流石はバケモンですわね。
ドランの初撃、容赦のない蹴りを紙一重で躱しながら、私、一気に興奮しましてよ。
即座に繰り出される第二撃。更に私を追いつめる第三撃。それら1つ1つがうっかりすれば致命傷。こんなスリル、中々無くってよ!
そして、これらの何が快いのかといったら、ドランが自分の力を完全に制御した上での攻撃だという点ですわね。
今は亡きオーケスタ国王が怪物になった時は、確かに力こそ凄まじかったですけれど……そこに技術は碌にありませんでしたし、力に振り回されているような見苦しさがありましたのよね。
その点、ドランにはそういった無駄や隙が一切ありませんの!完全に自分の力を制御して、技術と力が一体となった技を見せてくれますのよね。
これは楽しいですわ!お兄様が楽しんでおいでだったのもよく分かりましてよ!
さて。私が一方的に避けている状況では、観客に心配されてしまいますわね。
私、反撃しますわよ。
私の得物は剣ですわ。今日は私が一番得意とする細身の片手剣での出場ですわね。
突いてよし、斬ってよし、魔法の媒介としてもよしな一振りで三度美味しいこの剣で、華麗な剣技を見せてさしあげますわよ!
まずは、ドランの動きを見切って心臓狙いの一撃。
何気ないようでいてまるで容赦のない攻撃に、ドランの毛が逆立つのが見えましたわね。
それでも私、容赦しなくってよ。ドランが拳を振り抜いた瞬間を狙って、拳を躱しつつドランの目玉を狙ってやりましたわ!
……するとドランはなんと、腕で剣の刃を受け止めましたのよ!
篭手を着けているとはいえ、腕で剣を受け止めるなんて中々の度胸ですわね。これには私もにっこりさせられますわ!
では、度胸試しと行きましょう!次に狙うのはドランの右胸!
……人間、心臓を刺されたら死ぬような印象がありますけれど、実際のところ、大体どこ刺されても死にますわ!特に、息を吸って吐くのに使う肺は、案外大切な臓器ですの。
ですからこれが当たれば十分に致命傷。そんな一撃を前に、ドランはまた、剣を受け止めましたわ。
「度胸がおありのようね!」
「度胸無しに悪党が務まるか!」
さて、続くドランの反撃は剣でいなして躱して……私達、また少し距離を取ったら、即座にぶつかり合いましたわ。
……楽しいですわね。
私、昔から舞踏会で踊っている時よりも、武道大会で剣を振るっている時の方が楽しかったのですわ。
女王になってしまって、もうこんな楽しみ、できないのではないかしらとも思ったのですけれど……杞憂でしたわね!
「楽しい!楽しいですわッ!さあさあさあ!もっと戦いましょう!もっともっと、私を楽しませて!」
この興奮!一手誤れば死ぬような紙一重の世界!瞬時に繰り出されてくる、見たことも無いような一撃一撃をその場で判断して躱していなして、更にその奥に隙を見つけては剣で強引にこじ開けに行く!
この楽しさったらないですわ!ああ、本当に、私……今、楽しんでますわッ!
私とドランの攻防は、人間離れした迫力をもってして観客を魅了しましてよ。
ドランのバケモンっぷりもそうですけれど、私の強大さを思い知るいい機会になったのは間違いないですわね。ちらりと見た観客席では、他国の王族貴族達が唖然としていましたの。気分が良くってよ!
……けれど、いつまでもこのままというわけには参りませんわね。
私、勝負に出ましてよ!
やったことはさっきのドランと同じ。ドランがお兄様相手に、一撃食らって脚を捕まえた、アレですわ。
私は私の首を晒して、如何にもな隙を作ってみせてやりましたわ。
ドランはそれを見て少し驚いたようですけれど……にやりと笑って、乗りましたわね!
そこで私は、私の首目がけて放たれた蹴りをじっくり見定めて……剣で一撃、入れてやりましたわ!
……カラン、と音がして、私の剣が落ちましたわ。
ええ。ありえないことが起きましてよ。私……剣を、弾かれましたわ。
やりやがりましたわね。ドランったら、私の首から私の剣へと狙いを変えて、剣を弾くためだけに一撃入れてきやがったのですわ!
中々味な真似をしてくれるじゃーありませんこと!これは楽しいですわね!
「しょ、勝者……」
審判がドラン側に勝利判定を下そうとしましたけれど、ドランの攻撃は終わりませんわ。
そう。私はまだ、剣を弾かれただけ。ドランはまだ、剣を弾いただけ。お互いにまだ、まともな一発を入れてませんのよ!
「まだよ!私はまだ戦えますわ!」
私、そう審判に言ってやると、ドレスの裾を一気に裂いて動きやすい恰好になりましたわ!観客席から歓声が聞こえてきますわね!ジョヴァンは嘆いている気がしますけれどそれは後回し、ですわ!
「徒手空拳だと弱いとでも思ったかしら!?私、素手でもボチボチ強くてよ!」
「はっ。『ボチボチ』か!その程度で勝てると思うなよ!」
ドランが牙を剥くように笑うのを見て……私、飛びましたわ!
王家の装備によって強化されたのは、私の身体能力だけじゃありませんの。毒にほとんど全部持っていかれていた魔力も、すっかり強化されていますのよ!
ですから……元々多少は使えた風の魔法で!空を飛ぶことだって、十分に可能なのですわ!
風の魔法を用いて、『物理的にあり得ない』挙動をしてやるのは中々ドランに効きましてよ。
右回転しながら跳躍して回し蹴りを放つと見せかけて、完全に体の挙動はそれにしつつ、でも風魔法で無理矢理体を左回転させて逆から蹴りを入れてやるですとか。
一気に走っておいて、けれど風の魔法を使って慣性も何も無しに急停止、急転回してやるですとか。
一度場外にわざと飛び出しておいてから無理矢理戻ってくるですとか。
何なら空中で2回目の跳躍をしてやりましたし、空中で姿勢を変えてやれますの。ええ。これって、『普通に』戦っている者からしたらとんでもない反則技ですわね。
「頂きましたわッ!」
ということで私、見事、ドランの鳩尾に突きを食らわせてやることに成功しましてよ!
「くそっ……!俺が化け物ならお前も化け物だな!」
誉め言葉ですわねえ!嬉しいですわ!化け物に化け物って言われましたわ!
「さあさあ!その化け物に狩られたくなければもう少し頑張りなさいな!」
続いてドランの横っ面に蹴りを入れてやりつつそう言って煽ると、ドランはにやりと笑って……身体強化魔法を極限まで高めましたのよ。
……一撃で決めるつもりなのですわね。私が避けようが防御しようが絶対に当てて、絶対に落とす構え、というわけですわ。
なら私は……それを避けに避け続けるのは、少々ナンセンスですわね。
折角、ドランが全力を出してくれるのですもの。私もそれに応えましょう。……この拳でね!
私も奥の手を出しましたわ。
私は王家の装備の力や、それによって強化された私の魔力を拳へ集めて……更に、火の魔法を纏わせましたの。
私の拳で輝き燃え盛る炎は、私の色。赤色ですわ。これ、単なるこけおどしじゃあなくってよ。光と熱とで距離感を分からなくする効果がありますし、相手の身体強化魔法と干渉しあって溶かす意味合いもありますわ。
私の炎は今までにあれこれ焼いてきましたわ。憎き復讐相手も焼きましたし、あちこちの家屋も焼きましたし、王城も焼きましたわ。
今まで私の象徴のように使われてきたこの炎。これをもってして、ドランを迎え撃ちますわよ!
「準備はできたか」
「ええ。では……参りますわッ!」
身体強化魔法によって極限まで強化されたドランの拳と、王家の装備の力と増強された魔力と、そして炎を纏って唸る私の拳。
その2つがぶつかり合った瞬間、ステージ上には特殊な魔法同士がぶつかり合った際に起きる烈風が吹き荒れ、衝撃が走り……。
鈍い音と共に、ステージが崩壊しましたのよ!
とんでもなく圧縮された魔法同士がぶつかり合って、その干渉にステージが耐えられなかったようですわね。ええ。私、崩落していくステージの上で、私と同じように唖然としているドランを見つけて……。
……それから3分後。
ステージが崩落した跡にもうもうと立ち上る土煙は少し薄れて……やっと、ステージの崩落跡で起きていることを、観客達に見せましたのよ。
ええ。観客も審判も、確かに見たのですわ。
私が!この私が!
ドランの首をガッチリ極めているところをねッ!!
「しょ、勝者!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア陛下!第一回フォルテシア武道大会の優勝者は、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア陛下です!」
審判の判定から少し遅れて、観客席が一気に盛り上がりましたわ!
私は観客達の声援を受けながら、ドランの首を放してやりましたわ。
ドランは少し咳き込んで首を振っただけで普通に立ち上がると、私に片手を差し出してきましたのよ。
「俺の負けだ。……だが、楽しめた」
「ええ。私も。とても楽しかったですわ」
私はドランの手を握り返して、にっこり満面の笑みですわ!
ああ、本当に楽しかったですわねえ。こんな興奮、中々味わえるもんじゃーなくってよ。これが次は一年後、ですの?ああ、今から待ち遠しいですわねえ……。
「……さて、女王陛下。観客に挨拶してこい」
「ええ。そうさせて頂きますわね」
私はドランにそう言って、また風の魔法を使って崩落の上へ出ようとして……ふと、気になって聞いてみたのですわ。
「ところであなた、勝ったらどうする気でしたの?私にプロポーズする気は無かったわけでしょう?」
「ああ、そうだな」
ドランは少し迷ったような顔をして……それから、にやりと笑って応えましたわ。
「もう一戦、所望していた」
「あら素敵」
彼らしくていいですわね。本当にそれを元々お願いする気だったのか、今考えたのかはさておき、素敵なお願い事ですわ。
それならば……私だって、叶えるのはやぶさかじゃあなくってよ!
さて。
その後、私はステージ崩落跡の上へと戻って、そこで優勝者として、そして女王として挨拶することになりましたわ。
観客達は興奮冷めやらぬ様子で私の挨拶に聞き入り、私が『誇りなさい。あなた達の王はこれだけの強さをもっていますのよ。私は今までの無能とは違いますわ!この力、存分に国民のために使いましょう!』と言ってやったところで感涙を流し、私が『ところで、今回の大会では私に相応しい殿方はいらっしゃいませんでしたわね!次回に期待しますわ!次回も是非、楽しませてくださいまし!』と締めくくったところで苦笑交じりに大笑いし……そうして、第一回フォルテシア武道大会は閉幕したのですわ。
……ただし。
「あ、お嬢さん」
「またあなたですの!?今度は何の厄介ごとですの!?」
閉幕の挨拶を終えた私が舞台裏へ向かったところで、ジョヴァンと遭遇しましたわ!彼、私が裂いた裾を隠すためのマントを持ってきたようですけれど、それ以上に何か絶対に持ってきていますわ!具体的にはなんかこう、碌でもない話を持ってきているんですわ!きっとそうですわ!
「なんかね。会場の入り口に、挑戦者が来てるって」
……あら?