没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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3話「新鮮な葉っぱ(違法)のサラダですのよ」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、キーブとジョヴァンの知らせを聞いているところですの。

 ……そう。2人、帰ってきたのですわ!『成功』の報せを引っ提げて!

 

 

 

「面白かったよ。町の傍の高台の上で鞄逆さまにしてさ。スライムぼとぼと落っことして。あとは町まで点々と餌撒いておけば、スライムは勝手に町に移動していくし、町に入ったらもうそこら中餌だらけだし」

 キーブの話を聞いているとこちらまで楽しくなってきますわね。

 突如として町を埋め尽くすほどの量のスライムに襲われる町……。阿鼻叫喚だったのでしょうね。ああ、実際に見てみたかったですわ。

「ポアリスに着いてすぐ、スライム駆除剤を大量に仕入れたからね。ま、駆除剤は王都から運ぶしかないだろうよ」

「ちなみにそのスライム駆除剤はどうしましたの?」

「んー、売ってきちゃっても良かったかもしれないけどね。あんまり足がつくのもアレかと思って、そのまんま持って帰ってきちゃった。うちの店で売るかな。どうせ品薄にはなるんだろうし」

 ジョヴァンも巧くやったようですわね。ポアリスの町の混乱ぶりは一層増すことでしょう。スライムってチマチマやっつけるの、案外めんどくさいんですの。駆除剤を撒いてしまえばそれだけですぐ駆除できますし、死ななくてもスライムは皆、駆除剤を感知した途端に、ぴゃーっと逃げ出していきますからそれで事足りるんですけれどね。逆に言えば、駆除剤が無いとめんどくさい、ということですわ。

 

「エルゼマリンの警備はどうなってる」

「外?まあ、流石に全員撤退って訳にはいかないみたいね。でもま、相当数は減った。なんでも、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアの次の潜伏先はポアリスだ』って評判らしくてね。大人気よ、お嬢さん」

「ええ、全くですわ!」

 私ばかり追われるのはどうかと思いますけれど、逆に私の悪名が私の隠れ蓑になるならば大歓迎ですわ!

「今、兵士はこぞってポアリスに行ってるみたいね。エルゼマリンに残った連中は『念のため』ってことらしくて、やる気は無いみたいよ」

 まあ、色々やらかしながらずっとエルゼマリンに居座っているとは思われていないのでしょうね。愉快ですわ。おほほほほ。

 

 ……ということで。

 そろそろ私とドランとチェスタも慎重になら外出してもよさそうですわね。

 なら早速、考えていた作戦『鞄の中で麻薬農園作戦』を実行致しますわ!

 

 

 

 作戦会議やら諸々の準備やらがありましたので、出発は翌日の深夜になりましたわ。

 今回の面子は、私とドランとキーブとジョヴァン。ジョヴァンは店番でもよかったのですけれど、麻薬販売のルート、ということになると彼が居た方が都合がよくってよ。

 あ、チェスタが留守番なのは当然ですわ。麻薬農園に薬中なんて連れていけなくってよ!

 

「こっち。面白い位置にあるだろ」

「ええ……山の中、ですのねえ。それも、案外近くの」

 キーブの案内で、私達はフルーティエの分家がやっていた麻薬農園へ向かいますわ。

 貴族が麻薬栽培しているなんて、どれだけ遠いところかしら、とも思ったのですけれど……案外近場でしたわ。馬を飛ばせば1日ですわね。

 ただその代わり、見つかりにくいように山の中に農園があるらしいんですの。

 山の中に畑を用意するのって、結構大変なんじゃあないかしら。警戒の結果なのでしょうけれど、非効率的な気もしますわねえ。まあ、これから畑は鞄の中ですから、別に構いませんけれど。

 

 山に踏み入って2時間。ようやく、麻薬農園に到着しましたわ。

 キーブが居たのでするする辿り着きましたけれど、道を知らなかったら辿り着くのは困難ですわね。

「結構大規模ですのねえ。斜面を切り開いて、階段みたいにして、畑の面積を確保していますのね」

「面白いだろ」

「ええ。とても」

 その麻薬農園は、見たことのない景色として私の目に映りましたわ。

 山の斜面を切り開いた、極緩やかな階段のような畑。そこに生い茂って、さわさわと風に揺れる葉っぱ。夕暮れ時の山間の風景。とてものどかですわね。

 折角ですから新鮮な葉っぱをおひとつ頂きますわ。

「えっお嬢さんつまみ食いしちゃうの」

「ええ。葉っぱを食べてもラリりませんけれど、味は分かりましてよ」

 手近な畑から、若くて柔らかい葉を1枚摘んで口に運びますと、新鮮なみずみずしさが広がりますわ。ほのかな苦みと舌に引っかかるようなえぐみが、この葉っぱが一級品だということを証明していますわね。これは畑の回収が楽しみですわ。

 

 

 

 次に、ここの労働者に挨拶しておこうと思ったのですけれど……なんと。

「あれ、居ない」

 労働者たちのための小屋と思しきところを探してみたのですが、そこはもぬけの殻。誰も居ませんわ。

「おかしいな……畑に居るか、ここに居るかだったんだけど」

「逃げたんじゃあないの?流石に2週間近く経ってるし、エルゼマリンでこいつらのご主人様がどうなったかも知れてるだろうし」

 うーん、労働者が居ないとなると、厄介ですわね……。栽培するのが一気に面倒になりましてよ……?

 

 しかし、1つ朗報もありましたの。

「……お前らは誰だ?」

 明らかに表の人間じゃあない奴らが来ましたわー!

 

 

 

「僕だよ」

 そこへ出てきたのは、キーブですわ。キーブは一応念のため、仮面をつけてフードを目深にかぶっていたのですけれど、それらを外せば目の前にやってきた男達はきょとん、としましたわ。

「な……お前、生きてたのか」

「勝手に殺すなよ。で?そっちはどうしたの?まさかここの主人がどうなったか知らなかった、とかそういうことは無いよね?」

 キーブがそう言って男達の様子を見ると……男達は明らかに、キーブの後ろに居る私達3人を気にしましたわね。ええ、ええ。そりゃあ気になるでしょうね。筋肉狼と骸骨男と麗しの令嬢の3人組ですもの。不審ですわ。どう見ても不審ですわ。

「ああ、後ろの3人は気にしなくていい。僕の仲間だから」

「そ、そうか」

 男達はそれでも私達を気にしていますが、キーブは気にせず話を続けることにしたようですわね。

「で?そっちは何しに来たんだよ。もしかして自分達で収穫しに来た?」

 ……男達は皆、手に鎌を持ったりしていますわ。要は、ここの葉っぱを収穫する格好、ですわ。

「売る奴がわざわざ収穫に来たのかよ」

「仕方ねえだろう。ここの『主人』がああなっちまったって聞こえた途端、ここの連中、逃げ出しやがったんだ。どうやら国の監査が入ると思ったらしい。そのせいでこの畑は放り出されて……こっちの必要なものが全く手に入らねえって状況だ。客からは早く薬を寄越せと言われてるし、仕方ねえ、自分達で回収に来た」

「あはは、ご苦労様」

 キーブはケラケラ笑って……それから、ふと、私の方を振り返りましたわ。

「紹介する。こいつら、フルーティエ家の後ろで動いてた麻薬の売人。……麻薬が手に入らなくて困ってるらしいんだけど、どうする?」

 

 

 

 どうする、と聞かれましたけれど、こんなの一択ですわ!

「なら、麻薬はこちらのものをお譲りしますわ」

「は?」

「売る相手は貴族かしら?」

「え、あ、ああ……そうだが」

 成程。貴族相手なら多少吹っ掛けてもいけるでしょうし、逆に多少吹っ掛けられてでも次のを仕入れて売らないと面倒くさい、という状況ですわね。貴族なんて、麻薬を買っていることがバレたらヤバい癖に、麻薬を手に入れることにまで横暴さを発揮しますもの。『麻薬を売れ。さもなくばどうなるか分かっているだろうな』というような脅し文句が方々から聞こえているのでしょうね。

 ……この売人達は、自分達で麻薬の収穫をしなければならない程切羽詰まっている、という訳ですから……相手はこの話、飲まざるを得ないですわ!

「ならよくってよ。こちらが持っている薬をお譲りします。勿論、お金なんて頂きませんわ。『今後の友好の証』に、ね。ひとまずそれで急場を凌いでくださいな?そうね、まあ、魔法薬系のお薬を100回分ほど。それで足りるかしら?」

「なっ……魔法系麻薬か!?高級品だろう?」

「ええ。まあ、そのくらいは差し上げますわよ。私達、これからお友達になるんですもの」

 原価は瓶代ぐらいですけれど。おほほほほほ。

 ……でも、今のこいつらには喉から手が出る程欲しいもののはずですわ。何せ、2週間、麻薬栽培関係は止まっているんですもの。葉っぱだとこれから加工したりなんだりの作業もありますし、売れる形になるにはもっと時間が掛かりますわよね?今、既に貴族にせっつかれているとしたら……種類が違くても、貴族達が納得するほどの質と量の麻薬があったら、飛びつきたい気持ちになるはずでしてよ。

「……けれどその代わり、あなた達にお願いがありますの」

 さあ。相手は完全にこちらの条件を飲むしかない状況ですわ!……ということで、平和的に参りましょう!

「今後はうちと取引してくださらない?」

 

 

 

 はい。ここから先はジョヴァンが詳しい話を進めますわ。正直、実際の販売の話になると私が居てもあまり役に立ちませんの。

 ジョヴァンと、その護衛のためにドランが一緒になって、売人達と小屋で話すことにしたらしいですわね。

 ……その間に、私とキーヴはミスティックルビーの用意ですわ。

「持ってきていて良かったですわぁ」

 空間鞄から取り出したるは、ミスティックルビー用の小瓶と希釈に使う道具一式ですわね。

 さて、早速ミスティックルビーの生産に移りますわよ。

 ……というところで。

「あのさあ……ほんとに『ミスティックルビー』を渡しちゃっていいの?」

「構いませんわよ。どうせほぼほぼ無限に出ますし」

「いや、そうじゃないって。『ミスティックルビー』の瓶のデザインは特徴的だろ?だから、誰が売ってるのか、貴族達にまで分かると思うんだけど」

 ……あら。

「そう、ですわねえ……じゃあ、『ミスティックルビー』と名乗らない方が良さそうですわね?」

『ミスティックルビー』はジョヴァンの店でも売っていますから、必然的に私達とのつながりを示す材料になってしまいますの。麻薬の売人さん達にバレるのは何ら問題ないとしても……売る相手にまでバレると面倒、かしら?うーん、まだ判断が付きませんわねえ……。

 ま、いいですわ。

「そういうことなら、少なくとも初回は別物にいたしましょう。大丈夫ですわ。予備の瓶はたくさんありますわ」

「空間鞄に入れっぱなしだったのかよ……」

 空間鞄からミスティックルビー用ではない、普通の硝子瓶を出しましたわ。これに詰めればいいでしょう。

 ……あ。

「ついでに成分も少し、気休め程度に変えましょうか」

 

 

 

「はー、新鮮な葉っぱは美味ですわねえ」

「……麻薬もしゃもしゃ食べる奴なんて初めて見たんだけど……」

 はい。とりあえず私、畑から新鮮な葉っぱを摘み取ってサラダにして大量に食べておりますわ!

 これで散々食べまくった後、少し置いてから血を採れば、多少、葉っぱ成分の入った血ができましてよ!

 これで全くの別物を名乗らせられますわね!多分!

 

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