MACROSSΔ INFINITY   作:旭日提督

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Prologue
Mission 00 タクティカル・エアフォース


A.D.2067 Aug.20,“Brísingamen Globular Cluster"

西暦2067年8月20日、ブリージンガル球状星団宙域

BGM:Grow in the dark

 

 深淵の宇宙を征く、一隻の航宙艦。

 

 四面を扁平な甲板で覆い、潰れた菱形のような宇宙ステーションにも似た独特な艦容を醸し出すそれは、この宇宙ではありふれた存在だ。

 

 Guantanamo-class Stealth Space Combat Carrier

 グァンタナモ級ステルス護衛空母

 CV/ARMD-668“Wilhelmshaven”

 CV/ARMD-668〈ヴィルヘルムスハーフェン〉

 

 全長352メートルのこの中型空母は、銀河系を統べる新統合政府の守護者・新統合軍(N.U.N.S)が運用する空母の中では小型かつ量産性に優れた艦級であり、辺境宙域の警備艦隊でも必ず一隻は見ることができる存在だ。

 

 西暦2040年代から長きに渡り運用されてきたこの艦級は、一番艦の就役から凡そ30年近く経った2067年時点においても、戦訓の反映と絶え間ない改良によって未だに第一線で通用する能力を持っている。

 

 その格納庫は通常であればVF-171などの当時広く普及したVFを搭載しているのが一般的なのだか、その艦は違った。

 

 所狭しと並べられたFASTパック・ブースター装備のVF-19Aとアーマードやスーパーパックに身を包んだVF-25A/Sは、この艦が尋常ならざる任務を帯びていることを何よりも雄弁に物語っている。

 

 汎用性に優れる艦隊型空母として本来充分な余裕を持って設計された筈の格納庫は、当初運用していた二世代後の飛躍的に発展・大型化したVFを運用するには、些か手狭に見えた。

 

 そんな窮屈さを感じさせる灰色の猛禽類が翼を畳んでいるその巣の中に、本来であればそこに在って当然の、しかしこの場においては些か不釣り合いな機影が一つ、獰猛な鷹の群に混ざってその翼を休めていた。

 

 ───RVF-171

 

 当時の汎用主力機VF-171にAP-SF-01+イージスパックを装備した偵察・早期警戒仕様機であるこの機体には、機体上面に装備される特徴的な大型レドームと、下面に追加されたスタビライザーフィンが特徴的なありふれた偵察機といえる。

 

 しかし、彼も他の翼と同じく尋常な存在ではない。

 

 機体のベースとなっているのは、高い戦闘力を誇る超時空生命体バジュラとの交戦を見据えて新型の対ビーム用気化コーティング塗装を施し、各種アビオニクスやエネルギー転換装甲を改良され、画期的な耐Gスーツと射出シート、そして歩兵用の強化外骨格を兼ね備えたEX-ギアをコックピットに搭載した発展型、VF-171EX型であった。

 更にこの機体は、発動機を原型機VF-171EXに搭載されている新中州/P&W/ロイス ステージII熱核タービンエンジンFF-2550Fを更にチューンしたFF-2550J型に換装しており、限定的ながらVF-19系列機に迫る機動性を獲得していた。

 

RVF-171EX/Block 52+“ナイトシーカー”

 

 AVFに比肩する空間機動性と強力な電子線装備を兼ね備えたそれは、現在の新統合軍宇宙艦隊において、最も攻撃的な強攻偵察機のうちの一つである。

 

 更に全身に纏った旧世紀末の米軍機さながらな灰色の制空迷彩と尾翼には描かれた「WW(Wild Wease)」のテールコードは、見る者が見れば彼もまた獰猛な狩人の一羽なのだと理解するだろう。

 

 その機体のコックピットの中では、そんな粗暴と野蛮を感じさせる暴力の化身とは凡そ不釣り合いな、しかしそれでいて驚くほど調和した、灰色の華奢な少女が眠るように機体に身を委ねていた。

 

 《RVF-171EX “Night Seeker”,standby to launch》

《RVF-171EX"ナイトシーカー"、発艦準備》

 

 薄暗い格納庫に、誘導灯の淡い灯りが点る。

 少女は気怠げな仕草で緩慢に瞼を開くと、焦点の定まらない霞んだ瞳でコンソールパネルに視線を落とした。

 

 《All weapons connected.Set complete》

《全兵装接続終了。出撃準備、完了》

 

 Control system certification completed, "Siren Alpha"

 制御システム認証完了、“セイレーン・アルファ”

 

 開かれていたキャノピーが閉鎖され、操縦席(コフィン)に収められた彼女は確かめるように操縦桿を握り締めた。

 

 EXギアを通して自らの生体情報が機体の制御AIに認証されるとともに、自機の情報がインプラントを介して直接脳裏へと流し込まれる。

 

 AMM-102K“Asp”×6,Fire Control Connection

 AMM-102K“アスプ”×6 火器管制接続

 

 AN/ALQ-303 Prototype tactical fold wave jammer×2,Good condition

 AN/ALQ-303 試作戦術フォールド波妨害装置×2 、稼働状態良好

 

 翼下に懸架された空対空ミサイルと電子戦ポッドの接続状態を確認し、機体各所の異常箇所を点検する。

 一通りの確認作業を終えた彼女はゆっくりと操縦桿を倒し、機体は緩やかにタキシングを始める。

 

《本艦は、間もなくフォールド航行に移行する。各員衝撃に備えよ》

 

 機体がちょうど昇降機(エレベーター)の位置で停止し、直下の懸架アームに接続されたそのとき。艦内にFTL航行への突入を知らせるアラートが鳴り響いた。

 

《“ガーゴイル1”作戦前の最終ブリーフィングだ。聞こえているな》

 

 彼女の脳裏に、渋い低音が反響する。

 気怠げな瞼を起こして焦点を定めた彼女は、纏う空気を一変させる。

 

 儚げな脆い少女から、さながら空を渇望する冷徹な翼へと。

 

「───分かっているさ。"敵"は3機。変わりはないだろ?」

 

《現状に変化は確認されていない。惑星ヴォルドール軌道上で警戒飛行中の一個小隊のうち1機がヴァールを発症した。救援に当たった僚機にもこれが"伝播"し、小隊4機中3機が制圧対象へと変化した》

 

 淡々と状況を読み上げるオペレーターの言葉を確認しながら、彼女はデータリンクの感度を試す。

 今しがた戦術ネットワークから送られてきた情報も、オペレーターの説明を裏付けていた。

 

《さらに"間の悪い"ことに、地表でも一部市民によるヴァール化が確認されている。現地駐留部隊はそちらの対処に追われ、軌道上まで手が回っていない》

 

 オペレーターの説明とともに彼女の脳裏に浮かぶ戦術ネットワークの画面が切り替わり、地表における暴動の状況と現地に駐留する新統合軍の部隊展開状況がリアルタイムで更新される。

 

 どうやら、彼の言葉は事実らしい。

 

 彼女は態々自らの元まで火消しが回ってきた友軍の不甲斐なさを呪いながら、その一方で久方振りの飛行に高揚する自らの深層意識を窘めた。

 

《そこで、我々"特務"に話が回ってきた訳だ。大尉、君には例の"検証"を実行するまたとない機会だろう。良い戦果を期待しているぞ、ガーゴイル1》

 

「フン。…………造作もない」

 

 オペレーターによる最終ブリーフィングが終わるとともに、彼女───新統合宇宙軍第3遊撃空母艦隊・第616戦術特務飛行隊所属セイレーン・アルファ大尉、コールサイン“ガーゴイル1”は、口元に不敵な微笑を浮かべた。

 

 瞬間、付近は赤と紫が織り混ざる超空間に包まれる。

 

 空母〈ヴィルヘルムスハーフェン〉以下、護衛艦2隻を伴った小機動部隊は、フォールド航行へと突入した。

 

___BGM Out

 

In orbit around THE Planet “Voldor

惑星 “ヴォルドール”軌道上

 

《メーデー! メーデー!! こちら新統合軍ヴォルドール航空団第11戦闘飛行隊、友軍機にヴァール発生! 鎮圧に向かった僚機もやられた、応援を求む!》

 

《HQより11SQ。現在、惑星地表において大規模な暴動が発生中。我々も身動きが取れない。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応せよ》

 

「…………チッ、まだ駄目か!」

 

 惑星ヴォルドール軌道上

 現地駐留統合軍のVF-171を駆る新統合軍パイロット、アルベルト・ララサーバル大尉は、一向に好転しない状況に思わず舌打ちを繰り出した。

 

 哨戒飛行に出た僚機のうち一機が突如として挙動不審に陥りヴァールを発症したのがつい10分ほど前。

 

 これだけなら、まだ対処のしようがあった。

 

 しかし、規定に基づき鎮圧行動に出た僚機2機にまでヴァールが伝播すると、事態は一気に悪化する。

 僚機全てがヴァールに罹患し無秩序に暴れ出す中唯一正気を保っていた大尉の機体は、他に打つ手もなくただ逃げることしかできない子羊と化した。

 頼みの綱の援軍も望めない中、乱雑に放たれるガンポッドの閃光やマイクロミサイルから辛くも逃れ続けていた大尉の機体の眼前に、突如として神秘的な超空間の出口が開く。

 

「デフォールト反応…………?」

 

《ああそうだ大尉。一つだけ朗報がある》

 

 HQ(司令部)のオペレーターの声色が、ほんの少しだけ上向く。

 時を同じくして彼の眼前の超空間から、一隻の菱形の巨体が現れた。

 

《たった今、増援部隊と連絡がついた。どうやら本国政府のエリート様が直々に相手をしてくれるらしい。温室育ちにヴォルドールの空をエスコートしてやれ》

 

 

Space Carrier“Wilhelmshaven”

空母〈ヴィルヘルムスハーフェン〉

BGM:Iteza☆Gogo Kuji Don't be late(Instrument)

BGM:射手座☆午後九時Don’t be late(Instrument)

 

 けたたましく警報音が鳴り響く薄暗い格納庫で、忙しなく整備士やパイロットが駆け回る。

 それを尻目にポジションを確立した"彼女"は、静かにコンソールへと目を落とした。

 

《ガーゴイル隊、発艦位置へ》

 

 フォールドアウトと同時にリニアカタパルトとガイドビーコンが展開されて、エレベーターの発艦口が開放される。

 空母〈ヴィルヘルムスハーフェン〉底部左舷側の飛行甲板に設けられたアームに吊り下げられたRVF-171EXとQF-4000(ゴースト)の編隊は、点滅する光線のレールへと嵌められて化学燃料の白い炎のバーナーを吹き鳴らし、飛翔の時を待ち望む。

 操縦席(コフィン)に収められた華奢な少女───セイレーンは、全天周囲モニターと機体各部のセンサーから送られる情報を即座に集約して戦闘宙域における敵味方の状況を把握する。

 

 FTL航行から通常空間に移行した瞬間に艦載機発艦態勢を取るその様子は、艦こそありふれた汎用空母ながらも尋常に非ざる練度と正体を窺わせるには充分だった。

 ララサーバル大尉が球状星団の統合軍部隊では常識外れなその様を目にして呆気に取られているその間にも、瞬く間にその空母は完全戦闘態勢へと移行していた。

 

《Gargoyle 1, clear for takeoff,Good luck!》

《ガーゴイル1、発艦を許可する。幸運を祈る》

 

 吊り下げられたRVF-171EXが、アームから切り離される。

 半透明のドームに保護された誘導員の発艦合図が、全天周囲モニターを通して映し出された。

 

「了解。ガーゴイル1、発艦する」

 

 ───刹那

 

 華奢な身体に、リニアカタパルトから撃ち出されるGが一身に降り注ぐ。

 EXギアとインプラントで相殺されるまでのカンマ数秒、ほんの僅かな瞬間に知覚するその感触で、彼女は"生"を実感する。

 

 僚機のゴースト(ウイングマン)2機が両翼の後方に控え、アフターバーナーを吹かして戦闘宙域へと急行。

 狂乱の空に囚われた哀れな鳥を目視した彼女は"状況"を開始した。

 

「ガーゴイル1、交戦(エンゲージ)

 

 敵機を目視すると同時に、翼下に懸架されたAN/ALQ-303 試作戦術フォールド波妨害装置を起動する。

 それを敵機に指向した瞬間、本能のまま狂気に囚われていた翼に動揺が走った。

 未だ無意味な発砲を続けてはいるものの、その動きは明らかに目に見えて鈍っている。

 

「…………見立て通りだな」

 

 突如として人間が暴徒と化し、破壊の限りを尽くす奇病、ヴァール・シンドローム。

 この球状星団を中心に広く発生するこの病は、嘗て超時空生命体バジュラと共生し、V型感染症の病原菌でもあった「フォールド細菌」によって引き起こされていることは、一部の軍関係者の間では既知の事実であった。

 

 巷ではヴァールに耐性のある者による歌声(フォールドウェーブ)を活用した治療と予防が試みられているというが、軍中枢が企図したのはまた別のアプローチであった。

 

 "フォールドジャミングによる、フォールド細菌の不活性化"

 

 このプランは単なる対症療法にしか過ぎず、前述のように予防効果といった根本的な治療には至らない場当たり的なものだ。

 加えて、フォールドジャミング装置はそれ単体でもAVF一個飛行隊に匹敵するコストと繊細な電子工学的精度が要求される。

 

 確かに広くこの奇病に対抗するためには些かささやかな試みといえるだろう。

 しかし、新統合軍中枢にとって、これは確かな一歩でもあった。

 

 小隊は絶え間なく放たれる無秩序なガンポッドの閃光を軽やかに回避しながら、鉤爪を開いて飛翔する。

 

「ガーゴイルリーダーよりガーゴイル2、3。"敵機"を制圧しろ」

 

 セイレーンの音声認証を認識した僚機のQF-4000が、フルスロットルで加速し鋭角的な機動で動きが鈍った黄土色のVF-171へと迫る。

 彼等は寸分の違いなく制圧対象機の武装と両翼、主機を撃ち抜いて機能不全に陥らせて、物言わぬ漂流する屍へと変貌させた。

 

《敵機、沈黙。任務完了だ、ガーゴイル1》

 

「…………惑星本土の方はいいのか?」

 

《ああ、そちらは問題ない。ケイオスの"ワルキューレ"が対応するらしい。我々の任務はこれで終わりだ》

 

戦乙女(ワルキューレ)、か。───了解。これより帰投する」

 

 ヴァールに囚われた3機のVF-171がその翼を撃ち抜かれて沈黙したのを認めた彼女は、優雅に翼を翻して帰巣する。

 

 彼等はいわば影の翼。

 

 決して表舞台に出ることはない戦術特務飛行隊。

 

 "狩り"を終えれば、闇に紛れて去るのみだ。

 

《───こちら新統合軍ヴォルドール航空団所属、アルベルト・ララサーバル大尉。貴官の救援に感謝する》

 

 反転する母艦の後を追う灰色のRVF-171EXに並走するように、カーキのVF-171が翼を振りながら並ぶ。

 この戦場で唯一正気を保っていたヴォルドール航空団のエース、ララサーバル大尉の機体だ。

 

 彼の機体に描かれた赤い猛獣のエンブレムを一瞥したセイレーンは、敢えて見せつけるように尾翼の「WW(テールコード)」を晒して翔んだ。

 

This is Gargoyle 1 "Siren." ───Good luck

「ガーゴイル1“セイレーン”より。 ──貴官の幸運を祈る」

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