没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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後奏4「悪党は最後まで華々しく、ね!」

「ねえ。あなた達は処刑されるなら、どんな処刑方法がよろしくって?」

 

 私、試しにそう聞いてみましたのよ。まあなんとなく、特に意味も無く、ですわね。

「はあ?殺され方に違いなんかあんのかよ」

 そこらへんに座ってぼーっとしてたチェスタが、私の言葉に振り向いて、首を傾げましたわ。

 まあ、私の問いが唐突だったことは認めますけれど。でも、『殺され方に違いなんかあんのかよ』とは聞き捨てなりませんわねえ。

「あら。自分の幕切れですもの、華々しい方が良いんじゃなくって?」

「そーいうもんかよ」

 チェスタはイマイチ、ピンと来てないようですわねえ。まあ、そういう浪漫とは相性の悪い奴だってことはもう分かってますけど。

「そうだな、チェスタ。殺され方の違いが分からんというのなら、『剣で心臓を一突き』と、『生きたまま指先から寸刻み』、どちらの処刑方法が良いか考えてみろ」

 ……ついでに、ドランがこういう奴だってことも、まあ、分かってますけど!でも、それにしたってもうちょっとなんかありませんでしたの!?私が聞きたいのはもうちょっと浪漫溢れる方のお話ですのよ!?そりゃあ確かに、拷問紛いの処刑は私だってゴメンですけれども!

「うわ……痛いのはやだなー」

「誰だってそうでしょーよ。何、お前さん、今更そういうこと言うの?」

 実感が追いついてくるのが遅いチェスタがジョヴァンに横から小突かれつつ、うーん、うーん、と唸り始めましたわ。ようやく『理想の処刑方法』に思索を巡らせ始めた、という事かしら。チェスタの思索じゃ、浅いこと間違いなしでしょうけれど……。

 ……そのまましばらく待っていたら、チェスタが、はた、と何か気づいたように顔を上げて、言いましたわ。

「俺、酒におぼれて死にてえ」

 ええ。まあ、実に……実に、チェスタらしい、ですわね。まあつまり、天才と紙一重、というか、ハサミと共に使いようがどうとか、そういうかんじの言葉ですわ!

「ねえチェスタ。私、処刑方法だっつってんですのよ?」

「そういう処刑方法、ねえの?」

「あると思いまして?あ、ホントに思ってますの……?」

 流石に、処刑の為に酒に溺れさせてくれる、ってのは無いと思いますわ。まあ……現実味はありませんけれど、チェスタの理想はそういう死に方、なんですのね……?

「酒、ねえのかよ。じゃあ薬で死にてえ。薬の処刑ってねえの?」

 ……更に無さそうなのが来ましたわねえ。ええ。葉っぱの急性中毒とかで殺してもらえるとしたらチェスタは大喜びでしょうけれど、いよいよあり得ない処刑方法ですわ、それ。

「あなたが思ってる薬とは違う薬でしょうけれど、一応はありますわよ」

 まあ、でも、薬殺、というのはあり得ますわねえ。薬も調合によっては、眠るように死ねるわけですから、人道的な処刑方法、として他国で採用されていたりいなかったりすると聞きますわ。

「へー。じゃあ俺、それってことで」

 チェスタは満足げにそう言っていますけれど……えーと、よくよく考えてみたら、チェスタは薬殺されるとしても、なんか、ただラリって終わる気がしますわぁ……。こいつ、薬をキメまくってますもの。下手すると、お兄様と同じくらい毒への耐性が付いているかもしれませんわ……。

 

 

 

「ま、薬殺ってんなら苦しまずに死ねるからいいわな。でも俺はもうちょっとばかし浪漫が欲しいね!」

 さて、チェスタの次はジョヴァンの番、ですのね。

 まあ、多少大仰に過ぎるところはありますけれど、ジョヴァンはこういう浪漫を理解している性質ですから、少々楽しみですのよ。

「なら、ジョヴァン?あなたはどういう処刑方法をお望みですの?」

「よくぞ聞いてくれました。俺が望む処刑方法は……ま、銃殺、ってのはどうかしらね」

 あらっ。銃殺……ですの?なんだか意外ですわねえ。死に方に銃を選ぶ、というのはなんだか珍しいような気がしますけれど。

「ほら、銃ってお嬢さんの所縁のモノじゃない?」

 不思議に思っていたら、ジョヴァンがにやにや笑いながら解説を始めましたわ。私としてはなんとも言い難いかんじですわぁ……。

「処刑でしょ?ならどうせ、俺は貴女に関わったせいで死ぬんだろうから。だったら銃で殺されるってのは、数奇な運命の末路としてはよろしいんじゃないですかね?……ってことで、終わりまでキッチリお願いしますよ、お嬢さん?」

 おまけにこんなん言われちゃったらいよいよ私、どういう反応をしたらいいんだか分かりませんわよ。生憎、私は『あなたのこと、処刑されるような目には遭わせませんわよ』なんて無責任に言えるほど愚かではありませんのよねえ。

「……ま、そうでなくても、死ぬ時は一瞬で死ねた方がいい。その点、銃はピッタリじゃない?それに、お嬢さんは一回、撃たれてるワケだし。なら俺も、イッパツ撃たれてみるのも悪かないと思ってね」

 まあ。……なんというか、うーん、やっぱり意外、ですわねえ。彼、もうちょっと死ぬ時にはアッサリしているような気がしますけれど。

「ねえお嬢さん。銃で撃たれるのってどういうかんじ?」

「そうですわねえ……多分、焼けた鉄の棒でぶっ刺されるかんじに似ていますわ。それでいて穴は開きますから、血が出ていくんですのよ。でもそれらが全部、一瞬でそうなるのが一番の特徴かしら。だから、撃たれた時、現実味はあんまり無いんですのよねえ……」

 思い出しながら答えてみますけれど、銃で撃たれるって、別に、そんないいもんでもなくってよ。当たり所が悪かったら即死できませんし。実際、私もそれで生き延びてますし……。

「おい、ジョヴァン。俺も撃たれたことがあるぞ」

「俺はお前さんと浪漫感じる趣味は無いぜ。黙ってな」

 ……そういや、ドランも撃たれて生き残ってますものね。

 ええ……もしかして、銃で撃たれて死ぬのって、案外、難しいのかしら……?いえ、そんなこと無いはずなのですけど……なんか心配になってきましたわぁ……。

 

 

 

「まあ銃は苦しみは少ないだろうな。きちんと命中すれば」

「おいドラン。コワいこと言わないでくれる?」

 ジョヴァンにフラれたドランが脅すようにそう言って笑って、それから、ふと、眉根を寄せましたわ。

「俺は折角なら暴れてから死にたい」

「それ、処刑じゃあなくってよ!」

 真剣な顔で何を言い出すかと思えば、随分と欲張るじゃーありませんの!そんなん、私だってそっちがいいですわ!心行くまで戦って戦って、暴れまくってから死ねたら最高でしょうね!

「一応、他国にはあるらしいぞ。獣に襲わせて殺す、という刑罰が。……まあ、獣に食われることで、生まれ変わった時に人間になれない、というような迷信に基づいたものらしいがな」

 あ、成程。確かにそれなら聞いたことがありましてよ。

 要は、徒手空拳の人間を猛獣と一緒に檻の中に閉じ込めておいて、その人間が猛獣に食べられるのを檻の外から観客が眺める……というような、悪趣味な処刑方法もとい見世物、ですわね。

 確かにそういうの、無いわけじゃなくってよ。ただ、処刑目的だとするとドランが言ったように宗教が絡んだ理由になるのでしょうし、そうじゃなかったら処刑じゃなくて単なる見世物ですわ。

「だが、そもそも俺はそれだと死ねない。獣相手ならまず負けないからな」

「……そういやそうでしたわねえ」

 そうでしたわ。ドランは素手でドラゴン投げ飛ばせる奴でしたわ。猛獣と一緒に檻に入れられても、死ぬのはドランじゃなくて猛獣の方でしたわ。

 ちなみに私の場合、徒手空拳でドラゴンに挑むのはちょいと躊躇われますわねえ。あ、でも、絶対に相討ちにはしてみせますわ。なんて言ったって、私を食べたらそのドラゴン、間違いなく毒で死にますもの。おほほほほ。

「なら……まあ、どういう殺され方でも構わんが、獣の餌になるのは悪くないかもしれん」

 道連れドラゴンに思いを馳せていたら、ふと、ドランが妙に穏やかな顔で笑って、そんなことを言いますのよ。

「どうせ死ぬなら、何者かの役に立って死んだ方がいいだろう」

 そ、そういうこと言いますの……?まあ、ドランは人狼ですから、獣に食い殺される、という事について、色々と思うところがあるのかもしれませんけれど……。

 ……『何者かの役に立って死んだ方がいい』、だなんて、言うんですのねえ。

 うーん、ドランって、こういうところに善良さがチラつくんですもの。やっぱり彼、悪党には向いていなかったような気がしちゃいますのよね。

 まあ、彼自身が選んで悪党になっている以上、私がとやかく言う事はありませんけれどね。

 

 

 

「じゃあキーブ。あなたはどうかしら?」

 さて。ドランの希望が分かったような分からなかったような、そんなところで次はキーブに聞いてみますわ。

「は?死に方の希望とかあるわけないだろ」

 ……と思ったら、早速そんなん言われちゃいましたわ!全く、とっても現実主義な子ですわねえ……。

「っていうか、なんでそもそもヴァイオリアはそんなこと考えてるわけ?」

「浪漫がそこにあるから、ですわねえ。自分の幕切れは美しくあってほしいと思いませんこと?」

 キーブにじっとりした目で見られつつ、一応、弁明しますわ。

 確かに多少悪趣味な話題であることは承知の上ですけれど……でも、私達悪党にとって、自分の終わりって1つの浪漫なんじゃーなくって?

 そう。これって、私達が『悪』だからこその浪漫なんだと思いますわ!

「折角、悪党やってるんですもの。こういう夢想に耽ってみるのも悪くないと思いませんこと?」

「ふーん。あ、そう……」

 ま、まあ、キーブには理解できないかもしれませんわねえ。理解してほしくないような気もしていますから、これでいいんだとも思いますけれど。

 

「なら僕、ヴァイオリアと一緒がいいな」

「えっ?」

 と、思っていたらキーブが突然、そんなことを言って、にや、と笑いましたわ。

「どうせ処刑されるんなら、一緒がいい。ついでに、僕の方が先に死ぬのがいい」

 あら、そうですの。キーブが、私と。一緒に。ついでに、私より先に。

 ……よくないですわ!

「それは嫌ですわぁ!」

「なら最初からこんな話するなよ」

 これから処刑される私が!私の前にキーブが処刑されているのを見たら!流石に正気を保っていられるか分からなくってよ!『キーブが私と同じ場所で、私より先の順番で処刑される』って、私にとっては最悪の処刑方法ですわーッ!嫌ですわーッ!絶対に!嫌!ですわーッ!

「ヴァイオリアが僕に死んでほしくなくても、ヴァイオリアが死ぬなら僕、その前に死んでやるから。それが嫌なら処刑されるようなことにならないでよね」

 キーブはなんだか自信たっぷりな笑みを浮かべましたわ。うう、自分が私の弱味だってよーく理解した上での発言、実に見事ですわねえ……。

 ……まあ、キーブがそれくらい、自分に自信を持てるようになっている、っていうことですから、処刑云々は忘れるとして、前向きに考えておきましょうね!

 

 

 

「あ、あの!」

 さて。キーブの話をずっと聞いていたリタルが、ふと、強い決心を抱いた表情で私を見つめてきましたわ。

「キーブさんがヴァイオリア様と共に処刑されるということでしたら、僕もお供します!」

「お供しないで頂戴な」

 なので私、さっさとお断りしましたわ。

 キーブといいリタルといい、何なんですの?私への嫌がらせ、流行ってますの……?

 いえ、ジョヴァンの言っていたことじゃないですけれど、もし彼らが死ぬようなことがあったら、それは多分私のせいですものねえ……。自分の間接的な死因になる者への嫌がらせを行う、というのは、まあ、分かりますけれど……。

「……でもいざとなったら逃げてしまうかもしれない。僕は臆病だから」

 けれど、この、真剣極まりないリタルを見ていたら、なんか、もう何も言えませんわ!そんなに思いつめないで頂戴なッ!

「ねえリタル。あんまり深く考えるもんじゃーありませんわ。それに、そんなところに誇りなんざ要りませんわよ。生き残った者が勝ち、っていうのも十分アリだと思いますわ。あなたは是非、そうして頂戴な」

 リタルが真剣なものだから、私もつい、真剣に助言してしまいますわね。もし本当にそういう状況になったとしても、リタルには逃げてもらいたくってよ。

「ありがとうございます、ヴァイオリア様。……まあ、そういうことで、僕は見苦しくなく死ねる方法がいいです。僕の決心が揺らがない内に、見苦しくなく、処刑されたい」

 でもリタルったら、なんだかさっぱりとした笑みを浮かべていますのよ。いっそ晴れ晴れとしているくらいの表情で、まるで、自分の目標を1つまた見つけたような……。

 ……リタルは悪党って訳でもないんですから、こっち側に染まらないでほしいですわぁ……。

 

 

 

「それで、お前はどうなんだ、ヴァイオリア」

 キーブとリタルの将来が心配になってきたところで、ドランが私に聞いてきましたわ。

「散々俺達に聞いたんだ。お前にも理想の処刑方法とやらがあるんだろうな?」

「ええ、勿論」

 尋ねられたなら、答えないわけには参りませんわね!リタルとキーブへの心配は置いておいて、悪党魂、見せてやりますわ!

「私の理想の処刑は、当然、断頭台での斬首、ですわっ!」

 

「……斬首、か」

「あー、確かに、絵にはなりそうだわな。麗しの女王陛下の首が落ちる瞬間ってのは、芸術品とも見紛うことでしょうよ」

 ドランは何とも不思議そうな顔をしていて、ジョヴァンは『分かる分かる』とばかりに頷いていますわ。

 でも違いますわ!

「それで、広場を私の血で汚してやりますのよ」

「……ああ」

「あー……そっか。そういうことね。はいはい……」

 そう。

 私の血は猛毒ですわ。それこそ、私の血が原液のまま零れた地面は死の大地と化すくらいに。

 ならば、私の血が夥しい量、流れたならば。……そこは間違いなく、その後100年草も生えない死の大地となるに違いありませんのよ!

「私を殺す奴らの広場なんざ、100年単位で汚されればよくってよ!」

「死んでからの被害状況考えるの、ちょいとばかし復讐心が強すぎない?」

 ええ!復讐は悪の華ですわ!自分を殺す奴にはできる限りの迷惑をかけてやりたくってよ!おほほほほ!

 

「首切られるのが好きなのかよ。お前のことだから、火ィ点けられてえのかと思ったのに」

「私、燃やすのは好きですけれど燃やされるのは嫌いですのよ!」

 なんだかチェスタが残念そうにしてますけど、普通に考えて分かりませんこと!?火を点けたい奴が火を点けられたいことって、ありますの!?確かに私、火は好きですけれど、死因まで火にするのは何か違いますわ!

「……ヴァイオリア。1つ、確認したい。お前が燃やされることになったなら、お前の毒はどうなる?」

 チェスタに説明していたら、ドランが何とも言えない顔で、そう聞いてきましたわ。

 ……ええと、毒、ですの?私が?燃やされることになったら?

 となると……私が燃やされる時、毒である血液も、燃えますわよねえ。

 それで……灰は風に乗って飛んでいきますし、それ以外は……。

「……もしかすると、私を燃やすと私の毒が煙と共に空へと昇っていって、そして、雨となって大地に降り注ぐ、のかしら……?」

 

 人間は燃やすと煙になりますわね。煙になると、空の上、死後の世界へと旅立てる、なんていう話も聞きますけれど……それより大切なのは、その後、ですわ!

「ヴァイオリアの毒の成分が、雨に……?」

「ええ!それはそれで悪くないんじゃないかしら!」

 ちょっと考えてみたら、それはそれで悪くない気がしてきましたわ!私の血が煙となって雲となって、そして雨になるなら……間違いなく、私を殺した奴らが困りますものね!

「ちょっと、ちょっと、お嬢さん。それ国一つ分の生き物が死にかねない大災害よ、間違いなく」

「とても素晴らしいですわ!ええ、是非それでいきますわ!」

「処刑後にそれ、か。どうせお前の処刑は国が揺らいだことによって玉座から引きずり降ろされる都合の処刑だろうが……お前の死が新たな不幸を呼ぶとは、何とも迷惑な奴だな」

 素晴らしい案を前に、私がちょっぴりはしゃいでいたら、ジョヴァンもドランもニヤニヤしながらそんなことを言ってくれましたわ!悪党同士、なんとなく分かるものがありますのよねえ!

 華々しく処刑されて!そして私が死んだ後にも、凶悪な爪痕が国に遺る!

 これぞ理想!理想の処刑ですわ!おーほほほほほ!

 

 

 

「……ま、処刑なんざされないに限りますけれど。そして私、まだまだ処刑される気はありませんけど」

「そーだよなあー」

「で、ですよね……ほっ」

 さて。いい加減、雑談も終わりにしなくては。リタルがそろそろ泣きそうですものね。『処刑』についてあふれ出る浪漫はたっぷりありますけれど、ここら辺にしておきましょう。

「だから僕、そう言ってんじゃん。なのに処刑される時の心配とか、何考えてんのさ」

「ふふふ。実際のお話と夢物語は別腹じゃありませんこと?」

 キーブはなんだか心配になっちゃったのか、ちょっと拗ねたような態度ですけれど。でも、こういう趣味の悪い夢物語もたまには悪くなくってよ。

 だって私達、悪党ですもの。ね?

 

 ……まあ、このお話は、本当に処刑される時にでも取っておくことにしますわ!

 ということで、それでは皆様、ごきげんよう!素敵な人生をね!

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