没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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後奏7「昔話も悪くなくってよ」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今……久しぶりに、ジョヴァンとドランと一緒にエルゼマリンの裏通りに来ておりますの。

 

 

 

「いやー、ごめんなさいねお嬢さん。まさか、女王陛下を直々に呼びつけることになっちまうとは思わなかった。本当なら、俺とドランだけで処理できりゃよかったんだけど」

「よくってよ。これは確かに、『秘密裏に』やらなきゃいけませんし、下手に魔法を使うわけにはいかないなら、キーブもリタルも連れてこられませんし……何より、私の得意分野ですもの」

 ジョヴァンが申し訳なさそうにしていますけど、ま、仕方なくってよ。

 何せ、今回のお仕事……『秘密裏に処分したい薬物の処分』なんですもの!

 

 事のきっかけは、話せば長いことながら、聞けば短い物語でしてよ。

 まず、チェスタがお薬の販路が機能していることを確認するという名目でエルゼマリンに行って、いつものようにラリってましたの。

 ただ……そうしてチェスタが試した中に、よろしくないお薬が混ざっていたみたいなんですの。

 いえ、厳密に言うと全部よろしくないお薬ですわ。当然ですわ。ラリるお薬は全部、世間一般で言えば『よろしくないお薬』ですわッ!

 でもね、悪と一口に言っても、悪には200通りぐらいございますのよ。おほほほほ。そういうわけで、『よろしくないお薬』の中に、『とりわけよろしくないお薬』があった、ということですわ。

 あまり詳しくお話しするものでもありませんけれど……ま、ラリる前に死んじゃったら、意味がありませんのよ。ラリる側としても意味がありませんし、売る側としても、金蔓がすぐおくたばりやがりましたら、折角依存性のあるお薬を用意している意味がありませんの!

 ……と、まあ、そういう代物が、エルゼマリンに紛れ込んでいる、ということが、チェスタの体で証明されたわけですわ。

 あ、ちなみにチェスタ自身はピンピンしてますわ。『かなり死にやすいお薬』を試したって、あいつが死ぬわきゃーなくってよ。なんでって?私の血を原液でレロレロ嘗め回せる奴がそこらの毒薬で死ねるわけがございませんのよォーッ!なんなんですのアイツ!なんなんですのアイツーッ!

 死ななかったのは良かったですけれど!でもなんか!腹立ってきましたわーッ!ムキーッ!

 

 ……ということで、まあ、以上が事の顛末ですわ。

 当然ながら、この国のお薬事情を裏で牛耳っている私の立場からして、『飲んだらすごく死にやすいお薬』なんざ、さっさと取り締まらなきゃーいけませんわ。金蔓には死なれちゃ困りますのよ。

 でも、そんなところに『国軍』なんて出せませんのよ!『なんで女王陛下がそんなお薬事情知ってるの?』って言われちゃいますものねえ!

 それでいて!私達、当然、『そんなに悪くない方のよろしくないお薬』にはまだまだ市場で元気いっぱい、動き回ってほしいんですの!私達が!供給元ですから!

 ……となると、お薬市場にあるごく一部だけを取り締まって色々処分する、となったら、ドランやチェスタやキーブあたりを動かさなきゃいけないんですのよ。

 で……少人数で動くとなったら、実際のお薬をどう処分するか、っていうのが難しいのですわ。

 うっかり燃やしたら、煙になったお薬がエルゼマリンの表通りにまで届きかねませんし。

 うっかり魔法で処理したら、魔法薬の類が反応して全部吹っ飛びかねませんし。

 うっかり持って帰ったら、そこで見つかって旧王家派が私達を叩く材料にされかねませんし。

 うっかりチェスタを放っておいたら、今度こそキメすぎで死にかねませんしッ!

 ……となったら、仕方ありませんわね。仕方ありませんのよ……。

 

「しかし……お嬢さんが飲んで処分、とはね。全く。お嬢さんに飲まれる薬が羨ましいぜ」

 ジョヴァンがなんか言っている通り……今回のお薬、私が飲んで処分しますのよ……。あの、私、ゴミ箱じゃーなくってよ?でも……でも、仕方ないのですわぁ……。毒物薬物の処理として、一番簡単なのは、私が食べちゃうことなのですわぁ……。

「まあ、これでヴァイオリアの血を強化できるなら悪い話じゃあないだろう」

 そうなんですのよねえ……。私、最近、毒物の摂取が足りていませんの。鍛錬の一環として、ある程度は毒物を摂取し続けていた方がいいのは当然ですもの。特に、女王ともなれば、毒殺には強けりゃ強いほど良くってよ。今回もソレ対策と思って、頑張りますわぁ……。

 

 

 

 ということで、やって参りましたのはエルゼマリンの裏通りの一画にある倉庫ですわ。

 ドランとはここの一口で落ち合いましたわ。ジョヴァンは最初から連れて歩いてましたし、エルゼマリンの入口までは、キーブも一緒に来ましたけれど。

 キーブは『僕が居ないところであんまり危ないことしないでよね!?』って行って、学園に行きましたわ。……とってもかわいかったですわ!でもごめんあそばせ!多分、危ないことしますわ!

「……おい、何だ。懐かしい顔が揃ってるな」

 ドランがそんなことを言って身構える先、倉庫の中にはチンピラが数名。それから、薬中が数名。まあ、この程度ならいくらでもなんとでもなりますわね。私が出る幕じゃーなくってよ。

「あーらホントだ。再会を祝すためのワインでも持ってくるべきだったかしら」

 ……と思ってたら、ジョヴァンまでなんか言い出しましたわ。え、何ですの?お知り合いですの?でしたら余計に私が出る幕じゃありませんわね?

 もしかして私だけ置いてけぼりですの?と思いながら相手の顔を見てみたら、相手は相手で、ぽかーん、としてますわ。あっよかったですわ。私以外も置いてけぼりでしたわ。

「……俺達の顔を忘れたか?」

「いや、忘れたっていうかねお前さん。俺もお前も変わりすぎたでしょうが。お前はこんな雄ドラゴンみたいな奴じゃなかったし、俺は俺でこんな骨と皮みたいな奴じゃなかったし……」

「ああ……まあ、あの頃の俺達はまだまだガキだったからな……」

「そ。仕方ない仕方ない。こいつらが老けたってことは、俺達も老けたってコト」

 あ、あーあーあーあー、はいはいはい。なんとなーく、理解できましてよ?まあ、詳しくは後で聞くとしますけど……。

「……だが、手加減してやる道理は無いな?」

「ああ。無いね。やっちまいな、大将」

 ……どうやらここの連中。

 ドランとジョヴァンが昔、『お世話に』なった方々、ということらしい、ですわねえ……?

 

 

 

 はい。そうして連中は片付きましたわ。ドランが本気出したら、そこらへんのゴロツキなんざ、秒ですもの。

 私は何もしませんでしたし、ジョヴァンも何もしませんでしたわ。私はともかく、ジョヴァンは当然ですわね。彼、こういうところでは戦えませんもの。おほほほほ。

「さーて。こいつらの死体はどうする?」

「死体だけなら燃やしてしまえばよくってよ!倉庫ごと放火しましょうね!」

「あー……なら、キーブが合流してからの方がいいか。あいつが練習中の水魔法を使う舞台を整えてやる、ってコトで……」

 まあ、燃やすのは後ですわね。ここでいきなり放火したら、まだ片付いていないお薬が大変なことになりかねませんし、そもそも、建物が密集した裏通りじゃ、雨でも降ってない限り、延焼に延焼で辺り一面焼け野原になりかねませんもの。おほほほほ。

 その点、キーブは最近、リタルに対抗してか水魔法を練習中ですから……ま、彼の練習の場所として丁度いいんじゃないかしら。ね。

 

「ヴァイオリア。薬だ。処理を頼む」

「ええ。よくってよ」

 さて。人間が片付いたら、次はお薬の処理ですわねえ……。

 ドランが運んできた木箱の中を見てみたら、『ミスティックルビー』に似せて作ったのであろう、魔法毒由来のお薬の瓶が沢山詰まってましたわぁ……。瓶にちょっと高級感があるのが腹ァ立ちますわねえ……。

「じゃ、俺とドランとで片っ端から開栓してくから、お嬢さん、よろしくね。はい。グラスはご用意しましたよ」

「あんまり嬉しくありませんわぁ……」

 ジョヴァンが倉庫の隅から拾ってきたらしいワイングラスをハンカチで磨いて置いてくれたところに、ドランがバンバンお薬の瓶を開封していって、中身をドバドバ入れていきますわ。情緒がありませんわ。高級感のある瓶が持つ風情ってもんが消し飛んでますわ。

 ……まあ、一瓶一瓶チマチマ飲むのも面倒ですし、これが一番ですわねえ。このお薬が一瓶金貨数枚で取引されていたであろうことを考えれば、まあ、贅沢といえば、贅沢ですわぁ……。

 

 ということで早速、グラスいっぱいにお薬が溜まったら一気に呷る、という作業の始まりですわ。はいはい、私はゴミ箱でしてよッ!

「アッ、これは南方の葉っぱの香り!ということは、こいつら南の方と取引がありましたのね!?」

「いやあ、お見事。ワインの産地を言い当てられる貴族連中は数多かれど、毒の産地を言い当てられるのはこの世にお嬢さんただお一人だろうね!」

「便利な奴だな……」

 ま、こんな作業ですけど、楽しみながらやることだってできますわね。人間、ささいなことにでもささやかな楽しみを見出してナンボですもの。おほほほほ。

 ……ということで、折角ですもの。一つ、暇つぶしがてら、お話を聞かせてもらおうかしら。

「それで、ここの死体はあなた達とどういった関係だったのかしら?」

 

 

 

「えーっ、それ聞いちゃうの、お嬢さん!」

「ええ。聞いちゃいますのよ、お兄さん?……ということで、どうなんですの?因縁がありそうでしたけど」

 この私がお薬の処理のために働いているんですもの。ドランとジョヴァンにだって働いてもらわなきゃーつり合いが取れませんわ!暇つぶしに余興の1つくらいは提供してくださいな!

「……まあ、隠すような話でもないが」

 ドランはちょっと珍しいことに……いえ、とっても珍しいことに!なんだか照れたような、もにょもにょした顔しましたわ!珍しいですわ!正直、尻尾よりこっちの方が珍しくってよ!

「俺とジョヴァンが組むことになった原因の相手だな」

 ……と思っていたら、なんだか楽しそうなお話が出てきちゃいましたもの。私、俄然、元気になって参りましたわ!

 

 

 

「当時、路地裏の浮浪児(クソガキ)になった俺は、まあ……さもしい商売しててね。詳しくは言わないけど。えーと、ま、幸い、当時は親譲りの容姿があったし、口も回る方だったから、なんとか日銭を稼ぐくらいはできてて……まあ、それで、その日『商談』をしてた相手が、ここの死体共だったのよ」

 ジョヴァンはそう言うと、死体の1つをつまらなそうに爪先で小突きましたわ。

「で、当時の俺はクソガキにしちゃ、頭が回る方だったから……自分の商売と関係ない話もうっすら聞いて、なんとなく理解しちまった。当時から、こいつらは薬の類を売ってたんだけど、まあ、それが分かっちまってね」

 ああー、そういうことですのね。まあ……相手はジョヴァンをただのガキンチョだと思って、油断してた、ってところかしら。

 エルゼマリンの裏通りじゃ、喧嘩も殺人もお薬も、大して珍しいモンじゃありませんけど、でも一応、それらって違法ではありますのよねえ……。一応、ね。おほほ。

「……で!当時の俺は、多少頭が回るにしろ、分別の付かないガキだったから!それをネタにして、こいつらを脅してもうちょっとばかし金を出させてやろうとしちゃったのよ!」

「あらぁー」

 ま、分かりますわ。私が同じ立場だったとしても、同じようなことをしようとしたかもしれませんわ。

 ……でも当然、危ないお薬なんか扱ってる連中が、真っ当な連中であるはずは、ありませんのよねえ……。

「……で、お嬢さんもご想像の通り、俺はボコボコにされて、地下牢行きになった、ってワケ!」

「ですわよねぇー」

「まあ、売り飛ばされる予定になったわけだ。あ、だから顔は殴られなかったぜ。商品としての価値が落ちるからね」

 顔については……まあ、あんまし色々言いませんけど!でもまあ、ガキ1匹売り飛ばしたら、お小遣いにはなりますものねえ。それも、貴族生まれ貴族育ちのクソガキが、いかにもワケアリなかんじでウロついてたんですもの。当然、高く売れそうってことで、まあ、そうなりますわぁ。

 そこまで想像できていなかった、っていうあたり、ジョヴァンも当時はガキンチョでしたのねえ……。なんだか、変なかんじでしてよ……。

 

「が、その日の晩、ここの死体共どころか、俺すらも想像もしなかった出来事がね、起きちまったのよ、お嬢さん!」

「あら。何かしら?」

「それはね……なんと!」

 ジョヴァンはたっぷりもったいぶってから……ウインクを飛ばしながら、ドランの方を恭しく示しましたわ。

「ウチの大将の襲撃だ!」

「まあ、素敵!」

 ちなみに示されたドランはというと、チミチミとお薬の瓶の開封作業をしていますわ。デカい図体でチミチミと、健気ですわねぇ……。

 でも、私とジョヴァンがドランにパチパチと拍手を送ると、ドランは『俺が話す番か?』なんて言いながら、お薬の瓶とワイングラスをジョヴァンにおしつけて、やれやれ、と言うようにそこらへんの木箱に座り直して……さて。

「……まあ、ジョヴァンの話の通りだ。俺が、こいつらのアジトに1人で乗り込んだ」

 ……想像は付いてましたけど。

 こいつ、当時からして、規格外でしたのねえ……。

 

 

 

「きっかけは……俺が、前に居たところを追われて、あちこちを転々として……エルゼマリンに流れ着いたことだな」

 さて。ドランの話が始まって、いよいよ楽しくなってきましたわね。……でも、ドランがやってた時の倍以上の速度でワイングラスがいっぱいになるモンですから、飲むペースが早くなりますわ!ジョヴァンの手先が器用なばっかりに!もうちょっとゆっくりなさいなッ!こちとらお腹タポタポになりそうなんですのよッ!

「当時は人狼狩りが激しかった。……元々はエリザバトリの近くに住んでいたんだが、まあ、結局は群れは離散することになってな。俺は1人で生きていた。一年くらいだったか。……その結果、流れ着いたのがここだった」

 差し出されたワイングラスはちょっと一旦押しのけさせてもらって、ドランの話を聞きますわ。……まあ、彼も色々あったんですものね。それはなんとなく、分かっていてよ。

「裏通りは居心地が良かった。クソガキ1匹居たところで、そいつが人狼かどうかなんて、気にする奴はいなかったな」

 そうですわねえ。エルゼマリンの裏通りは、喧嘩吹っ掛けてくるキチガイや道端でラリってオネンネしてる薬中こそ多いですけれど、でも、それだけなんですのよ。

 学生時代の私が歩いていたって、『金持ってそうだな』と思ってカツアゲに来る奴は居ても、『フォルテシア家のご令嬢!ご機嫌麗しゅう!』ってやってくる奴は、居ませんでしたわ。

 ……そう。エルゼマリンの裏通りって、他人に興味がありませんの。それが、心地いいんですの。……それは私にも分かりますわ。おほほ。

「そういう訳で、俺は1人、襲ってきた奴を襲い返して金を奪って……」

「あらまぁ……」

「……その内、拠点を襲撃した方が簡単に金が手に入ることが分かって……」

「ガキンチョにして、既に発想が立派な悪党ですわァ……」

 ドランが当時からこういう発想だったなら、そりゃあエルゼマリンの裏通りは居心地がよかったことでしょうねえ!エルゼマリンの裏通りでは、法が守っちゃくれませんけども!同時に、こっちも法を守ってやる義理がありませんもの!

「……当時の俺は、今よりはもう少し分別が無かったからな。『悪い奴をこらしめよう』と思っていたんだ。その……正義感で」

「正義感ン!?エッ!?あなたそういう発想になることありましたの!?」

 ハァー!ガキンチョですわ!発想が!夢見がちなガキンチョの!それ!まるでリタルみたいでしてよ!

 でも規模がガキンチョのそれじゃありませんわねェ!?やることが『襲撃』ですもの!はー!これだから!面白くってよ!さあ続けなさいな!

 

「そういう訳で、俺はこいつらのアジトに潜入した。全員、殺すつもりだった。だが……当時の俺は、まだ経験不足でな。大人と変わらない力はあったが、1対多数で戦える技術が無かった」

 あっ、それ分かりますわぁ。1対1の戦いと乱闘って、全然違いますのよ。私もお兄様に色々と教えて頂いて、今でこそ多数相手に立ち回れるようになりましたけれど……まあ、かなりの技術が必要なんですのよね。

 ですからそもそも、基本的にはね、同時に戦うことを避けるべきですわ。潜入して皆殺し、ということでしたら、1人ずつ狙って1人ずつ落としていくのが一番良いんでしょうけれど……。

「俺は当時から、頭が回る方じゃなかったからな。立ち回りが下手で……それで結局、何人か殺したところで、俺も捕まってな。牢にぶち込まれた。だが、その牢にはもう1人、俺以外にガキが居てな」

「それが俺だった、ってワケ。いやあ、びっくりしたね!」

 ドランがくつくつ笑って、ジョヴァンがけらけら笑って……そして、2人は顔を見合わせて、にや、と笑いますのよ。

「……で、非常に不運なことに……牢屋には、『力はあるけど頭の悪いクソガキ』と、『力は無いけど頭は回るクソガキ』が揃っちまった、ってワケよ」

「ああ。……それで俺達は、脱出した、って訳だ」

 成程ね。

 ……こいつら、綱渡りして生きてましたのねえ!

 

 

 

「というのが、ま、俺達の出会いであり、こいつらとの因縁、ってトコかな。余興程度にお楽しみ頂けたなら幸いですよ」

「ええ。中々に面白かったわ。どうもありがとう」

 まあ、余興というには勿体ないくらいに楽しませてもらえましたわ。気心の知れた連中の昔の話って、どうしてか、楽しいんですのよねえ……。

「……ちなみに、脱出したらしたで、あなた達、そこで別れませんでしたの?よくその後まで一緒に居ましたわね?」

「そりゃあね!俺はすっかりやさぐれてたから、ドランを利用しようと思ってね。当時はこいつらの追っ手も怖かったし、実際、追っ手が来て、その後何回か、小競り合いになる羽目になったし……」

「『おいデカブツ、俺と組みな』だったか。ほぼ同い年だろうに、随分と高慢ちきな奴だと思った覚えがある」

「よく覚えてるじゃないの。お前にそんな情緒があっただなんて、驚きだぜ」

 なんというか……当然ですけれど、ドランもジョヴァンも、私に対する時とはちょっと違って見えますのよねえ。

 特に、私が知らない昔の話をしている時は、そうですわ。

 

 お母様が昔、仰っていましたわ。

『人間はまるで、宝石のよう。精緻にカッティングを施されて多くの面を持つほど、美しく煌めくものなのよ』と。

 そうね。人間って、本当に、色々な面があるものなのですわ。

 だから……余計に、ちょっぴり美しく、羨ましく見えるもの、なのですわね。きっと。

 

 

 

「……ってことで、大変だったのよ、お嬢さん。いざ組んでみたらこいつは人狼だったし、人間の常識が欠けてて、その割に、妙に夢見がちだったモンだから。育てるのが大変で大変で!」

 育て……まあ、育てた、のでしょうねえ。

 今でこそ、ドランはちゃんと襲撃できるようになってますし、そういう風に頭が回るようになってますけど。それは大体、ジョヴァンが仕込んだものなんでしょうし。はぁー、ご苦労様ですわぁ……。

「ま……ドランの正義感とやらを汚してやったのは俺ってことになるのかね。クソガキの矯正をしてやったとも言えるだろうけど」

「まあそうだな。感謝してる」

「うわあ……お嬢さん。明日はきっと雪が降るぜ。いや、槍かも」

「あまり揶揄うようなら、降るのはお前の血だぞ」

 ……軽口をたたき合う2人を見ていると、やっぱりちょっと、羨ましくもありますわねえ。私に向けられる面と、2人が向け合っている面は別のもの。今、2人が向け合っている面は、私には向けられないものなんですもの。……ちょっとだけ、寂しくってよ。

 でもまあ、これこそ、お母様が仰っていた通りですわ。人間には多くの面があって……だからこそ、煌めきますの。

「じゃ、俺達の話はここらへん、ってことで。……次の機会には、お嬢さんのお話も聞かせてもらえたら嬉しいね」

「ああ……コントラウスから少し聞いたことがあるが。7歳の時にはワイバーンを狩っていたそうだな?」

「ええ。なら、次のお茶の時にでも、お話しして差し上げますわ。うふふ……」

 ……そうね。私だって、そうだわ。彼らに向ける面とは違う面を沢山持っていて、だからこそ、私は煌めきますのよ。きっとね。

 

 

 

「さて。これが最後の一箱だ。お嬢さん、いけそう?」

「ええ……根性で飲み切ってやりますわァー!」

 はい。ということで、お薬の処理は何とかなりそうですわ。いえ、何とかしますわ。私が何とかしなきゃー何ともなりませんのよッ!何とかするしかありませんわッ!

「……これが終わったらお前の好きな放火だぞ」

 ええ!そうですわね!お楽しみがあるから頑張れますわ!やっぱり火って心躍りますものねぇ!特に、今日みたいに寒い日には持ってこいですわ!

「あー、じゃ、俺はそろそろキーブを探してくるとするかな。学園での仕事も終わった頃だろうし……」

 あら!キーブが来てくれるなら余計に元気が出ますわね!ならその時にはちゃんと綺麗サッパリ片付いているように!私、頑張ってお薬を処理しますわよーッ!

 

 ということで、皆様ごきげんよう!皆様もどうか輝かしく、麗しく、日々をお過ごしくださいな!

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