくってよ。そこは諦めていますわ。

 ただ、私、伴侶を得ることはないわけですし、こればかりは言い訳を他に作るしかありませんわねえ。うーん、今は伴侶どころではない、という言い訳は今後何年使えるかしら?精々1年くらい?1年もすれば私の手腕で王国はある程度安定していくでしょうし……そこらへんが限度、と考えると、それを先取りしたい貴族共はもう今からでも動くことになりますし……。

 

 

 

 ……決めましたわ。

 私、名案が浮かびましたのよ。

 臣下も伴侶も『私の思うがままに』選ぶ方法ですわ。つまり、『誰も必要無い』という選択をする方法がありますのよ!

 つまり『結婚するに値する者が居なかった』とすればいいのですから……。

 

「武道大会を開きますわ!優勝者が私にプロポーズする権利を得るのですわ!」

「分かりました!僕、頑張ります!」

「ちなみに決勝戦は準決勝まで勝ち上がった者と私による一騎打ちですわ!」

 

 リタルが『もう駄目だ』みたいな顔してますけれど、知ったこっちゃーなくってよッ!

 

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