ベルリク戦記 ー 戦争の生涯 ー   作:さっと/sat_Buttoimars

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7-06話「遊撃作戦」・サニツァ

 二連包囲作戦開始! 各所で同時に攻勢開始。

 敵左翼軍へはイラングリ方面軍の一部、敵左翼中央軍へはワゾレ方面軍が攻勢を掛ける。北から接近中のストレム軍が攻撃に参加すれば撃破は固いみたい。この北の戦線は遠いし優勢だから大丈夫。

 敵右翼中央軍へは中央軍分遣師団が攻勢を掛ける。そして敵右翼軍の一部がポーエン川北岸に渡河していて、敵右翼中央軍へ合流する見込み。また西方からの補充部隊を受け取れる位置にあり、今後の増強が見込まれる。

 この真ん中の戦線は中央軍分遣隊がとっても劣勢だからマトラ方面軍がヴィットヴェルフィムから助けに行く。パム=ポーエンを経由して中央軍分遣師団を助けつつ、再編中の敵中央軍へ南側から攻勢を掛ける予定みたい。

 北の戦線での戦いが早期に決着すればそちらからの増援も見込めるので南北挟み撃ちが可能。その北へ敵が予備兵力を投入させないようにするためにも劣勢下で攻勢に出ないといけないので大変。

 敵精鋭予備軍はヒューベルバウムを陥落させて東進、前線工廠への攻撃に向かっている。敵中央軍は壊滅的打撃を受けたけど、こちらも後方からの補充部隊を受け取って再編を果たしつつあり、敵精鋭予備軍の後詰として活動する見込み。それから最前線への補充部隊の東進路を維持する役割も担っている。そして西からは敵モズロー軍が更にやってきており更なる増強がされる。急がないと危ないね。

 東の戦線は、そこにいる敵精鋭予備軍は絶対に撃破しないといけないから一斉に集中攻撃を仕掛ける。

 シャルキク方面軍は川沿いの道を離れてヒューベルバウムへ直接攻撃を行って敵精鋭予備軍と敵中央軍の前後を分断、部隊の補充を防ぎ、退路を断って孤立させる。

 そしてベルリク直率軍、ゲサイル軍、イラングリ方面軍はもう片方を先駆けに、バルマン軍と協同して包囲殲滅予定。

 渡河に失敗した敵右翼軍の一部とアラック軍と革命軍は共に西岸、ロシエ領側に封じ込められている。

 冬の減水を防ぐために雪崩と融雪を行っているグラスト分遣隊による増水維持、ヤシュート一万人隊の河川艦隊、渡河の要衝ヴィットヴェルフィムとブレンゲンに敷設された砲兵陣地、山岳経路を塞ぐ山岳兵の四つの要素によって敵の渡河を防いでいる。ゼクラグ軍は渡河防止火力として重砲兵隊を残して攻勢に出なくてはいけない。迅速な行軍のためにもそうするのが賢い。

 大きな作戦、軍の流れはこんな感じ。

 ここでもう一つ見逃せないのがヒューベルバウムより西、再編中の敵中央軍の位置より東の区間にいる敵精鋭予備軍の尻尾、命綱になっている補充、補給部隊の兵站線。これを迅速に叩くか牽制して麻痺させないとワゾレ方面軍も中央軍分遣師団も元気な状態の敵に側背面を取られる可能性があって、本格的な攻撃は受けなかったとしても、意地悪程度のかく乱攻撃を受けちゃう可能性がある。

 直接戦力になる部隊じゃないからといってその兵站線を無視するのはとっても危険。撃破できなくても戦術的にその価値が無くなるようにしないといけない。

 ゼクラグ軍が分遣旅団を編制する。騎兵主体のその旅団がその兵站線への攻撃任務に出る。そこには偵察隊と、軽装備でも砲兵隊並みの火力を発揮するグラスト分遣隊の中でもとくに戦闘が得意な人達が混じるからとっても強い。

 そしてもう一つ、活躍しちゃうのが遊撃任務を帯びたブットイマルス分隊! 自称じゃなくてちゃんとその名前を貰った!

 ブットイマルス分隊の分隊長は情報通の情報局員の同志ちゃんがする。今まで良く一緒にお仕事してた同志ちゃんはフレッテ兵に頭割られちゃったから別の妖精さんだね。

「前任者は殺害されました。僕が新しいサニャーキの専門家です」

「サニャーキの専門家?」

 自分の専門ってこと? ゼっくんが”お前は運用が特殊だ”とか、それっぽいこと言ってたけど。

「むむん?」

 メーくんが唸る。ガルルルじゃないよ。

「どうしたの?」

「いえ、何でも、北の言葉に不慣れなだけです」

 メーくんが何でもないと手の平を向けて振り、その真ん中にジーくんが人差し指を当てて押す。

「にくきゅう」

 それからメーくんのおしおき。ジーくんは指を掴まれ捻られた。

「痛たたた!」

「肉球じゃないって言ってんだろ!」

 ジーくんはにくきゅうの専門家だね。

 じゃあ自分はゼっくんの専門家……やだ、顔があっつくなってきちゃった!

 分隊員は自分サニツァ、ジーくん、メーくん。後は情報局員の同志ちゃんがもう一人、偵察隊員さんが二人で片方が副隊長、選抜射手資格の妖精さん銃兵が四人、伝令資格の遊牧騎兵さんが二騎。

 伝令の一人はチュルルポポさん――ちょっと変な名前だけどそんなこと言っちゃダメ。土地土地で違うの――は体の大きいカラチゲイ族の人で、ジーくんともお友達みたい。力も凄くて、デッカイアレスを担いだり、ブットイマルスを引きずってだけど運べる。術も奇跡も無しで、だからすっごいよね!

 分隊のお仕事は少数で目立たないように、兵站線区間内に潜伏。

 偵察隊員さんが偵察して敵を把握し、同志ちゃんが情報を分析しながら目標を設定。目標に接近したら皆が銃や弓に弩を状況に応じて使い分けて射撃支援体制を整えて、自分がダヌアの悪魔方式で襲撃してブットイマルス! 余裕があれば敵兵を戦闘不能な感じに不具にして、できるだけ生かして道路封鎖用の資材にして敵を脅し、行動と精神に負担をかける。

 狙うのは余り大きくない部隊。大きい部隊は分遣旅団主力が対処するから、確実に仕留められる弱い者を狙う。

 弱い者虐めって良くないことだけど、敵へする分にはとっても良し。弱いところから攻めちゃおう。

 活動地点はあまり限定はしないけど、新たに敵がやってくる区間内の西側あたりを中心にする。

 出発する時にミーちゃんが皆の分のご飯を持ってきてくれたよ。出発して直ぐに食べる用の日持ちがしないマトラまんと野菜汁入り缶、保存が効く乾パンに塩キツめの干し肉や干し果物とビールの詰め合わせ。

 メーくんが何故かマトラまんを見て”これ食べられるのか?”って言ってたのが不思議。チュルルルポポさんも”うお、マジかよ”って言ってたのも不思議。美味しいのにね?

 ミーちゃんが”羊の挽き肉と刻んだ玉葱に塩と胡椒入れて混ぜて、水で練った小麦粉の皮で包んで蒸し焼きにしただけだけど”って説明。

 そしたらジーくんが”あっ!”って気がついて”ワンワンは玉葱食べたらいけないんだよ! だから僕が代わりに食べてあげるね”って言って、メーくんからマトラまんの包みを取り上げようとしたら顔を握られて”あ痛たたたた!”って言ってた。

 それからミーちゃんが”あれ? 今日の肉、羊だったっけ?”って首を傾げて言ったら、メーくんにチュルルルポッポさんと伝令の人が、うげっ、って顔した。

”お肉はお肉。好き嫌いはダメダメ!”

””ダメダメ!””

 妖精さん達は好き嫌いしない。えらい!

”あ、山羊との合い挽きだ”

 だって。

 出発してから最初の休憩の時に火を熾してマトラまんと野菜汁を加熱して皆で食べた。お馬さんにも乾燥豆と角砂糖、秣と雪を溶かした水をあげた。メーくんは玉葱を食べても平気だった。

 

■■■

 

 遊撃作戦開始!

 当該区間内で続々と偵察隊員さんと指導を受けた銃兵さんから報告、複数いる敵各部隊の情報だ。

 規模、装備、推定練度に疲労具合、移動方向と速度が提示される。そこから分隊長である同志ちゃんが提示された情報を分析して適当な攻撃目標を設定。

 今回は前後の部隊と距離が離れている、戦術的に一時孤立してしまっている部隊を選択した。

 待ち伏せ地点へ移動。敵は歩兵が主体で、ゆっくりとしか歩かないようなお爺さん馬か、ちっちゃいロバで曳く馬車を随伴していて足が遅い。それから熟練兵ではなく直ぐに疲れちゃうような新兵が多くて、顎が上がっているか俯いていて足元フラフラ。突然しゃがみ込んだり、倒れたりする上にそれを起こす余裕が他の人にもない。物陰でこっそり銃や弾薬を捨てているとんでもなく悪い子もいた! ましてやこの寒い冬、より一層に元気が無い。襲撃しなくても死んじゃいそうな敵も多い。

 新装備で重装甲サニャーキ!

 嘴型の装甲防毒覆面。目の穴は最小限、丸二つでつぶらに毒瓦斯が目を痛めないように防護ガラスを付けられる。雨避けと防護ガラスの保護に帽子みたいにつば付き。嘴は正面を見つめる目玉を咥えている意匠。変なところに目玉があると視線誘導がされて、白兵戦を有利に進めることができるらしい。

 甲冑も新調。金属板は更に厚く曲面加工で要所を守る。関節可動を邪魔しないように細かく加工済み。邪魔すると怪力で削れて壊れるので注意して作ったんだって!

 鎖帷子は手首足首と顔以外を覆うような全身型で前より厚い。ケツの穴を狙われるような攻撃にも対応。フレッテ兵の中には相手の股下に大鎌を入れてから振り上げて股間を刺す技を使う者がいたので対応した。変態さんみたいだけど有効な一撃。こわい!

 今まで手と足に装甲が無かったので手の平、足の裏は素肌のまま、甲の部分に装甲を被せる型の手甲、足甲。手首、足首のところから蛇腹にぶら下がるだけ。持ったり歩いたりしても部品が擦れて怪力で壊れることはない。

 お洒落さんに鳥の羽をつけまくった網を甲冑の上から被って鳥人間サニャーキに変身。カラスの真っ黒羽にして死の使いみたいな感じにする。カラスはジーくんがいっぱい取ってきた。死体突っついてるのがいっぱいいるから簡単だったって。

 そのちょっとおっかない格好で、更におっかない新兵器で日没間際を狙って奇襲に突撃するよ。分隊の皆が後方から支援射撃をする。

 ロシエでは革命騒ぎで信仰を捨てた人が多いみたいだけど、まだ聖なる神を信奉する人はたくさんいる。それから総統閣下が”聖なる神が遣わせし悪魔、不信心者の皮を剥ぐ鞭”って宣言を出したし、ダヌアの悪魔らしいあれをやる。

「信心を誤り、また浅くまた間違う者へ神は悪魔を遣わす」

 ガラゴログルグルに手押し車を前に押して走る。勿論ただの手押し車じゃない。押し始める前に支援射撃として敵へ静かな矢が飛ぶ。

「不信心や異心を犯さぬ者はおらず、いと篤き者にも疑いを持って遣わす」

 びっくりと恐怖の顔で『ウワァ!?』って混乱する敵兵の集まりを大きくて重い鋼鉄車体で、並列の鋼鉄四輪が脚を巻き込んで草みたいに折ってから頭蓋骨も肋骨も背骨も骨盤も薄い軟骨みたいにゴリゴキブッチュブチュに轢き潰してぺったんこ破裂の臓物うんちがはみ出てくっさーで寒さと合わさって湯気が上がる。絞り立ては暖かい。

「あなた方は真なる唯一正しい聖なる神の教えに従わなければならない」

 車軸の端から突き出る車輪鎌。車輪から逃げてもこいつが軸同調に脚をゾグゴリっと削ぎ落とす。真っ直ぐ斬るんじゃなくて、回転して服肉骨肉服って感じで刃がゾグゾグゾグゾグって削って削ったものを弾いてを繰り返して抉る。

「一つとなりその侵略に抵抗して信仰の正しさを証明しなければならない」

 車体の上に乗れば逃げられるような気もするし、それを試みた敵兵は勘違い。乗り上げ落としの、車輪の間にある鎖分銅がブンビュン回って服と肉が骨ごと落ちるぐらいに叩く。

「死せる後に苦しみは無く、生ける内に苦しみが有る」

 敵部隊の迎撃射撃! でも平気。鋼鉄車体はそんなの砲弾でもなければへっちゃらで火花散らして弾き返す。また操者保護の盾が上部に固定されているからこっちに銃弾が飛んでこない。欠点は前が見え辛いことだけど、大体あたりを付けて敵集団を蹂躙するのが目的だから問題無し。ちょっと頭を上げて盾の上から覗けば見えるし。押す時は頭を少し下げておけば大丈夫。

「その苦しみは唯一正しい聖なる神の教えに従っているか試され、魂が高潔であるかを試される」

 正面に対してはめちゃ強い。でも背後は弱い? そんなことはない。分隊の皆が自分を追いかけて後方から支援射撃をしてくれるから轢き殺せなかった余りはお任せ。

 それに持ち手を掴んで前へ押す自分と向かい合わせの座席にはサニャーキの専門家の同志ちゃんが座っていて、対弾使用の兜に半甲冑、衝撃吸収の厚い衣を下に着た重装甲状態で連射性能が高い試作型遊底式小銃、回転式拳銃をいくつも持っていて、自分の背中に回りこんだ敵を撃ってやっつけてくれる。真後ろにいても自分の肩に銃身乗せて小銃で撃つから問題無し。突撃する時に”同志ちゃんも乗るの?”って言ったら”添乗員さんだよ”って言ってた。なるほどね!

「魔王が最果ての彼方より悪魔を送り出す」

 勢いを殺さないように、盾の上にちょっと顔を出して覗いて敵の位置を把握しながらこの突撃蹂躙戦車スッゴイサニャーキを方向転換させて車輪で潰し、車輪鎌で抉り削いで回る。

「魔王はあなた方の信仰を試すために侵略する」

 敵部隊は日没間際の、野営の準備をしているところだった。ある程度塊になって、武器を持ってる兵士も少なめで、疲れてから腰を下ろしちゃってるものだから立ち上がりがすっごく遅い。

 数は大隊規模で二、三百人くらいだったけどこのスッゴイサニャーキで潰して回るとあっという間にゴキゴリ蹴散らしちゃう。衝撃力がある!

「魂が高潔であるようにしなさい」

 スッゴイサニャーキ、古いマトラの言葉で”凄いサニャーキ”って意味。サニャーキはそのまま自分のあだ名。凄い名前! これは勿論サニャーキ専用装備だよ。

 重装甲化戦闘馬車の失敗作で大砲並みに重くて機動力が低いってことで解体される予定だったものを同志ちゃんが”これは使える、サニャーキにうってつけ!”ってことで、車体の前半分だけ残して改造した兵器。馬でも曳けるけど重たい。

「知恵を持って適応しなさい」

 野営地の中をグルグル回って潰して抉り、車輪に鎌に肉と血と服の欠片がこびり付くけどこの力で押せば全然平気で動作不良もしない。腸が車軸に絡まって回転しながらくっさーな汁を撒き散らし始めたのはちょっと辛い。

 車輪は回転するから時々、潰してからもう一回潰した敵を巻き上げちゃった時とかこうなっちゃう。骨と肉ならガリブチュって砕いて吐き出すか車体の隅にこびりつくだけだけど、柔らかい紐っていうか縄みたいな柔らかくて細長いのだとそういうことがある。

「勇気を持って行動しなさい」

 暗くて顔は見え辛い。敵兵の上げる声がとっても若い。普通なら戦争にもいかないような若い男の子ばっかりな感じ。それからすっごいお年寄りで、隠居しているか口減らしに川に流されちゃってるような人もいる感じ。

「節制を保って自律しなさい」

 今日は夜襲風の襲撃だから音とか喚声は上げないように、できるだけ静かにやっている。本来は威嚇用につける手鐘は車体につけてないし、分隊の支援射撃は弓に弩でヒュンヒュンっては鳴るけど銃声みたいにバンバン鳴らない。激しい銃撃戦の音をこの襲っている部隊だけではなく、他所の敵部隊にもできるだけ聞かせないようにする工夫。音がしないとどこから攻撃しているか分かりづらいってこともあるから、人数の少ない分隊の皆が身を守るためでもある。

「正義を保って自戒しなさい」

 敵兵は練度不良の徴集されて訓練もいい加減の人達が多い。悲鳴を上げて逃げるのはしょっちゅう、指揮官の命令を聞かないのも当たり前。泣いてしゃがんだりする姿も良く見るし、そういうことを取り締まる士官も下士官も不慣れなのかあたふたしちゃっている。

 弱い。遠慮しないで方向転換、泣く子も逃げる子も地面を削って四輪発車の突撃蹂躙グッチャグチャ!

「信仰を守って礼拝しなさい」

 スッゴイサニャーキは車輪で動く。だからある程度勢いが乗っている時はちょっと手を離してもそのまま進む。時々目が合って笑っちゃう向かいの座席の同志ちゃんの銃撃だけど、通り過ぎた後の背中の敵を始末し切れない時が結構ある。流石に何百人って敵がいるとそうなっちゃう。支援射撃の矢が結構な数を射殺していてもそうなる。そういう時は、車体右側に積んであるブットイマルスを手に取って、振り向き様に横薙ぎブットイマルス! で頭部粉砕、上半身をヘナボッギャーに圧し曲げて殺す。

「秩序を守って団結しなさい」

 因みに車体左側には修理器具、予備の車軸と車輪が積んである。解体修理点検の仕方は勉強して覚えたから大丈夫。動作は全て車軸連動でなっているから見た目より構造が単純なんだよね。具沢山の串焼きが作れて重たい物を持てる力があれば全然苦労しない。自分にうってつけ!

「さすれば悪魔を討ち滅ぼすことができる」

 一通り野営地をグルグル回って潰して、時々手を離してブットイマルスで個別に敵兵をブットイマルスしていると組織的抵抗どころか、生きている敵を見つけるのもちょっと面倒なくらいになってくる。暗闇へ逃げた敵兵は夜間視力が良好なメーくんが伝令二騎を連れて掃討しているはず。

「人を導くのは聖なる神であり悪魔にあらず」

 それにしても敵は殺されるより逃げ出しちゃう数の方が圧倒的だった。組織的に撤退するとか、殿部隊を編制するとか全くしない。すっごいスッゴイサニャーキの衝撃力と、新しいお洒落甲冑の見た目と、フラル語での悪魔の聖句がおっかなかったかもしれないけれど、おっかないからって逃げるのは兵隊じゃない。労農兵士だったら銃殺刑ものの恥ずかしい姿。超格好悪いよね! ちんちんついてんのかって感じ。

「聖なる神の名を己の私利私欲に利用しては……もう、ダメダメじゃん」

「どうしたの?」

 残りは殺さないように分隊の皆と手分けして手足を潰して目玉を抉る。死体は磔とか木の枝に首吊り、にゃんにゃんねこさんにする。それから野営道具を集めて生き残りと死体を組み合わせて障害物に、街道封鎖工事をする。

「だって、自分の国が襲われてるのにこのロシエの人達さ、戦う気が弱いんだもん! 敵だけど、変だよ。護国精神が足りない」

「教育訓練が成ってない後進文化圏の人間は普通そんな感じだよ。国民国家教育と全資源動員の総力戦思想は先進社会科学的だから理解が難しいんだよ」

「そうなのかなぁ」

「それにスッゴイサニャーキの衝撃力はとってもすっごいからびっくりしちゃったんだよ。これはヤバげ」

「そうなのかなぁ」

「今はそんなこと気にしなくて大丈夫。立ちふさがる敵を粉砕!」

「うん」

「粉砕!」

「うん、粉砕!」

「人民の敵を粉砕!」

「粉砕!」

「悪い奴等にブットイマルス!」

「ブットイマルスでやっつけろ!」

 やっつけるぞ。

 

■■■

 

 遊撃作戦は続く。偵察隊員さんとその情報を分析した同志ちゃんの立てた作戦がとっても良い感じ。

 夜襲明けの昼に、内緒で街道封鎖した場所へ何も知らないって感じの顔で、距離が離れていた敵部隊が到着して動きが止まる。格好の標的!

 まずは分隊の皆が狙撃準備、動きが止まった部隊の指揮官や頼りがいのありそうな下士官に狙いを定めて待つ。そして合図で一斉に、ちょっとずれるけどそういった敵部隊の”頭”をほぼ同時に射撃排除して指揮能力を奪う。

 今回は夜襲じゃないし、銃声で脅かす目的もあるから弓矢に弩じゃなくて銃。最新の椎の実型銃弾を採用した鉄砲はとっても命中率が高いから確実に狙撃したい時にも使う。ちょっと前までは鉄砲なんて弓に比べたら玩具みたいに当たらないってのが当たり前だったんだけど、時代は変わるよね。

 指揮官喪失、敵兵はどうしようか迷ってる。迷っているところに、小型の迫撃砲みたいな物になっている擲弾矢が射掛けられる。時限信管と着発信管の二つがあって、今回は時限信管。敵部隊直上で炸裂して、死に辛いけど怪我をするような細かい破片をバラ撒いて戦闘意欲を削ぐ。同時に巻き着けた毒瓦斯剤粉末入りの布が裂けて散って、薬量は少ないけど、多少は目と鼻が嫌な感じになって涙と鼻水ベロベロにさせて状況判断能力を奪う。

 敵は行軍中だから行軍隊形で街道の真ん中に突っ立っている。いくらか周辺を警戒しようって動き出している敵兵はいるけど皆じゃない。疲れているせいか知らないけど伏せたりするような当たり前の、訓練されなくてもしそうな防御行動をしていない姿も結構見える。

 この敵はオーサンマリンからここまで結構無茶な強行軍でやって来ているというのが同志ちゃんの情報。

「スッゴイサニャーキのお通りだ!」

 突撃蹂躙手押しの戦車を手押しで前進! 車体に付けた威嚇の手鐘がガランコロン鳴る。ちょっとした教会風。動く教会、踏み潰す教え、聖なる神の悪い子のお尻をぺんぺん。

「粉砕!」

 敵兵を四輪でぶっ潰す! 脚を巻いて砕いて引き込んで腰腹胸顔頭ってガキョゴリに潰して伸ばしてぺったんこに血と内臓がブチュリリリ!

 車輪鎌で脚をもぎ、体の大きいビプロル兵だって膝を逆曲げ折りからの車体を止めようとかけた手を鎖分銅が叩き潰して太鼓腹に乗り上げ潰しからの自分の脚での踵蹴り風の踏み込み潰しでボギグッチャ!

 片手で勢いのついたスッゴイサニャーキでブチ潰しぶっ殺しつつの、もう片手でブットイマルスをぶん回しで頭に肩をぶっ飛ばし粉砕ドッゴンバギョン!

 からの賛美歌”慈悲垂れる神”! 教会の定番曲っぽい感じだね。宗派問わず人気があるみたい。鐘が鳴るから歌おう!

 

  慈悲垂れる神よ、聖なる神よ

  憂い苦しみを、除きたまえよ

  それを拝し信じ、祈り捧げる

  我等は縋らん、救いの御手に

 

 分隊の皆が狙撃で潰し漏らしの敵を撃ち殺す。頭が破裂して骨と脳みそが散って雪に点々とつく。

 スッゴイサニャーキの添乗員さんの同志ちゃんが潰し通り過ぎた後の、血と内臓でくっさーグチョゲーロに汚くなった湯気上げ潰し肉の轍から外れた位置にいる潰し漏らしの敵兵を小銃と拳銃で撃ち殺す。車が揺れるから綺麗に頭がパッカーンっていかないけど、銃弾ってのは大体身体のどこかに当たれば致命傷に肉が弾けて骨が砕けるから大丈夫。

 スッゴイサニャーキが急旋回! は車軸への負担が大きいから緊急時以外はダメ。大体敵の隊列を突っ切りそうになったら手を離し、そのまま敵兵を潰すままに走らせる。そして手にするのはブットイマルス。小銃と拳銃に弾薬をたくさん持って連射を続ける同志ちゃんを火点として残る敵をブットイマルスしていく。

 

  慈悲垂れる神よ、聖なる神よ

  儚き子等を、守りたまえよ

  父なる守護と、母なる愛を

  我等は恃む、救いの御手を

 

 ブットイマルスは英雄棍棒。鋼鉄を巻いた丸太加工の棍棒で筋肉ムッキムキっぽい敵兵、お肉盛り盛りの熊さん豚さんみたいなビプロル兵だって一撃で骨を砕いてグチュグチュの皮肉袋って感じにぶっ潰す。これがあれば敵兵が銃撃を集中させてきたって甲冑と合わせて防ぎ切れて無傷。痛いのが無い。

 デッカイアレスは勝利棍棒。ブットイマルスに比べれば全然軽いこの中折れ鉄棒も積んである。同志ちゃんを守りつつ、あまり車体から離れられないなって感じの状況でブオングワンってこれを投げて離れた敵をバチグギって感じに圧し折る。腰や脇に当たると面白いくらいに人体も中折れになってから倒れちゃうから笑っちゃう。上手く頭、首の高さで回して飛ばすと何人も巻き込んで頭を粉砕、首を千切っていく。

 

  慈悲垂れる神よ、聖なる神よ

  高く火にて、導きたまえよ

  目の暗き人、弱き手を握れ

  嘆きを賛歌に、救いの御手で

 

 そして衝撃力によって敵部隊が壊走。残敵掃討、死体、不具者、奪った馬車や木箱などで見える道路封鎖へ転換する。容易に撤去できないよう、杭を打ったり縄で縛って繋げたりすると良い。ビプロルの人でも持てない大きい石を集めて積み上げたりする。

 それから分隊で奪って持っていけない物資は焼いたり、川や氷を割った池や沼に捨てて沈める。

 待ち伏せに利用するだけじゃなく、道路封鎖で敵部隊間の距離間隔を乱して連携を防ぐのもお仕事。行動できない部隊は一時的には撃破したも同然で、そのまま決着がついたらそれはもう撃破と同じ。

 自分達みたいに少数部隊で散発的に非正規戦を仕掛ける仲間の部隊は結構いる。次はそういう仲間の部隊と連携する作戦らしい。皆で頑張ろう!

 

■■■

 

 襲撃と封鎖を各所で繰り返して敵の補充、補給部隊を連携させない作戦を続ける。遊撃作戦は続く。

 他の部隊と連携して陽動、襲撃、足止め、追撃、伏撃、撤退支援と役割分担をしてたくさんの敵部隊をやっつけ、その死体を使って精神効果が見込める障害物を道に設置していった。嫌がらせで褒められるって不思議。

 当該区間内で敵も対処を始める。部隊を出来るだけ集積して道の要所に基地を作って、これまでに無い大部隊で行軍したり警備活動を始める。

 基地や大部隊は重武装で科学装備もある分遣旅団が攻撃を仕掛ける。そうすれば敵はそれへの対処に伝令を飛ばし、他の基地から兵力を集めるようになる。

 騎兵主体の分遣旅団はそういった敵の伝令を専門に狩る騎兵隊を持っていて敵を細かく分断、連携させない。連携が失敗すると孤立した敵部隊は撃破されやすくなる。伝令が狩られても、伝令が定期連絡とかに来ないって異常事態に他の敵部隊は気付けてしまうのでそちらへの対処が必要になる。そうして異常事態を察知した攻撃を受けていない部隊が救援部隊を差し向ける。その部隊を待ち伏せて襲撃するのもブットイマルス分隊のお仕事。

 敵が差し向ける救援部隊は、ただ行軍していたり集結地点目指して歩いているような部隊とは違って臨戦態勢の上に編制も整い、数が多い。単純に襲撃することは難しい。

 ここで選択されるのが夜襲。ただの夜襲じゃなくて、一撃離脱で殺傷数を増やすことより恐怖と混乱を植えつけるような夜襲。

 ブットイマルス分隊は捕捉した敵救援部隊を追跡、夜を待つ。その間に複数の攻撃計画を練っておく。必要があれば先回りして道の真ん中に死体を投げ込んだり、倒木を置いたり、簡単な足止めを行って動きを鈍らせる。これら妨害行動に対して討伐部隊を編制して派遣して来たら無理しないで距離を取るか、各個撃破の機会なのでブットイマルスする。

 夜になったら交代で夜番をする敵救援部隊の野営地への一撃離脱の攻撃計画を実行に移す。できるだけ攻撃しやすいような場所に野営するように足止め妨害を繰り返して時間調整をしちゃう。

 敵は学習する。夜番にはフレッテ兵を必ず混ぜるようになっている。黄色の猫目が真っ暗でもこちらを捉える。だから工夫がいる。

 大部隊が野営できる場所っていうのは結構限られてくる。水が欲しいから川沿いや井戸の傍が望ましい。水も無しに動き続けられないからこれは必須。冬だから雪を融かせば、と思うけど、そのための燃料集めってかなり大変だし、作れる量も限られている。薪拾いに林にやってくれば待ち伏せ攻撃の餌食なので敵もあまりやりたがらない。やらないわけではないけれど。

 井戸や流れが緩い川なら死体やうんこ、土砂程度でもいい場合もあるけど撒くことによって野営先を限定させることができる。そうした細かい下準備を積み重ねていけば、フレッテ兵の夜間視力だって欺ける。

 静かに、草や木枠に雪を被せた横穴から出る。潜伏して待ち伏せた場所に野営させてしまえば流石のフレッテ兵も直ぐに気付けない。ただ耳も敏感だからこの動作だけでバレたと判断して良い。

 野営地周辺を巡回している敵兵達を横薙ぎにブットイマルスでボガンビチャって胸を砕いてまとめて吹っ飛ばして転がったところを踏み蹴りながら通過。

 フレッテ兵がこの姿、音を逃すことはなく、警笛が鳴らされて敵兵が天幕や、身を寄せ合って寝ている木の根や抉れた地面の隙間から跳ね起きる。

 これを合図に遠い物陰のところから擲弾矢が曲射で放たれて、野営地のどこかに降って時限信管こと導火線が焼けて火薬に触れて炸裂。微細な破片を散らして、撒いた布から毒瓦斯剤の粉末が広がる。これにほとんど殺傷効果は無いけれど、若干の流血と目鼻への刺激で新兵混じりのこの野営地は混乱が広がる。敵の注意を自分以外の方向に散らす工夫が次の行動を助ける。

 次に毒瓦斯剤が封入された大容量の薬缶の蓋を開け、瓦斯を噴出し始めた状態にしてから――ちょっと自分の身に振り掛けてからってのがサニャーキの一工夫――野営地の真ん中あたりへポイって放り投げる。野営地の真ん中、敵がいっぱい集っている場所ってのは日没前の偵察情報とさっきの擲弾矢の炸裂の騒ぎを合わせて考えると直感的に分かってくる。

 毒瓦斯が広がる、嘴型の装甲防毒覆面があるから自分は平気で、敵は泣くどころか激痛にのた打ち回って咳どころでなく窒息し始める。

 部隊規模をちょっと大きくして新型火箭とか薬缶投射砲を少しだけ持ち歩いて同じようなことをしている仲間の部隊もいるみたい。

 混乱が更に広がり、あんまり無理しないように近くにいる敵を片っ端からブットイマルスで粉砕圧殺千切り飛ばす! 毒瓦斯の影響を受けていない敵を優先。そんな敵は暗闇にこっちの姿を見てびっくりして叩きやすい。転んだ時なんか、僕をブットイマルスしてね、って感じだから潰しちゃう。

 支援射撃は、分隊の皆が発射位置をほぼ特定させない曲射で矢を射掛ける。今度はちっちゃい鉛弾が入った布を巻いた擲弾矢で直撃は狙わない、暗闇の曲射では直撃が狙えない。だから時限信管で炸裂させて破片、鉛弾を敵の頭に降らせる。殺傷力は榴散弾に比べたら遥かに玩具みたいに弱いけど、お手軽に射手一人で飛ばせるのが強み。自分の頭にも破片と鉛弾が当たるけどこの重装甲には通用しない。兜のつばが守るから目の防護ガラスも大丈夫。

 フレッテ兵は白兵戦の名人。だけど毒瓦斯に敏感なあの敵は、毒瓦斯を浴びた自分、薬剤の成分をまとった自分に近寄っても目も鼻もやられてまともに戦えない。カラスのふわふわな羽飾りが毒瓦斯成分を多めに保持するから動くたび成分が舞って――ジーくん賢い!――敵をやっつける。

 あのケツの穴を狙ってくるっていう大鎌も空振りにブットイマルスで撃沈! 弓矢で遠くから正確に当ててくることもあるけど、この重装甲にそんなものは効きません。

 フレッテ兵は強いけど、ビプロル兵みたいに何もかもが人間離れして強いってわけじゃないから、走って追ってブットイマルスでそのちょっと美形な顔も肉グジャ骨ガチャのテキトー肉団子に出来ちゃう。

 そして無理は禁物。敵を妨害する作戦は長く、消耗は避けるべき。疲れない程度に戦ったら逃げる。できたら敵指揮官をやっつけたいけど、暗がりで混乱している中から見つけ出すのは一苦労だから最優先ではない。今回はやっつけないことにした。

 一撃離脱完了!

 戦いが終わった後はちゃんと装備と手と足を洗って薬剤を落とす。清潔が一番!

 

■■■

 

 分遣旅団司令部から命令。

 ”西方より多数の鉄巨人を含む敵大部隊の東進を確認。敵精鋭予備軍に対する本格的な補充戦力と見込まれる。分遣旅団本隊が迎撃体勢を取るまでの時間を、わずかでもいいから稼ぐこと”だって!

 分隊長の同志ちゃんが、今のブットイマルス分隊の状況と合わせて作戦を考える。

 まずは他の遊撃作戦仲間に連絡。チュルルルルポッポさんが――こんな名前だったっけ?――早馬に伝令へ走る。

「メーくん、あの人の名前なんだっけ?」

「はい。確かチュルルンホカッパだったと思いますが」

「そうだったんだ!」

「北の人間の名前にはまだ疎いので」

 そうしてある程度好き勝手に司令部から離れて遊撃作戦をしていた仲間と連絡を取り、連携して作戦を行う。そのためにはまず一旦各隊長さん達が集結することが望ましいんだけど、その時間を稼ぐことが大事。時間稼ぎのための時間稼ぎだね。大きい作戦をするってことはそういう回りくどいことになっちゃう。仕方ないね。

 さて、そんな都合の良いことをできるのは勿論、

「それはサニャーキにお任せだよ!」

 だね!

 今回も一撃離脱。分隊長の同志ちゃんはもう一騎の伝令さんと一緒に馬で集合地点へ向かう。

 そして副隊長さんの偵察隊員さんの指示に従う。

 作戦計画は安全面を考慮したものになった。

 街道を行く敵大部隊を待ち伏せ。待ち伏せ攻撃は有効射程限界近くからの小銃狙撃で、敵の塊に向かって特定個人を狙わずに銃弾を浴びせること。銃声を聞かせ、敵に防御体勢を取らせて行軍を邪魔するのが一番の目的だから殺傷しなくても問題無い。

 自分の役割は敵が討伐部隊を出して来た時に一撃を加えて皆の撤退時間を稼ぐこと。また逃げた後から追って来る追撃部隊を迎撃すること。

 雪が大分深くなった林の、小高い位置に狙撃班を配置。旅団司令部指定の、鉄巨人を十数体含む敵大部隊を街道上に確認。

 歩兵は今までの敵と違って猫背じゃない人が多いし、軍服着用者も大半。騎兵も混ざっていて輸送車両の車列も長い。ちゃんとした軍隊って感じ。

 狙い目は石炭補給に一旦鉄巨人を停止させ、機械点検を済ませて歩き始めてから少しした後。停止中にちょこっと足止めしても意味が薄い。動き出した途端にまた停止しなければならないという負担を与えて神経まで攻撃する。帝国連邦軍は物理だけではなく精神にも打撃を加える。

 敵の行軍に合わせ、石炭補給の時間になるまで待ち伏せ地点を点々と入れ替える。帝国連邦の労農兵士は忍耐を厭わない。

 雪の深い林、丘を渡る。小回り良く動かないといけない時はスッゴイサニャーキは持ち歩かない。

 帝国連邦の労農兵士は油断しない。

 敵の偵察騎兵がこちらの雪を踏んだ跡を見つけて警告を発する。敵は警戒態勢に移り、全周囲に軽歩兵を配置する。そうすると行軍は断然、鈍くなる。足跡だけでも成功することがある。

 予想以上に早かった。鉄巨人がこっちに向かって走ってきた。杖を突いて歩幅は大きいが鈍重な奴と違った。周囲の軽歩兵も偵察騎兵もこちらの姿を実際に捉えた様子は全く無かったのに。

 鉄巨人、腕か脚か見分けが難しいけど多い。六本、八本、蟹? そもそも人型?

 距離がある、あるけど副隊長は「撤退!」と指示。分隊は逃げる、だから自分は足止めしないといけない。

 まだ距離が、新式小銃の旧式大砲みたいな有効射程距離よりあった。後退り。鉄巨人は小回りが利かないらしいし、林は杭が乱立しているようなものだから入ってきても立ち往生するはず。

 全身の装甲に衝撃、林の木が削れて木っ端を霧みたいに噴いて積雪が舞い上がる。噂の炸裂する呪術弾、斉射砲!

 ブットイマルスを盾に後退り。炸裂する呪術弾が林の木々を削って倒して枯れ枝の雪を落として、地面の雪と土を跳ね上げる。カラス羽が散る。

 後退り。ジーくんが「もう少しで段差、陰、下がって! 下がって!」って誘導。ブットイマルスが火花と、そして木片を散らせて削れていく。

 蟹みたいな鉄巨人、倒した林の木々を跨いでやってくる。地面だけじゃなく木にも手か足を掛けて虫もしないような動きで歩く、這って来る。その後に騎兵、続いて歩兵が続く。諸兵科連合はロシエでも基本。

「段差まであと五歩! 降りたら走って! 僕達もう逃げるから!」

 労農兵士は感情に流されない。殿は可能ならば生存するが、大半を逃がすために死ぬことが前提。

 蟹みたいな鉄巨人、斉射砲が停まる。弾切れ? カチカチって腕と脚以外の機械っぽい音、弾薬装填中? 直ぐに撃ってくる。

 ブットイマルス、打撃部位の鋼鉄板は削れた程度だけど、持ち手までの木のところは削れて、たぶん次に防ぐか殴ったら折れる。甲冑も何だか板金が剥がれているし、鎖帷子も削れたり千切れたりした感じだし、そう言えば身体中が熱い。お湯とかじゃなくて火みたいな。破片、刺さってる。

 距離がある。殴り込んだり側面に回れない。

 この林の木は若く細くて、たぶん植林してそこまで年月が経っていない。木に隠れられる程に成長していない。

 後退り。自分は十年以上敵と戦って来た。目の前で何発も撃たれた。敵が銃とか、引き金を引く雰囲気を出す時の感じを知っている。

 横に跳ぶ、斉射砲が木を何十本も縦長に倒した。炸裂じゃなく、加速の呪術弾! 弾を入れ替えたんだ。

 斉射砲の砲口、鉄巨人胴体の下に付いている穴っぽい。あれがこっちを向く。横に、後へ跳ぶ。

 斉射砲だけだと思ってしまった。胴体上部に人、そしてこっちに向いた細長い感じの大砲の砲口。それにブットイマルスを合わせて後へ下がる。背中を向けて逃げたらたぶん、防げない。

 耳が変に。これは聞き慣れた直近での爆発音。

 吹っ飛んだ? 手と足で今どこが地面か探る、無い? 空中? 足付いた、平衡を取って立つ。視界、目の前、土? いや段差、ジーくんの言った段差。吹っ飛んだ。これで身体を敵の視界から消せた。

 先に逃げた皆を追って走る。

 まずは走って逃げる。走りながらどこがやられたか確認する。

 目を片方ずつパチクリ、潰れてない。

 耳、爆発音で一時的に遠い。

 頭、兜を叩くと無事な感じ。兜は穴だらけみたい。

 手、指……あれ? ブットイマルス、柄だけになってる……指はあった。左手の親指、折れて曲がってるけど。

 足は走ってるから大丈夫。足の指は、足甲が剥がれて血が付いてるけど指が飛んだわけじゃなさそう。

 労農兵士は油断しない、そのはずだったのに。

 

■■■

 

 分遣旅団からの命令が取り消しになった。目標の敵大部隊も合わせて精鋭予備軍が東進を止めて反転、後退を始めたんだって。シャルキク方面軍はまだヒューベルバウムに到着していないみたいだからその退路を断てていない。包囲のための各軍は集結中みたいだから包囲殲滅はまだ可能みたいだけど。

 二連包囲作戦、失敗しちゃう? ブットイマルスが折られたせいでそんな後ろ向きなことも考えちゃう。だって、何年も一緒に戦ってきたのに折れるんだもん。

 柄だけが残っている。鋼鉄芯を包む木の柄。滑らかじゃなくてもう手形が分かるくらい使い込んだ。

 東の包囲は精鋭予備軍の反転でどうなるか分からなくなった。でもマトラ方面軍がいるから、ヒューベルバウムを突破されたちゃったとしても退路は断てる。まだまだこれから。

 西の包囲は大丈夫みたい。兵力に劣る中央軍分遣師団が不安要素だったけど攻勢に成功し、敵軍を撃退させ続けている。敵の右翼中央軍は大分疲れて弱っていたらしく、また北岸に渡っても装備に人員も中途半端な渡河のせいで整っていなかった。

 ワゾレ方面軍は敵の左翼中央軍を無事に撃破して壊走させ、そしてこれから再編された敵中央軍へ攻撃を仕掛けるらしい。そこも上手く粉砕したら後退している敵左翼中央軍と右翼軍の混じった軍へ側面攻撃をして、ストレム軍が側面を増強するか背後に回って退路を遮断して西の包囲を完成させる。

 うん、自分が失敗しちゃった感じなだけで他の帝国連邦軍の皆は頑張ってるし成功している。個人、分隊がちょっと失敗しただけで戦略戦術に影響があるわけが科学的に無いよね。

 そもそもさっきの戦い、敵を一時的に足止めしているから成功って言えば成功だった! 勘違い。

「ご苦労様だねブットイマルス」

 ジーくんが、柄だけになったブットイマルスの折れてギザギザになったところを削って丸めて綺麗にしてくれた。鋼鉄芯の先がちょっとはみ出る感じ。それからムピアの黒人さんから貰ったっていう青い布を腰巻にしてくれて、そこに柄を差し込んだ。これならこれからも一緒だね。ちょっとお休みするだけ。

 それからチュルルンホカッパさんが、大事にしていた蒸留酒を使って「大地と天とブットイマルスに」って指にお酒をつけて振って撒いてくれた。お呪いだね。

 分遣旅団は任務を変え、ヒューベルバウムに急行してシャルキク方面軍到着までの時間を稼ぐことになった。

 そして遊撃作戦を行う各部隊も任務を変更。ワゾレ方面軍による再編した敵中央軍に対する攻撃を支援するためにブットイマルス分隊は陽動、かく乱攻撃を敢行する。標的は変わっても遊撃作戦は続行される。

 さっきの戦いで失った物はブットイマルス一本と、まだ使えるけど穴だらけになった新しい甲冑だけ。自分の負傷は治療呪具を使った外科手術で治った。破片を抜いて、折れた指を接骨してから呪具を使うだけ。便利! 耳の方は鼓膜も頑丈だからへっちゃら。

 武器もまだある。デッカイアレスがあるし、スッゴイサニャーキはゴミを取って機械油も差して準備万端。ご飯もいっぱい食べて寝る時間もしばらく多くした。

「まだまだサニャーキにお任せだね!」

「お母さんにお任せ! でも無理しないでね」

「うん!」

 ジーくんを抱っこ、回す。

 

■■■

 

 遊撃戦を展開した当該区間を西へ抜け、ワゾレ方面軍支援のために敵の再編された中央軍へ陽動、かく乱攻撃を開始する。

 ブットイマルス分隊は人数が少ないし、鉄蟹みたいな超ヤバヤバな兵器と遭遇したら危険なので無理は禁物。弱い者虐めに専念する上に一撃離脱を厳守。そして襲う目標は必ず戦術的に一時孤立しているところを狙う。

 敵のたくさんの補充兵を受け取った再編中央軍はパっと見て数万、十万に届きそうな規模で分厚い歩兵の隊列が前衛に、野戦陣形で北東を警戒している。ワゾレ方面軍が攻撃してくる方向が良く分かっているみたい。

 あの軍には砲兵に騎兵もある程度揃っていて、鉄巨人も少数だけど含まれる。偵察隊員さんが見た感じでは、ヒューベルバウム突破前に被害を受けて脱落していた精鋭予備軍の一部も復帰してその中に含まれているみたいだから手強い。

 まずこの敵主力に直接手を出すのは夜襲でも禁止。フレッテ兵の夜間監視は絶対にある。吹雪の時ならどうかな? って思うけど、都合良く視界を塞ぐぐらいに吹いてくれるわけでもない。

 鉄巨人の数は少ないように見えるけど、各地から残骸が集められて、修理がされ、共食い整備で少しずつ数を増している。西の方からも補充でやって来ている様子で戦闘準備は順調って感じ。

 大軍の本隊には必ず”手足”がある。偵察部隊だったり後方からの補給部隊だったり、中央の野営地に収まり切れないから別の場所に野営をしていたり、奇襲を防ぐための防御陣地が四方に配置されていたりする。

 巨大な胴体と頭は狙うことは困難。太い手足も分隊の規模では無鉄砲。指先とか毛の先とか、そういう先っちょをちょんちょん突っつきたいんだけど、その先っちょを調べるというのは少し難しい。

 まずは偵察隊員さん達が情報を集め、伝令さんが他の部隊と連絡を取って集めた情報を掻き集め、同志ちゃんが分析して考える。それだけだと不安が残るから、しまっちゃうサニャーキで敵を捕らえて情報を集めることにした。

 短剣でグサグサさして切り裂こうとしてもできない鎖補強の革袋を持って、単独行動をしている騎兵だとか、薪拾いだとか、兵隊じゃないけど協力している民間人を捕まえて袋にしまっちゃって連れ去る。

 そして尋問、拷問を交えて情報を得る。拷問って我慢すれば大丈夫みたいな風に思っている人がいるかもしれないけど、あれは身体より先に心が死んじゃうから我慢できるものじゃない。時間が掛かるけどね。

 鉄巨人こと装甲戦列機兵には石炭が必要。理術式蒸気機関、ポーリ機関を動かす時に焚く石炭が必要みたい。つまり道中の石炭集積所を焼けば効果は抜群! 燃料切れで動けなくなって戦場に到着できなくなったらそれはもう撃破も同然。勿論、本隊の野営地の石炭集積所は流石に狙えない。狙うのは西からやってくる装甲戦列機兵のための道中にある石炭集積所。

 西へ、敵勢力圏内深くへ浸透する。

 石炭集積所は大きく分けて二種類ある。補給基地内にある厳重に守られているところと、道中に鉄巨人が燃料切れで困ったら受け取りにいくような、看板を立てて石炭を野積みにして屋根かけた程度の簡単な場所。

 弱い者虐めしかできないから簡単な場所を襲う。警備がついているところもあれば、全く無人でどうぞ勝手に持っていってねって場所もある。無人のところは火を放って直ぐに退散。

 警備がついているところへはまずスッゴイサニャーキで吶喊!

 補給基地ならともかく、石炭ぐらいしか裸で置いていない場所の警備兵っていうのは味方からの盗難防止対策か、石炭運び用の人夫みたいな感じで全く一線級の兵隊じゃない。

 見張り目掛けて走って車を回して、避けられてもそのまま見張り小屋に突撃して、中にいる敵が潰れたとか確認する前に武器を手に取る。

 車の上の盾は外せる。持ち手がたくさん付いた大盾であり鉈。長方形で、上下辺に柄を兼ねる杭が左右に一本ずつ。杭は地面に挿せば対衝撃姿勢を取れて、斜めにすると数学的に装甲が厚くなり、跳弾させる効果が上がる。そして手に持てば普通の柄になるから振れる。左右辺は鈍い刃で触っても切れないけど叩きつければ両断できる程度。面の中央には持ち手が二つ。両手で持てるようになっている。

 この盾の名前はゼッタイラシージ、マトラの古い言葉で”人民の盾”。親分の名前って”盾”って意味で、あと領域とかあっちとこっちを分けるって意味が文脈で変わるんだって。因みにゼっくんゼクラグは古代帝国由来の固有名詞で、ゼクラギスって妖精の名将からとったみたい。

 いつまでも落ち込んでいられない。

 避けた外の見張りを「両断!」。鈍い刃が肉も骨ザギゴブシャに一刀両断真っ二つの内臓ゴバっと!

 ブットイマルスは傍にいる。

 見張り小屋ごと「粉砕!」。中にいた敵を壁ごと屋根ごと叩いて潰してグチャグチャに混ぜる!

 っていうか、今度また鍛冶屋さんに作って貰えばいいじゃん! 忘れてた。

 馬に乗って逃げようとした生き残りを、中央の持ち手を持って突撃、走る馬に体当たりして「てぇ加減!」。ちょっと横に受け流した直後に押し直して転ばせる。生き残りは生け捕りにして情報収集に使おう。

 また会えるよブットイマルス。近いうちに再会だ。

 太い友達、おっきい友達、ぶっとくて大きくて硬くて重くて強くて太いブットイマルス!

 そんな風に思ったらもう大丈夫、元気出た! もう出た、いっぱいでた! 出ちゃったマルス!

 野積みの石炭に放火して逃げる。

 

■■■

 

 石炭への放火もそこそこに、最優先でやらなくてはいけない仕事が舞い込んだ。

 北からやって来てストレム軍から分離、西から迂回して敵の再編中央軍の側面を突きにやってきたヤゴール方面軍の先遣騎兵隊が孤立して危険な状態にある!

 もうちょっとで包囲殲滅に持ち込める感じだね。悪いことが起きるというのは危険を冒しているということ。

 こっちが送った伝令は一人が包囲網を突破する時に敵に殺されちゃって、チュルルンホカッパさんだけが怪我をしながら単独で戻って来た。

 状況としては西から補充の歩兵部隊、東から後方警戒の銃騎兵隊、南から護衛付きの補給部隊が丁度やってきたところに挟まれちゃったらしく、敵部隊の様子から偶然に包囲されたらしい。運が悪い。

 三方から包囲されているから救助しないといけない。その先遣騎兵隊はヤゴール方面軍本隊へ、敵再編中央軍への最適な進撃路を伝えるための大事な役目を負っている。生かして帰さないとならない。

 ブットイマルス分隊を分ける。

 包囲を外から突破して先遣騎兵隊の戦力を増強する突破支援班。これは勿論自分と添乗員さんの同志ちゃん。

 包囲の外からかく乱攻撃をする遊撃班。これは副隊長さんと偵察隊員さん二人に銃兵さん四人。

 そして他の遊撃作戦仲間へ連絡して助けを呼んでくる救助要請班がジーくんにメーくん。

 それとチュルルンホカッパさんは呪術治療具で傷は塞げても失血分は取り戻せなくて直ぐに動けない。立って歩くと目眩を起こしちゃう感じ。食べ物と飲み物を持たせて隠れさせた。やる気だけはあって「連れて行け」とか「銃くらいなら撃てる」とか「囮やれるぞ」とか言ってたけど「良い子にしてないとダメ!」って言っておいた。ここで戦えなくても体調が戻ってからまた戦えばいいんだから。

 

■■■

 

 孤立した先遣騎兵隊の包囲網が敷かれている場所へ到着。積雪で地面の状況が掴み辛いけど、小さい橋や水車がある小川沿いの村で、道路が東西と南に繋がっている。小川は北側に流れて、村側に引っ込んだところに生活用の溜池がある感じ。それぞれの道に敵部隊の主力が待機していて、隙間を埋めるように小部隊が配置。

 双方共に大砲のような重火器は無い。小銃と弓矢の射撃能力でヤゴール騎兵は勝っているようで、敵の総攻撃を一度撃退したような死体が転がっている様子が見える。それならこのまま防御させておいても大丈夫かなってパっと見では思えるけど、チュルルンホカッパさんの情報では弾薬も足りないし、敵に刺した矢の回収も難しい状況らしい。次の総攻撃を受けたら弾切れで負けちゃうかもしれないね。

 包囲している敵の方は、この村にやってくる時は別々だったけど、今では互いに歩兵と騎兵を相互配置して、補給部隊の物資を受け取って準備万端な感じらしい。同志ちゃんが言うには「寄せ集めの部隊を短時間で一つに再編するような手腕がある指揮官がいるから手強い」だって。

 それからここの状況が今、一時膠着しているようになっているけど、この外の状況はそうではなく、敵の補充部隊も西からやってくるし、敵が呼んだ増援部隊だってどこからかやってくるから待つだけ不利になるかもしれない。

 こちらは東の位置にいる。

 持ち手を掴み、スッゴイサニャーキの四輪を回して雪を、既に敵が足と蹄と車輪で均した道を進む。地面は寒さで良く固い。

 すっごい! スッゴイサニャーキ、突撃蹂躙戦車で突撃! 臨戦態勢だった東の敵部隊はこちらの接近に、背後からだけど早めに気付いて銃撃を仕掛けてくる。鋼鉄の車体とゼッタイラシージに当たって弾けるだけ。

 かっなりすっごい! 正面の道沿いの敵は早期にこちらを発見したから道の脇に退く。早めに対応してこっちの側面を突きに来た敵騎兵は同志ちゃんが撃ち倒す。

 スッゴイサニャーキ凄いサニャーキ! 勢いがついてきたから一旦手を離して進ませて、デッカイアレスを手に持って道の脇に退いた敵を殴り殺す。頭が割れて、肩がずれる。そこまで重くなくてもデッカイアレスは鉄棍棒。人は一発、馬だって一発で撲殺!

 こっちの包囲網突破の試みに気付いたヤゴール騎兵が村の方から支援射撃――下馬したり、高さを得るために乗馬したり――これにあわせて遊撃班が四方から支援射撃を行って敵に全方位から攻撃を受けていると錯覚させる。

 同志ちゃんは重装甲。座りながら、敵の銃撃を時々受けながら両手に回転式拳銃を持って連射して、別の拳銃に持ち替えてまた連射。

 スッゴイサニャーキの持ち手を掴んで、ゼッタイラシージを取って背後に向けつつ村へ突入。盾に銃弾が当たるけど重くて大きくて広い人民の盾は何のそのと弾き返す。

 門は村にあった家具とか樽とかで封鎖されている。手前で停車して、同志ちゃんと車に積んでおいた弾薬を村の中に投げ入れる。

 盾を両手で構える。敵が銃撃、全く無駄。無駄を悟って銃撃が止む。これからの作戦は同志ちゃんが先遣騎兵隊と話し合う。

 自分はこのまま、敵に銃口を突きつけられながら次の仕事をする。同志ちゃんの指示で、村にいる騎兵さん達が自分を射撃支援できる位置についてくる。

 一つ目の仕事は、盾を敵の側に向けながら小川の氷割り。凍ってただの地面になっていたところを水濠にしていく。浅くてあまり意味なかったかも。

 二つ目の仕事は、水車小屋の解体や、周辺に生えている木の伐採。伐採は盾であり鉈であるゼッタイラシージで可能。これで資材を手に入れ、村に投げ込んで防御工事に使って貰う。

 三つ目の仕事は、柄になったブットイマルスで凍りついた溜池のところへ大規模爆破呪術の刻印を刻むこと。いつ使うか分からないけど、こういう地雷みたいなものはあった方が良い。

 四つ目の仕事は、村の周囲に溝を掘ること。ゼッタイラシージで浅いけど要所要所に掘る。これは身を隠すようなものではなく、敵の突撃前進を鈍らせるもの。敵に利用させない浅さ。

 五つ目の仕事は、死体に突き立っている矢を回収し、敵の小銃や弾薬を奪うこと。

 敵の歩兵に騎兵に睨まれながらこれらの仕事を行った。妨害しようにも銃撃は効かないし、白兵戦を挑もうにもヤゴール騎兵が迎撃準備をしているし、さっきの包囲突破の戦い振りを見ればどう考えても無茶と分かる。

 スッゴイサニャーキを曳いて、村の周りを巡回、塹壕掘り。敵を姿で牽制。そうしている間に村の防御工事が進む。

 これはかなり大きいけど三角方陣みたいだ。初めてゼっくんと戦った時を思い出す。燃えるヘルニッサ修道院の代わりに爆破準備をした溜池がある。あっちからもし敵が攻撃してきたら起爆、吹っ飛んだ上に冷たい池へドボン。

 サニャーキは既に呪術戦士。村の中から桶を受け取って、その辺の石を呪術で美味しい水で一杯にして飲み「サニャーキの美味しいお水だよ!」って言って渡す。水が不足しているヤゴール騎兵の人達にお馬さん達がガブガブ飲む。お返しに馬の血だとか乾パンだとか差し出されたけど拒否。代わりに鍋と塩を入れたお湯を用意して貰った。

 温かくて美味しいお鍋だ!

「いっぱい食べよう、おいしく食べよう!」

 転がっている凍った敵を拾う。血抜きは省略。

「いっぱい仲良し、おいしく仲良し、あったかお鍋が楽しいな!」

 皮剥ぎは省略。服を脱がして身体を雪で揉んで汚れを落とす。

「お肉がたくさんお肉鍋!」

 腹を裂いて食道、気道、直腸を千切って内臓を取り出す。うんこの取り出しが凍ってて大変だから捨てる。

「脂がたくさん、栄養たくさん、お腹がいっぱい友達いっぱい!」

 身体をバラバラに千切って砕いて潰して揉んで柔らかくして食べ易くする。

「一緒に食べればこれから仲良し、みーんな仲良し!」

 それを鍋に入れて貰って煮る。

「お鍋を食べたら幸せだ!」

 調味料が不足しているけど戦場じゃしょうがないよね。

「皆で食べていっぱい仲良し!」

 皆で温かくて美味しい鍋を食べて元気一杯になる。ヤゴール騎兵の人達も、何だかゲラゲラギャッギャって大笑いしながら食べてるから良し! それから何人かに「戦いが終わったら結婚してくれ!」って言われてもてもてサニャーキになったけど「私にはゼっくんがいるからごめんなさい!」って言った。そう、ゼっくんの女なの。

 遊撃班が時々、敵に村にだけ集中させないように射撃をしている。銃声を聞いても何か緊張感が無い。聞こえているけど聞こえない感じ。

 同志ちゃんが「夜に突撃してくる可能性があるけど気にしないで寝て体力を温存して。敵は増援待ちの可能性が高い」って言ってた。

 昼も過ぎて夕方、暗くなって夜になってくる。ずっと外で敵を待ち構えているのは疲れるっていうか眠い。スッゴイサニャーキとゼッタイラシージの陰に隠れて、敵が襲って来たら起こす人が背後についた状態で寝る。

 敵包囲部隊もこっちに寝させないようにって時々銃撃したり、騎兵を近づけて何か大声で叫んだりする。

 突破して逃げることは、自分が頑張ればできるかもしれないけれど、どっちに逃げればいいのかが今分からない状態。村の外の敵部隊の行動が分からない。逃げた先に待ち伏せ、そうじゃなくても偶然大部隊と遭遇ってなったら助からない。せめて味方の増援部隊が到着したならその人達から情報を得ればいいんだけど、助けを呼びに行ったジーくんとメーくんが頼りだね。後は攻撃機動中の他のヤゴール騎兵隊さん達かな。

 ねむねむ。音はともかく、肩を叩かれたりしたら起きないと……。

 

■■■

 

「わっ!?」

 耳、何か変!? え?

 同志ちゃんが耳に息を吹きかけてた。びっくり!

「銃床で叩いても目ん玉指で突っついてもサニャーキ起きないんだもん」

「うっそー!?」

「ホントだよ」

 そう言われると頭の感じが良く寝たって感じ。危ない危ない。

 空は真っ暗じゃなくて青暗い。冬の曇り空の朝、夜明けが丁度始まるか、これからってところ。

「包囲網を突破するよ。さっき矢文で西の方からヤゴール方面軍の大部隊がやってくることが分かったから、そっちに突破する。ジールトとメハレムが連絡を取ったんだね。その部隊指揮官とも状況は相互確認してあるよ」

「そうなんだ! えらい!」

「えらいえらい」

 やったねジーくんメーくん!

「まずは……」

 激しいラッパ、突撃ラッパ!? 味方じゃなくて敵の『ギー・ドゥワ・ロシエ』『ギー・ドゥワ・ラヴァーレ!』の喚声を上げて、迫って来ていた。突撃発起のラッパではなく、もう村の周囲に掘った溝に迫る肉薄の瞬間の元気付けのラッパだ! もしかしてこっちの見張り寝てた? 接近直後まで気付いてなかった!?

 銃声。敵か遊撃班か? 村のヤゴール騎兵達が起き上がって、直ぐに手に銃と弓矢を持って迎撃射撃に移る。

 スッゴイサニャーキの座席に同志ちゃんが乗る。こっちも持ち手を掴んで押す。取りあえず目の前、南街道側から迫る敵へ突撃吶喊!

「粉砕っ!」

 寒さと長距離移動、たくさんの敵を潰したり銃弾を受けたせいでちょっと歪んだのか軋みながらスッゴイサニャーキが走って、着剣した小銃を構えた敵横隊に正面衝突、脚から巻き潰しの鎖分銅て叩き潰しで車輪挽き! 車輪鎌がゴシゴシ通り過ぎる膝をゾロもぎ。戦列を整地!

「もっと粉砕っ!」

 敵横隊突破、そのまま横隊後方の予備部隊に突撃! 正面の敵横隊の背中へ同志ちゃんが連続射撃。予備部隊の塊に突入して轢き潰しの鎌抉りの、手放しからのデッカイアレスぶん回しで撲殺!

「もともと粉砕!」

 予備部隊中央で旋回、進行方向を変えて更にゴッキャガリャって轢き潰して前進、真ん中が空いて分断された正面の敵横隊を今度は背後から蹂躙!

「もっともーっと粉砕!」

 そして敵横隊の真中で方向転換、今度はその横一直線をなぞって進む。敵の肉骨の量が多くて今度は手放しとかデッカイアレスぶん回しとかしている余裕が無い。車輪の隙間に肉と骨に服と武器が挟まるから強引に噛み砕くように押して押して押し捲って潰して回して巻いてグッチャゴリャブニャジャーって進む!

 かなり殺した。でも百人? 二百はいかない?

「サニャーキ、撤退する元気を取っておかないとダメだよ!」

「そうだった!」

 スッゴイサニャーキの力を借りてちょっと楽だと思ったけど、この遊撃作戦を開始して長いし、いつまた敵の大部隊とかあの鉄蟹じゃなくても鉄巨人に遭遇するか分からない。中洲要塞で頑張り過ぎた時みたいに急に力が抜けたら危険。普通の女の子に戻っちゃう。

「サニツァ・ブットイマルスは替えが効かない特殊戦力なんだから無理しちゃダメ。ここの皆を見捨てて逃げて良い価値があるんだからね」

「そうなの?」

 確実に南正面からの突撃の勢いは削った。村の方へ戻り、防御指揮を執るヤゴール人指揮官から今度は「北がまずいから直ぐに行ってくれ! 鉄巨人だ!」と言われる。

 スッゴイサニャーキ通過用の入り口を通り、直ぐに担当のヤゴール兵が封鎖。村を通って北の小川、溜池側へ向かうと防御工事跡が吹っ飛んでいた。

 爆音に慣れて、敵をひき潰していたせいで耳が馬鹿になってた。南からは聞こえてなかった。砲撃され、斉射砲の呪術弾にごっそりと削られた跡が見えた。たくさんのヤゴール騎兵が騎馬と一緒に挽き肉に裂かれていた。

 北側からは最近見覚えのある、腕か脚が八本ある虫っぽいようで人が四つん這い――八つん這い?――になって動いているような気色悪い鉄蟹だ! こっちに矢文が届いていたのと同じくらいの時に、敵にもその増援が到着していた。有り得る、有り得ない方がおかしい。外の状況は常に動いているから。

 鉄蟹は車体下部の斉射砲と上部の旋回砲の、二種類の重火器が確認できている。スッゴイサニャーキを曳いていては小回りが利かず、撃たれまくる可能性があるから車は放棄。デッカイアレスとゼッタイラシージを手に持つ。

「同志ちゃんは離れて」

「考えがある」

 そう言って同志ちゃん、拳銃だけ持って自分の背中にしがみついた。

「接近できたら移乗攻撃に移る。あれは人が乗る」

「分かった!」

 ゼッタイラシージを盾に構えて、斜めに、鉄蟹に照準をつけられないようにして進む。鉄蟹は八本腕脚をわたわた動かしてこっちを正面に、斉射砲の砲口を向けようと動く。

 炸裂! 周りの雪と土が跳ねる。ゼッタイラシージが火花を散らして、そして何ともない! 流石は人民の盾。

 斉射砲がダメ、ならと今度は旋回砲がこっちを向く。車体上部から敵の、人間の上半身が出て旋回砲を操っている。

 横に早く走る。旋回砲が回る。反復に跳んで、砲口が向く反対へ動いて、またこっちに向いてくる少しの時間を稼いで前進。斉射砲がまた発射され、ゼッタイラシージの杭を地面に突き立てて構える。

 敵の手の内はある程度学んだ。炸裂ではなく衝撃、強い。押されて打ち込んだ杭が地面を抉ってずれる。

 斉射砲は複数の弾丸を一斉発射する火器で連射するものじゃないけど左右二門、交互に短間隔で撃ち出せば連射同然。射撃を受けたと同時に逃げても捕捉される。賢い。

 我慢してると盾の裏がポコポコ膨らむ? へこまされてる!? 何れ貫通する、死ぬ。解決策、そうだ斜め!

 持ちながらしゃがんでゼッタイラシージに傾斜をつければ加速の呪術弾を弾いて派手に火花を削り出す。衝撃が弱くなった。

 その間にも旋回砲はこっちを狙う。ゼッタイラシージで防げる? やってみる? 衝撃を殺し切れればいいけど、できなかったら危険だし、殺せても力が、怪力と頑丈の奇跡が続かなくなって動けなくなるかもしれない。爆発で盾が煽られて隙間ができてそこへ呪術弾が撃ち込まれたら直撃。今のまま傾斜をつけた防御姿勢なら受け流せそうだけど、動かないと格好の標的。それに今は単独っぽいけど、鉄蟹には随伴した歩兵に騎兵に、もしかしたら鉄巨人もいる可能性が高い。

 防御は増援がある時にやる行動で、そうでなければジリ貧に消耗する。動かないでいるとその通りになる。だから攻撃あるのみ。

 姿勢は低くしたまま、デッカイアレスは置いて、地面を片手と脚で掴んで犬みたいに斜め方向へ走る。傾斜をつけたゼッタイラシージを傘に。たぶんこの状態で射撃を受けたら背中にいる同志ちゃんが挟まれて潰れるけど、それは今はしょうがない。

 同志ちゃんが、号令用の号笛をピーって吹いてから大声を上げる。

「北側! 鉄蟹! 車体上部! 敵砲手!」

 村を中心にそこかしこで銃声が鳴っているのは戦闘開始から。

「砲手、仕留めた」

 同志ちゃんが言う。

 見る。鉄蟹の車体から上半身を出してた敵砲手が力を抜いて体を折り、頭を下げて腕を伸ばしていた。

 狙撃支援! 遊撃班がいた。それに矢文を放ったジーくんにメーくんがいた。増援、いたじゃない! それにしても戦場で良く聞こえたね。耳が良いのはメーくんかな。撃ったのは鉄砲上手なジーくんかも。

 こっちにもいれば敵にも増援がいる。鉄蟹の後ろから随伴歩兵がやってくる。小銃を銃架に乗せて構えた。ただの鉄砲じゃない気がする。

 随伴歩兵の一斉射撃、の気配に合わせて停止、杭を地面に刺して構える。当たる、斉射砲の加速の呪術弾ほどじゃないけど衝撃が強い、削れる。受け続けたらゼッタイラシージは削り切られて穴が開く。

 炸裂、今度はこっちじゃなく敵の随伴歩兵のところ。悲鳴に合わせて咳き込むような泣き声混じり。毒瓦斯剤粉末付きの擲弾矢だ! これはメーくんだねきっと。

 鉄蟹、走り出した。そして随伴騎兵も一緒に駈けて来た。村の周りからも突撃ラッパ? たぶん騎兵突撃の合図。村の守り、崩壊寸前なのかも。

 ここでサニャーキの一工夫。戦いは準備が大事ってことは大昔に勉強している。

 溜池の上、氷上へ移動。鉄蟹も随伴騎兵も射撃より突撃を優先して走っている。たぶんあの鉄蟹、射撃以外にも白兵戦武器を持っている気がする。あると考えた方が賢い。弾切れよりもそっちを警戒するべき。

 ゼッタイラシージを下に敷いて乗り、鉄蟹と随伴騎兵が池の上、近くを通過するまで少し待つ。

 走り出したら中々止まれないのが機械と馬。単純な造りのスッゴイサニャーキだって急停止に力が必要。馬は一度走り出したら賢くても全然止まれないってことは遊牧民さんから聞いている。集団でしかも暗闇の中が怖い感じで戦場で興奮しているなら尚更止まらない。疲れて脚が鈍くなるか、騎手の命令でゆっくり速度を落としていくか、転ぶか死ぬかで止まる。

 刻んだ大規模爆破呪術の刻印に触れる。グラストの魔術使いさんから聞いた。これは発動者の犠牲が必要。

「今から三つ数えたらやるよ。三」

 同志ちゃんが口を開けながら大分散ったカラス羽の網を噛み、背中からこっちの脇の下に腕を通して組み付いた状態で耳に両手を当て、脚で胴をがっちり締めてくる。

「二」

 鉄蟹はこっちを踏み潰す動き。随伴騎兵はその脇を通り過ぎて村に直接雪崩れ込む様子。

「一」

 発動させるように、魔力の流れだとか奇跡の祈りだとか呪いの力だとか色々言われている、身体の感覚とは別の、気合を流す。

 直ぐに手を引っ込めてゼッタイラシージの持ち手を掴む。

 浮いた。村の周囲が青く明るくなってきていた。死体があちこちに転がって、青白い雪の上で黒い点になっていて、そこら中に風に流されながら銃煙がなびいている。

 村からはまだ発砲の小さい火の灯りがパっと点いては消えている。その周りではもっと激しく点いては消えている。

 騎兵突撃の黒い粒の流れが村に吸い込まれていっている。

 耳はたぶん馬鹿になっている。他の下の味方と敵は違って、発砲炎が点かなくなって、馬が驚いて転んだり、転んだのにぶつかってまた転ぶ連鎖が始まっている。

 真下。吹き上がった雪と水煙で見えない。その中に随伴騎兵が混じってバラバラに飛んでいる。

 衝撃波が溜池から中心に雪を巻いて広がる。

 鉄蟹、見えない。沈んだ? バラバラになった?

「僕を上へ投げる! 着地は転がる!」

 同志ちゃんが言った。耳は頑丈で平気だった。その通りに背中に手を回して上へ放り投げる。

 落下、地面、近い、早い! 怖い!

 転がる、ゴロゴロ、立つ。思ったより平気。もしかしてあんまり高く飛んでなかったかも。

 同志ちゃんが降ってくる。掴んで、回して衝撃を逃がしてグルグル、停止。

「サニャーキ、お上手だね!」

「私、お上手!」

 吹き上がった溜池の水が降り、空中で凍り付いて氷の雨になる。

 随伴騎兵の突撃は粉砕。鉄蟹は?

「やった?」

 溜池が跳ねる!? 巨体が持ち上がる、姿は違うけど鉄蟹? いや、木蟹かな?

「やってない!」

 同志ちゃんに言われる。そう、まだ動いている。金属装甲板が剥がれて痩せて、斉射砲も落ちて、全身木製っぽくなっているけどまだ動いている。池を掻き分けて歩いて来ている。

 何か変。木蟹がこっちに近づく度に身体が外に引っ張られる? 同志ちゃんは転んじゃった。

「サニャーキ、あれ金属を防ぐ呪術! ヒューベルバウムの戦いで確認された敵の術だよ! 銃弾砲弾通じない!」

「そんなのあるの!?」

 同志ちゃんは兜に胸甲を脱いで拳銃も捨てる。そうすると捨てた装備が独りでに滑って転がっていった。

「金属があると近寄れないよ」

 木蟹の呪術に身体が押される。踏ん張れるけど、踏ん張るだけ力を浪費して危険になる。

 もう木蟹には斉射砲も旋回砲も装備されていない。剥がれた裸。近くに落ちたゼッタイラシージも滑るように外側へ、橇みたいに動き出した。

 兜に甲冑を脱ぐ。脱いで剥がした途端に外側へ転がっていく。吹っ飛ばした騎兵に馬の死体、衝撃波で転んだ随伴歩兵も身につけた金属に引っ張られて滑り出し、宙を舞ってた剣が風切り音を鳴らして下に落ちないで飛んでいく。凄い呪術の力。

 ブットイマルスも青い帯を飛び出しそう。中の鋼鉄芯を押して抜いたら飛んでいった。

 雲の隙間から朝日が少し漏れて一瞬木蟹を照らす。木の車体にはびっしりと、意味は分からないけど呪術刻印がされている。そう言えば木蟹、ポーリ機関っていう新型の蒸気機関を搭載している感じじゃない。湯気を上げているわけじゃないし、石炭を焚く鉄の窯がある様子じゃない。

「たぶん、ペセトトの呪術人形の応用か、何か再利用かもしれないね。かなり手強いよ」

 物知りの同志ちゃんがそう言う。

 金属が通用しないことは分かった。衝撃波で積雪から露出した石を掴んで投げつける。当たって、弾かれて溜池にボチャンと落ちる。傷がついた感じがしない。たぶん木だけど木じゃないみたいに硬い。

「撤退だね」

「そうだね」

 状況は外で動き続ける。

 砲声、確実に砲声だった。

 木蟹の周囲を避けるように曲がった砲弾が飛んで行って彼方で爆発した。

 今になって西の方からヤゴール方面軍の大部隊がやって来た。

 頼りだった増援の到着が、今になって何で来ちゃったの!?

 騎馬砲兵隊が砲列を並べて木蟹に対して砲撃を繰り返し、そして無駄。村の方では増援のヤゴール騎兵が敵部隊を蹴散らしているようだけど。

「サニャーキ、悪いけど良い策が思いつかない」

「うん」

 木蟹はワゾレ方面軍に悪い影響を及ぼす敵だから少しでも牽制した方が良い感じ。鉄巨人は石炭で動いて無限に動けないから倒さなくても長時間牽制すれば撃破同然。でもあの木蟹、呪術人形の応用らしくて無限に動かないっていう証拠が無い。

 中途半端に傷つけてもまた修理される。鉄巨人は直ぐに修理されていたし、この木蟹も同じかもしれない。

 ワゾレ方面軍が早期に再編した中央軍を撃破することはとっても大事なこと。二連包囲作戦の成功のために必要。その為にも西側からのヤゴール方面軍の攻撃は重要。

 最良の結果は撃破、最善は牽制の継続。

 木蟹は進行方向を変えて、溜池から八本の腕脚をわしわし動かして騎馬砲兵の砲列、ヤゴール騎兵の増援部隊の方へ向かう。

 砲弾が反れる。銃弾も当然反れて、弓矢なんか効かないし反れるし、擲弾矢も意味が無いし、刀を手に突撃をしようとした騎兵は近寄ったら手から刀がすっぽ抜けて、馬具やら装具の金属が外側に弾かれて落馬する。馬も馬具が外へ引かれるのを嫌がって逃げた。

 八本の腕、脚は簡単に落馬した騎兵を踏み潰した。偶然踏んだんじゃなくて、ちゃんと足先は人を狙って降ろしていた。

 ヤゴール方面軍、長時間行動を牽制される恐れがある。

 無限に動くのか、無限にあの金属避けの呪術が働くのかは分からない。分からないけど、撃破が最良。

 勇猛果敢なヤゴール騎兵隊もこの異常事態に逃走を始める。

「撤退しよう。また違う機会があるよ」

 ブットイマルスの柄を握る。今まで握ってきた跡が分かる。

「できる」

「できる?」

 グラストの魔術使いさんが教えてくれた定型魔術。その真髄を、奇跡使いの自分に合わせる時。

 今までたくさんいっぱい土を掘って、岩を砕いて来た。だから分かる。地面の下の中が分かる。

 これはできる。できる気がして、地面に柄を挿す。

 想像の通りに何でもできるはずなのが魔術。理屈が分からなくても感覚で出来るはずなのが奇跡。二つを合わせる。

 悪い奴等を無数に粉砕してきた。人でも馬でも家でも城門でも一撃粉砕。

 一撃粉砕の、太くて硬くて巨大でぶっとくて強くてとってもぶっとい心の中の物を創り出す。

「そら……」

 巨大な土塊を大地から、

「……ぶっとい」

 天に抜き出す。

 大きい、重い、強い。衝撃力がある。

 太い、長い、凄い。破壊力がある。

 大き過ぎて重過ぎて持ち上がらない?

 基礎は自分、支えるものが必要でそれは杭。基礎工事が一番大事。基本が大事。一体何本の杭を打ってきた? ミーちゃんがちっちゃい頃からよいしょと祈らずかいなで打ってきた。

 土の杭を生やし、そこら中に挿して持ち上げて足りなくなったらまた挿して持ち上げる。

 持ち上げ掲げて、杭を消しまた生やして歩かせるように動かしながら木蟹に迫る。影で覆う。

 雲の隙間が増えた。ぶっとくて黒くて硬くて太くてぶっとくて黒くて長い物が黒光り。これはただの土じゃない。打撃部位を包んだ鋼鉄、労働者と技術者が作り上げた最高のマトラの鉄を再現した土。

 これは神様が与えてくれた奇跡じゃない。断続的労働闘争の累積結果で科学的必然によって生まれた。

「労働の一撃は……」

 土の杭を撤去。均衡を失う。

 要塞沈める術土木技術に腕力を乗せろ。ラシージ親分を始めとする工兵同志達の技術の粋をここに出す。

「……勝利の一撃」

 振り下ろせ!

 ぶっ潰せ!

 粉砕!

「ブットイマルス!!」

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