没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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後奏3「外交問題は国同士で起こることですわ」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 今日は『おまけ』ということで、ちょっと前の話……そうね、革命を起こして王城を燃やした日から2か月くらいのことを思い返してみようと思いますの。

 今思うと懐かしいくらいですけれど、あの当初は本当に忙しくて、目が回るようでしたわ。主に、国内のゴタゴタを片付けるのに。

 何せ、あの悪しきオーケスタ家が統治していた国ですもの。革命する前からゴタゴタでしたわ。そして革命によって更にゴタゴタになりましたわ。

 国王になった私の最初の仕事は、そのゴタゴタを片付けることでしたのよ。全く、あの王家がもうちょっとばっかしマトモでしたら、私、あんな苦労はしなかったと思うのだけれど。

 ……まあ、オーケスタ家への文句は地獄でたっぷり本人達に聞かせてやるとして……思い返していくとしましょうか。

 

 *

 

「はー、やってられませんわぁ……なんですの、このクソ帳簿。監査ってモンを舐め腐ってるとしか思えませんわぁ……キーブ、キーブ、ちょっとご覧になって!」

「何?……え、なにこれ。うわ、桁が合ってないじゃん」

 私が手招きすれば、隣の机で事務処理をしてくれていたキーブがやってきて帳簿を覗き込んで、『うわあ』ってお顔をしますわね。ええ、私も正にソレですわ。『うわあ』ですわ。何せこの帳簿、なんと桁が1つ丸ごと合ってませんのよ。びっくりですわね。おほほほほ。

「こ、これは一体どういうことでしょうか……?」

「普通に考えりゃ分かるだろ。この会計してた奴がこの1桁分丸ごと横領したんだよ」

「えっ!?お、横領!?そんな……!ああ、王家はそれほどまでに腐っていたのですね……」

 キーブの更にお隣で作業してくれているリタルも帳簿を覗き込んで、なんとも悲痛な顔をしますわ。私もキーブももうすっかりスレちゃってますから笑うしかありませんけれど、リタルはまだ、この悲惨な帳簿を見て悲しみ憤る心の柔らかさがあるみたいですわね。ええ、是非そのままで居て頂戴な!

 

「流石に国の資金を1桁分丸ごと横領、なんてこと、許すわけには参りませんわねえ」

 さて、問題はこいつをどうしてやるか、ですわねえ。まず、許すっていうのはナシですわ。見逃すっていうのもナシでしてよ。絶対にふん捕まえてとっちめてやらなきゃーなりませんわ。当然ですわ。

「その、まだ犯人は居るのでしょうか?もう国外に逃亡しているのでは……?」

「だとしても関係ありませんわ。海を越えたとしても追いかけますわよ。こいつ、ドサクサに紛れて国家予算の1桁分を横領したんですもの。まだくたばっちゃーいないでしょうから追いかけ甲斐があるってモンですわねえ」

 国外逃亡だろうが何だろうが、私はやると決めたらやりますの。この国の女王として、この国のゴタゴタは1つだって見逃さずに消し飛ばしてやらなきゃなりませんのよ。ましてや、桁1つ分の国家予算を回収できる可能性がそこにあるなら、余計に見逃す訳には参りませんわ!

「潰しますわよ。そして、1桁分、奪い返しますわよ」

 ……そう。私が処理しなければならない国のゴタゴタって、こーいうのまで含まれますのよ!

 

 

 

 早速動き始めるとなったら、まず必要なのは情報ですわね。そして情報でしたら、幸いにして取り扱っている仲間が居るわけですからとっても簡単ですわね。

 ということで早速ジョヴァンを呼びつけますわ。呼びつけちゃった以上はお茶くらいは出さなきゃなりませんから、キーブとリタルの分も淹れますわよ。

「調べはもうついてるぜ、お嬢さん。俺も丁度、そいつを追ってたところでね」

 更にこの有能ぶりですもの。私、お茶の準備をしながら思わず満面の笑みですわ!話が早いってのは最高ですわねえ!

「あら奇遇ですわねえ」

「こりゃあもう、運命、ってヤツかもね。……で、まあそいつなんだけど、デュエッタ王国に亡命してやがったみたいよ」

 あらぁ、デュエッタ、ですの?……なんとも微妙なところに亡命しましたのねえ。

 ええと、デュエッタ王国はウィンドリィ王国のお隣さんですわ。この国とは微妙に隣接していませんけれど、お隣さんのお隣さん、といったところですから、まあまあ近い国ですわ。

 ただ、デュエッタは然程大きな国ではありませんの。小国、と言って差し支えありませんわ。正直、このゴタゴタ状態のこの国でも、戦争になって負ける相手ではございませんわね。

「何故デュエッタなのかしら?特段何かがあるとは思えませんけれど……あんな小国じゃあ、亡命しても自由な暮らし、という訳にはいかないでしょうに」

「小国だからこそ、よ。お嬢さん。そんな小さな国に、国家予算の1桁分を持って乗り込んでくる貴族が居たら、そいつの身分はどうなると思う?」

「……小国故に、重要な椅子に座ることができる、と。そういうことですのね?」

「そーいうこと。ま、分かりやすいし単純だけど、強い手よね」

 まあ、『ドラゴンの鱗の一枚よりもニワトリの頭は勝る』なんて言ったりもしますわよね。上位集団の中の下位に甘んじるより、下位集団の中の頂点に君臨せよ、と。私に言わせて頂けるなら『品が無い』とでも評したいところですけれど。頭になりたいならニワトリを狙うようなみみっちい真似しないでドラゴンの頭になればよくってよ!

「はあ、呆れた。他国の高官などになったら、すぐに私の調べがつくと分かりそうなものを」

「たかが小国に亡命した貴族1人の為に外交関係を悪化させるわけはないってタカ括ってやがるのかもしれないけどね。或いは、俺達の女王様は内政で忙しすぎて手が回らないと思ったのかも」

「あらぁ、舐められてますのねえ。上等ですわあ。……あっ、ところでジョヴァン、あなたお茶はミルクでお砂糖は無しでよろしかったかしら?」

「うん、それで。いやあ、麗しの女王陛下にお茶の好みを覚えて頂けるってのは光栄なことね」

 はいはい。私、一緒にお茶した人のお茶の好みは全員分覚えておりますのよ。キーブの分にはレモンを添えて、リタルの分はお砂糖多めにミルクたっぷり。そして私の分はストレートにお砂糖1つ、ですわ。

「ねえ、ヴァイオリア。デュエッタに罪人の引き渡しでも要請するの?デュエッタだって、まともに応じるか分からないけど」

 キーブがレモンティーのカップを受け取りながら、ちょっと心配そうな顔してますわね。……まあ、今の私があちこちから舐められまくってることは承知の上ですわ。何せ、革命が起きたての国を、うら若き乙女1人で治めているわけですもの。『どうとでもできる』と思いあがっている近隣諸国はきっと多いことでしょうね。小国デュエッタでさえも、私を舐め腐ってくれやがっていることでしょうから、罪人の引き渡しには応じないんじゃないかしら。

 ……となれば。答えは1つ、ですわね。

「直接デュエッタに乗り込んで、奴を引きずり出しますわ」

 相手など頼らず、自分の力だけで解決する。そして……それを存分に、誇示するのですわ。

「そして国内外への見せしめにしますのよ。オーケスタ王家側だった連中を匿ったら『こう』だって、ね!」

 舐められてるっていうなら丁度よくってよ!私の強さと執念深さ、しかと見せつけてやりますわ!そして私に逆らうなら小国の1つ程度、滅ぼしてやってもよくってよーッ!

「いいじゃないお嬢さん。俺はそういうお嬢さんが好きよ」

「私もこういう私が好きですわ!ああ、考えていたらちょっぴり楽しくなってきてよ!」

「ねえヴァイオリア。行くなら僕も連れてってね」

「でしたら、僕もお供します!」

 あらあら。でしたら折角ですし、皆でバカンスと洒落込みましょうか。ほら、最近はずっと内政ばっかりで飽き飽きしてましたのよ!魔物狩りにも満足に出かけられない日々が続いていましたから……ここらで働きづめの2か月間を労わるためにも一暴れして参りましょうね!おーほほほほ!

 

 *

 

 はい。ということで、早速私、公的な文書を作成して送りつけましたわ。

 送り付け方は簡単ですわ。我が国の文官……ということにしたクリスに書簡を持たせてデュエッタ王国へ乗り込ませましたわ。

「……ということで、デュエッタ国王には文書を届けた」

「順調に行ったなら何よりですわ。ご苦労様」

 戻ってきたクリスは『1日で戻ってらっしゃい』という命令を見事に達成しましたのよ。ええ。具体的には、チェスタがドラゴンでクリスを運んで、デュエッタの宮殿の前に落として、謁見が終わったら適当に連れて帰る、という方法でしたわ。後でチェスタも労っておかなくてはね。クリスはぐったりしてますけど、まあほっときゃよくってよ。おほほほほ。

「反応はどうでしたの?」

「意味が分からない、といった様子だったな。新生オーケスタ……フォルテシア王国の新たな女王の噂は、デュエッタにも届いているようだったが、まさか、その女王が自ら乗り込む最初の他国が、自他ともに認める小国たるデュエッタ王国だというのだから当然だろう」

「やっぱりあなた、優秀な奴隷ですわねえ……」

 クリスの話を聞く限り、やっぱりデュエッタの国王は困惑している、といったところのようですわ。

 まあそれは分かりますのよ。何せ、私、公的に国外に出るのはこれが初めてですものね。

 普通でしたら、もっと大国……アサンブラだのウィンドリィだの、そういうある程度大きくて力のある国を『最初』に選ぶはずですわ。そして互いの国交を深めていくのが定石、でしょうね。革命したてホヤホヤの国なんて、他国に潰されたら終わりですもの。他国との繋がりを大切にすべきであることは、私も重々承知ですわ。

 ……でもね。だからこそ、私は『初めての訪問国』をデュエッタにしますのよ。

 この重みは、他国にも伝わるはずですものね。おほほほほ。

「あ、ヴァイオリアがまた何か楽しそうなこと考えてる。違う?」

「当たりよ、キーブ。ふふふ、楽しみですわねえ」

 まあ、楽しいことが起こるのは間違いありませんわ。私が、今後この国を治めていくにあたってとっても大切な、楽しい珍事が起こるのですもの。

 ……いいえ。珍事は、起こるものではなく、『起こす』もの、ですわね!

 

 

 

 はい。ということで私、デュエッタ王国を正式に訪問致しましたわ。

『船でお越しになるのですよね?』って確認がありましたから、『いえ、ドラゴンで直接飛んでいきますわ』って返答しましたわ。相手、困ってましたわ。でも知ったこっちゃーなくってよ!

 ……そうして私、クリスが帰ってきてから1週間で、デュエッタ王国の宮殿を訪問することになったのですけれど。

「あらあら、立派なものですわねえ」

 一応これでも、私は大国の女王。革命したてホヤホヤ、かつ女王1人が治める国の、ということで舐め腐られてるんでしょうけれど、それでも一応、ちゃんとした歓迎の式が準備されていましたわ。

「ようこそお越しくださいました。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア陛下」

 デュエッタの国王は、王にしては比較的若いお方ですわね。確か、代替わりしてそう時間が経っていなかったはずですわ。

 まあ……強いという話は全く聞きませんし、顔面の造形が神がかっているわけでもない、平々凡々とした普通の王、と言ったところかしら。

「本日は私達の訪問をお許し下さり誠にありがとうございます。王の御心に感謝いたしますわ」

 私も適当に社交辞令なんぞ述べつつ、ちら、と周りを確認しますわ。

 ……王の側近達の顔を見て確認しますのよ。まあ、うちの一桁横領野郎が亡命してきてそのまま要職についているとして、ノコノコ私の前に顔を出すとは思えませんけれど、一応……。

「……あらぁ」

 と、思ったら、居ましたわ。

 ええ、居ましたのよ。

 うちの国庫から1桁盗んで亡命しやがった野郎が、ふっつーに!王の横の家臣の列に!並んで!やがりましたのよーッ!

 

 当然ながら、これを黙って見逃す訳には参りませんわね。私、つかつかと、横領野郎に向かって歩み寄りましたわ。それだけで横領野郎はビビッてやがりましたけれど……。

「おや?ヴァイオリア女王。どうなさいましたか?」

 王が言葉で、割って入りましたわね。

 王は飄々と何事も無いように微笑んでいますけれど、これは流石に、分かりますわ。

 馬鹿にしてますわ。舐め腐ってやがりますわ。

 この小国如きが、この私を、コケにしていやがりますのよ。

 

 でも私は慌てませんわ。まだ慌てるような時間じゃなくってよ!

「そちらに居る人間に用がございますの。彼、かつてのオーケスタの人間でしょう?」

「いえ。彼はずっとデュエッタの民ですよ」

「あら、そう仰るの?」

 王はあくまでもしらばっくれるつもりらしいですわね。まあ、証拠を出せ、という事なのかしらね。証拠でしたら、今、私に睨まれてビビッている本人の反応こそが証拠みたいなモンですけど、それじゃあスマートじゃないかしら。

「ええ。彼はデュエッタの民。そして、彼がデュエッタに齎した富は計り知れません。彼はデュエッタに無くてはならない人材なのです」

 王の言葉の端々に、やっぱりこっちを馬鹿にする様子が見て取れますわねえ。暗に『横領した分をそのままデュエッタに横流ししてくれた』と言っているようなものなのですけれど。

「さあ、ヴァイオリア女王。つまらない話は後にして、今はあなたの到着を祝う宴を始めましょう」

 王がそう言って手を打つと、早速、宴が始まるようですわねえ。ええ。間違いなくこっちを軽んじてますわ。舐めてますわ。めっちゃ腹立ちますわ!ムキーッ!

 ……でも、舐めていて頂いて結構よ。こっちには狂犬が数匹、居ますもの。

 

 

 

「めっちゃ腹立つんだけど」

 美しい音楽が演奏される食堂で、宴のテーブルに着いたところで、私の側近として連れてきたキーブが牙を剥かんばかりの形相をしていましたわ。可愛いお顔が台無しですわ!もうちょっと大人しいお顔をしていて頂戴な!

「何、あいつら。ヴァイオリアのこと何だと思ってるわけ」

「そりゃお前さん、決まってるじゃない。『生まれたばかりの、基盤も整っていない国の女王。小国であるデュエッタが唯一見下せる近隣国の主』ってことよ」

 ついでに、キーブのささくれた心を更に逆撫でするような言葉を発しているのはジョヴァンですわ。ええ。彼も連れてきましたの。フォルテシア王国の貴族の1人としてね。

「なんだよそれ。バカじゃないの?」

「そーね。俺も馬鹿だと思うぜ。他でもない、我らが女王陛下とあからさまに敵対するなんざ、正気の沙汰じゃない」

 随分とささくれた会話をしながら、それでもキーブとジョヴァンの手元、テーブルマナーはカンペキですわね。

 キーブには最近、こういうマナーを一通り叩き込みましたの。打てば響く子ですから、あっという間に貴族顔負けの綺麗な所作を身に着けてくれましたわ。

 そしてジョヴァンは元々、こういうことが一通りできますものね。本人がその気になりさえすれば、こういうお上品な席に置いておいても全く見劣りしませんのよ。

「おい、ヴァイオリア。いつ動く」

 そして、私の後ろから、そっと声を掛けてくるのはドランですわね。ええ。彼は護衛として連れてきましたわ。一応、フェイクがてら剣と盾を持たせていますけれど、まあ……本当にドランが戦い始めたら、剣も盾も投石代わりになって終わりでしょうね。

「この後、会食が終わったらどうせ舞踏会になりますわ。その時に動きましょう」

「分かった」

 ドランはこそ、と私の耳元で返事をして、また元の直立不動へ戻っていきましたわ。……私の後ろにドランが立って、ぎろりと周りを睥睨するだけで、そこそこの威圧感が得られますのよね。何せ、ガタイのいい大男ですもの。本当なら、ドランが居るだけでまずこちらを舐め腐ることなんてできないところなのですけれど……まあ、デュエッタの国王については、国王ですものね。自分の指一本動かすだけで、玉座の間に控えていた兵士100人程度を動かせるわけですから、まあ、人狼1匹程度はどうとでもなる、と思っていたのでしょう。

「あー、ほんとに、ムカつく」

 キーブはカンペキな所作でありながら、小さくつぶやく言葉は全部悪態ですわ。よっぽど、あの国王の振る舞いが嫌だったのでしょうし、私もそういう気持ちですけれど。

 ……まあ、そういうことなら、仕方ありませんわねえ。

「ねえ、キーブ。あれだけ無礼を働かれたんですもの。こちらも無礼を働いてやろうと思うのだけれど、あなた、私に付き合ってくれるつもりはありまして?」

「へ?え、あ、うん……付き合ってあげても、いいけど……何?」

 きょとん、とするキーブに微笑みかけつつ、私は美味しいお食事をまた一口頂きますわ。まあ、国王達の態度は気に食わないことこの上ありませんけれど、お料理は美味しいんですのよ。お料理に罪はありませんものね、しっかり楽しませていただきますわ。おほほほほ。

 

 

 

 さて。

 やっぱり食事の後、休憩を挟んでから舞踏会になりましたわ。他国の重鎮を迎え入れるということで、まあ、物理的にも距離を縮められる交流の場を持ちたかったんでしょうけれど……。

「ヴァイオリア女王。早速ですが、一曲、お相手いただけますか?」

 まあ、そうでしょうね。王が私にダンスの申し込みをしてきましたわ。

 こういう時、最初に選ぶパートナーは大切でしてよ。こういう交流の場であれば、猶更。

 ですから、ここは私とデュエッタ国王とで一曲踊るのが礼儀、というもの。

 ……ならばそんなもんは踏み躙ってやりますわ!

「あらごめんあそばせ。私、もう一曲目の先約がありますのよ」

 ええ!ここで!デュエッタ国王の誘いなんざ、蹴り飛ばしてやりますのよ!

 当然、私が国王をフッたことで会場がざわついてますわねえ。私のことを『礼節のなっていない女王』とかなんとか囁く声も聞こえてきますけれど、私としては、差し出した手をそのままにポカンとしている国王が面白いから我慢してあげてよくってよ。

 それに……。

「ではキーブ。初めに一曲、お相手下さるかしら?」

「そういうことね。まあ、付き合ってあげるよ」

 キーブがにんまり笑って嬉しそうですもの。この笑顔で十分、お釣りが来ますわね!

 

 そのままキーブと一曲、踊りましたわ。

 キーブったら、すっかりダンスが上手になりましたわね。職務の合間に色々と仕込んでいますけれど、最初の頃のたどたどしさが今やすっかり消え失せちゃってますわ。……キーブのちょっぴりたどたどしいかんじ、とっても可愛かったからアレが無くなってしまったのはちょっぴり残念ですわねえ……。

「ヴァイオリア。国王の野郎が見てるけど」

「見せておきましょう。どうせ何もできやしませんわよ」

 さて、コケにされた国王は、少々不愉快そうにこちらを見ていますわねえ。でも、一応私、他国からの要人ですもの。面と向かって何だかんだと言える訳がなくってよ。

「どちらが『上』か、しっかり分かっていただかなくてはね」

 こちらの我儘も、ある種のパフォーマンスみたいなものですわね。馬鹿にされっぱなしじゃあ、こちらの国がデュエッタの『下』だという印象を与えかねませんもの。無礼な連中は振り回し返してやらなくては。

 ……まあ!私は単純に、嫌な奴に嫌がらせをしたいっていうだけの動機で今こうしてキーブと一曲目を踊っているわけですけれど!おほほほほ!

 

 

 

 はい、踊りましたわ。そしたら2曲目はジョヴァンと踊りますわ。骨と踊るのはなんかちょっと嫌ですけど、国王を馬鹿にするには丁度いいのでこのまま行きますわ。

 ジョヴァンはまるでソツがありませんから、まあ、特に何事もなく無難に終わりましたわねえ。

 ……ということで、3曲目ともなったら、流石に国王ももう、こっちに来ませんでしたわ。『あんな女と踊ってたまるか』という姿勢を見せるためなんでしょうけれど……甘くってよ!

「では、そちらの方。是非、一曲踊っていただけないかしら?」

「へ?わ、私が、ですか?」

 私、国王なんかには目もくれず、デュエッタ側の適当な側近の野郎を捕まえて、ダンスのお誘いを掛けてやりますの。

 声を掛けられた奴は国王の方をチラチラ見て対応を決めかねていたようですけれど、私はさも当然、という態度でそいつの腕に腕を絡めて、さっさとダンスホールの中央へ進み出てやりましたわ。まあ、この腕を振り払って逃げる度胸はありませんわよねえ。

 おどおどした側近野郎でしたけれど、まあ、曲が始まったら踊りだしましたわ。普通にね。まあ、ごく普通の、特に楽しくも無いダンスですけれど。

 そんなダンスの傍ら、私は相手に向かって、如何にも意味深長に、囁きかけますのよ。

「ねえ、あなた、お肉とお魚ではどちらがお好きかしら?」

「へ?」

 何の脈絡もない話をされて、戸惑っていますわねえ。ええ。そりゃーそうでしょうとも。

「では、ワインは?赤と白、どちらがお好きなの?」

「え、ええと、白を、好みますが……?」

「あら、そう。私は赤が好きですけれど、白も悪くないと思っておりますわ」

 そのまま私、意味のない雑談をひそひそと、小声で続けましたわ。相手も、そうそう私の問いに答えないわけにはいきませんからボチボチ返してくれますわねえ。

 ……そして、そんな私達を、デュエッタの国王は訝し気に見ておりますのよ。

 ええ、当然、疑わしいでしょうねえ。唐突に、私が家臣の1人をダンスに誘ったのですもの。しかもダンス中、何やらひそひそと囁きかわしているとなれば、余計に怪しく見えるはず。

 精々、何の密談なのか、何の情報収集なのか、疑心暗鬼に駆られていればよくってよーッ!おーほほほほほ!

 

 

 

「さて。そろそろ私と踊っていただこうかしら?」

 その後も適当に楽しんで、いよいよ目当ての人物……国庫から1桁横領していった野郎の手首をふん捕まえることに成功しましたわ。

 奴は冷や汗を流しながらも努めて平然としているようでしたけれど、ビビってるのがしっかり伝わってきましてよ。

 そして私は黙って踊ってやりましたわ。ダンスのパートナーにするにはあまりに拙くて、まるで楽しくないダンスでしたけれど。でも、嫌いな奴がビビッている様子はそれはそれで楽しいんですのよねえ。

 ……ということで一曲踊り終えたところで。

「あなた、オーケスタ王国の国庫から1桁持っていきましたわよね?返して下さる?あれ、国民の血税ですの」

 私、さっさと切り出してしまいましたわ。

 向こうから何か言ってくるならそれはそれでよし、としましたけれど、何も言われないのをいいことにトンズラここうとしていたら、もういよいよ許すわけには参りませんものね。

「な、なんのことですか?」

 ……と思ったら、この期に及んでシラを切り始めましたわぁ。この面の皮の厚さ、ちょいとばかりびっくりでしてよ。

「すっとぼけるのも大概になさいな。あまりごたごた抜かすようならすぐさま死刑にしますわよ」

「し、死刑?は、ははは、ご冗談を!」

 あまりに面の皮が厚いものだから、さっさと話を進めてみますわ。まあ、大体反応は分かっていましたけれど……。

「私はデュエッタの民。どうして、外国のあなたが私を裁けるというのです?」

 コレですわ。

 ええ。予想通り、ですわね。

 

 当然ですけれど、私はフォルテシア王国の女王。デュエッタの中のことについて裁く権利は持ちませんわ。

 ただし、同時にデュエッタの国王に対して『その罪人を渡せ』と要請することはできますけれど……まあ、それも期待薄、ですわねえ。

 私が横領野郎と向かい合っていると、何事か、と、周りがざわざわし始めましたわねえ。これも一体、どこまでが仕込みなのだか分かりゃーしませんけど。

「個人的な言いがかりまでであれば容認できます。しかし、これ以上となると……デュエッタ王国を巻き込んだ外交問題に発展しますぞ?よろしいのですかな?新生オーケスタ王国……あなたの国は、革命から3月と経たずに他所の国と揉め事を起こすことになりますが?」

 横領野郎はビビりながらも、それでも随分と立派に言ってのけましたわねえ。ええ。随分とデカい態度を取るものですわ。いっそ感心してしまいそう。

「卿はこの国の人間だ。内政干渉はやめて頂こう」

 ……でも、国王までもがやってきてこの茶番劇が始まると、流石にそろそろ、辟易させられますわねえ……。

「お分かりでしょうから申し上げますわね。この男はフォルテシア王国が誕生する前、オーケスタ王国にて、国庫から多額の資金を横領しましたの。罪人の引き渡しに応じて頂けますわね?」

 一応、私の後ろにはいつの間にやらドランが来ていて、その体躯と鎧兜の物々しさで周りを威圧し始めていますわ。けれど、相手の面の皮も相当に厚いようですわね。国王も、まるでこちらの話を聞いちゃいませんわ。

「おやおや、おかしなことを仰る。彼はこの国の民。何か勘違いされているのでは?」

 国王の、ヘラヘラした笑みが気に食わなくってよ。それにこの、勝ち誇った顔。あー腹立ちますわ。腹立ちますわ。めっちゃ腹立ちますわ!

「あまりおかしな言いがかりをつけられては困ります。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアという女傑が型破りなお方だという事は聞こえていますが、あまりに傍若無人な振る舞いをされるという事でしたら、これは外交問題に発展する。我々近隣国は、毅然とした態度で新生オーケスタ王国を糾弾しなければなりますまい!」

 

 この、如何にも『こちらが正義だ』と言わんばかりの顔。

 恐らく横領野郎から資金をある程度横流しさせておいて、それらを全て知った上でのこのしらばっくれ方。

 実に、やり方が稚拙ですわね。

 単にお金が欲しいなら、さっさと横領野郎を私に突き出しておいて、横領野郎の資金を奪ってしまえばよいのですわ。亡命してきた野郎へ義理立てする必要なんて無いでしょうから。

 そして、単に私を馬鹿にしたいというのなら……それは、愚かなことですわね。

 ええ。私と友好関係を築こうとした上で、それでも尚、横領野郎を庇おうとするのならば、それはそれでよかったんですのよ。それくらいの知性と器の大きさを見せてくれるなら、私、本当にデュエッタ王国と『友好国』になろうと思いましたのよね。

 ……けれど、随分とガッカリさせてくれますわね。

『どうせ証拠なんて出てこない。出てきたとしても捏造だと言えば水掛け論にできる』なんて高を括って、こちらを好き勝手に舐め腐って。

 あまりにもやり方が、ヘタクソですのよ。やるならもっと上手くおやりなさいな、と言ってやりたいところですわね。

 

 

 

 でも、まあ、よくってよ。

 相手がこれだけクズなんですもの。こちらも容赦が必要なくって、気楽ですわ。

「そうねえ……外交問題、ね。つまりそれって、国と国との諍い、ということですわよね?」

「勿論です。それとも、まさか戦争でもなさるおつもりか?ならば我々近隣諸国は……」

「いえ。ただ、『外交問題』に発展するには、国と国が存在しなければならないんですのよねえ、と思っただけですのよ」

 私の確認に、デュエッタ国王はポカンとしていましたわ。

 まあ、彼にとっては意味が分からない言葉かもしれませんわね。きっと、予想すらしていなかったことでしょう。

 けれどね、常に考えておくべきなのですわ。

『ドアにカギを掛けたら安心かしら?ドアをぶち破られることは考えませんの?』

 或いは、『鎧を身に着けたら安心かしら?鎧ごと火にくべられたら焼け死にますわよ?』

 更に或いは……。

「要は、国が無ければそもそも外交問題なんて起きませんわ」

「は?」

 間抜けな王に、教えて差し上げましょう。私はご丁寧にドアをノックすることしかできないわけじゃあないのだと。鎧の騎士相手にも勝てるのだと。

 

「まだ分かりませんの?……一夜にして国が消えたなら、外交問題もクソも無いんじゃなくって?」

 根本から、全部ひっくり返すようなことだって、平気でしでかす悪党なのだと!

 

 *

 

「はい、お嬢さん。近隣諸国の新聞、調達してきたぜ」

「あらありがとう。さて、さぞかし素敵な新聞なのでしょうね?」

「そりゃあ勿論。ほら、ね?お嬢さんのお望み通りの一面大見出しだ」

 はい。

 ということで、近隣諸国の新聞は、揃って『デュエッタ王国の悲劇』について取り扱っていますわ。

 ええ。何せ、無事にデュエッタ王国は消えましたもの。

 

 ……まあ、大したことはしていませんのよ。ただ、私が国王に啖呵を切って注目を集めている間に、キーブが特大の雷を宮殿に落としてくれただけですの。ついでに、今回の裏方、完全別行動だったチェスタが仕込んでおいた火薬の類が宮殿の足元の方から崩壊させてくれたっていうだけですのよ。

 そして私とドランは手あたり次第、会場に居た全ての人を鞄に詰めて持って帰ってきた、という、ただそれだけのことですわ。城の兵士が100人居たって、そいつらが爆発でわたわたする間抜け共なら居ても居なくても同じことですのよ!

 会場の封鎖はジョヴァンとキーブが上手くやってくれていましたから、本当にただ、袋のネズミ共を鞄に詰めてやるだけの簡単なお仕事でしたわねえ。おほほほほ。

 ……ま、そういうわけでデュエッタ王国は王も重鎮達も全てが一夜にして消えて、宮殿も雷と火薬とで崩壊。国としてはもう機能しない状態に追い込まれましたのよ。

 となれば、まあ当然ながら、『外交問題』なんてどこにも存在しませんわ。喧嘩って同じ階級同士でしか発生しませんの。そして外交問題も同じように、国同士でなければ起こりませんの。

 つまり、『国未満』となったデュエッタとの間には、もう外交問題は起こりようが無いということですわァーッ!おーほほほほほ!

 

「へー。見てよヴァイオリア。面白いこと書いてある」

「あらあら……面白くってよ。この新聞記者、うちに来ないかしら」

 キーブが見せてくれた他国の新聞では『デュエッタ王国はフォルテシア王国に喧嘩を売ったからああなったのだ』というようなことが書かれていましたわ。中々面白くってよ。

「こ、このような記事を書かれては、周辺の国から一斉に制裁を受けるのでは!?」

「いやいや、リタル。お前さん、まだまだ甘いね?確かにフォルテシア王国は近隣諸国にとって悩みの種だろうよ。潰しちまいたいって思ってる国もあるだろうさ。だがね、今回の一件で『分が悪い』ってことも十分に伝わった。『一夜にして国を消した』女傑相手に、そうそうちょっかい掛けてくる気概がある国があるとは思えないね!」

 そういうわけですわ。ジョヴァンの言う通り、心配は要らないでしょうね。

 むしろ、この一件を見て私のところにカチコミに来る奴らが居たら、楽しませてもらえそうですもの。むしろちょっぴり期待しちゃいますわぁ……。

 

 ……まあ、結局、横領野郎を処刑して、『他国に亡命しようとも、国民の血税を持ち逃げする者は決して許しませんわ!国ごと潰しますわ!でも持ち逃げしたお金を全額返納するなら命は許しますわ!』と声明を出したところ、他国からは『そちらの国から亡命してきた人物だが、お返しする』とすぐさま返品していただけましたの!

 まあそりゃそうですわね。自分の国まで巻き添え食いたくはありませんものね。デュエッタの二の舞になりたくない賢い国は、亡命者を自主返納しますわよねえ!

「これで国庫が多少潤いましたわねえ」

 ということで、とっても効率的に亡命者をとっ捕まえることができて、私、とってもホクホクしておりますの。詰まらなかったり面倒だったりする作業については、こうやって楽できるに越したことはありませんわ!それに、亡命先に裏切られて返品される亡命者達の顔を見ているととっても幸せな気持ちになれますもの!おほほほほ!

 

 *

 

 ……ということで、見せしめって大事ですわね、というお話でしたわ。ついでに、やるなら思いっきりやってしまった方がよろしい、ということでもありますわね。

 実に単純な結論ですけれど、私の人生には大切な教訓ですわ。だってこれからも、こういうことがあるのでしょうから。

 まあそんなところで、皆様ごきげんよう。皆様もどうぞ、思い切りのよい人生をお送りになってね!おほほほほ!

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