ベルリク戦記 ー 戦争の生涯 ー   作:さっと/sat_Buttoimars

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23話「決戦」・シラン

 遂にヤンルー攻略の前線に到着した。長かった。

 長らく書面上でしか知らなかった高級将校達と顔合わせをすれば、それは大層くたびれて、不満も見えている。

 我が西勇軍による第一次総攻撃は失敗した。それを見計らって攻撃準備を済ませていた敵軍が外からこの包囲陣地に向けて前進を開始している。

 攻撃失敗で士気が落ち、部隊を編制し直している最中で、酷使したばかりの銃砲の整備は完全ではなく、減った火薬の分配もしなくておらず、勿論兵士達は疲労困憊している。

 更に、包囲の為に軍全体は大きく散らばってしまっている。万全では決してなく、与しやすい。勝手に歩いてこけて無防備な背中を見せているのだ、そこを叩けば勝利は固い。

 必要以上と思える程に堅固な包囲陣地を作り上げたが、それは野戦向けでは当然に無い。外から攻撃されたならば対応するために部隊を包囲から多数引き抜かなければならず、ヤンルーに篭城している軍が呼応して挟み撃ちにされぬ為にもある程度の部隊は残さなければならない。残した部隊は役に立たぬ遊兵となり、直接手を下さなくても何割かの部隊を無傷で撃破したに等しい状況に持ち込める。

 敵は血の臭いを嗅ぎ付け、手負いで弱り、柔らかい腹を晒している獲物相手に堪え性を失ったのだ。これで包囲戦と野戦を強要した心算でご満悦であろうが、思い通りだ。

 敵、ビジャン藩鎮軍のサウ・バンス鎮守将軍は兵力の大規模運用には定評がある。補給物資を切らさぬよう、道路を渋滞させぬように部隊を分散進撃させ、目的地で集合させるという気配りの効いた計画を立てて実行出来る能力がある。細かい事が出来て、そして気が早い。先の事を考えて動く老将である。そうでなければ大軍を一気には動かせない。

 歳と共に頭の動きは変わるが、ビジャン藩鎮軍の指揮を執り始め、ハイロウ統一、ジャーヴァル戦役、ユンハル部にベイラン討伐、そして冬越えをしてからあっと言う間に南下してきた行動記録を読んで考えれば機動力に自信を持っている。

 そう、機動力に自信があればこちらが弱っている隙というものを見逃さないとやっきになるし、これが成功したらとても格好が良い。

 若い頃のサウ・バンスの素行記録を読めば格好を付けるのが好きな奴だ。服飾代金は平均以上、馬も大きいものばかりでわざわざ魔神代理領から輸入していた。自宅も階級相応以上で、見る目も無く統一感の無い美術品で飾っている。娘に持たせた持参金も平均以上で、初陣である騎馬蛮族との戦いの時には率先して先頭に立った。そんな奴だった。

 ビジャン藩鎮軍はオウレン盆地にある都市、北部へ穀物を輸送する為に一時集積する機能を持つユウシャン市より南進して迫ってきている。腹一杯肥えて、準備万端でやって来るだろう。

 天子が今もおわすヤンルーを陽動に使うなんて事をサウ・ツェンリーは考えないだろうが、サウ・バンスは違うだろう。むしろ窮地に駆けつけたと演出すらしたいはずだ。

 功績を粉飾しなければ苦労を重ねても報われないのが天政軍人であり、蛮族の群れとどうしても侮られるビジャン藩鎮軍の名声を高めるには演出が必要不可欠だ。むしろ必要に迫られていると言っても良い。

 労苦と消耗に対する北朝からの謝礼はおそらく、なけなしのカス程度。戦費と汚職に使い込んで国庫が空になっていることを誤魔化すために色々と難癖をつけて対価を値切る気になっているだろう。それすら払拭するためには救世的に、北朝天子である安嗣帝の御前にて最大戦果をご覧に入れなくてはならない。

 あなたの苦労をカス以下にしてあげよう。

 本当の全力を発揮していない第一次総攻撃までに攻撃して来なかったのが運の尽きだ、ご老体。

 ビジャン藩鎮軍は十分休んで元気一杯なのだから動け動けと中央からせっつかれているだろう。そしてサウ・バンスの自信と、格好付けたがりと、御前合戦への求望が合わされば完璧だ。全力でこちらに向かって来てくれるだろう。そう、隊形変更には手間取るような行軍隊列、強行軍で。

 予定はともかく、こちらの軍の事情も万全ではない。傷つき損耗しているのは事実だ。血も流さず飢えた獣を誘き寄せる等考えていない。

 えずく程に生臭ければ良く釣れる。

 これは決戦だ。刺し違える覚悟が無ければこの策は成功しない。

「若様、当主様よりご帰宅命令が出ております。いかがされますか」

 呆けが始まっているような老人姿のヒンユが言う。

「いかがもせん。天下分け目とはこれだ。ここで引けるか」

「お子様のお顔も見ないで出られたというではありませんか。お家のご意向に逆らうのですか?」

 これはヒンユではない、知らぬ隠密が言った。殴ったら頭蓋骨が砕けて――ああ、これは死んだな――倒れた。

「ヤンルーの準備はどうだ?」

「問題ありません」

「ビジャン藩鎮軍の準備は?」

「直前行動をする者達以外は節度使の大犬に勘付かれて大分殺されましたので予定行動を変更させました」

「随分と鼻の良い敵に恵まれるな」

「申し訳ございません」

「いや、嫌味の心算ではなかった。変更点は?」

「はい。無臭の毒物でも所持していると嗅ぎ付けられますので、会戦前日での毒物混入は中止です。戦闘開始直前での火薬への火点け、高級将校の殺害か、最低でも負傷させる要員に向けます」

 身の危険を省みない任務であり。皆が実行したら死ぬと分かってやれる隠密達だ。そのように生まれ、教育され、今に至る。

「疫病も大犬に嗅ぎ付けられるか?」

「その通りです」

「大犬の始末は無理そうだな」

「完全武装で猟師出身者を多くした上で邪魔がされない状況下で数百人規模で狩り出すのが非現実的ながら現実的かと」

「そうか。やはりと思うが、顔削ぎ衆も嗅ぎ付けられるのか?」

「真っ先に」

 自分の身を削ぎ、そして他人の削いだ身を纏うのだ。臭いは特異だろう。

「常人で潜伏している者はどの程度だ」

「そちらは問題ありません。普段は兵士として真っ当しておりますので。戦死病死もしており、馴染んでおります」

「うむ。長々聞いてしまった、信用していない訳ではない。許せ」

「いえ。では」

「ご苦労」

 この戦いには負けられぬ。

 手こずるのも忌避される出来事があった。沿岸部の被害が酷く、歳入が落ちている。予算、資源に余裕が無くなってきている……温存している軍閥共にはあるが。

 かつて古代に栄えた蛮族にして蛮族にあらずと言わしめたシャカル朝の京である古名マナハライこと、リュンフェン都が焼き討ちにされ、東防艦隊も壊滅し、百五十万の難民が発生していて、周辺の都市だけでは難民の受け入れに限界がある状況が生まれた。これを魔神代理領海軍が一夜にしてやってのけたというのだから、手腕を褒めるべきか海軍をなじるべきか都の守備隊に呆れるべきか判断に迷う。

 それに比べれば小規模、しかし一つ事件として注目すれば大規模なケイホン市と周辺の焼き討ちに堤防の崩壊も恐ろしい出来事だ。周辺から孤立している位置にあるので救済措置も遅れに遅れ、人肉食らいの盗賊集団になっているとも聞くし、あの南廃王子が彼等を取り込んだ等という噂もある。ほぼほぼ事実だろう、良い機会であったろうから。

 丁寧な事に両件とも備蓄食糧から家畜まで完全に焼却廃棄するという徹底振りである。平時ならば食糧援助は可能だが、現在の状況に鑑みれば手がつけられないとも言える。餓死を待って沈静化を待つというのが現実的な程だ。

 物価の高騰が尋常ではない。投機的な値上げ、出し渋り。穀物価格はこれからも確実に上がっていくのだから法で禁止してもやる奴はやる。重罰を振りかざしてもやるのが人間の性だ。

 秋税の低下と徴収妨害も顕著だ。戦前は各地へ送られていたオウレン盆地の穀物の大半が焦土作戦で失われている。回収はある程度されたはずだが、戦に備えて盆地内各所に貯蔵されているので流通には回っていないだろう。

 闇米闇麦までは知らぬが、この話は大きく広がっており、食糧価格の凄まじい値上がり兆候が続くと見られる。貧乏人には買えない値になる。不徳な値上げであると罰するには規模が大き過ぎる。

 そして各軍閥は自分達の分を確保するために、軍資金とする為に米と麦を隠している。敵に焼かれた、盗賊に奪われたという虚偽申告の数はおそらく見当もつかない。戦災損失の場合には免税処置、規模によっては補償も法で定められているので悪用されているはずだ。

 経済が既に天政下全体で巡らせるものではなく、各地方で独自に循環させるような体制になりつつある。これは天政が千々に切り裂かれる前兆である。

 いっそ当主の野望に乗ってルオ朝の勃興でも目指し、まずは地方軍閥として地位を固めた方が良いのではないかと思えてしまう。

 これで勝たねば南朝は終わる。北朝に寝返るのも気楽な話かもしれない。

 サウ・ツェンリーとの仕事は楽しそうだ。ババアや餓鬼に男もどきの醜い面より彼女の美しい顔を見てる方が良い。しかしそれは一官吏が望むものではない。

 

■■■

 

 ヒンユより、早足にてユウシャン市よりビジャン藩鎮軍がヤンルーに向けて進撃を開始したと報告を受ける。

 動き始めたら補給計画的にも外聞的にも止められぬのが彼等だ。天子おわすヤンルーの危機に駆けつけぬとは何事か、と褒賞を戦争続きで払い渋りしたがる官僚達の言い訳に使われる。

 サウ・ツェンリーなら褒賞等いらないと言うだろうが、下手をすれば中原での行動中に受け取った補給物資の支払いでビジャン藩鎮から金を吸い上げる事すらやりかねない上に、仮に勝利したとしても”苦戦責任”すら負わされる可能性がある。それはそれで北朝が分断出来るかもしれないが。

 老将サウ・バンス、腕の見せどころになってしまったな?

 こちらも動く。計画通りに総攻撃に見せ掛けだけ参加させた無傷の部隊を集結させて野戦軍に編制する。

 出血を見せる分、包囲軍には相当無理をさせたし、これからもさせる。ヤンルー篭城軍による逆襲を迎え討つには危うい戦力しか残っていない。その状態で防御を固めて貰う。

 勝たねばならない。自分の私兵も督戦隊などとせず、通常戦力としてほぼ使い切る心算で温存せずにいく。オウレン盆地より撤退となれば、恐らく二度と北進は敵わず、天政は軍閥に切り取られる。北朝ではなく。

 野戦軍は行進隊形を取って進み、ビジャン藩鎮軍を迎撃する。

 ヒンユが伝える位置情報にはほとんど時差は無い。それを目指して進む。下手な小細工無しでもこれだけで十分に勝算を見せてくれる。

 敵の数は十万超で正確な数値は不明だが、こちらの七万はどう工夫しても七万で少ない。ヤンルーの篭城軍に包囲陣地を突破されないように残すべき兵は残してきた。

 オウレン盆地内は平坦で道路が良く整備されていて軍を機動させるのは容易な地形だ。流れる川も水利工事で原型を止めぬほど整備され、灌漑水路に回されて要害にもならない。

 頑丈な橋が無数に掛けられていて爆破も大変だし迂回路は無数。

 真っ向勝負しか無い。一つ有利を取ったならば挽回する手段が他に無いということである。

 

■■■

 

 数日掛けて互いの先発部隊が視認し合う距離に至る。接敵だ。

 お互いに行進隊形から戦場入場隊形へ移行するが、こちらの方が早い。行進隊形から即座に攻撃縦隊隊形へ移れるようにしてあるからだ。

 隊形変更だけで一日を潰すことすらあるが、そんなに時間をこちらは掛けない。そのように編制して訓練した。今日この日の為に。

 相手は良い将校に兵隊かもしれないが、新しくはない従来通りの形式。慌てて隊形を整えているのだろうがこちらより遅い、偵察させて確認しても遅い。

 そして遅い事に加え、潜入している隠密による弾薬運搬車への爆破、高級将校を狙った襲撃が始まる。

 この状況で戦闘隊形への移行を完璧にやれるものならやってみせろサウ・バンス、そしてサウ・ツェンリー。

 お前等には何ができる? こちらはやれるだけやっているぞ。

 隊形も整っていないビジャン藩鎮軍が隊形変換と妨害工作で足が鈍っている間にも我が西勇軍が前進し、接近し、攻撃を開始しようとしている。

 サウの忠勇なる一族よ。矢弾を浴びながら隊列を整えて一度得てしまった不利をどう挽回すればいいか知っているか?

 こちらは既に大砲が使える状態。火薬の有無だけではなく、馬で素早く牽ける大砲であるかどうかだ。急ぎで進んでもそれに追随して、相手の整列なんてのんびり待たずに展開して発射出来る大砲だ。

 軽砲を牽引する騎馬砲兵を回している。ビジャン藩鎮の連中の頭が悪い等とは言わないが、今まで天政では正式配備がされていなかった兵科に対応出来るか?

 敵軍の隊形は未だに整っておらず、大砲を使えない状態。こっちは撃てる。騎馬砲兵が先手を取って撃ち始めた。

 敵の整列等待ってやらずに、騎馬砲兵が射撃している間に歩兵も配置へと続々着いて小銃、手火箭、弩を撃ち始める。

 敵も撃ち返す。手持ちの弾薬はあるから火薬庫を吹っ飛ばしても緒戦は問題無いだろうが、長引けば変わってくるだろう。

 崩れた隊形へ我が兵が射撃を加え続けて射竦めさせる。そして突撃部隊が銃剣と槍で白兵戦を挑み、その場に留まらせずに圧迫、撃破し後退させて更に敵軍の隊形を整えさせずに乱す。

 未だ定まらぬ敵陣地を我が兵の軍靴が踏んで奪う。追い出された敵兵は、友軍の、しかし持ち場に”お邪魔”して、本当に死活的に邪魔になっていく。

 軍が烏合の衆の被膜に覆われてしまったらただ射撃の的になってしまうもの。味方が邪魔なら射撃も、突撃も、整列すら困難になっていく。混乱すれば恐慌していく。下手に武力で排除できない邪魔な味方程邪魔な存在は無い。

 緒戦は計画通りに優勢。数的劣勢は感じさせない。

 そして総攻撃では傷一つ負っていない我が西勇軍騎兵隊がビジャン藩鎮軍の側面へ回りに行く。

 位置情報を掴んでいればこその別行動からの、会敵日時を一致させた側面取りが可能だ。オウレン盆地には予期しない悪路等存在しないのでそれが可能だ。大雨が降ったってこの盆地の水利施設は完璧で、氾濫等起こりようもない。そもそも雨が多い土地柄でもない。

 ここに騎兵突撃が成功すれば覆し難い優勢を取り、勝ちが確定する見込み。しかしここでビジャン藩鎮軍ご自慢の遊牧騎兵軍が差し向けられた。器用に振り回せる”腕”は不測の事態に備えて温存してあったようだ。

 西方の高原騎兵は精強だ。だが遊牧騎兵が相手では圧倒的に有利というものではない。

 互いに荒れた砂漠、草原、荒野に生まれて厳しく育って来た者達。強くなければ生き残っていない連中だから弱いはずがない。

 互角のようでいてそうではない。遊牧騎兵は直前までアッジャール朝の下で馬賊ではなく軍隊として鍛えられて戦ってきた歴戦の集まり。弱いはずがない。

 敵遊牧騎兵軍はゲチクという蛮将が率いていると情報にある。彼も同じように歴戦であるという。今日まで部下に支持されてきただろうから実力は間違い無いだろう。そんな奴が率いる精強な騎兵軍相手に真っ当な騎馬戦で勝てるはずもない。だからそうしない。

 西勇軍騎兵隊には下馬して戦わせる。馬を寝かせて荷物も重ね、暴れるなら殺し、それを盾にして小銃や弓、旋回砲で撃って戦うのだ。

 これは遊牧蛮族も使う手だが、この戦いに持ち込めれば騎馬戦術の上手い下手も無くなってくる。これで勝つことは困難だが、負けない戦いを展開できる。そうして時間を稼いでいる内に弱った敵歩兵はこちらが潰せばいい。

 敵の最強を撃破する必要は無い。最弱を攻めて形勢を覆し難い状態にまで引っ繰り返す。

 そろそろ決定打を入れる。予備兵力である自分と私兵でやる。

 まずこの歩兵戦闘では弱っている箇所ではなく、最もこちらの歩兵が苦戦している敵の”最強”を破壊する。一番に損耗した部隊と位置を交替する。戦線を左、中、右としたら中の中。ど真ん中。

 まず集団方術で一撃を入れる。肉薄するまで敵に射撃武器を使わせないようにする。

 地面の下にあるわずかな空気を大きく動の方へずらして土埃を巻き上げて突風を起こす。一緒に飛んだ小石に、部下が無造作に放り投げた投石が人体に突き刺さるような突風。砂だけで出血、目を潰し、転倒させ、耐えるように這い蹲らせた。

 目前には薙ぎ倒され、一時的、恒常的に戦闘不能になった敵兵が何百と並ぶ。前へ進む。

 その崩れた戦列を埋めて維持せんと、その後ろにいる敵兵がまた何百と前進してきて健気に立ち向かってくる。

 突火槍付きの矛槍を持つ敵兵など小賢しい。方術で暴発させてやって驚かせ、同士討ち状態にしてから仕掛ける。

 敵兵の腹を掴み持ち上げて――呻き声の気持ち悪い奴だ――方術で前方へ指向するよう爆砕して敵共に肉片骨片を撃ち出して……十人くらいは倒したか。

 方術使いに適した武器がある。竿先に鎖付き分銅が付いている物だ。

 この分銅に方術で帯電させ振るう。どこでも掠るだけでも電撃で焼けて、五体が硬直して気を失うか死ぬ。当たるのは分銅ではなくても鎖でも良い。竿は木製で電気はほぼ通らず、南洋樹脂の手袋があれば相殺の方術も不要だ。これは部下の方術使い達が使う。

 だが取り合えず、槍兵相手に白兵戦を挑む前には拳銃を一発撃ち込むようにしてある。方術使いだって使って良い、便利だ。

 火薬は装填せず、弾丸だけ入れて圧搾空気の方術で弾き飛ばす。ただ手に持って弾き出すより、手が傷つかないように気配りしなくて良い。

 一列目の兵が分銅を振るい、二列目三列目が拳銃を撃ち、それより後列が拳銃への弾込めを行って前へ渡す。火薬と違って白煙に包まれる事も無いので常に良く狙って撃てる。

 自分は常に誰より先行し、圧倒して打ち倒して敵の気を引く。意識をこちらに集中させ、隙が出来て弱くなった敵を後続する部下達が始末する。

 敵に触れて方術で前方へ指向するよう爆砕して肉と骨の欠片を浴びせて更に多く殺す、倒す、怯えさせる。仲間の肉片を雨のように浴びて正気を保つ者は少ない。たまに腹に当てて内臓を、斜め上に飛ばして多くの敵の頭へ雨のように降らしてやると動揺の広がりが大きい。

 敵の突き出す槍に刀は遅くてたまらない。時々飛んで来る銃弾は金属逸らしの方術で無意味。これは他人まで守る程の範囲は無い。これがあるから金属武器は手から飛んでいくから持たない。木製武器は趣味じゃない。拳足に頼る。

 我々が大きく敵の戦列を穿って隊形崩壊の先陣を切って進む。切り裂いて分断。

 死にたくないと士気を喪失した敵兵が、中の中央から外へ、後ろへと壊走し始める。他の敵兵もそれに圧迫されて士気を落としたり、戦闘を邪魔されて戦えなくなっていく。

 他の味方部隊がこうした敵の隙を突いて更に攻撃、前進、撃破して撃退して士気を挫いて逃亡兵の波を作り出す。

 弱って弱り切ったビジャン藩鎮軍は崩壊して散り散りになっていった。もう覆し難い優勢を得た。

 自分を見て、怯えて逃げ出す敵指揮官が何人いたことか。馬に乗って指揮しているから普通の徒歩歩兵より逃げると決断すれば後は早い。

 指揮官が逃げれば部下も逃げて良いと思って逃げ出す。死ぬまで忠実に戦おうという兵士がこの場で、この状況でどれ程いるか? 化外の蛮人軍団など、故郷を死守する気概が生まれようもないこの状況で踏みとどまれるものか。

 勿論こちらは勝っているが、一度高く跳躍してざっと戦況を確かめたが損耗は酷い。

 西勇軍から引き出した野戦軍は、十万を越えるビジャン藩鎮軍に及ばぬ七万だ。薄く広げた戦列はかなり素早く磨り減っている。

 騎兵隊は良く持ち応え、逃がさぬよう被害を省みずに攻勢も交えているが皆殺しも遠い未来ではない。

 七万が七千になっても戦いは続行だ。そこまで行けば勝手に兵が逃げるだろうが。

 まだ進む。進む度に敵は弱くなる。

 今撃破した部隊と初めに顔を合わせた時は、かなり後ろに配置されていたはずなのに? という顔をしていた。

 しかし見れば見る程敵兵の顔は西域揃いだ。我が西方騎兵よりも西の連中で、目鼻が駱駝のように大きい。

 良くもまあ、ここまでこれだけの蛮人を連れて来れたものだ。

 その間抜け面を次々殺して倒して進んでいけば、遂には必死の形相の部隊へとたどり着く。そしてその向こう側には撤退を始めた部隊が良く見える。

 どこかでサウ・ツェンリーと直接対決等と期待していたが、それは節度使の仕事ではない。たとえここでビジャン藩鎮軍が一人残らず死に果てても、彼女には治めるべき人民が何百万といる。ここで死んだら馬鹿だ。

 噂の大犬は……身辺警護かな。

「殿諸君! 死ぬか逃げるか早く選べ。選ぶ暇無く死ぬぞ」

 敵兵の顔面を掴み、方術で一点集中に指向して爆砕。別の殿部隊の一人を射殺する。うむ、胸を撃ち抜かれたその一人の死に様は正に射殺だな。

 殿部隊は乱戦の続きにならず、隊列を綺麗に並べ、距離を離して射撃準備をしている。乱戦明けで集団方術をしている暇は無い。

 単独で突っ込む。方術で加速して、一挙に飛び込み飛び蹴りで殿部隊指揮官を、足を起点に方術はやや感覚が掴み辛いが爆砕。左右の手で一人ずつ頭を掴んで爆砕、肉片骨片を撃ち出して効果拡大。

 指揮官こそ失ったが、大部分の殿部隊が迫る我が部下へ小銃を発砲。粗絹式の防弾衣は着せてあるが被害は多い。距離が近かったが、その分切り込むまでの第二射は許さない。

 電撃分胴で槍でもない小銃装備の敵は倒れる。その後ろから出てくる槍兵には拳銃で射撃して隙を作ってから打ち込みに掛かる。

 触れる相手全てを方術で爆砕して殺して回り、殿部隊の後列を単独突破するまで行った。部下達は自分に追い縋るように前進攻撃して迫る。

 中々に粘ったが、遂に殿部隊が逃走を始める。逃走する先には今までなかった奇妙な土手が無数に地面から突き出していて一挙に攻め上げるのは困難になっている。あちらの方術使いは追撃防止に使われたか。

 そして唯一優勢に動いている遊牧騎兵軍に向けて土埃の集団方術の用意を始めるが、始めたところで奴等、逃げた。

 遊牧民め、殿部隊よりも居残りをして義理を見せてからに。腰が軽くて頭が重く、志は横に長いか?

「我が方の勝利だ! 勝鬨を挙げろ!」

『応!』

「万歳!」

『万歳!』

「万歳!」

『万歳!』

「万々歳!」

『万々歳!』

 ヤンルーの包囲は今後も続行される保証を得た。その事実を天下に聞かせたい、これは勝てると。

 しかしその言葉は皆の耳に届くのだろうか? 心にはどうだ?

 皇太后の圧力も限界が見えている。軍閥共に言い訳などさせずに北進させるにはヤンルーを落とさないとやはり無理か? いや無理だな。北朝の軍閥まで排除し、自分達の取り分とする確証が得られない限りは遊戯的な戦争に徹して動かないだろう。

 軍閥共め、腰ばかり重たい奴等め。その上頭も重たげなのだから始末に負えない。ただの馬鹿なら操りようもあるというのに。しかしその分志が低くなっているのが皮肉が利いていて良い。理屈が通っているので納得できるというものだ。

 死ねば良い。いつか殺してやる。親子共にと言わず三族も九族も、家名も業績も全て灰にしてやる。

 切り取るのは領地ではなくお前等の首だ。

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