没落令嬢の悪党賛歌   作:もちもち物質@布団

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第三章:アングリ―舞曲
1話「奴隷商人始めますわ」


 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、衝撃を受けておりますの。

 ……ドランが港でフルーティエの手下に撃たれた時、その場にいたらしいんですのよ。

 お兄様が!

 

 

 

「え?『お兄様』?何、お嬢さん、お兄ちゃんなんていたの」

「居ますわ!」

「確かにお前、妹っぽいよなー」

「そうですわね!実際妹でしてよ!」

「……なんかさっきのドランの話から想像する限り、その『お兄様』ってヤバい奴のような気がするんだけど?」

「まあその通りですわね!」

 それぞれがそれぞれに反応していますけれど、私はそれどころじゃないですわ。

 だって……生きているかも分からなかったお兄様が、生きているって分かりましたのよ!?冷静じゃあ居られませんわね!

 

「屋敷が燃えて半年。ああ、お兄様、今はどちらにいらっしゃるのかしら……」

 ドランと一緒に私も港へ行っていれば、と思うと悔しくてなりませんわね。お兄様にお会いできていたかもしれませんのに……。

「まあ、お嬢さんのことはお兄ちゃんも分かってるでしょ。何てったってお嬢さん、処刑台に登ってんのよ?向こうは気づいてるって」

 そうですわね。私が元気にやっているということは、お兄様もきっとご存じですわね。

 それでいてお兄様は私に接触しに来ないのですから……きっと何かお考えがあるのでしょうね。

 

「で?ヴァイオリアの兄さんがなんで港に居たんだよ。僕らと同じようにフルーティエ家の何かを狙ってたってこと?」

 キーブの言う通り、そこは分かりませんわね。

「アレだろ?ドランの話じゃ、お前の兄ちゃん、ゲラゲラ笑いながら鉄パイプ振り回してフルーティエの手下を皆殺しにしてたんだろ?なら殺すのが目的だったんじゃねえの?」

「お兄様は目的も無く人を殺すような方ではなくってよ。多少、戦闘狂のきらいはありますけど」

「目的があったら人を殺すってことかよ……お前の兄ちゃんどうなってんの?」

 そんなこと言い始めたら私達だって似たようなモンでしてよ!

「……まあ、目的も無く港でフルーティエの連中を殺す、とも考えにくい。なら、ヴァイオリアの兄はやはり、フルーティエの連中を狙っていたんだろうな」

 でしょうね。

 フルーティエが私にとって仇ならば、お兄様にとっても仇ですわ。屋敷を燃やした罪は重くてよ!

「でも、よかったですわ。お兄様、お元気なのね……」

「……元気に鉄パイプを振り回していた、が」

 ええ。どうやらお変わりないようですわね。安心しましたわ。

 

 私の脳裏を過ぎるのは、まだ私が物心ついたばかりの幼い頃、つまり、フォルテシアが貴族ではなかった時……夕暮れの路地裏を鉄パイプ持って走り回ってはそこら辺の貴族のボンボンを叩いてお金を出させていたお兄様の姿ですわ。

 あの頃からお兄様は逞しくてすばしこくて抜け目ない、素晴らしい方でしたのよ。貴族の身分になって益々それらに磨きがかかって、今や『護衛を雇う金が勿体ない』のフォルテシア家として、どこに出しても恥ずかしくない程の戦闘力を身に着けておいでですの。

 私達、兄妹仲も良くてよ。ですから、ずっとお会いできなくて少し寂しいですわ。

 ……でも、こうしてお兄様がお元気でいらっしゃると分かっただけでも十分ですわ。

 私、元気になってきましてよ!

 

 

 

 お兄様がその時と思えば、いずれお会いできますわね。それまでは今まで通り、私は私の道を行くだけですわ!

 さて。お兄様のことは嬉しい報せでしたけれど、今度は少し厄介な話に向き合わなければならなくってよ。

 

「こいつをどうするか、いい加減決めたいですわねえ……」

 私は空間鞄の1つを示しましたわ。

 ……この鞄の中。

 まだ、フルーティエの護衛2人と、長男1人が入ってますのよ……。

 

 

 

 ええ、そうですわ。

 フルーティエ家当主は馬車と一緒に燃やしましてよ。

 でも、宿の部屋の中で昏倒させた長男の方は燃やし損ねましたの。ですから鞄に入れて持って帰ってきたのですけれど……。

「何か面白い方法、ありませんかしら」

「さあ……人体実験に使うくらいじゃない?」

 人体実験、ね。悪くはありませんわね。私の血の研究ももっと進めたいですし、丁度いい人間が居るとそれはそれで便利でしてよ。

「或いは臓器を売るとか?生憎俺の店じゃあ扱ってないけど」

「臓器、ですの?うーん、それは何となくもったいない気がしますわねえ……折角のフルーティエの長男ですもの。お金にするにしても、もっと金になる方法があるはずでしてよ」

「なら働かせとけばいいんじゃねえの?麻薬畑とか幾らでもあるじゃん」

「貴族のボンボンが働けると思いまして?非効率的にもほどがありますわよ」

 折角ですから、面白い事に使いたいですわ。当主は燃やしましたけれど、長男にはまだほとんど何もしていませんもの。こいつも私を糾弾する場に居ましたから、是非とも痛い目見せてやりたいですわ!

 ああ、お金になって、なおかつ面白い処分の方法、ありませんかしら?

 

 

 

 私達はそれからああでもないこうでもないと話し合いましたけれど、結局いい案はでませんでしたの。

 ですから気分転換に、町を散歩することにしますわ。

 ……ええ、そうですの!私、この町を散歩できるようになりましてよ!

 

 現在、エルゼマリンは実質的に私の街ですわ。町を支配するギルドは王家に従順ないい子ちゃんのふりをしながら、その裏では私に仕えて王家に反逆していますの。そういう形になっていますのよ。

 ですから、ギルドが管理しているエルゼマリンの警備隊は完全に私の言うことを聞きますわね。

 ……そしてこのエルゼマリンには今、私を憎む者が碌に居ませんの。

 だって、私を厄介者扱いする貴族は全員死にましたし、それ以外となると学院と大聖堂に少し貴族が残っているくらいかしら?どうせ外には碌に出てこない連中ですから警戒する意味も無くってよ。

 貴族が居ないとなれば、後に残るのは平民ばかり。この町に居るのは、貴族に虐げられてきた平民達と、反骨精神溢れるその日暮らしの冒険者達、そして、出る杭は打つものの出すぎた杭にはすり寄るしかない裏通りの小悪党。

 ……こんな奴らばかりが居るエルゼマリンでは、たっぷりとお金を持っていて、かつ王家への反逆の旗を翻す私は崇める対象であったとしても、憎む対象にはなりませんわね。

 

 案外そんなもんですわ。民衆は変化が欲しいんですの。『自分が積極的に加担しなくても訪れる』変化が。

 ですから、消極的な加担、ということで、エルゼマリンの民衆は、私が歩いていても通報しませんのよ。いえ、偶にする奴が居ますけれど、通報した先はギルドですからそんなんもみ消して終わりですわね。そして通報してきた奴を後でちょっと掃除しておけば、より一層エルゼマリンの秩序が保たれる、ということになりますわ!

 

 

 

 潮風を浴びながら散歩して、裏通りへ入りますわ。

 学生だった時もちょくちょく学院を抜け出してここに遊びに来ていましたけれど、相変わらずの薄暗さですわね。

 ただ、いくらか半年前からは通りの様子が変わっていてよ。

 

 まず、ミスティックルビーの普及によって、そこらへんに葉っぱ売りが居なくなりましたわね。今や麻薬は私達の専売特許になっていましてよ。

 お陰で少し、治安が良くなったように見えるかしら?実際、ヤバい奴らが表に出てこなくなった、というだけなのですけれどね。まあ、街並みが美しいのは良いことですわね。

 ……それから、表通りに貴族向けの店が無くなった分、裏通りに増えましたわね。

 そりゃあそうですわね。貴族の客なんて、今や船旅で訪れる一時滞在者だけですもの。貴族向けの商品を扱っていたって買い手が碌に居ませんわ!

 ということで裏通りの貴族向け店、ですけれど……その品ぞろえは裏通り仕様ですわ。

 貴金属や宝飾品の類も、無いわけではなくってよ。裏通りでだって、この辺りの需要はありますもの。

 けれど、そういうお上品なもの以外に……高級麻薬ですとか、呪いの道具ですとか、高価な武器ですとか。そういったものも売っていますわね。

 それから。

「あら。珍しい行商が来ていますのね」

 高価でありながらお上品ではない、むしろ下卑ていて表通りでは商売できない売り物の筆頭。

 ……『奴隷』が、時々、売られていますわ。

 

 

 

 気まぐれに奴隷の行商を眺めることにしますわ。

 馬車と一体化している檻の中には、いくらかの奴隷が居ますわね。

 この国って金儲けのために周囲の国に戦争吹っ掛ける国ですから、当然、その分奴隷も多くなりますわ。勝ち続けている分には周囲に敗戦国が増えていくばかりですから当然ですわね。

 ということで、それなりに奴隷って流通してるんですの。

 男も女も、まあ、色々売ってますわね。用途も色々ですわ。当然。

 ……そんな奴隷の檻を見ていた私、ピンときましたのよ。

 

「人間って、売ったらお金になりますわねえ……」

 

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