ベルリク戦記 ー 戦争の生涯 ー   作:さっと/sat_Buttoimars

244 / 244
3-04話「技術供与」・サニツァ

 技術供与作戦開始!

 ランマルカの最新装備は軍事顧問団さん達の現物を分解して、ある程度は解析ができるらしいんだけど、部品を作る金属とか硝子とかの加工技術が伴わないと形だけ真似しても壊れたりしちゃうんだって。特に榴弾とかなんて暴発したらすっごくすごく危ないから形だけの真似は危険。絶対ダメ!

 ランマルカとは郵便で技術書とか設計図は暗号文にして送れば大丈夫みたいなんだけど、やっぱり部品や完成品の見本に、工業機械その物から技師さんまでマトラに連れて来ないと工場での大量生産はできないみたい。だからそれを持って来るのだ!

 ゼっくんが「非常に困難な任務だ。大陸宣教師が協力してくれるが、両オルフから狙われるような案件である。命がけだ」って言ったけどちゃんと「はい、サニャーキやります!」って返事したよ。

 一年はいかないみたいだけど、長い間離れちゃうからミーちゃんに「ゼっくんの言う事聞いて良い子にしててね」って言ったら、怒ってるみたいで無視されちゃった。ゼっくんに「ミーちゃんお願いね」って言ったら「不慮の事故事件等が無い限りは生存の保障をする」って言ってたけど。

 ランマルカがこの北大陸に築いている橋頭堡は、西はウォルフォ川河口のザロネジ、東はヤザカ川河口のアレハンガン。ウォルフォ川沿線は激戦地でザロネジに向かうのは非現実的。だから目指すのはアレハンガン。北海っていう、冬になると凍っちゃう海に面しているんだって!

 海ってそう言えばあんまり見たことないなぁ。マリオルに昔ダラガンくんと行った時も滞在費が無いし、関税が割り増しになっちゃうみたいだったから街の外で話を通してた商人さんからお買い物して帰っただけだった。

 あの時、遠くに青いすっごく大きい水が太陽に波が反射してキラキラしてた。あとカモメって白くてちょっと灰色の、カラスより鈍い鳥がいて捕まえて食べたの思い出した。美味しかった!

 作戦は夏の内に出発して冬を前に帰る予定。何も無ければ一季節で往復できるらしいんだけど、戦時だから迂回したり足止めくらったりして半年は掛かる覚悟で行くよ。

 ランマルカ妖精さんは軍事顧問団員さんが五人と、何時も往復して来てくれている郵便屋さんが一人。現地のオルフに詳しいリャジニ妖精さん四人、マトラの情報部員さん三人、旅の経験が長いっていうケリュン族の占い師さんが一人、アッジャール事情に詳しいっていう遊牧民さんが四人、オルフ人の亡命者さんが十人、それに自分と、大陸宣教師って凄く偉い人のスカップさんが隊長さんで三十人。

 ブットイマルスは目立つし大荷物なので親衛軍指揮杖のしゃらんしゃらんを紐で縛って鳴らないようにした物を持って行く。

「修道服の君、君がサニツァだね」

 赤い髪の赤い帽子のスカップさんは馴鹿っていう、人の言う事を聞く鹿の馬車? 鹿車の御者もしている。人に馴れてる鹿って初めてで、頭撫でれるかなって思って触ったら舐められた。息くっさい!

「うん、サニツァだよ!」

「ゼクラグやシクルから君の有能さは良く聞いている。頼りにさせて貰うよ」

「シックルちゃんからも!?」

 シックルちゃんとお知り合いなんだ!

「見事な献身振りだった」

「そうなんだ!」

「そうだとも。黄金の羊の暗殺が無ければオルフ軍の猛攻は更に激しかったと予測された」

「シックルちゃん頑張ったんだね」

「そうだとも。この作戦は非常に危険だ。いざという時は頼むよ」

「サニャーキにお任せだよ!」

「それは頼もしい」

 ふっふー、頑張っちゃうぞ!

 

■■■

 

 中洲要塞で準備を整えて、ダルプロ川を下って北関門の手前で右、去年に東スラーギィ作戦で開拓した北側進路の回廊伝いに進む。

 レスリャジンの騎兵隊さんが警備しているし、道も井戸も整備されて水に困らない。

 夏だから涼しい夕方から早朝に掛けて移動する。ケリュン族の占い師さんが星を見て方角を確認。

 そしてゼオルタイに到着。やっつけたオルフ人は戻って来ていない。彼等が残した井戸から水を飲みながら更に進む。ブリャーグ族の人達が少数だけどこの井戸を使っているみたいで、姿は見かけたけどこっちの姿を確認したら直ぐに逃げちゃった。

 

■■■

 

 ゼオルタイから北に、遂にオルフのメデルロマ領に侵入する。

 メデルロマはアッジャール朝と人民共和国が争っている最中で、互いの支配領域がしょっちゅう変わるから注意が必要。

 ランマルカ軍事顧問団の支援を受けられるのは人民共和国の支配領域の中でも政府中央の統制が利いている軍の支配下なんだって。統制が利いていない軍は山賊と同じらしいし、どっちつかずの民間人は怯えて逃げるか見境無く襲ってくるとか、色々大変みたい。それから人民共和国自身も、今は行きの空荷状態だから大丈夫だけど、帰りの大事な荷物を積んだ状態だと何をし出すか怪しいんだって。ホントに大変!

 メデルロマの南部は砂漠って言う程じゃないけど荒野が広がっていて、川も少ししかなくて畑が狭い。牧畜はしているんだけど盗まれたり、戦争に巻き込まれて逃がしたりで上手くいってない。だから食べられなくて盗賊になった人がうろついていた。遊牧民さんが斥候に出て待ち伏せしている盗賊がいないか確認して、無視できるなら無視、道を完全に塞いでいるようならサニャーキにお任せ!

 修道女姿で近づくと盗賊の悪い奴等は油断する。元は悪い奴等じゃなかったせいか、言葉は通じないけどこんなところで何している? とか、ちょっと優しい感じであったりもするけど。でも盗賊はダメ、絶対ダメ。しゃらんしゃらんって鳴らないようにした親衛軍指揮杖で殴って骨を粉砕!

 皆殺しにする必要は無くて、恐くなって逃げ出す程度にやっつけたらお終い。作戦目的は早く北のアレハンガンに行って、帰ってくること。盗賊退治はお仕事じゃない。

 

■■■

 

 北のメデルロマに入ると川も湖も森もあって畑が広がってて、食べ物には困らない感じの場所。オルフの川沿いは冬はすっごく寒くなるけど夏は結構暑いし、麦の収穫量もすっごく多いんだって! いいなぁ。

 イスタメルは川があっても岩でごつごつしてたり、土地が痩せてて畑を作るのも大変だし育ててもあんまりたくさん実ができないんだよね。それに盗賊が盗みに来るし、一杯税金で持って行かれるし。

 北のメデルロマはスカップさんの案内で人民共和国の勢力圏内を移動できたから盗賊とも出くわさなかった。街道沿いだと人民共和国軍の補給部隊とかランマルカ軍事顧問団と一緒に行動できたから危険は無かった。

 だけど人民兵さん達が略奪したり、戦場跡を塹壕の壁まで穿りだして、そこで取った略奪品を素早く売り捌くために安い市場を開いたりしてその時はちょっと旅が遅れちゃった。スカップさんが「多くの人間は欲深いものだね」と呆れていた。

 それからアッジャール騎兵の後方襲撃があるかもしれないからずっと見張りを続けなきゃいけなかった。

 

■■■

 

 メデルロマ領からツィエンナジ領に入った。

 ツィエンナジからだと北西に向かえばアストル川があって、そこを下るとヤザカ川に合流出来るから目標のアレハンガンまで直ぐなんだけど、今のツィエンナジ領内のアストル川沿岸はアッジャール朝の支配下にあるから行けない。安全を考慮して戦闘中の北にも直進しないで、比較的安全な北東方向に迂回して直接ヤザカ川を目指す。

 ここでも補給部隊とかと一緒に行動したんだけど今度はアッジャール騎兵の後方襲撃に遭遇した。斥候が事前に察知できたけど敵は大勢だった。

 まず皆に防御体勢を取らせるのに時間がいるってことだったから、指揮杖の紐を解いてしゃらんしゃらん鳴るようにして目立つように。

 それで先駆けになって、襲撃してきた敵騎兵隊へ逆に「うぉりゃー!」って突撃して杖で先頭の敵を、しゃらんボガン! って殴った。ブットイマルスなら馬ごと即死なんだけど、杖だと騎手の肩を弾いて半分千切るくらいで止まっちゃった。

 吃驚した敵が前進を止めて自分目掛けて矢とか鉄砲で撃ってくるけど、甲冑を着けているからカチン、ガンってなるだけで平気。敵の群れの中に潜り込めば簡単に撃たれないし、同士討ちもさせたし、刀で斬られても甲冑は跳ね返すし、顔でも大したことない。銃弾は鼻血が出るくらい痛かったけど。

 そうやって杖でたくさん殴り殺して、しゃらんしゃらんって注目を集めている内に補給部隊は荷物と荷車で円陣を組んで防御体勢を整え、逆襲部隊を編制して応援に来る。

 最初の内は自分がいるから発砲に戸惑っていたけど、スカップさんが自分なら銃撃くらい平気ってことを教えたら一斉射撃から撃ちまくり。何発かガチンって当たった。それで奇襲が失敗したと分かった敵騎兵隊はあっさり逃げた。

 オルフの人民兵さん達に手を振って「勝ったぞー!」ってやったら『ウラー! ウラー! ウラー!』って三唱して喜んでくれた! 中には神様に祈るみたいに手を合わせてた人もいて、政治将校? って人に怒られてた。オルフ語は分かんないけど「怒っちゃダメ。仲良くするの」って言っておいた。

 スカップさんからは、鼻血拭いて貰いながら「流石は労働及び軍務英雄。頼りになる」って言われちゃった。

「サニャーキにお任せだよ!」

 ふっふー、もっと頑張っちゃうぞ!

 

■■■

 

 遂にヤザカ川に到着! ここまで長かったけどまだ半分以下。

 ヤザカ川は東にあるオド川ってところから分岐している川で、途中でアストル川と合流して北海まで流れる。アレハンガンは河口にあるから後は船に乗ってずっとずっと下るだけ。

 まずはオルフのあんまり大きくない船に乗って川下り。

 アストル川との合流地点付近はまだ危険なのでその手前で降りて、陸路で北を目指す。途中で中洲を挟んで両岸を渡す二本の崩れかけの橋を巡って両軍が戦ってたけど参加はしないで迂回。河川砲艦が大砲をいっぱい撃ってたり、西岸のアッジャール朝の軍ではノミトス派っぽいけどちょっと違う服装の救世神の神父さんが兵隊さん達にお祈りの言葉を掛けて元気付けてた。ちょっと見学していたかったけど先を急いだ。

 

■■■

 

 歩いて大きい海みたいな、淡水のヴェラガ湖に到着。ヤザカ川とアストル川の水ですっごく広い。東には運河でもう一つのオゼブリィエ湖に繋がっててそっちは四倍くらい広い上に大きい島があるんだって。

 ヴェラガ湖にあるニズロム領の首都クシルヤグトに一旦入って少し休暇。もう少しで夏が終わるくらいかかった。

 五日の休暇期間、政治将校さんがぴったりくっついて外出も制限されて窮屈だった。ご飯は一杯食べれた! あと修道服はまずいからって女の人の服を貰ったよ。直ぐ袖とか破れちゃったけど自分で直した。

 それから休暇期間が延びてさらに三日、やっと手配したランマルカの連絡船が到着した。

 

■■■

 

 クシルヤグトから川を下って河口、今度こそ本当の海が見れた! 昔マリオルで見た感じと比べてキラキラしてなくて灰色っていうか、暗かったけど見渡す限りの海!

 アレハンガンに入港して、スカップさんが技術供与のための人と物の手配を始めた。ここでも政治将校さんがぴったりくっついて窮屈。ご飯は一杯食べれた!

 街にはノミトス派の教会があったんだけど、飾りとか全部外されて兵隊さんの家になってた。あと司祭さんとか修道女さんとかが吊るされてて、腐りきって骨に近くなってた。悪いことしたみたい。

 スカップさんから人と物の手配に時間が掛かるって言われて休暇になった。自由に外に出て回れるならいいけどずっと建物の中だから暇だった。待っている内に秋になって、街路樹とか城壁の外の森が紅葉して綺麗になった! 森が真っ黄色。

 あと海水だけどしょっぱエグくてちょっとしか飲めない!

 

■■■

 

 紅葉が散って北風が寒くなって来た頃に技師さんと工作機械、見本品、部品、技術書に設計図が手に入った! 工作機械は重くて、馬車の車列を追加することになったし、ランマルカの兵隊さんとかオルフの兵隊さんも増員されて百人ぐらいにまで増えた。あとスカップさんは忙しいらしくてアレハンガンでお別れ。代理のランマルカ妖精さんが新しい隊長さんになった。

 冬になる前に戻る予定だったけど、冬の初めくらいになるかもしれないみたい。

 

■■■

 

 北風が弱いので、船曳人の人達に船を引っ張って貰いながらクシルヤグトまで北上。急いだ方が良いと思って引っ張るのに加わったら予定よりかなり早くついちゃった。

 クシルヤグトについたら、アッジャール朝の軍隊が近づいているらしくて船から降りることになって、東に迂回する道を取ってツィエンナジへ陸路で向かう。

 

■■■

 

 陸路でヤザカ川についた頃には、雪はまだだけど霜が降りてきた。一応まだ秋だけど今年の冬はなんだか早いみたい。

 川沿いの村で川を渡す船を待っていると川上から船がやって来る。ヤゴール族の人達で、食糧を買いに来たみたいなんだけど売る物が無いって帰されちゃった。今年のオルフは戦争もあるけど天候が悪くて不作だったんだって。

 

■■■

 

 ヤザカ川を渡ってツィエンナジを南下。

 敗走して北に向かってくる人民共和国の兵隊さんと出会った。南下するのに足止めをくらうどころか一旦戻らないといけないかもしれなくなった。

 さらに東側、ヤゴール族との境界線ギリギリまで迂回してから南下する案で決まった。人民共和国がツィエンナジを今後奪還するとは限らないのでそっちの方が逆に早いかもしれないんだって。

 

■■■

 

 ヤゴール族の境界線ギリギリを進み始めたんだけど、食べ物が無いヤゴール族がオルフ人の村を襲って略奪して、村の人を奴隷に誘拐していた。

 女の人達は子供を殺してから自殺したり、若い子は身体にうんこを塗りまくったりして抵抗してたけどあんまり意味なかったみたい。投げ縄で捕まえて川に落として、引き揚げてお終い。

 ヤゴールの人達によると奴隷に売ったお金で更に食べ物を買うらしい。こちらに、荷役に使えるぞ、と売りにきてた。隊長さんの判断で買わなかった。

 街道を通るのは危険で、日中も危険。日中はできるだけ隠れるようにして休んで、夜暗くなってかららケリュン族の占い師さんの天体観測で現在位置を見極めながら南下を続けた。占い師さん、凄い!

 それでもやっぱり時々ヤゴール族の馬賊と遭遇してしまう。アッジャールの人が手持ちの食べ物を渡して襲撃を回避した。最初はやっつけちゃえばいいのにって思ったけど、ヤゴール族の軍隊は何万人もいるから下手に敵対すると物凄い反撃を受けるんだって。恐いね。

 食べ物が不足してきたから、移動する時間を少し減らして狩りの時間を増やした。それから同行する人達は嫌がったけど、妖精さん達と自分が食べられそうな人間の死体とか、盗賊、脱走兵っぽい人とかを襲って食べた。人民共和国の兵隊さんは逃げ出しちゃったけど。

 

■■■

 

 やっとのことでメデルロマの北までやってきた時には、不動の極星が雪豹座の主星が縦に交わる冬になった。もう既に雪が降って積もっている。

 寒くて病気になって死んだ人も出てきた。今のメデルロマはアッジャール朝が優勢らしくて人民共和国軍の補給物資が使えなくて、食べ物が足りないから皆で人間を襲って食べた。

 馬も倒れ始めて、自分が車を引く。重量物はサニャーキにお任せ!

 それでも足が遅くなっちゃって、歩いてる途中に吹雪に遭って避難して遅くなってくる。

 皆、寒くて疲れてて、近くにあった風避けになりそうな崖の下の森に避難したら皆びっくり! アッジャール朝の軍隊も同じ場所に避難していた。森の中、ずーっと天幕とか焚き火とかがずらずらって並んでて、千と二千とかそれよりたくさん居た。

「サニャーキ、殿やります!」

 皆は逃がして、自分一人が囮になる。大丈夫、疲れて倒れちゃう前に逃げれば問題無し。

「でやー!」

 バルリー人やオルフ人、アッジャール人をやっつける時に分かったのは、思い切って敵のど真ん中に入った方が安全なこと。そうすると鉄砲とか弓矢を撃つと同士討ちになる。

 しゃらんって杖を振って、野営地の真ん中に突っ込みながら道行く敵の頭を粉砕! 肩も粉砕! 胸も粉砕!

 逃げれば良かったのに、十人くらい旅の仲間の兵隊さん達も残って鉄砲を撃ち始めた。

 崖が風を防いで、森が雪を防いでこの場所は今、結構視界が良い。もっと目立って敵を引き付けよう。

 杖の振り方を変えて、敵の足を粉砕! こうすると即死しないで、痛くて転げ回って叫び続ける。

「おりゃー、掛かって来い悪い奴!」

 声を掛けて、敵に注目させる。そして足を粉砕して回って叫び声を増やす。そう、おっかないのは自分だぞ。

 敵が鉄砲や弓矢を撃ち始める。自分に向けて撃とうとする敵は、背後にいる敵の味方を見て躊躇する。

 旅の仲間の兵隊さん達は自分みたいに敵のど真ん中に入って来ていないので一杯撃たれて死んで、残りは逃げた。早く逃げれば良かったのに。

 足を止めないで、動き続けながら敵の足を粉砕!

 鉄砲で撃たれる。平気だけど痛い。戦いになると思ってなかったから甲冑着てない。

 矢も飛んでくる。敵とか木とか天幕とかがいっぱいあるから盾になるけど、時々当たる。矢はあんまり大したことないんだけど、服に刺さって絡まってちょっとうるさい。

 敵がまとまって一斉に銃剣を揃えて掛かってくるようになる。杖を投げてぶつけて二人くらい殺してから、足を粉砕した敵を片手に一人ずつ持って体当たり。体が盾になるから撃たれても痛く無いし、銃剣も防ぐ。後は死んでるかどうか分かんないけど、敵を棍棒に敵を殴る!

 殴った敵と殴られた敵がグジャボキって肉と骨が潰れて死ぬ。

 何回も殴ると敵は骨が無くなったみたいにフニャフニャになるから新しい敵を掴んで次をバキゴボって殴り殺す。

 何回も掴んで振って、武器の敵も殴る敵も殺して回って走り回って敵を掻き回す。ゼっくんもシックルちゃんもルドゥくんも恐怖させることが大切って言ってた。

 そんな風にやってると敵は恐がって逃げ出す。「がおー!」って向かうと泣いて謝り出す。

 あんまり長いこと戦ってると、前の荷揚げの時みたいに倒れちゃうから、皆殺しは絶対無理だし、そろそろかなって思ったところで森の奥へ、弾避けに泣き叫ぶ敵を担ぎながら逃げた。

 

■■■

 

 何かこう、やっぱりそうかなぁって思ったけど。迷った。

 野営地で殿をやって、弾除けの敵を殺してお腹空いたから食べてたんだけど、ここがどこだか全然分からない。

 戦ってる時にグルグルあちこち回ってたから皆が逃げた方角も見当つかないし、荷物とか技師さんを連れて行くのが最優先だから迎えに来るわけないよね。

 夜になっても吹雪のままで、空を見ても真っ暗で星も月も見えない。

 星座を観測する時はその時間帯も大事で、占い師さんから教えて貰った方角の見方は、うーん、お話聞いたけど全部覚えてない。冬の白象の時の南は、季節を決める二十星座じゃない車輪座の……何の星だったっけ? 忘れちゃった。

 とりあえず南を目指せば北側進路のどこかに出るんだけど。ま、大体そっちを目指せばオルフを抜けちゃうよね。よし大丈夫。

 日中はお日様が昇ってくるのが東だから、大体大丈夫! 夜は寒いし、雪が降ると見えないし。太陽を見て、東、南、西に沈むって見れば行けるよきっと。困ったら人に聞けばいいよね。答えてくれない人ばっかじゃないはずさ!

 地面に穴を掘って、掘った土でちょっと周りを盛る。木の枝を屋根にして、敵の死体を枝が飛ばないように重しにして風除けを造り、穴の中で寝て朝を待つ。ちょっと寒いけどお腹いっぱいだ!

 

■■■

 

 南へ進む。お日様の出る方角を正面に見たら右手を伸ばした方!

 食べ物は、しばらくは敵の死体で大丈夫。水が飲みたい時は、どうしよう?

 川を探して歩いてみても雪で分からない。あんまりあっちこっち歩くと方角が変になっちゃうし。

 北メデルロマは結構たくさんの人が住んでいる。遠くに屋根がたくさん見つかったからそこに行ってみると村の人は皆死んでた。崩れて丸焦げになっている納屋の中にたくさん、あとは木から吊るされているのがちょっと。死んでから時間が結構経ってるから食べられないや。

 村の家の中を探して、火打石を見つける。食べ物が全く無い。井戸を見ると死体だらけだし凍ってるから飲めない。

 家の中にあるボロ布とか、使ってない薪を集めて火を熾す。鍋とか全部持っていかれてたけど大丈夫! 死体の首をもいで、肉とか皮とか脳みそとそぎ落として、さっと焼いて消毒。剥いだ皮を内張りに貼って、雪を入れて加熱して溶かしてお湯にする。何回か煮て生臭さを取る。

「じゃじゃーん、髑髏杯の完成!」

 直接火で焼くと骨が脆くなるからあんまり回数は使えないけど、鍋とかが見つかるまではこれでいこう。

 お湯を飲むとあったかうまぁーい。冬はお湯飲まないと凍死しちゃうもんね。

 これで冬は越せる感じ。早く帰りたいけど、時間がかかっても大丈夫!

 

■■■

 

 夜の星座を見て南を把握、できてるか自信が無いので止めた。占い師さんも素人が真似したら絶対間違うからやらない方がいいって言ってた。

 夜は寝る。朝はお日様を見て南、お昼もお日様を見て進んで、夕方はお日様を見て明日進む方角を確認して寝る。

 携帯食糧にしていた敵も全部食べちゃってお腹が空いてきた。

 風をにおってみたり、高い丘の上に行って木の上から周囲を見渡して次の食べ物を探すとあった。戦場跡!

 戦場跡に行ってみると人と馬がたくさん倒れていて、服とか武器は誰かが持ち去った後。死体は埋葬されてなくて、馬は肉が丁寧に取られている。寒いとお腹空くもんね。

 死んでいるのはオルフ人、それからヤゴール族の人かな? ツィエンナジだけじゃなくてメデルロマにも略奪に来てるみたい。

 死体の中から、目と口とかおチンチンを見て病気になっていないか確認してから選ぶ。今は冬で寒いから腐る心配はない。

 お腹減ってるからご飯にしよう! 薪を集めて火を熾して肉を焼いて食べる。うまうま! 雪も髑髏杯で解かして飲む。あったかうまぁ。

 食べるのに夢中になってから、カチって鳴った。鳴った方を見るとちっちゃい男の子がこっちにちっちゃい鉄砲を向けてた。

 毛皮の帽子を被って、詰襟の遊牧民の服を着た子だ。

 男の子が何か喋る。銃口の先で肉を指したり、こっちの顔に向けたり忙しい。

「分かった! お腹空いてるんだ!」

 焼いている途中の肉を見ると、まだ中は生。

「食べかけのでいーい?」

 って手渡すと男の子はこっちに鉄砲を向けたまま、はむはむって食べ始めた。片手だと鉄砲が重くて銃口下がっちゃってるんだけど気付いてないみたい。ちっちゃくて可愛い!

「隣においで!」

 椅子にしていた石に、座布団代わりに敷いた布団を広げて二人座れるようにして、座れるよって手で叩く。警戒してる。

 肉が焼けるまで待つ。男の子はもう食べ終わっちゃったみたい。今焼いている肉を見てる。

 最近、ストっくんを見てからなんかちっちゃい男の子がすっごく可愛い。男の子が欲しくなっちゃうよね。

「もっと焼くから待っててね!」

 うーん、やっぱり食べる時は一人よりいっぱい人がいた方がいいよね。

 選別した死体の肉を手で千切ると、男の子が「わっ!?」って吃驚して鉄砲落とした。人間を食べるのは初めてだったみたい。誰にでも初めてはあるもんね。ミーちゃんも最初は変な顔してたもん。

 肉を新しく焼いて、焼いている肉の焼けた部分を千切って男の子に持って行く。

「おいしーよ!」

 男の子が何故かあたりをキョロキョロ見回す。この戦場跡を見ると、どうもヤゴール族の方が負けちゃってる感じに見える。逃げ遅れちゃったのかな?

「ほら、お腹いっぱいにならないと大きくなれないぞ」

 肉が食べられる物だよって、半分食べてから、おいしー! って顔を見せて、差し出す。

 男の子が、こっちを見ながら肉を取って食べた! 可愛い!

 

■■■

 

「ほら見てチーくん! 南のメデルロマっぽいよ!」

 男の子の名前はチクラグかテコーフかジウルクかなんか、そんな感じ。チーくんが可愛いからチーくんって呼んでみて、それで大丈夫みたい。

 チーくんには「行くとこ無いなら一緒に行こ」って言って手を繋いだらついてきたよ。可愛い!

 ずっと歩いていると、チーくんは疲れちゃうんだけどそんなこと喋ったりしないで我慢しちゃうみたいだから肩車して進む。可愛い!

 夜寝るときは寒いから抱き合って寝るんだけど、寒いからギュっとくっついてくるし、起きてる時はしないけど寝たり寝ぼけてたりするとおっぱい触ってくる。可愛い!

 そんな風にして南っぽい方角目指してずっと歩いて来たら森が無くなってきて、荒野になってきた。あと何だか雪も少なくなってきて、ちょっと大変だったけど雨雪が降るような天気になってきた。

 もう春に近づいてきちゃってるのかも。今日で何日目って数えるの忘れてたから、殿してから何日か覚えてないや。

 メデルロマの南っぽいところに出たら、西に進むようにする。南に進み続けて何にもない東スラーギィの砂漠に出たら死んじゃうもんね。

 北のメデルロマは食べ物があったけど南は少ない。

 チーくんは鉄砲がちっちゃいのにすっごく上手で、肩に乗せて歩いていたらいきなりバン! って撃ってびっくりしたと思ったら飛んでる鳥を落としたの! すっごいの!

 山羊とかも、普段なら一生懸命追いかけて捕まえるんだけど、チーくんが鉄砲で撃てば簡単に獲れちゃう。すごい!

 そうやって雪が無くなって来て、天候も良くなって夜空を見たら烏座の主星が不動の極星に近づいていた。もう春が過ぎて少し経ってた。

 

■■■

 

 春になって雪が無くなって、何だか見覚えがあるなぁって場所に出た。

 馬に乗ってる遊牧民さんがいたから「おーい!」って声を掛けたら、名前は覚えてないけど顔は覚えてるアッジャール人の騎兵さんだった。放牧地を新しく割り当てて貰って、今は少ないけど羊の放牧をしていたんだって。良かったね!

 道を案内して貰って、北側進路の道に出ればもう後は大丈夫。道中の食べ物だけじゃなくて馬までくれたよ! チーくんはちっちゃくても馬に乗れるからそれでダルプロ川沿いまで出て、中洲要塞にまで直ぐに到着。

 ゼっくんがスラーギィ連隊の訓練を見てたところに「ただいまー!」って言ったら「二つ目の軍務英雄勲章は確定だ」って言ったよ。びっくりすると思ってたけど「生存は確信していた」って言われた。もうちょっと心配してもいいよね。

 それからランマルカの技師さんと荷物はちゃんとマトラに届いて、工作機械で作ったマトラ産のランマルカ式新兵器をジャーヴァルで頑張ってる皆に送った後で、今は新兵器工作用の機械を作る工場を建てて量産体制に向けて大躍進中なんだって! やった。皆逃げ切れたんだ!

 それからミーちゃん。食堂の方に行って「ただいまー!」って言ったら、わー! って泣いちゃった。 

「サニャーキ、ばかっ! ばかっ!」

 ミーちゃんがポカポカ胸を叩いてくる。昔は腰くらししかなかったのにおっきくなったね。

「遅い! 臭い! 汚い!」

「ミーちゃんごめんね」

 ごめんって言ってもずっと叩いてくる。

「そうだ! ほら、ミーちゃん、新しい弟だよ! チーくんだよ!」

「へ?」

 後で聞いたらチーくんじゃなくて、キクルグ氏族のティクレフの息子ジールトって名前だった。ジーくんだね!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

“魔王が倒されたあとの世界”を書いた男 ~名もなき兵と百年史~(作者:こじまたり)(オリジナルファンタジー/日常)

魔王が討たれ、長く続いた大戦は終わった。▼だが、その翌日から始まった「戦後」の物語を、誰も語ろうとはしない。▼前線でかろうじて生き残った名もなき兵士ヨルンは、識字ができるという理由だけで、戦死者名簿を書き上げる記録係に回される。▼紙の上に並ぶのは、二度と戻らない命の「名前」と「出身地」と、簡素すぎる「一行」だけ。▼復興、魔族収容区、戦犯裁判、復興利権、勇者の…


総合評価:2213/評価:9.01/連載:26話/更新日時:2026年05月16日(土) 22:40 小説情報

転生したら皇国の姫君でした(作者:カマケル)(オリジナル歴史/戦記)

仮想戦記もの書きたくなったから、1年かけて書いてみた


総合評価:1385/評価:7.85/完結:84話/更新日時:2026年02月22日(日) 14:26 小説情報

蠱毒の壺をペットにしたバカの話(作者:二度見屋)(オリジナル現代/冒険・バトル)

地方の旧家・山田家の跡取り息子である山田大輝は、六歳の夏休み、自由研究のネタを探して家の倉に迷い込む。そこで見つけた古書に記されていたのは、禁忌の呪術「蠱毒」▼面倒くさがりでことなかれ主義の大輝は、「虫を集めて戦わせるだけなら楽だ」という幼い動機で、倉にあった黒い壺に庭の生き物を詰め込み、蓋を閉じた。しかし、重い壺を学校へ運ぶのが億劫になった彼は、提出をあっ…


総合評価:2287/評価:8.5/完結:28話/更新日時:2026年05月24日(日) 14:46 小説情報

尾張グダグダ戦国記(作者:far)(オリジナル歴史/戦記)

現代人の意識を、戦国時代の足軽に放り込んでみるテスト。▼なお初手で日本一のフリー素材、信長さんが死亡します。▼ジャンルを戦記かコメディか迷いました。ライトノベル。▼足軽 → 文官 → 外交官()を経て、三好家へ出向。乱世終結へ向けて活動。▼なお大名家の力は、ほぼ使わない模様。▼※Fateは関係ありません。


総合評価:4272/評価:8.35/連載:93話/更新日時:2026年05月24日(日) 19:49 小説情報

メイド、勤務先の大敗北で将軍になる(作者:メカバレ)(オリジナルファンタジー/戦記)

没落貴族のゼフォルは運よく最高位貴族であるウィルベート公爵家でメイドとして働いていた。しかし仕事はつまらなく退屈な日々を送っていた。▼だがまさかの勤め先が戦争で大敗北、当主は討ち死に、主だった家臣も戦死か逃げ出す始末。▼巻き込まれたらかなわんと逃げようとするゼフォルだが唯一残った主である公爵家の不義の子エスメルに将軍になりなさいと言われ残った敗残兵を率いる羽…


総合評価:2982/評価:8.55/連載:76話/更新日時:2026年05月26日(火) 21:34 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>