白の双星、ターフを駆ける   作:瓶詰め蜂蜜

1 / 2
 この世界はよく似たパラレルワールドです。実在する人物、団体とは一切の関係がありませんので悪しからず。


双星、誕生。

 北海道は日高町。その外れに近年新しく出来たばかりの牧場があった。

 牧場の名は藤ヶ原すこやかファーム。牧場主の藤ヶ原(ふじがはら)尚人(なおひと)氏が親類が引退すると同時に譲り受けた土地を活用するにはどうするかと考えていた所を、友人に勧められて始めた牧場である。

 とはいっても、そういった知識を持たない尚人は、唯一の繁殖牝馬である白子も、務める厩務員達もまた、友人の伝手で紹介されたのを受け入れて、そのほとんどを任せっきりになっている事を気に病んでいるが、牧場が閉鎖してしまい、行き場を無くしていた彼らにとっては有り難い存在であったが。

 

 その藤ヶ原すこやかファームの分娩舎には、まだ冬の名残りが微かに漂っていた。

 夜半を過ぎた空気は冷え、屋根を揺らす風が細く長く鳴く。そんな静けさの中で、ただ一つ、確かな気配だけが満ちていた。

 白子が、時おり短くいなないた。

 芦毛の産毛を震わせ、痛みに耐えるように身を丸め、また大きく呼吸する。

 

「尚人さん、そろそろだ。もうすぐ来る。」

 

 獣医が目を細めて言うと、藤ヶ原尚人は深く頷いた。

 額に浮いた汗は緊張のせいか、あるいはこの小さな命を何としても守りたいという思いのせいか。

 競馬の知識はほとんどなくとも、動物を前にした彼の表情は、誰よりも真剣だった。

 白子の腹が強く波打つ。

 ――その瞬間、場の空気が変わった。

 

 「出る……!」

 

 獣医の声と同時に、白子が大きく息を吐く。

 やがて羊膜に包まれた小さな体が、ゆっくりと、しかし確実にこの世界へ現れた。

 

 「……無事だ。元気な牡馬だよ。」

 

 藤ヶ原はほっと息をついた。

 白い前髪が額にかかる、小さな芦毛の子馬。

 その眼は生まれたばかりとは思えないほど澄んでいて、ただ静かに、周囲を見渡しているように見えた。

 ――不思議な子だ。

 誰もがそう思った。

 まるで、目覚めた瞬間からすでに“何か”を知っているような、落ち着いたまなざし。

 そのとき、獣医の表情が再び固まった。

 

 「待ってくれ……もう一頭、いるぞ! 双子だ!」

 

 分娩舎の空気が一気に張り詰めた。

 双子は母馬にも仔にも危険が大きい。ましてや白子は元乗馬で、体格も繁殖向きとは言い難い。

 

 「頼む……二頭とも、助けてくれ……!」

 

 藤ヶ原は祈るように手を握りしめた。

 白子の体が再び震える。

 苦しげに鼻を鳴らしながらも、母としての本能が残る力を振り絞らせる。

 そして――

 

 「……出た! 今度は牝馬だ!」

 

 短い沈黙のあと、獣医の声が弾けた。

 小さな体が、か細い声でひとつ鳴く。

 まだ濡れた芦毛の産毛は月明かりを受け、ほんのり青白く輝いているようにも見えた。

 藤ヶ原の目に涙が浮かんだ。

 

 「よく……よく頑張ったな、白子……」

 

 だが、この夜に居合わせた誰も知らない。

 ――二頭が産声を上げた瞬間、分娩舎の隅で、微かな光が“二つに割れる”ように揺らめいたことを。

 牡馬は、静かに世界を受け入れるようなまなざしで。

 牝馬は、兄の存在を確かめるように、弱々しく首を伸ばして。

 まるで最初から、互いを知っていたかのように。

 




 実際、双子で競走馬って存在するんでしょうか?アヤベさん(未所持)が双子が居たのはウマ娘知識で知ってますが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。