没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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後奏1「頭と関税、下げて頂きますわよ!」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今、ソーラス王国にゴーストを撒いているところですわ!

 今宵は新月!夜闇に紛れてゴーストを放つにはピッタリの夜ですわね!

 そしてゴーストは他に明かりも無い中ですから、真っ直ぐソーラスの王都へ向かっていきましたわ!

 ゴーストはとっても特徴的な魔物でしてよ。実体のない魔物で、あらゆる物質へは干渉しませんの。ですから、食料ですとか、家屋ですとか、そういうものへの被害は全く生まない魔物ですわね。

 けれど、ゴーストは生き物から生命力を奪いますわ。その上、銀以外の武器のほとんどが無効なんですのよ。ですから対策無しに挑んだら、生命力を吸い取られて死体になること間違いなし、ということなのですわ!

「さて、今頃王都はどうなっているかしら」

 王都というくらいですから、流石にこれで滅びるようなことは無いと思いますけれど……国中がゴーストで溢れかえったら、流石にどうなるかは分かり切ったことですわね?

 

 

 

「朝になっちゃいましたわねえ」

 ということで朝ですわ。ちょっぴり時間が掛かっちゃいましてよ。

 ……しょうがないですわ。何せ、国中に撒けるくらいの数のゴーストが鞄にぎゅうぎゅう詰めだったんですもの。ええ、まさかこれだけの数が用意されてるなんて、思ってませんでしたわぁ……。

「小国とはいえ、国中を回ってゴーストを放していたら流石に時間がかかるな」

「朝陽が眩しくってよお、うっとーしいんだよなあ……」

 ドランは夜の方が元気な性質ですし、チェスタは単純に朝陽の眩しいのが厭みたいで、あんまり元気じゃあありませんわねえ。ま、仕方ありませんわ。ドランとチェスタは私が女王になってからこの方、ずっと裏方ばかりやっていますもの。朝っぱらから外を出歩いていることなんて、ほとんどありませんものね。

「さて、一夜明けてソーラス王都はどんな様子かしらね」

「今頃鳥文で各地の襲撃情報を集めているところだろうが……事態の全貌が分かるのは、昼過ぎになるんじゃあないか?」

 ま、そうでしょうねえ。それで、『ゴーストが大量発生したのは王都近辺だけじゃない』っていうことが分かって……当然、軍備が足りなくて壊滅状態の町村なんかもあるでしょうから、そこらへんの対応と武器の在庫確認なんかにてんやわんやして、そして夜が来たらまたゴーストが襲ってきて……。

「救援要請が来るのは7日後くらいかしら?」

「俺は6日後だと踏んでいるが」

「じゃー俺、5日。なー、もう薬キメていいかあ?」

 チェスタが一発キメ始めたのをドランが空間鞄にしまって片付けつつ、私達は悠々と帰路に就きますわよ。ソーラス王国がどうなるか、見物ですわねえ!

 

 

 

 ということでお昼過ぎに帰国しましたわ。ただいまですわ。

 ソーラス王国まではちょいと遠いですけれど、ドラゴンに乗ってしまえば気軽に行き来できてよくってよ。まあ、それでも疲れることは疲れますけれど……今は、休憩している場合じゃありませんわね。

 執務室へ戻ると、気の利くジョヴァンが既に待機してくれていましたわ。彼、こういう時によく分かってますのよねえ。

「ジョヴァン。例のものの調子はいかがかしら?」

「そりゃあもうバッチリよ、我らが女王様」

 ジョヴァンは勝手知ったる何とやらでお茶を淹れて飲んでますわね。折角だから私も頂こうかしら。

「市場に出回ってて手に入れやすい所にある銀の武器は全部俺の手中に入れておいたぜ」

 今回、ジョヴァンに頼んでおいたのは『銀の武器の買い占め』ですわ。

 ええ。要は、ソーラス王国が銀の武器を手に入れられないように、ゴースト用の武器である銀製の武器をありったけ買い占めておいてもらいましたの。

 今回、銀の武器を押さえるのに国のお金を使ってもらいましたわ。なので、実質私が買い付けをした扱いになっているかしら。まあ、どーせソーラスは私達から銀の武器を買わざるを得ない状況に陥るでしょうから、ここで使った国のお金はしっかり色ついて戻ってくる、ってわけですわ!おほほほほ!

 ……まあ、これ、ソーラス王国には真正面から喧嘩吹っかける形になりますけど、向こうだってクラーケンと関税吹っかけてきやがりましたものね。やられた以上はキッチリお返しして差し上げましてよ。

「ということで、今市場にある銀の武器はほとんどがうちのもの。それで、聖水の類はキャロルが手を回してくれてるみたいよ」

「ご苦労様。キャロルにも後でお礼を言わなければね」

 あの子にも苦労を掛けてますわねえ……。大聖堂の仕事も忙しいでしょうから、後でしっかり労わなければなりませんわっ!

「で、俺も徹夜で働かせていただいたんですがね、お嬢さん」

「あら、何か望みのものでもありますの?」

 そしてこっちはこっちで大変だったみたいですわね。ジョヴァンの顔色が悪いのはいつものことですけど、今日はいつにも増して疲れが見えますわぁ……。流石に銀の武器を一気に押さえる、ともなると、徹夜の上に相当な苦労があったのでしょうけれど。

「何?俺が望んだものを頂けるって?流石は我らが女王様!太っ腹だねえ」

「ウエストは細いつもりでしてよ。それで、何を所望しますの?」

「女王様の愛……を望むのは流石に不相応、ってことで、ま、今回の銀の武器の出荷額の2割。どお?」

「あら、無欲ですのねえ。3分の1くらい持ってお行きなさいな。どうせボッタクった額で買わせますもの。国には元手の1割増しで戻してくだされば結構よ」

 商談成立ですわ。ジョヴァンと握手して、それからジョヴァンにはお茶菓子を勧めましたけれど、彼は『女王様とのティータイムには心惹かれるものがあるんだけど、今はそれどころじゃなく眠いんで失礼させてもらうぜ』とのことで、仮眠室へ入っていきましたわ。ま、お疲れ様、というところですわね。

 

「なんだ、徹夜した者は何か褒美がもらえるのか?」

 ジョヴァンがふらふら消えていった後で、ドランがぬっ、とやってきましたわ。珍しいですわねえ、彼がこういう時に来るのって……。

「あら、ドラン。あなたも何か欲しいものがありまして?」

「そうだな。……特に欲しい物は無いな」

「か、考えた末にソレですの?面白味がありませんわぁ……」

 折角だから何か欲しがりゃーいいのに、ドランは無欲なんですのよねえ。……いえ、欲の方向が物に向かない、ってだけかもしれませんけど。

「ま、そういうことなら……そうね、今度時間のある時に手合わせはいかが?」

 彼が喜びそうなものって、コレですわよね。

 そう思って言ってみたら……去ろうとしていたドランは、振り向きざま、にやり、と嬉しそうに笑いましたわ。

「それはいいな。最高の褒美だ」

 ほら、やっぱりね。彼、こういうところは私と趣味が似てましてよ。

 ドラン相手なら私も存分に楽しめますし、私としても願ったり叶ったりですわ!楽しみですわ!楽しみですわ!このゴタゴタにケリがついたら、ドランと思う存分殴り合いしますわっ!

 

「……あの、ヴァイオリア様」

「ええ、何かしら、リタル」

 ドランとの手合わせにウキウキしていたら、リタルがもじもじしながら声を掛けてきましてよ……?

「……そ、その、差し出がましいようなのですが……ドランさんと手合わせなさるのは結構ですが、軽いものにしておいてくださいね?女王が痣や傷だらけでは、下に見られかねませんので……」

 ……ええ。

 分かってますわーッ!あああーッ!女王って!女王って……こういう自由がありませんのよォーッ!ムキーッ!

 

 

 

 さて。

 そうして私、4日ほど公務に勤しみましたわ。

 ソーラス王国の様子は遠巻きながら私達にまで伝わってきましたわ。やっぱり相当苦戦しているみたいですわねえ。

 ま、あの国は軍備を怠った国ですもの。軍備を怠るならそれを他国に賄わせるだけの取引が必要になりますのに、そこんとこも怠って私に喧嘩吹っかけるような馬鹿な真似をした以上、こうなるのは必然でしたわね。おほほほほ。

 

 さあ、ソーラスが大変なことになったということは……。

「ヴァイオリア様!ソーラス王国より書簡です!」

「あらあらあら!来ましたわねえ!」

 来ましたわ。ゴースト嗾けてやったソーラスが、やーっと書簡を寄こしてきましたわ。

 ということは……まあ、『もう限界』ってことなんでしょうね。おほほほほ。……つまり、賭けはチェスタの勝ちですわね。なんか釈然としませんわぁ……。

 ま、よくってよ。今はこのワクワク感で、色々なことを許せちゃいそうな気がしますもの!

 リタルが持ってきてくれた書簡をワクワクしながら開けて、覗き込んでくる皆と一緒にワクワクしながら中身を読めば……思わず笑顔になっちゃう文面でしたわ!

『魔物の襲撃に遭い、困窮している。武器の供与を要請する。』

 内容はざっと、そんなかんじでしたわねえ。ええ、一体どの面下げてこんなこと言ってるのかしら。アホみたいな関税吹っかけてきて、食料供給で相場の3倍までボッタクろうとしてた奴らが、随分と都合の良いことですわねえ!

「ヴァイオリア様。返信はいかがなさいますか?」

「そうね……」

 リタルが『代筆しますよ!』と意気込んでいるところに、私は既に決めていた文面を伝えてあげますわよ。

「『相場の3倍でお譲りします』と返信なさいな」

 やられたらやり返す。当然のことですわね。やり返されたくなければ、最初からやらなきゃよくってよ!

 さてさて。ソーラスの連中は、地面に額をこすりつけて助けを乞うか、はたまた国ごと滅びるか。小国ごときが楯突いたことを後悔しながら究極の選択に悩めばよくってよ!

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