ベルリク戦記 ー 戦争の生涯 ー   作:さっと/sat_Buttoimars

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29話「ついに頭が」・ポーリ

 モンメルラン枢機卿管領に入ってからは平穏が訪れた。

 内戦の火を思い出させる光景は存分にあった。まずは多くの難民。外国人は尚のこと、貴族、聖職者、商人のようなかつての持てる者、それを嫉妬された者達。それから疲れた表情の平民。

 どちらでも無さそうな者と少し世間話ができた。

 一人目は元公務員。無教養で汚職することしか考えていない新しい同僚に辟易して逃げて来たそうだ。正義を為そうとすれば糞野郎に濡れ衣を着せられ、汚職に加担すれば即決裁判で断頭台行き。

 二人目は脱走将校、奥さんを連れていた。脱走への免罰猶予期間を利用して休暇でも取ろうと思ったが途中で馬鹿らしくなって、親に会ってから身の振り方を考えるらしい。

 三人目、ある一団は元議員とその子分達で、国外の親戚に伝手があるのでそちらの身を寄せるという。一団は馬車に覆いこそ掛けているが金目の略奪品を積んでいる様子。また隙無く小銃で武装していた。

 四……頭目。馬車に繋がれたまま動けないでいた馬を救出して野に放ってやった。御者である主は車の中で寝そべり、そのまま死亡していた。汚れ方から相当な高熱を出して汗を掻いていた形跡が見られた。

 あの狂乱の最中に身を投じ続けるにはある種の活力が必要である。たとえ思想的に革命派であったとしてもあの暴力の渦を泳ぐ気になれる者ばかりではない。

 自分は道中、寄進をしつつ修道院や教会を宿として進んだ。巡礼者への施しを行う仕組みを利用させて貰った。この辺りはまだ宗教勢力を敵とする共和革命派の毒牙が迫っている気配は無い。

 修道院や教会で出された食事は、文句をつけるわけではないが体格と比較して、そして普通の体格の者が食べるにしても量は少なかった。

 最近はお祈りをすることも、食事前に祈祷をすることすら忘れていて、神がお赦しになるか不安があった。

 戦争とはいえ、しかし内戦で、多数の命を奪った。少ししつこいくらいに懺悔室にて告白をしてしまった。神父の方々は皆、義務を遂行したのだから気に病むことはなく、聖典においても大義によって戦う戦士は呪われるのではなく祝福される存在であると言われた。

 物価高の話は故郷を旅立つ前から何度も聞いていた。麦が高価で買い占められ、それに合わせて備蓄を売る者が出て、更に買い占められてそれらはロシエ市場に流れることはなかった。

 現在は春の収穫期で、革命議会軍や聖戦軍が略奪に来なければ餓死せずに済みそうだと言われるが、自給自足を行っている修道院でさえも今は苦しいという。捨て子や、明らかに口減らしのために預けられる者、修道僧希望者が増えているという。

 この地のロシエ人を除く主流民族のシエル人は革命の熱狂とは距離を置いている。民族が違い、言葉も違い、ロシエ人が馬鹿なことをしている程度にしか考えていないのかもしれない。

 土地の空気かもしれないがモンメルランのロシエ人は革命騒ぎに興味が無さそうだ。

 モンメルランの街道上には道標に、かつて天の神が治める国を崇めたサイール人達が立てた、太陽を拝む石像が立っている。主要街道沿いの物は軒並み頭が破壊され、小さい物は倒れ、大きい物は半壊状態。

 旧道を通れば風雨に晒されて若干朽ちながらも頭も揃った姿で立っている。何れロシエの正統カラドス王家もこれらの石像のようになってしまうのだろうか?

 共和革命派は王族と貴族の首を望み、聖職者と宗教を廃絶しようと考えている。正にこれらの石像がそうされた後だ。

 ロシエ人も我がビプロルの種族も革命の衝撃で”顔”が潰され、何か別のものにされてしまうのではないか?

 

■■■

 

 道沿いの宿場町にある酒場へ入る。ノーシャルム公領と違って店がまともに営業されていることが喜ばしい。内戦とはいけないことだと直感で分かる。

 店の主人へ注文。

「食べ物と林檎酒を」

 空になった水筒を出して「これにも林檎酒一杯」と注文する。

「あいよ。しかしこんな時に旅かいビプロルの兄さん。どこへ行くんで?」

「枢機卿様のところへ使いに。この情勢ですから面倒が多くて、ここに来るだけ大分難儀しました」

「これは失礼した。猊下への使いの方でしたか。神のご加護を」

「ご主人にも」

 互いに指で種の形に切る。食事が出来上がるのを待つ。

 ここではロシエ中央の標準語ではなく、南部訛りと総称されている言葉が飛び交っている。同じく南部のビプロル出身の自分としてはこちらの方が耳馴染みがある。

 新聞を握り締めた老人が酒場に駆け込んでくる。

「お前ら聞け! ロシエ陸軍元帥、エラニャックとベンシャルダン公爵、新大陸軍司令のロセア万歳! 我等の英雄が帰ってきたぞ!」

「ロセア元帥が新大陸から戻ってきただって?」

「そうとも、何と十万の新大陸軍を連れて来たんだとよ」

「十万だって!?」

「郷土の英雄! 革命議会をぶっ潰せ!」

 客の一人が立ち上がって杯を掲げて音頭を取る。

「ギー・ドゥワ・ロシエ!」

『ギー・ドゥワ・ロシエ!』

 酔っ払い達が杯を掲げ、応える。

 そして「聖皇聖下よお慈悲を」と音頭を取った者が続け、酔っ払い達は手を合わせる。

 反革命ではあるが熱心な王党派というわけでもないようだ。ここにいるのは聖皇派と呼ぶに相応しい者達か。

 破門と聖戦軍の召集、王弟元帥の軍閥派への反感、そうではない王家に対する微妙な支持。明瞭な一線が引けないことだけは分かる。

 酒場だけではなく、その老人は走り去って大声でロセア元帥の到着を報せ、家々から喜びの喚声が上がっている。

 元帥はかなりな人気なようだが、モンメルラン出身だったか? 南部人という可能性はある。ちなみエラニャックとベンシャルダンは軍功で得たアレオン領の称号なので地縁に関係無い。

 出されたパンには藁が混入してあったが、問題無く食べられた。

 出された燻製腸詰にはネズミ肉が使われていた――店主が正直に告白――が、これも問題無く食べられた。

 

■■■

 

 モンメルランの首都リュムランより手前の街の喫茶店に寄る。あの香りが恋しくなって、寄り道とは知りつつ入る。

 こう何か、こういった救いが無いと体が動かないような気分になってしまっている。そう言えば、休日らしい休日は何時以来だったか?

 茶葉は店員に聞けばギローリャ=ヴァリアグリ王国方面から陸路で入っており、ベバラート茶ではなく、ザシンダル茶らしい。香りは確かに違う。

 そしてその茶を仕入れているのが帝国連邦、レスリャジンの悪魔大王経由であると聞いて味が変わった気がする。しかし茶葉に罪は無く、聖皇聖下からの祝福を待つまでもないだろう。

 店が買って置いてある、客なら無料で読める新聞をいくつか読む。ロセア元帥到着の記事ばかりで、元帥が王党派と共和革命派のどちらにつくかは各紙で評価が分かれている。

 命令系統上では、新大陸軍司令に任命したのが国防卿で、海外領土を管理するのが殖民卿。それから立憲君主制に移行して、閣僚達の権限がほぼ無くなって、革命騒動があって、王党派の政府運営のために閣僚会議が復活して……分からないな。

 ロセアという人物は、理術のような進歩的かつ合理的な発想ができる人物であることは間違いない。しかし王制を非合理と見做してしまったのならば何か別の発想をしてしまう可能性がある。

 それと別の記事、バルリー戦争において先に帝国連邦が仕掛けたか、バルリー共和国が仕掛けたかという内容だ。そんなもの悪魔のような帝国連邦に決まっているだろうと直感的に思ってしまうが、魔神代理領が帝国連邦の先制攻撃を容認するのはおかしいと続く。

 内容が感情的な書き方ではないので中々、信憑性がある気がする。帝国連邦が挑発してバルリー兵が発砲の可能性、とある。当時のバルリー軍にはあの有名な”バルリー傭兵”と呼ばれる正規軍だけではなく、民兵や外国から雇用した傭兵が混じっており、統制が利かなかったのでは? と。何れにしても挑発をしている時点で悪魔の所業ではないか。

 他に記事が無いかと見てもやはりロセア元帥帰還の話題ばかり。実力のある救世主の到来は神の恵み、奇跡のように感じられる。カラドス聖王教会はそんな転機をもたらす英雄を聖人とする伝統があるのだから尚更だろう。

 個人的な希望的観測だとロセア元帥ならば王党派に加勢して共和革命派を打倒してくれるような気はするのだが、それは立憲君主を支持してか絶対君主に復活することを目指してか? それとも何か、中間でも目指すのか? 推測記事でも曖昧な内容ばかり。判断材料に事欠くせいか。

 ロセア元帥に直接話を伺ったような記事を探してみるが一切無い。あっても距離と時差で記事にすらなっていないか。

 外国の新聞ならばもう少し違う意見があるかと見てみる。外国のは更に時差があってロセア元帥の記事が無いか、内容が薄い。

 ロシュロウ家でも見た商人向けの”帆と車輪”を読んでいる客がいる。

「すみません、次にその新聞を貸してくれませんか?」

「ああどうぞ。あまり興味があって読んでたわけじゃないので」

「ありがとうございます」

 受け取った”帆と車輪”を読めば、新大陸軍を輸送してきた船はロシエ、ベルシア、そしてランマルカ船籍である。新大陸の商品が兵員輸送のついでに大々的に行われると期待されたが、全て軍用物資か殖民地からの帰還民用であったという。

 どのような約束で新大陸でロシエと戦っていたランマルカが協力する運びとなったのか。そしてランマルカが協力したということは、ロセア元帥がどちらの派閥に力を貸すのか? ますます分からなくなる。

 

■■■

 

 モンメルランは治安が良かった。理不尽な思いをすることもなく首都のリュムランに到着した。

 リュムランは山の上にあって、整備はされているが長い山道を登った。

 リュムランは勿論のこと聖都程ではないが、カラドス生誕の地と言われている。歴史学者が記録と違うと言って伝説と歴史が別に扱われているが、カラドス聖王教会の聖地であることには変わらない。

 道で巡礼者と擦れ違い、挨拶する。

 時々羊飼いを見かける。人通りは少ない。人口も少ない。

 リュムランは小さな要塞都市で、山中の谷沿いにある。谷という城壁に囲まれており、城門への道も完全に一方向。難攻不落である。

 市内は民家すらも頑丈な石造り。住民はほぼ聖職者と貴族、衛兵にその関係者だけで統一感が強い。

 そして市内から坂道を上がり、三方を崖に囲まれた要塞のようなリュムラン大聖堂、カラドス聖王教会派の本山に到着する。難攻不落を体現したような外観。

 枢機卿がいる大聖堂であっても扉は信者に対して開かれており、往年より数の減った巡礼者を迎え入れている。

 大聖堂に入り、箱に喜捨を収める。

 仰いで天井画を見る。聖典に書かれる世界創造から、世界中に人が散って移住していく神話の時代が終わるまでが描かれている。

 そして壁画を見れば竜狩りアルベリーンを代表とする、古の聖人達が活躍する伝説の時代が描かれる。

 カラドス聖王教会が認める聖人の像が床に複数立ち並ぶ。これが今の歴史の時代の象徴で、もっとも大きな像が聖王カラドス。ロセア元帥もこれに加わるだろうか?

 礼拝堂の中にいる、一番位の高そうな僧侶に声を掛ける。

「ご機嫌良う」

「ご機嫌良う。ご用件は何でしょうか」

「国王陛下からの使いです。ルジュー猊下にお目通りを」

「遠路遥々ご苦労様です。こちらへ」

 僧侶の案内で大聖堂の奥の部屋、枢機卿の執務室の前。扉を叩き、「どうぞ」の声で中へ入る。

 小太りな割りには顔の血色が悪いルジュー猊下がいた。ワインの臭いが強いな。

「ビプロルのポーリ・ネーネト大佐、国王セレル八世陛下の使いで参りました」

「むぅ、あまりご期待に添えられそうにないですな……おっと失礼、使いのあなたに言っても仕方ない。で、どのような用向きで?」

「陛下よりこれを預かって参りました」

 ロシエの王冠、ユバールの王笏、アレオンの王剣。それとパシャンダの宝珠エブルタリジズを取り出して執務机の上に置く。一応、周囲を見て他に人目が無いか確かめてから取り出した。

 ルジュー猊下が頭を抱える。

「信じられん、兄上は本気か? あー本気だな……」

 しばらくルジュー猊下のブツブツと聞き取れない独り言が終わるのを待つ。

「お返事があれば承ります」

「ネーネト大佐、巷では下品な歌が流行っているそうですね」

「は。掲げて行こう革命旗、と始まる歌ですね。モンメルランでは聞きませんでしたが」

「ふむ時間はまだある……あんなものロシエ人が考えつく歌ではありません。ランマルカの妖精が伝えたものでしょう」

「確かに」

「それが流行るということは、既に共和革命派が民衆に根深く浸透している証です」

「はい」

「それに農地改革法。貴族と聖職者、農場主から取り上げた土地の貧農に対する分配が既に行われています。思想はともかく、自分の畑が手に入るという魅力に抗える農民は少ない。いずれの政府にも無許可で牧草地に森を農地にしているという話も聞いております。そして合法違法問わず、それを手放すなんてことは血に懸けて有り得ないということも」

「はい」

「名家の取り潰しと財産没収は徹底的です。まともな収入源の無い革命議会はそれが主な収入源になっており、またもう一つの収入源として役職が売官制度で能力審査もいい加減に売られ、才能不適格な者の手に落ちています。長期的に見れば腐ってどうしようもないのですが、短期的には資金潤沢な状態にあるので活発に行動ができます。これが革命議会に幻の勢いを与えて皆を錯覚させます」

「はい」

 これは王党派の敗北間違いなしということを言ってらっしゃるのか。

「ロセア元帥が新大陸軍を連れて帰還したことは希望のようですが、これに合わせて革命議会は愛国募兵法を採決して成人男性を無制限に徴兵できるようにしました。奴等の一時の夢のためにロシエの血が更に絞り取られることになります。日和見に徹していた勢力、いずれかに所属しながらも不満を抱いていた者達がロセア元帥を支持する流れを感じます。バルマン貴族達は既にロセア元帥に対して支持表明を出している」

「希望的ではないのですか?」

「この後――今日は宿泊されるといい――ネーネト大佐はオーサンマリンに戻られるのでしょう」

「はい」

「ではロセア元帥が王党派とは限らないことを教えましょう」

「はい」

「少々分かり辛いですが、王家の象徴を託される程のあなたと思って教えます。

 ロセアという名前は女性形のロシエを、現代のサエル方言風ではなく、古いサエル語としての男性系変化にしたものです。当然、通名で本名ではない。謎解きのように複雑な通名は皮肉に近い。

 彼の本名はバウルメアと伝わります。四百年前、英雄エンブリオが指揮する聖戦軍によってアラックから追放された天神教徒であるサエル人の末裔です。大半のサエル人は南大陸に逃れて魔神教徒に改宗しハザーサイール帝国を造り上げました。新生サエル、というのがハザーサイールの意ですね。

 サエル人は各地に散り散りになり、一部がウルロン山脈西部の山間、ここモンメルランに逃げ込みました。道中見たと思いますが、混血したり宗旨換えをして見た目も言葉もほぼ何もかもここのサエル人は別物になっています。訛りでシエルと名乗っていますね。

 さて逃げた者達は密かに天神教を信仰しつづけるが、見逃されるわけもなく宗教弾圧を受けます。その時に青年バウルメアは魔神代理領に亡命して、そして魔族になって戻って来て、いかなる経緯かアレオンをロシエのものとする戦争で活躍し、エラニャックとベンシャルダン公爵それからロシエ陸軍元帥の称号を得ました。

 何故戻ってきたのか? 当時の王にウルロンに逃げたサエル人の保護を約束させたからと言われます。ロセアという名には、隠れた同族を守る決意が込められるとも。私もこれらは伝え聞いただけでして、どの程度が嘘で真実かは分かりません。ともかく一言で言うと、ロセア元帥の心は決してロシエに対して純粋ではありません」

 混ぜこぜになったその、何とも醜聞ともつかぬ情報に何を言えばいいのか。

「私は聖皇聖下に王冠をお返しに行きます。他はともかく、これは聖なる神の代理人が授けたものですから……モンメルランにはまだ革命の熱狂は届いていませんが、何れ燃え上がるでしょう。ここには敵を防ぐ戦力もありませんし、聖戦軍も所詮は外国の侵略者で頼る相手ではありません」

 そのまま聖都に避難する気のように見えた。指導者ならば国外へ避難するのは批判対象であるが、聖職者は別であろうか? 外からできることもあるだろうが。

 ルジュー猊下が呼び鈴を鳴らす。外から僧侶が扉を開ける。

「お客様はお疲れだ。宿泊の用意を、あー、食べ物は多めに出して、五人分、いや七人分。帰路用の携帯食糧も十分に、あ、路銀もつけなさい。必要になる」

「はい猊下」

 言われたとおりに動いた。しかしこれは最善なのか?

 

■■■

 

 翌朝、ルジュー猊下が聖都へ向けて出発するのを見送ってから山を降りた。この要塞であるリュムランでも安心できないというように。

 そして携帯食糧と路銀を頂いてからオーサンマリンへ向かった。

 道中ではとんでもない報せが続いた。

 王弟元帥リュゲール殿下が暗殺か自殺か分からないが毒入りの酒を飲んで発見されたという報せ。それと同時に戦線の崩壊とユバール軍の南下開始。

 モンメルラン領内を出る前に教会にて殿下の冥福を祈った。聖皇派からは嫌われていた方なので鎮魂儀礼は行われていなかった。むしろ民衆への説教では神の罰が下ったとも。

 時代が違えば、と思いたい。

 

■■■

 

 ノーシャルム公領に入った。またこの無秩序な土地を進むのかと気が重くなったが、良いのか悪いのか、革命議会軍が盗賊等を討伐して秩序を取り戻していた。

 国防卿に忠実な臣下達は女子供も断頭台で首を切られていたが、それはそれで争いが沈静化した証拠でもあった。

 ここでは驚きの報せがあった。

 まずはロセア元帥がオーサンマリンに到着し、そしてシトレに赴いて革命議会と話し合うということ。正しい議員を選ぶために秘密――己の投票先を他人に知られないという意味――の普通選挙を実施するという噂。

 それから新大陸軍が南下したユバール軍、それに呼応して東部から侵略してきた聖戦軍を撃退するために移動中であるということ。

 これらの続報を直ぐにでも知りたかった。

 

■■■

 

 オーサンマリンへ戻る前に、近い方のシトレへと寄った。

 共和革命派に完全に支配されたシトレは、斬首された首こそ晒されているものの平穏を取り戻しつつあった。平時でも犯罪者の首は晒されていたから特別な光景ではないかもしれない。

 ここでロセア元帥が革命議会にて訴えたことを先触れが通りで訴え、新聞に掲載されていた。

 ”貴族と聖職者の特権を廃止する。ただしそれは処刑によるものではない。彼等も我等と同じ普通の市民になるのだ。

 売官制度という悪習が革命議会でも横行している。これを正して真に実力主義に移行するべきである。有能ならば旧貴族でも採用するべきだ。

 宗教組織の否定と肯定をしない。彼等も一市民となり、教会はただの企業となる。代金と引き換えに心の安寧を売ると良い。真の平等とはこういうことである。

 決して貴族、聖職者を虐殺することではない。ただ同列になるだけである。

 ロシエは共和制へ移行する。共和国議員は実力ある平等な市民達によって構成される。これが真の平等、革命に乗じて市民のふりをして第二の貴族になろうとしているものを排除し、一致団結して侵略者を撃滅する。

 ギー・ドゥワ・ロシエ”。

 どのようにそんなに素早く対処したのか疑問があるが、旧三部会議場の前には、前革命議会の主だった議員の首が並んでいた。市民達が唾を吐いたりしているので人気は無かったのだろう。

 それと議場に来て気付いたが、ロセア元帥が共和国の大統領に就任していた。

 激動の革命とはいえ、そんな、英雄のような人物とはいえ、こんな瞬間的に議会を乗っ取ることが可能なのか? ランマルカが帰還を支援したという記事を思い出せば、全てランマルカがお膳立てを済ませていたということなのだろうか?

 シトレでは一日にいくつもの号外が出される。その一つを見て自分も、それから共和革命派の市民達も驚愕した。これ以上驚くことがあるのかと思う。

 オーサンマリンにおいて、前王セレルが壊走した軍政派の軍隊を取り込んで王政復古を宣言したという内容だ。宣言をしたオーサンマリン宮殿には閣僚会議の八公爵とビプロル侯とフレッテ侯を筆頭に全国の大貴族が結集していたという。実行支配の有無はともかく、領地だけで見ればロシエの過半数が王政復古に賛成をしていることになる。

 これに加えてルジュー枢機卿が王家の三つの象徴とパシャンダの宝珠を持って国外逃亡したという報せが新たな号外に加わった。シトレ中に金に溺れた悪徳坊主のルジューという評判が広まった。

 自分は一体何を見聞きしているのだろう?

「お前は目立つな。しかし丁度良い」

 新聞を何枚も手にして公園で途方に暮れていたら、我が友人ダンファレルが目の前にいた。

 これはついに頭がおかしくなったようだ。

「幻か?」

「幻に見るぐらい私が恋しいのかお前は」

「ダンファレルが冗談を言っている。これは幻だ」

「お前がまず見るとしたら親かロシュロウ夫人の幻だろう」

「確かに」

「あ、ポーリくん久しぶり!」

 今度はロシュロウ夫人が見えた。突然目の前に現れたのだから間違いなく幻だ。

「ダンくんの後ろに隠れてたの。びっくり?」

「私は志半ばで狂気に陥ったのか?」

「あれれ? おーい、ポーリくん?」

 間違いなく、目の前に手を振るロシュロウ夫人が見える。しかし彼女がこのシトレにいるのが信じられない。これは幻だ。

 次に、頭巾を目深に被った怪しい二人組が近づいてきた。これは逆に幻ではない。

「また頼みたいことがあるんだポーリ」

「ポーリ様お願いします」

 頭巾の陰から見えるそのお顔は、化粧で少し雰囲気が変わっているが間違いなく国王陛下と王妃様。共和革命派だらけのシトレにお二方がいるはずがない。

 これは幻だろう。現実と虚構の垣根が消滅したに違いない。

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