没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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後奏5「学生生活を振り返りますわ!」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今、久しぶりにエルゼマリンへ来ておりますの!

 

「懐かしいですわぁー」

 白い漆喰塗りの建物に反射する日差し。

 涼やかな潮風。

 表通りの華やかな美しさと、その陰から仄かに香る裏通りの魅力。私の第二の故郷と言っても過言ではない、このエルゼマリン!

 ああ、懐かしいですわ!とっても懐かしいですわ!

「この間クラーケン狩りに来たばっかりじゃん」

「そうは言っても、あの時は街並みを懐かしむ余裕すらありませんでしたもの」

 キーブがちょっと呆れた顔をしていますけれど、やっぱりアレは違いましたのよ。ゲソをシバくためにエルゼマリンへ来るのと、こうして優雅にエルゼマリンへ来るのとでは全然違いますのよ!

「……あら?それともキーブ。あなたやっぱり、今、『余裕が無い』んですの?」

「そ、そんなわけないだろ」

 ちょっと試しに揶揄ってみたら、キーブはむっとして見せてきましたけれど……私、知ってますのよ。彼が今日、ちょっぴり緊張してること。

 昨日の夜も、眠るギリギリまでずっと準備と今日の確認をしていましたのよね。

「でしょうね。ふふふ、ごめんあそばせ。ちょっぴり揶揄ってみたかったんですの。ね?キーブ『先生』?」

 ……そう。今日、キーブはエルゼマリンにある王立学園の特別講師として呼ばれていますのよ。

 

 

 

 きっかけは非常に単純ですわ。国策ですわ。

 ……ええ。国策ですの。私はこの国の女王として、真っ先にテコ入れすると決めていた部分がございますのよ。

 その1つは、研究ですわ。キーブには王城でも魔法研究員として働いてもらっていますわね。

 やっぱり新たな技術というものは良いものでしてよ。他国と渡り合っていくためには、他国より秀でた部分が1つ2つは最低でも無けりゃー話になりませんもの。私、自分の国をどっかの属国にする気は無くってよ。

 そしてその研究の下支えとなるもの。それが、教育ですのよ。

 

 ええ。教育ですわ。当然、『国民全員が上級学校に通うべき』だなんて非現実的なことは考えておりませんわ。学より経験が必要な職なんていくらでもありますもの。各々、性分と身の丈に合った職を選んで、職に必要な学びをそれぞれの場所で得ていけばよくってよ。

 ですから、私の言う『教育の推進』は……この国を率いていくことになる、研究や教育、そして国政に携わることになる者達の為の教育、ですわね。

 ま、要するに、エルゼマリンの学園みたいな場所の充実ですわ。

 元々エルゼマリンの王立学園は、概ねが貴族向けの学園でしたけれど……それって即ち、魔法の適性がある者や、何らかの形で政治にかかわることになる者の為の教育の場、ってことでしたのよね。ほら、貴族ってほとんどが魔法の適性を持ちますでしょ?ですから、そいつらが雑に魔法ブッぱなしてえらいことにならないように、そういう意味でも教育が必要でしたのよねえ……。

 

 ……と、まあ、元々がそういう状況の王立学園ですけど。この度、女王自ら視察に赴くことに致しましたの。

 何と言ってもこの学園、最近まで結構ガタガタでしたのよ。

 オーケスタの無能共が管理していた頃にコネで入った無能な教師も大勢居ましたし、それから革命のゴタゴタがあったことで、危機管理能力の高い知識層がいくらか出国してしまいましたし……人材不足でしたの!

 知識層はなんとか、お高い給金と手厚い待遇とで呼び戻していますわ。でも、全員を呼び戻せたわけでもなくってよ。私も学園時代にお世話になった先生がいらっしゃいますけれど、その内の何人かは、もう他国での地位を得てしまっていて、戻ってこられなくなっていましたわ……。

 そして、オーケスタが送り込んでいた無能な教師は全員クビにしましたわ。

 まあ、私がクビにするまでもなく、『不当に玉座に着いたフォルテシアの悪魔を引きずりおろせ!』っていう活動に参加していたところを適宜しょっ引いただけでお掃除が終わっちゃった部分も大いにありましたわ。なんで無能な教員って活動家になりたがりますの?何なんですの?そうなる決まりでもありますの……?

 ……まあ、無能はさておき、こうして学園は随分と、スッキリしちゃいましたのよ。

 生徒も私がいくらか攫ったり売ったりしちゃいましたし、亡命しちゃった者も居ますし……全体的に、規模が小さくなっちゃいましたのよね。

 

 そういう訳で、私は国策として、キッチリ教育にお金をかけて……『平民でも、入学試験を突破した者には奨学金を給付する。学べ』としましたの。減っちゃった分の生徒は、ある程度補填しておいた方がよくってよ。

 ……で、それと同時に、あちこちから特別講師をお呼びして、短期間だけ授業を受け持って頂くことにしましたの。

 海の向こうへ行ってしまわれた私の恩師も数名、『短期間ならいけますよ!』と教鞭を取ってくださいましたわ。ありがたいことですわね。

 ……そして、今日からの特別講師は、キーブ・オルド。最年少で王立魔法研究所に所属し、既に数々の成果を上げている、新進気鋭の魔法使いなのですわ。おほほほほ。

 

 

 

 ということで、学園ですわ。……つい2年前には私、まだここの学生でしたのよねえ。それが今は女王になって、視察のためにここを訪れている、だなんて、なんだか変なかんじですわぁ……。

「さ。キーブ。あなたは授業の準備があるでしょう?職員室へ行ってらっしゃいな」

「ヴァイオリアは?」

「先に学長先生にお目にかかって参りますわ。あなたの授業はちゃんと見に行くから安心なさいね」

 キーブは『別に見に来なくていいんだけど……』だなんて言ってますけど、冗談じゃーなくってよ!私の可愛いお気に入りが教壇に立つんですのよ!?見に行かない訳がありませんわッ!

「……ところで、学長と何の話するの?」

「そうですわねえ、まずは今後の経営方針について、かしら。それから、必要としている援助がどんなものかは聞いておきたくってよ。現場の実情も分からずに支援したって、効率的とは言えませんものね」

 キーブも『それはそうだね』と頷いてくれていますわ。話の分かるかわいこちゃんで大変よろしくてよ。

「それから、少しばかり思い出話もしてこようかしら。ま、折角の視察ですもの。息抜きも必要ですわね」

 まあ、学長先生とは多少、縁がございますのよ。あのお方、中々の食えないジジイではいらっしゃいますけど、私、嫌いじゃなくってよ。

 積もる話も色々とあることですし、折角ですからお話ししてこようかしら。

 ……なんて、思ってたら。

「ヴァイオリアって、どういう学生だったの?」

「あらっ、そんなこと気になりますの?」

 キーブがちょっと気になるみたいですわね。とはいえ、そんなに大したことは……。

 ……いえ、私の学園生活って、まあ、ちょっとばかり、変わってたかもしれませんわね。おほほほほ。

 

 

 

 まだ少しばかり約束の時間までありますもの。中庭のベンチに腰掛けて、キーブと先にお話ししますわ。学長は後ですわ。

「私の学生生活って、どちらかと言えば惨めで寂しいものでしたわ」

 そうして思い出すのは、私の学生生活。

 ……まあ、苦にするほどではありませんでしたけれど。確かに少しだけ、寂しくはありましたわね。

「友達がおりませんでしたのよ」

「ああ……そうなんだ」

 ええ。まあ……仕方のないことではありましたわね。

 フォルテシア家は所詮、成り上がり。元々の貴族ではありませんから、家同士の繋がりや伝統があったわけではありませんでしたし、何より、あの時の貴族は腐りきってましたもの。『フォルテシアなどとは関わるな』とお家からよくよく言い含められた同級生達の中で、友達なんてできるはずがありませんでしたの。

 まあ、私自身、職人や商家の方が貴族よりも好ましいと思っていたくらいでしたのよね。当時の貴族には私自身、馴染めませんでしたわ。

「教科書に水ぶっかけられたり、私自身に水ぶっかけられたり……お返しに火の粉ぶっかけたり。色々ありましたわねえ」

「火の粉ぶっかけたんだ。やるじゃん」

 今思えば、『色々ありましたわね』というくらいですけれど、当時の私は時々、苦しくなることもありましたわね。でも、今、キーブが『やるじゃん』って言ってくれるから、なんだか救われるような気持ちになりますわね。私の心の中に居る当時の私も、これにはニコニコ笑顔ですわ!

「座学は当然、全部私が一位でしたわ。学業には手を抜きませんでしたの」

「へー。ヴァイオリアが学園の特別講師やったら?」

「生憎、その暇が中々取れませんのよねえ……。それに、実技は然程好成績というわけでもなかったんですのよ?」

 思い出すのは、魔法の実技の試験。

 私は元が成り上がりであることもあり、何より、魔力の大半が私自身の毒耐性と毒である血とに持ってかれてしまったせいで、魔法はほとんど使えませんでしたのよ。

 唯一まともに使えるのは、身体強化の魔法だけ。それに加えて、簡単な火の魔法と幻覚の魔法が使えたくらいでしたわ。

「ですから私、小細工でなんとかやってましたのよ……。召喚関係はてんでダメでしたから、火の魔法と幻覚の魔法で、火の鳥を作り出してそれっぽく見せかけてなんとかパスするような……」

「器用じゃん……」

 あら。多分、キーブもやろうと思えばあの程度、できると思いますわ。ほら、早速むにゃむにゃやって、雷でぱちぱち光る小鳥を生み出していますもの。可愛らしいですわぁー。触ったら感電待ったなしでしょうから触りませんけど。

 

「その点、お兄様は本当に優秀なお方でしたわぁ……座学も実技も満点を超えていて、常に学年主席だったんですのよ!」

 ま、私は私でしたけれど、お兄様はお兄様でしたの!本当に優秀で……自慢のお兄様ですわ!

「あれ?コントラウスもそんなに魔力、無いよね?」

「ええ。でもお兄様はとっても器用でらっしゃいますもの。そうねえ……」

 私は例を少し考えて……それから、お兄様に実際に聞いたことがあるアレにしますわ。

「ねえ、キーブ。あなた、魔法の実技で、『魔法を用いて、離れた位置にある的を全て破壊しなさい』という課題が出たら、どういう点を気にするかしら?」

「どういう、って……」

 キーブは少し考えて、それからすぐに答えを出しましたわ。

「……まず、制限時間とか、あるのかどうか。早い方が得点が高いのか、的の中心を射抜いた方が得点が高いのか。そういうところ?」

「あら、優秀ね。流石、私の教え子だわ」

 私、思わずキーブの頭、撫でちゃいますわ!優秀で可愛い子の頭は撫でるに限りますわ!それに最近、キーブは撫でられてもそんなに嫌そうじゃありませんのよ。慣れてきてくれたのかもしれませんわ!なら撫でるしかありませんわ!撫でますわ!

「で、コントラウスはもっと違う視点だったってこと?」

「いいえ?概ねあなたと一緒ですわ。ただ……それを、徹底しておられましたのよ」

 キーブを撫でつつ、私はもう、ニッコニコですわ。お兄様の自慢話をできる機会を見逃す手はありませんわ!

「まず、魔法は個人によって向き不向きがありますわね?私があなたのように雷の魔法を使うことはできませんし、あなたは火の魔法が然程得意ではないでしょう?……ですから、学園では『同じ結果を出せるなら、火を使おうが水を使おうがかまわない』という方針ですの」

「まあ、そうなるよね」

「ええ。ですからお兄様は、『出さなければならない結果は何か』を考えて……それを完璧に、こなしましたの。先程の的当ての課題では、地魔法で生じさせた小石を投擲して的をブチ破っておいででしたわ」

「……魔法じゃないじゃん!」

「魔法を『使う』ことが課題でしたもの。魔法以外、例えば筋肉を使ってはいけない、なんて文言はどこにもありませんでしたわね?」

 私、そのお話をお兄様から聞いた時、目から鱗が落ちるようでしたのよ。ええ。私も魔法は得意じゃありませんけれど、『目的を達するために、自分が取れる手段は何か』をより一層意識するようになって、私の成績も伸びていったのですわ!

 今も、この教えは大切にしておりますの。

 手段って、時には選ぶべきでしょうけれど……手段を選ぶことにばかり固執する必要は無いのだ、とね。おほほほほ。

 

 

 

「まあ、実技が駄目な私も、戦闘訓練はピカイチでしたのよ?年に1度の武術大会は毎年部門の優勝か準優勝かで……」

「ああ、あまりにもヴァイオリアとコントラウスが優勝するもんだから、男子女子フォルテシアに区分が分かれたってやつ?」

「それですわ」

 学園側には、あちこちの貴族から『フォルテシアを武術大会に参加させるな』って苦情が入ってたらしいですわね。だから私もお兄様も、出場停止の処分を受けていたかもしれませんの。

 ……でもあの時、『だったら男子女子フォルテシアにしましょう』って提案してくださったのが、今の学長先生ですわ。フォルテシアだけを冷遇しているように見せかけて、私とお兄様の実力を知らしめる機会を下さいましたの。だから私、あのお方が嫌いじゃありませんのよ。おほほほほ。

「まあ、戦闘訓練で成績優秀なのは分かるよ。ヴァイオリアだもんね」

「ええ。私ですもの。逆に、他の連中が生っちょろかったんですのよねぇ……。武道は貴族の嗜みであり、同時に責務でもありますのに」

 飢饉でも食事の食いっぱぐれが無くて、平民から取った税で生きていられる貴族は、国の有事に戦う責務がありますのよ。貴族に魔法が使えるのだって、そういうことですものね。

 その点、今の私は国王でありつつ武力でも国の頂点に近しい位置におりますもの!完璧ですわね!おほほほほ!

 

 

 

 

「そういう訳で、私の学生生活って、パッとする部分が限られておりましたのよね。年度最後のダンスパーティーでは、お兄様以外とダンスすることもなく、壁の花でしたし……お兄様が先に卒業なさってからは、私、本当に1人ぼっちでしたの」

 まあ、孤独であることが嫌いなわけではありませんでしたけれど。……でも、私、孤独であることが好きなわけでも、なかったんですのね。きっと。

 だって今、とっても楽しいんですもの。

 女王として国の頂点に君臨して、頼もしい仲間達が居て……こうしてお話を聞いてもらえる。

 当時の私が今の私を見たら、きっと羨ましがると思いますわ。きっとね。

 

 

 

「さて。そろそろお時間ですわね。さ、キーブ。行ってらっしゃいな」

「うん。じゃあ、後で授業、見に来てね」

「ええ。……ふふふ、まさか、生徒としてでもなく学園の授業に参加する日が来るとは思ってませんでしたわね」

 お話は一区切りにして、キーブを見送ったら私も学長先生のお部屋へ向かいますわ。学長先生のお部屋は塔のてっぺんですけど、適当に壁を蹴りながら空中で跳躍すれば届くでしょう。焦る必要はありませんわね。おほほほほ。

 ……あら。そういえば私、学生としては『中退』なんですのよねえ。……いえ、よく考えたら、中退じゃなくて除籍処分になってるのかしら……?

 そう考えると、キーブの授業を聞きに、時々学園に来るのは、アリ、かもしれませんわね。

 ……まあ、残念ながら、そんな暇は取れそうにありませんけど。

 

「やり直せたら、楽しいかもしれませんわねえ」

 過ぎ去ってしまった時間は、もう戻っては来ませんわ。でも、ちょっとだけ、思ってしまいますのよ。

 もし、今の仲間達と一緒に学園生活を送れたら、楽しかったんじゃないかしら、って。

 そう、考えて……。

「……やっぱダメですわッ!」

 思い出しましたわッ!私の仲間、人狼と骸骨と薬中でしたわッ!キーブとリタルならまだしも、他の連中が学園に居たらすぐさまお縄間違いなしでしてよッ!

 と考えると、やっぱり、学園生活は私には不向きだったんでしょうねえ……。

 ……ええ。そうですわね。私、今が一番楽しくってよ!忙しくもありますけど!おほほほほ!どなたか業務の一部だけでも代わってくださいましー!

 

 

 

 それでは皆様、ごきげんよう!どうぞ、今を楽しく生きてくださいまし!

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