ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、武道大会開催のお知らせを出していますの!
「……思い切ったことをされましたね」
「そうかしら?ああ、キャロル。あなたも是非、見学にいらっしゃいな。私の雄姿を見せてあげますわ」
「それは楽しみです!でも……先生が結婚相手を探される、なんて……」
「大丈夫よ。私、負けませんから」
……ええ。そこですのよ。
『武道大会で優勝した者だけが私にプロポーズする権利を得る。』この仕組みの良いところって、私が負けない限り誰とも結婚しない理由ができるということですわね。
そしてある程度歳をとって体力が衰えてきたならば、そもそもその頃にはもう求婚の嵐は止んでいるでしょうし。若さが消えるまでの間防衛し続ければいいのですから簡単なことでしてよ!
「ああ、これ、1年に1度の開催にしようかしら。そうすれば年1で強者と戦う口実ができますのねえ……」
「あんまり無茶はしないでくださいね。暗殺者が混じっていたらどうなさるんですか」
「その時は大人しく殺すか殺されるかしますわ!」
……というか、結婚云々が面倒という以前に、単純に強者が集まって戦う場が設けられるという点に非常に興奮しますわね!ええ!むしろそっちが主目的でいいですわ!私、戦いたいですわ!オーケスタ王家が消えた今、こうでもしないと私は戦えないのですわーッ!
……ということで早速、国中にお触れを出しましてよ。
それは即ち、『武道大会のお知らせ』ですわ!……つい半年くらい前に、こんなの見た気がしますわねえ……。まあ、アレのようにお粗末な結果にはしませんわ。やるからには徹底的に楽しい催し物にしましょう。
武道大会の優勝賞品は『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアに求婚する権利』もしくは『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアへの請願権』ですの。まあ、要は私にプロポーズするか、私に何かお願いするかのどちらか、ということですわね。
勿論、お祭りごとですから、大体の願い事は叶えてやるつもりですわよ。『貴様の首を寄越せ』とか言われない限りはね。
国中へ武道大会のお知らせが公開されると、早速、申し込みが殺到しましたわ。
……殺到、しましたわぁ……。
「おかしいですわね……第一回武道大会はもう少し慎ましやかな開催になる予定でしたのに……」
「ヴァイオリア様!だから僕、言ったじゃないですか!ヴァイオリア様を妻に、と思う人は多いんです!権力や地位を抜きにしても、たくさんいるんです!だからこの数になるのは当然のことです!」
「あらぁ……大変ですわね、リタル。頑張って捌いてくださいな」
「はい!必ずやご期待に……あっ、あっ、そうじゃなくて!そうじゃなくて!」
申込用紙を処理するのはリタル達文官の仕事ですから、国王たる私は知らんぷりでやり過ごしますわ!頑張って頂戴ね!あ、クリスなら好きなだけ使ってよくってよ!
……そうして、申し込みを締め切るまでの1月の間に、申し込みはとんでもない数になったのですわ。
これは……前王家が開催したアレを遥かに超える規模になりそうですわねえ……。
その夜。
私は直属の騎士共と雁首揃えて悩んでおりましたのよ。
「どうしてこうなったのかしら……」
「……目新しさはあるだろうな」
「お嬢さんが魅力的だからよ、そりゃ」
「物好きって案外多いんだなー」
「逆になんでこうなるって分からなかったの?」
「僕は申し上げましたよ!?申し上げましたよね、ヴァイオリア様ぁ!」
……ええ。
申し込みが1000人を超えましたわ。
びっくりですわ!びっくりですわ!なんでこんなんなってるんですの!?そんなに私と結婚したいんですの!?バカなんじゃーありませんこと!?ちんたまもげますわよ!?
……まあ、ちんたまがもげると知らずに申し込んでいるのですから可哀相なものですわね。ええ。
ところでこの国の中だけでなく、他国からも次々と申し込みが殺到しましたの。むしろ他国からの申し込みが目立つのは、まあ……王国の乗っ取りを考えている、ということでしょうね。なら丁度いいですわ。女王の強さを知らしめて、そう簡単に征服できないということを教えてやるいい機会ですわ!
……けれど、1000人も居れば、強者もそれなりの数、混じっていることでしょう!それは楽しみですわ!
「いいですこと?この武道大会は女王の強さと権威を示してやるいい機会なのですわ!」
私は最初にそう言っておいてから……続けて、言いましたの。
「ということで、1000人の野郎共には私の掌の上で争って頂きましょうね」
……そうして、武道大会開催の2週間前。
私はお触れを出したのですわ。
『武道大会に参加するためには、招待状を手に入れなくてはならない』とね。
その『招待状』というのは、指輪ですわ。鉄と真鍮でできたものですけれど、細工は中々綺麗でしてよ。
その『見本』もお知らせと一緒に配布しましたわ。ですから、招待状がどんなものかは皆に分かるはず。
……その上で、私は招待状をあちこちにばら撒きましたわ。
例えば、海の底。
例えば、魔物の巣窟の奥。
例えば、ちょいとお兄様が建てて下さった塔のてっぺん。
例えば、王家公認山賊のアジト。
例えば、王都の近くに放したシリゴミスライムの体内。
例えば、私の指。
そういったところにばら撒かれた招待状の数は、全部で100。回収されないままのものが出てくるということを考えて……大体30人くらいが参加できる、のではないかしらね。ええ。
勿論、招待状の入手方法は問わない、としてありますわ。どこで入手してもよい、とね。
ですから、裏ルートで入手しても構いませんわ。或いは……偽造する強者も居るかもしれませんわね。まあ、偽造防止のために指輪の裏側には1つ1つ文字列が刻んでありますわ。『どんな文字列が刻まれているか』を予想して偽造できるような賢い者が居たら、そいつには是非、参戦してもらいたいものですわね。私、賢いものは好きですのよ。
さて。
お触れを出したその日から、人々は一斉に動き出しましたわ!
気分は宝探し、ということなのでしょうね。街中を無邪気に探す子供達の姿も見られましたわ。
……うーん、来年からはこれ、同時に『武道大会には関係ないけれど、見つけて大会本部まで持ってくるとお菓子が貰える指輪』も街中に隠しておこうかしら。そうしたら子供達も楽しめますわねえ……。
まあ、それは置いておくとして……町外れ、王都近くの森の中、エルゼマリン近くの海の中、王都の横に聳えている塔など、あちこちに挑戦者たちが散らばって、あちこちを探していますわ。
うーん、楽しいですわね、これ。宝探しって大人も楽しめる催しですのね。私、他にも特殊なインクと特殊なスタンプを使ったスタンプラリーを行うですとか、魔物がウヨウヨ居る険しい山のてっぺんに第二次参加申込所を設けるですとか、いろいろ考えたのですけれど……まあ、今回のコレが一番楽しくて、尚且つ適度に不正がしやすくっていいんじゃあないかしらね。
ええ。ここは悪党が治める国ですもの。不正は大歓迎ですのよ。勿論、すぐに見破られるようなつまらない不正は許しませんけれどね。
……というところで、適当な日を選んで私達、秘密裏に会合を開きましてよ。
何のためですって?利益と愉悦の為ですわ!
そして!ついでに愚痴るためですわ!
「私の指輪を盗りに来る輩は居ませんのよ……」
ええ。本日の話題のメインはこれですわ。
私が指輪を着けていれば、自然と誰かが襲い掛かってきて戦闘を楽しめるんじゃないかと思ったのですけれど、そんなに甘くありませんでしたわぁ……。
武道大会の前にちょいと楽しめるかと思ってましたのに!あんまりですわ!
「俺の所には来たぞ」
「えっ!?ずるいですわ!」
一方、さっさと魔物の巣窟の奥から招待状をとってきて、わざとらしく見える位置に指輪を着けているドランには挑戦者が沢山来たとか……。あああ、この戦闘狂!楽しそうですわ!とっても楽しそうですわ!羨ましいですわ!妬ましいですわーッ!
「あ、そうだ。お嬢さん。武道大会が始まったら、賭けやっていい?売り上げの一部はお納めしますよ?」
賭け、ですの?……まあ、面白そうですわね。ええ。ジョヴァンのことですからヘマはしないでしょうし、特に止める理由はありませんわ。
「こちらの取り分は3割でよくってよ。後は好きにおやりなさいな」
「さっすが女王陛下。太っ腹ね」
まあ、折角のお祭りですし、これくらいはやってもよくってよ。賭け事をしてその売り上げを国の為に使う、とでも言っておけば、民衆も反発はしないでしょうし。
こういう『ちょっぴり悪いこと』を国が率先してやっておけば、国に敵対するタイプの悪党は出てきませんものね。国の意向に沿うような悪党が出てくる分には何ら問題なくってよ。黙認するどころか、何ならスカウトしに行ってこっちの仲間に加えますわ!
今後とも明るく楽しく朗らかに!そして積極的に!楽しくてちょっと悪いことを支援する王国でありたいものですわね!
……ということで、ドランが遊んだりジョヴァンが稼ごうとしていたり、色々と周囲も楽しみながら、この武道大会は開幕しましたのよ。
ちなみに参加者は20人くらいでしたわ。予想よりずっと少なかったですわね。
やっぱりシリゴミスライムに指輪を持たせたのはやりすぎだったかしら……?それとも、海底が少々キツかったのかしら……?お兄様の塔が結局、キーブ以外誰も突破できなかったらしいところを聞くに、やはりそちらが原因だったのかしら……?
……全部ですわね!