後奏1「災害、お裾分けしますわ」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
今日は『おまけ』ということで、ちょっと前の話……そうね、革命を起こして王城を燃やした日から2か月くらいのことを思い返してみようと思いますの。
今思うと懐かしいくらいですけれど、あの当初は本当に忙しくて、目が回るようでしたわ。主に、国内のゴタゴタを片付けるのに。
何せ、あの悪しきオーケスタ家が統治していた国ですもの。革命する前からゴタゴタでしたわ。そして革命によって更にゴタゴタになりましたわ。
国王になった私の最初の仕事は、そのゴタゴタを片付けることでしたのよ。全く、あの王家がもうちょっとばっかしマトモでしたら、私、あんな苦労はしなかったと思うのだけれど。
……まあ、オーケスタ家への文句は地獄でたっぷり本人達に聞かせてやるとして……思い返していくとしましょうか。
*
レースのカーテン越しの光が柔らかな昼下がり。優雅なティータイム。今日も私はお茶とお菓子を楽しんでおりますわ。
ベリーのムースも、シトロンのタルトも、素朴な焼き菓子、バターケーキの類も全部最高のお味ですわ。紅茶も最高の香りと味を備えたものですの。その一滴にまでしっかりと旨味があってよ。
でも、そんなティータイムの中であっても、気分はちょっぴり憂鬱ですの。何せ……。
「はあ、暴れたいですわぁ……」
暴れたりない。暴れたりないのですわっ!
この1か月以上、私、暴れておりませんの。来る日も来る日も、ひたすら書類仕事ばかりですわ。
まあ、それってとってもいいことではありますわね。実働してくれる人材が沢山いて、彼らの信頼がちゃんとあって、そして私は彼らを動かす立場……女王として皆に認められているからこそ、この役割分担になっているのですから。ええ、分かってましてよ。
でも!でも暴れたいのですわ!女王になってから魔物狩りにすら行っておりませんのよ!?それだけ多忙が続いていたからでもありますけれど!でも!暴れたい!暴れたいんですのよ私は!血が騒ぎますの!一か月に一度、それが難しければ二か月に一度くらいは狩りなりステゴロなり、やりたいのですわーッ!
「暴れたいって……そんなこと言ったって、裏の仕事はドランとチェスタがやってるじゃん」
私がため息を吐いていたら、私の隣でレモンティーを飲んでいるキーブが呆れた目を向けてきましたわ。
この子ったら!この子ったら!確かにそうなんですのよねえ!裏の汚れ仕事は全てドランとチェスタ、時々クリスに任せていますから、私の出る幕は無いのですわ!女王が直々に汚れ仕事をするわけにも参りませんものねえ!ええ、分かってましてよ!
「それはそうなのですけれど……はあ、たまには私も外に出て暴れたいのですわぁ」
「流石に、女王陛下が直々に汚れ仕事するわけにもいかないだろ」
「それも分かってましてよ……」
分かってますけど!分かってますけれど……私の心は残念ながら闘争を求めているのですわ……。女王としての責務は重々承知しておりますし、それを厭うほどの器の小ささはしておりませんの。でも……でもやっぱり暴れたい!暴れたいのですわ!
「ねえキーブ。合法的に暴れられる舞台ってありませんの?ドランでもチェスタでもなく、私こそが暴れなければならない舞台って、ありませんの!?」
「無いだろ」
「1つっくらいあったっていいじゃありませんのーッ!」
ああ!どこかに転がっていませんの!?私が暴れられる場所……この激務の中でも魔物狩りできる口実だとか、私こそが粛清しなければならない相手だとか、そういうのはありませんのーッ!?
「ヴァイオリア様ーっ!大変です!大変です!」
「闘争ですのっ!?」
そこへぱたぱたと駆けこんできたのはリタルですわ!何か厄介ごとかしら!?私が直々に暴れられる厄介ごとかしら!?私の魂が!闘争を求めておりますのよッ!
「ソーラス王国が、関税を倍以上にすると!そう申し出てきました!」
……厄介ごとは厄介ごとでも、暴れられそうにない厄介ごとでしたわ!ムキーッ!
「そして食料供給には応じてもよいが、定価の3倍ほどを付ける、と……!」
「あら、つまりこっちが革命直後だって足元を見て舐め腐った態度取ってきやがったってことですわね!?粛清ですわ!」
粛清ですわ!粛清ですわ!大方、こっちが革命直後の生まれたてほやほや王国であることを見て舐め腐ってるんでしょうけど、純粋な国力で言えばこっちの方が圧倒的に上ですのよ!?そこんとこ無視して、随分とがめつい態度を取ってくれやがりましたこと!これはもう粛清するしかありませんわねえ!
「ヴァイオリア、居るか?」
「今度こそ闘争ですのっ!?」
リタルとキーブと一緒に『どうやってソーラス王国を粛清するか』を話していたら、そこへドランがやってきましたわ。彼がこうして昼間に来るのはちょっぴり珍しくってよ。余程早く仕事が終わったから、逆に朝帰りになっちゃったか、はたまた緊急事態か、ですけど……。
「先ほど殺した連中が吐いた。あいつらの麻薬売買の元締めが分かったぞ。オペリア王国だそうだ」
「あらっ上出来ですわね!」
闘争の話じゃありませんでしたけれど、これは嬉しい報告でしたわ!
……そう。どうも最近、うち以外で作った麻薬をうちのショバで売ってる連中が居るようで、ドランとチェスタにはそいつらの調査をお願いしていましたの。
そしてその結果、オペリア王国、と。……うーん、また外国がらみですのねえ。まあ、女王ともなれば、国内だけでなく国外からの攻撃にも対応しなければならないものなのですわ……。
「どうする。オペリアに乗り込んで麻薬売買の組織を潰すのは骨が折れるだろうが」
「そ、そうですわねえ、そうなるとあなたとチェスタを2か月3か月……下手すると半年は向こうにやることになるかしら?」
「ジョヴァンも付けてくれるなら2か月で済ませるが」
「駄目よ。ジョヴァンはこっちでも欲しいんですもの。となると3か月……ううーん、あなたもチェスタも、私の手元に置いておきたいのですけれど……」
麻薬売買については、私が直接動くわけにはいきませんわね。私自身が麻薬売買にかかわっている、という印象は国民に不安を与えてしまうでしょう。ですからこれは、ドランとチェスタの2人組に陰から解決してもらうのが良いのでしょうけれど……。
「ヴァイオリアー!」
悩んでいたらチェスタがノックもせずに入ってきましたわ。
「何ですの騒々しい」
「なんかエルゼマリンの港にクラーケン出たって聞いたけどマジかよ!?」
「エッ何ですのそれ!?私それ知りませんわよ!?」
リタルの話にドランの話に、もうしっちゃかめっちゃかですのに更に問題が来ますの!?クラーケンですの!?一体何だっていうんですのーッ!?
……クラーケンというのは、つまり、でっかいイカの魔物、ですわ。海の王者、とも言われていますわね。まあ、陸の王者は私ですけれど。おほほほほ。
そう。クラーケンというのは……言ってしまえば、『海のドラゴン』。海を支配し、人間を恐怖に陥れるほどに強力な魔物。そういうことなのですわ。もう、災害みたいなモンと言っても過言ではありませんわね!
「……あらっ?これ、もしかして俺抜きでパーティーでもしてた?」
「ああ、遂に死神まで来ましたわ……!今度は一体何の悲報を持ってきたんですの!?」
「えっ何?俺、そんなに歓迎されないの?」
そうして悩んでいたらジョヴァンまで来ましたわ。もう嫌ですわ。ジョヴァンがこうして来たってことは、間違いなく不吉な情報がやってきますわ。間違いありませんわ。
「まあ、お察しの通り悲報なんだけどね。えーと、反乱軍が穀倉地帯に火を付けたって」
「火刑!」
あああああああ!この機を見計らったような犯行!穀倉地帯に!放火!ですってェ!?許せませんわ!放火は私の専売特許ですわァああああああ!絶対に!許すまじッ!絶対に!火刑!火刑に処しますわァああああッ!
「……どうする、お嬢さん。穀倉地帯に放火されたとなると、この冬を乗り切る食料がいよいよ不足しそうだけど」
「そうですわねえ!」
「輸出入をしようにも、港にはクラーケンだろ?船、動かせねえんじゃねえの?」
「その通りですわ!」
「し、しかも食料を輸入しようとしていたソーラス王国は関税を引き上げ、食料の輸出には定価の3倍で応じる、と……」
「ついでに麻薬の密売組織がオペリアから入ってきている、か。……随分と一気に色々来たものだな」
……私、一気にげんなりしましてよ。1個1個なら対処のしようもありそうなものを、どうしてこんなに一気に色々来やがったんですの……?ふざけてますの……?これ、誰かの陰謀ですの……?
「ああ、ヴァイオリア様……!お気を確かに!」
「ほら、お茶飲む?ストレートでいいよね?」
リタルが私の肩にストールを掛けてくれて、キーブが私の為にお茶を淹れてくれましたわ。いい子達ですわぁ……。
うう……お砂糖を入れたストレートティーが身に沁みますわねえ。香り高く温かなお茶が、私を落ち着かせてくれますわ。
ちなみにこの間、リタルとキーブも一緒にお茶を飲んでいますわ。ケーキを口に運ぶキーブがちょっと口元をほころばせていたり、クッキーをさくさくさく、と齧るリタルがちょっぴりリスみたいだったり、見ていて落ち着きますのよねえ……。
「へえ、結構いい紅茶じゃない。これ、どこの?」
「お兄様からのお土産ですわ。アサンブラで手に入れてきたものだそうですの」
いつの間にか図々しくも、ジョヴァンがやってきて勝手にお紅茶飲んでますわ。まあこのくらいの無礼は気にしませんわよ。ええ。
「なーヴァイオリアー、こっちも開けていいか?いいよなあ?」
「そもそも1本目を開けていいとも言っていませんわよ……?」
そして部屋の片隅では、チェスタが勝手にワイン開けて勝手に飲んでやがりますわ!許可した覚えは無くってよッ!
「お前も飲むか」
「ドラン。あなたも大概、勝手ですわねえ……」
……ドランまで勝手にワイン開けてますから、もう何も言いませんわぁ……。好きに飲んでくださいましぃ……。
……さて。
「どうしようかしら。このままっていう訳にも行きませんものね。対策を考えなければいけませんわ」
ティータイムと野郎どもの勝手な酒盛りで少し落ち着いたところで、早速対策を考え始めますわよ。呆けていては機を逃すばかり。動かないわけには参りませんの!
「まず、クラーケンはいいんですのよ。私かドランが赴けばどーせイチコロですわ」
「僕もやれるけど?」
ああ、そうですわね。水の中に居る魔物に対しては、キーブの雷の魔法や水の魔法が大いに有効ですわ。となると、派兵は必要最小限、私達の誰かが赴くだけでもイケそうですわね。
「穀倉地帯の放火についても、まあ、犯人を火刑にすれば済む話……というか、まずはそれしかありませんわね」
「ああ、それについてなんだけど、もうコントラウスお兄ちゃんが動いてくれてるみたいよ」
あらっ、お兄様が?ご迷惑をお掛けしてしまっていますわねえ……。でもこんな日には猫の手だってお兄様の手だってお借りしたいところですもの!今はその御腕、存分にお借りしますわっ!
「じゃあ、お兄様がとっ捕まえてきてくださった犯人を火刑に処すとして……問題は食料供給ですわね」
自国内のことは、まあ、言ってしまえば割とどうにでもなりますのよね。でも問題は、外交が絡むような問題ですわ。
「食料を輸入しようとするならば、ウィンドリィかアサンブラか、ソーラス、ですわね……」
「お嬢さん、お嬢さん。ウィンドリィとアサンブラはお嬢さんの暗躍のおかげで不作続きよ」
「そうなんですのよぉ……」
ウィンドリィはまだ魔物の襲来から立ち直っていませんし、アサンブラもドラゴンの襲撃以来、似たようなモンですわ。私がちょいと出したちょっかいを未だに引きずっていて、食料をこっちに回す余裕は無さそうなんですのよ。うう、こんなことならもうちょっと手心加えた襲い方にすればよかったですわ!
「となると、ソーラスから輸入するしかないのか」
「でも、相場の3倍の値段を付けられています!そんな食料を購入していては、ただでさえ前王家の浪費のせいで傾いたこの国の財政がさらに傾いてしまいます!」
そう。現状、食料を輸入しようと思ったらソーラス王国一択なんですのよね。近隣の国で食料が豊かな国って、あそこくらいしかありませんのよ。
でもそのソーラスが『関税爆上げ、食料価格3倍』を吹っかけてきやがりましたのよねえ……。
「もしかしてこれ、ソーラスが仕組んだんじゃない?反乱軍に手を貸すか、反乱軍になりすましたソーラスの間諜が穀倉地帯に火を放って、うちの国の食糧事情を逼迫させた。それで、ソーラスから食料を輸入せざるを得ない状況にした。どお?」
「ありえない話じゃあなくってよ」
ジョヴァンが訝しんでますけれど、私も訝しんでますわ。ええ、これ、仕組まれてるような気がしますのよね。少なくとも、穀倉地帯の放火とソーラスのボッタクリ宣言はつながりがあるように思えますもの。
「更に、相当時間がかかりそうな、麻薬の密売……。この国の麻薬売買は私達の専売特許だというのに、全く、ふてえ奴らですわねえ」
「そのおかげでこの国の治安、良くなってるもんね」
麻薬は完全に国が統治することで、治安の悪化を防ぐことができますわ。けれどそこに横槍入れてくる奴らが居るっていうのは……困りますわねえ。実に困りますわ。
ですからこの国の内政事情を悪化させないためにも、オペリアからの麻薬は完全に排したいところですけれど……。
「手が!手が足りませんわッ!」
結局のところ!何でもかんでも一度に起こりすぎですのよーッ!ムキーッ!
これ、一体どうやって乗り切ったらよろしいんですのーッ!?
「手が足りない以上、しょーがありませんわ。オペリアからの輸入を一切停止しますわ」
「えっ、マジかよお嬢さん」
「マジですわ。あそこの国からうちまでは海路が一番近くってよ。海路を断ってしまえば密航船が来るだけになりますもの。ひとまず、一旦の麻薬流入は塞き止められますわ……。適当な言い訳をでっちあげてオペリアに通達すれば、なんとか……」
麻薬の方は、一旦保留にしますわ。これだけ一度に色々起きてるんですもの。優先順位を付けて対処しなきゃ間に合いませんわよ。
その点、オペリアから麻薬が密輸されていることについては、オペリアからの船を止めてしまえばひとまずこれ以上の流入は止められますものね。
「……いや、そもそもうちの港はクラーケンに襲われている。密航船どころか、放っておいても商船は来られないだろう」
あ、そうでしたわ。忘れてましたわ。クラーケン出たんでしたわ。
ああ……ならいっそのこと、クラーケンは放し飼いにしておこうかしら。クラーケン並みの魔物が暴れてたら、言い訳も何も必要なく全ての輸出入を止められますわねえ。うふふ……。
「あああああ……どうしてうちの国だけこうなるんですの……?」
流石にちょっと、心が折れそうでしてよ!クラーケンがここにまでシッカリ影響してやがりますわねえ!全く!
アーッ!もう嫌になってきましたわーッ!嫌になってきたから私もワイン開けますわ!チェスタが丁度見繕ってきた瓶を掻っ攫ってドランに突き出したら、ドランが素手で栓を抜いてくれましたから、それをラッパ飲みですわ!飲まなきゃやってられなくってよ!
「理不尽!ですわァーッ!こんなの、前国王の即位中に起きてなさいなーッ!他のは人災としても!クラーケンは!許せませんわァーッ!」
「だよなー。オペリアにもクラーケン、出ればいいのになあ」
ほらァーッ!チェスタもこう言ってますわ!
そう、うちばかりこんな理不尽な目に遭うのはおかしくってよ!どうせ出るなら、うちだけでなくオペリアの方にも……。
……あらっ。
「そう……ですわね。クラーケンを放し飼いにしておくなら、何もうちの国内じゃなくってもいいんですわね」
私、気づいちゃいましてよ?
「クラーケンをオペリア王国近海で飼うことにしますわ」