ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今……キーブを飾ってますのッ!
「……こんなの別に、要らないと思うけど」
「あらっ!なんてこと言いますの!?だって、授賞式ですのよ!?目いっぱい着飾りなさいな!宝石の1つや2つ、あって当然でしてよ!」
キーブは不満たらたらですけど、私はキーブを飾りますわ!何故って……キーブの晴れ舞台だからですのよ!
キーブったら、すっかり魔法研究の方でも成功していて、最近はそりゃあもう、メキメキと頭角を現しまくってますのよ。それこそ……『今年一番の魔法研究の論文の著者』として表彰されるくらいには!
今回のは国内での表彰ですけど、多分、来年か再来年には、世界規模で表彰される見込みですわ。これは女王としても鼻が高くってよ。我が国の魔法研究が進んでいる、っていう証明でもありますもの。如何せん、革命後すぐの我が国は舐められがちですものね。こういうところでも他国にしっかり牽制していきたいところですわ。
……というところだっていうのに、キーブったら、『表彰式に出るための礼装は一式持ってるから別に要らない』だんて言うんですのよ!
これには私もカチンときましたわ!それを聞いてすぐ、キーブのためにジョヴァンを呼んで、最高の生地を持ってこさせて、そのまま仕立て屋も呼んで、キーブに似合う形の礼装を数種類分、仕立てるように依頼して……。
そして今日!仮縫いが終わった服を全部試着させて!調整に出して!……そして今、全力で!キーブを!飾り付けてるんですの!
礼装を誂えるにあたって、仕立て屋には頼めないもの……そう!宝飾品の類を、キーブに合わせて幾つか買おうと思ってますのよ!
この優秀なかわいい子にその自覚を持たせるためにもね!さあキーブ!覚悟なさい!おーほほほほほほほ!
「やっぱりあなた、青色の石が似合いますわねえ」
キーブの胸元に当ててみているのは、見事な瑠璃のスカーフ留めですわ。
ジョヴァンが『キーブに?ならここらへんでしょ。はい。ついでに女王陛下もいくつか新調したら?』って持ってきてくれた宝飾品の数々は、1つ1つ、全てが素晴らしい品でしたの。宝石の質もさることながら、それを飾る細工も見事ですわ。さぞや名のある職人が手掛けたのでしょうね。
「瑠璃は1つ2つ、持っておきなさいな。ほら、これなんて、黄銅鉱の筋が雷のよう。あなたにピッタリですわ。そしてこっちは、色がとてもよくってよ。これだけの品は滅多にお目にかかれませんもの。これも買いましょうね」
「要らないって。そんなに……」
ジョヴァンが後ろのソファで寛ぎながら『流石女王陛下!お目が高い!』だなんて調子の良いこと言ってますけど、今日はジョヴァンの言いなりになってもいいくらいに買い物する気分ですのよ。
だって……キーブのためですけれど、私のためでもありますもの。
「ねえ、キーブ。宝石って、お金がかかるでしょう?」
「うん」
だから嫌なんだよ、っていうお顔ですけれど、そんな可愛いお顔で拗ねて見せたって可愛いだけですわ。おほほほ。
「つまり、宝石を身につけていると、金がある、って証明になりますわね?」
「……まあ、そうか」
「そうなんですのよ。つまり、『この宝石を身につけられるくらい金持ちで、金持ちになれるくらい給金がいい』っていう証明になりますの。つまり……この国が、魔法研究者を大切にしている、っていう証明に、ね」
私が説明すると、キーブは頷きながら聞いてくれますわね。いい子ですわぁー。
「同時に、質の高い宝石を身につけることは、見る目が確かであることの証明にもなりますわ。つまり、あなた自身の品位を証明することにもなりますの。お分かりかしら?キーブ。これは、この国の品格とあなたの品格、両方を証明する手段なんですのよ」
「……分かった。つまり、これは武器。そういうことで、いい?」
「ええ、正解よ、キーブ。これは武を用いない戦場での武器であり、防具ですの」
結局、キーブは納得してくれたようですわね。実に賢い子ですわぁ。
……でも、一番大事なところをまだ言っていませんのよ、私。
「それからね、キーブ。一番大切な理由ですけれど……私、可愛い子には着飾らせたい性分なんですのよ!」
私、あなたがあなただからこそ、高価な宝石を身につけさせて、『キーブ・オルドはこれだけ大切にされているのだ』って証明してやりたいんですのよ。おほほ。
ということで、すっかりご機嫌を直してくれたキーブと一緒に、宝石選びですわ。
「これ、何の石?」
「これはサファイアですわ。これだけ深く鮮やかな青色のものは最高級品ですわね。他にも、もう少し紫がかった色合いのものも高値がつきますけれど……あなたにはこれくらいの色合いのがよく似合うと思いますわ」
「ふーん……こっちは?サファイア?こっちは違うみたいに見えるけど」
「こっちはカイヤナイト。美しい青色ですけれど、割れやすくて加工が難しい石ですわ。これはいい腕の職人が手掛けたのでしょうね。それで、こっちはアクアマリン。海の守りを宿す石、だなんて言われてますわ。これだけ濃い色のものは珍しいですわねえ」
キーブは、前向きになったら自ら進んで勉強しようとしてくれますし、教え甲斐のあるいい生徒ですわね。
それから、これだけの宝石を仕入れてこられるジョヴァンはまあ、腕利き、といったところかしら。……ま、ここ最近、貴族の没落が後を絶ちませんもの。市場に流れ出る宝石が多くて、仕入れ時なのでしょうけど。おほほほほ。
「そうね……あなたには深い青や紺がよく似合いますけれど、こっちのシトリンなんかもよく似合いますわ。黒髪に金色が良く生えますのよねえ」
シトリンが繊細な金細工で囲まれたブローチをキーブの胸に当てて鏡を見せると、『ふーん』だなんて言いながら、キーブは『こういうのが似合う、ってことか』って納得してますわ。ああ、本当に教え甲斐のある生徒ですこと!
「これは?こっちも金色の石だけど」
「これはトパーズですわ。悪くない色ですけれど……うーん、トパーズの中でも一級品と言われる色は、少し紅色がかった黄金色ですの。ですから、これはちょっと格の低いトパーズ、ということになりますわね。でもまあ、品質は良いものですし、あなたに似合う色ではありますもの。少しくだけた場面で使えばよくってよ」
「くだけた場面……?」
あああ……キーブには教えなきゃいけないこと、沢山ありますのよね。彼はもう貴族の一員ですし、でも場数は踏んでませんもの。『少しくだけたパーティーで、質の良い、けれど格の低いものを身につけるお洒落』なんて知らないでしょうし……ううーん、こういうのって教えるの、難しいですわぁ……。
……そうして、キーブに宝石や服装の話、格式やお作法の話なんかをしながら、ジョヴァンが持ってきた宝石の類を一通り見終えて……そこで私、1つ、閃きましたのよ。
「あ、そうですわ。折角だもの、あれはあなたにあげましょう」
「え?」
「頂き物ですの。でも、あなたに下賜するには丁度いいと思いますのよ。ちょっと待っていて頂戴な。持ってきますわ」
私、自分の衣裳部屋へ入って、そこに置きっぱなしにしてあったもの……とーっても貴重で高価で、でも身につけたことが一度もないソレを持って、キーブの元へ戻りますわ!
「これ。これですわ!青真珠のネックレス!」
……そう。
これ、『青真珠』なんですのよ。
柔らかなブルーの色調を帯びた真珠は、照りも巻きも完璧な一級品。この色合いのこともあって、紛れもなく『一国の女王へ贈るに相応しい品』と言えますわ。
「……真珠って、白いんじゃなかったっけ」
キーブは首を傾げて見てますけれど、ま、そうですわね。大抵の真珠は、白やアイボリーですものね。特に、エルゼマリン近海で採れる真珠は純白のものが多いんですの。キーブにはその印象が強いでしょうね。
「そうね。大抵の真珠は白いですわ。でも、ピンクやオレンジのものだってありますのよ。それから……ええと、こういうものもありますわね」
真珠の説明をするんだったら、と思って一緒に持ってきたジュエリーボックスを開けて見せると、キーブは案の定、『わあ』と驚きの表情を見せてくれましたわ。
「……黒?緑?」
「孔雀色、とでも言うべきかしら。『黒真珠』の一種ですわ」
私のジュエリーボックスには、大粒の黒真珠を一粒あしらったブローチが入っていますの。お気に入りですのよ。おほほほほ。
「ああ……魔法の媒介にする素材だ、って、聞いたことはある」
「そうね。闇の魔法なんかとも相性がよくってよ。海のものだから、水の魔法とも相性がいいんですの。あなたもどこかで使うかもしれませんわね」
キーブは勤勉ですわねえ。確かに、黒真珠は色々な魔法や薬の材料になりますし、儀式の媒介にすることもありますわ。ま、貴重な黒真珠を使って行う儀式なんて、最近はやらないですけど……知っておいて損はありませんわ。こういう古い知識はきっと、宮廷魔術師の先輩達から教えてもらったんですのねえ。キーブは人気者ですもの。おほほほ。
「他にもね、真珠には色々な色がありますの。南の海には金色の真珠もありますし、紺色の真珠だってあるそうなんですのよ。どちらもきっとあなたに似合いますわ。……ジョヴァン!今度、取り寄せておいて頂戴な!」
「はいはい、仰せのままに」
ジョヴァンのことですから、きっと本当に仕入れてくれますわね。楽しみですわぁ……。
「それで、この青真珠ですけれど……こうした青の真珠はとっても珍しいんですの。特にこれは大粒で形も良くって、紛れもない一級品ですわ。あなたを飾るに相応しい品よ」
さて。私はやっと、青真珠のネックレスを手に取って、キーブの首にあててみますわ。
……キーブの色の白い肌に、品のいいブルーがよく似合いますわね。彼の瑠璃紺の瞳や黒髪にもぴったりですわ!見立て通りですわ!大満足ですわ!
「やっぱり似合いますわ!あなたにこれだけ似合うんですもの、ソーラス王国から贈られた時、無闇に突っ返さなくってよかったですわぁー!」
「えっ、これソーラスから来たの?」
「ええ。いつぞやのクラーケン騒ぎの後に『親交の印』ってことで贈ってきましたわ」
ソーラス王国は、うちに麻薬流してた国ですわ。奴らの麻薬組織は潰しましたわ。ついでに奴らの港全部封鎖すべくクラーケン放してやりましたわ。
……で、そうした諸々について、向こうとしては『もうしませんので許してくださいこれからも仲良くよろしくお願いします』って言いたいのは山々でも、表立っては言えませんもの。代わりに、『親交の印』を贈ってきて下手に出る姿勢だけ示してきた、ってことですわね。
ですからこの青真珠のネックレス、なんかケチが付いてる気がして嫌だったんですのよねえ……。それに……。
「……あの、それ、ヴァイオリアが使った方がいいんじゃないの?」
「あら、キーブ。よーくご覧になって?……私、この色、似合いませんのよ」
「……あ、そうなんだ」
……私、栗色の髪に赤い瞳なモンですから、こういう優しい青が似合いませんのよ!絶望的に、似合いませんのよォ!
でもいいんですの。その分、ルビーやガーネットがよく似合う私ですもの。おほほほほ。
それに……やっぱり、この青真珠は、私じゃなくて、キーブにこそ似合うのですわ。
「ねえ、キーブ。こうした青真珠って、決して青い色素があるから青い訳じゃないんだそうですわね」
「え?そうなの?」
そうなんですのよ。……南の海の方の、紺色の真珠や金色の真珠なんかは、そういう色素を生み出す真珠貝から生まれる真珠だからこその色らしいのですけれど。でも、エルゼマリンやソーラスの海の真珠貝……普通であれば白の真珠を生み出すはずの真珠貝から採れる青真珠は、青い色素なんてちっとも入っていませんの。
「茶色なんですって。この真珠は、本当は、茶色の薄膜を幾重にも被っているのですって。……そのせいで、青く見えるのだそうですわ。不思議よね」
「あ……光の干渉、だっけ?この間、教えてもらったやつ」
「ええ。以前、幻影の魔法をやった時にお話ししたアレですわぁ」
ちょっと前、キーブに幻影の魔法を教えた時、『光の干渉』の話をしたことがありましたのよねぇ。幾重にも薄く幻影の魔法を重ねてやると、特定の色に見えるようになる、というような……まあ、蝶の羽ですとか、シャボン玉ですとか、そういうところにも見られる現象ですわ。アレを幻影の魔法で際限できるようになると、結構便利なんですの。おほほ。
「じゃあ、この真珠って、本来は茶色いんだ。……茶色の真珠も珍しいと思うけど」
「そうですわねえ。何せ、真珠貝が茶色の真珠を生み出す時って、真珠貝に異常がある時なんですもの」
キーブがちょっと目を瞠るのが可愛らしくて、思わずちょっぴり笑っちゃいますわ。
「真珠貝が、真珠に薄茶の膜を纏わせる時。それがどんな時かというと……傷つき、病に冒され、苦しんでいる時なのだそうですわ」
そもそも、真珠というものがそういうものですわね。真珠貝の中に異物が入り込んでしまって、それで傷つくわけにはいかない貝が、自分の身を傷つけないように異物を体液で囲って、包んでいって……そうして異物が、真珠になるのですわ。
貝が平穏無事ならば、真珠は生まれませんの。貝にとって真珠って、ちょっと嫌なものなんじゃないかって思いますわ。特に、青真珠は猶更そうですわね。
「……ちょっと残酷だね」
「ええ、そうね。でも私、だからこそ、青真珠が好きなんですのよ」
……でも私は、強く美しく傲慢であれ、と生きている人間ですのよ。
「傷つき、病んで、苦しんで……それでも生きようと足掻いた貝が生み出したからこそ、これほどまでに美しい。私、そう思いますの。傷つき、病んで、苦しんでいる時……もしかしたら今、私は、希少で美しい青真珠を生み出しているところなのかもしれない、と思えば……気高くあれるでしょう?」
……貝の気持ちなんて、私には分かりませんけど。でも、真珠貝だって同じように思っているのかもしれませんわ。自分が美しいものを生み出しているのだと、そう知っていて、気高く生きているのかもしれませんもの。
そして少なくとも、私自身はそうであれと思っていますし……キーブはもっとそうだと、思っていますのよ。
「ですから、私があなたに贈るのはこの青真珠ですわ」
改めて、キーブに青真珠を差し出せば、キーブはちょっと笑って、それを取りましたわ。
「……じゃ、貰っとく」
「ええ。そうして頂戴な」
キーブは、手に取ったしげしげと青真珠のネックレスを見つめて……ふと、気づいちゃった顔になりましたわ。
「でも僕、ネックレスなんてしないけど!?」
「あら、そう?してもいいと思うけれど」
「しない!これ女性ものだろ!」
「ならローブの帯飾りにでも仕立て直してもらいましょう。それはそれできっと綺麗ですわぁ」
……折角ですから、キーブの為に宝石職人を呼んでもいいですわねえ。彼のための宝飾品なんて、いくらあってもいいですもの。おほほほ。
と、いうことで。
キーブの表彰式には、私も参加しましたわ。というか、私からキーブへ直々に表彰状とメダルと報奨金を進呈しましたわ。当然ですけど、他にも分野違いで数名の学者を表彰しましたわ。
こうして優れた学者にはバンバン名誉とお金をたっぷり与えて、この国の技術開発を大いに促進していく所存ですの!おほほほほ!
……表彰式の日のキーブは、私が仕立てさせた藍色の礼服一揃いに、私が前に与えた長杖という恰好でしたわ。
そして、キーブの胸には青真珠の飾りがついていて、中々に映えましたのよ。
……私、表彰の時には心からキーブを称えましたわ。他の学者についてもそうでしたけれど……でもやっぱり、キーブは特別ですの。
こんなにも立派になった彼のことを、私、心から誇りに思いますわ!おほほほほほ!
……ところで。
それから2週間で、ジョヴァンがしっかりやってくれましたわ。南の海の金色の真珠や紺色の真珠をバンバン仕入れてくれましたのよ。
ただ……。
「随分と……色々な真珠を、これはこれは大量に仕入れましたのねえ。まるで、市場の買い占めみたいですけど……」
「いやいや、何を仰いますやら。俺はただ、『噂の宮廷魔術師』が表彰式で真珠を身に着けてそれが話題になるんじゃないか、なんて予想して、仕入れといただけよ」
……表彰式でキーブが青真珠を身に着けていたことは、早速話題になりましたの。
ということで、今、王城内では男性が真珠の飾りを身に着けることが流行の兆しを見せていますのよねえ……!ですからそれを見越したジョヴァンが真珠を買い占めて、見事に寡占市場なんですのよねえ……!
「で、これはお嬢さんの分ね。お代は結構。俺からの愛の印ってことで」
更に、ジョヴァンは私の首に、それはそれは見事な金色の真珠のネックレスをかけてくれましたわ!アアーッ!これまた今日のドレスにピッタリですことォーッ!
「私もまとめて商売のダシにしようとするんじゃありませんわァーッ!」
今やジョヴァンがこの国の装飾品の流行を司ってるんですのよねェ!なんか!納得いきませんわァーッ!
「でもこれをキッカケにしてエルゼマリンに真珠産業ができたら、ソーラスの真珠産業如きアッサリ潰せるぜ、お嬢さん」
「許しますわッ!私をバンバンお出汁にしなさいなッ!」
でも憎き敵国を潰す為なら納得しますわ!ヨシですわ!
ということで、皆様もどうぞ、宝石のように美しくあって頂戴な!それではごきげんよう!
7月16日より、『没落令嬢の悪党賛歌』コミックス2巻が発売されます。
また、『みんなで決める!マンガ総選挙』に本作がノミネートされておりますので、よろしければ皆様の清き一票を投じて頂けますようよろしくお願いします。