結論から言うと――
入学式には、間に合わなかった。
いや、正確に言えば「間に合うも何もなかった」。
朝七時。
ミレニアム製、紫電を纏う問題児みたいな刀がようやく完成し、セツナは半ば放心状態のままアビドス自治区へ戻った。
そこから慌ただしく制服に着替え、鞘に刀を納め、太腿のホルスターにグロック17を固定して高校まで走った。
しかし間に合わなかった。
とりあえず呼吸を一つ。
(……落ち着け)
そう言い聞かせても、心臓の鼓動は妙に早い。
呪力も安定している。術式も問題ない。
それなのに、どうにも嫌な予感だけが拭えなかった。
そして校門前に立った瞬間、その予感は現実になる。
「……静かすぎだろ」
自分の心臓の鼓動を感じられるほど、静寂。
校庭は広い。
にもかかわらず、人の気配が一切ない。高専時代以上に人の気配がない。
朝礼台(?)の前には、かつて誰かが並んだであろう痕跡だけが残っている。
足跡はすでに砂に埋もれ、式らしきものが「行われた」という事実だけが曖昧に残っていた。
(……式、やったのか?それとも中止か?)
どちらでもいい。どちらにしろ遅刻なのは変わらない。
というか、この学校においてはその区別すら意味を持たない気がした。
「……まあ、砂しかないような学校だしな」
そう呟いて、セツナは校舎へ足を踏み入れた。
誰もいない校庭を横切り、セツナは校舎へ向かった。
⸻
校舎の中は、さらに静かだった。足音がやけに響く。
古い廊下。壁のひび割れ。一部だけ砂に埋もれている教室。
補修された痕跡はあるが、どこか“途中で止まった”印象を受ける。
案内板に従い、一年生の教室へ。
(……いや、マジで人いねぇな)
呪力を探るまでもなく、気配がない。
この時点で、セツナはある程度察していた。
――この学校、今はほぼ機能していない。
…一年生の教室。
扉の前で、セツナは一度だけ足を止めた。
(どうせ誰もいねぇだろ)
この学校にはどんな事情があるのか。
自分1人でどう過ごして行こうか。
そう思いながら、扉に手をかける。
ガラガラガラッ。
その瞬間、空気がわずかに動いた。
「……あ」と声が聞こえた。
教室の窓側、左手側。
窓際の席に、少女が一人だけ座っていた。
小柄な体躯。桃色の髪。
左右で色の違う瞳。
アビドスの制服をきちんと着て、机に頬杖をついている。
この広い教室に、たった一人。
「……おはようございます」
淡々とした声。
警戒はしているが、驚きは少ない。
「あ、ども……」
セツナは一瞬、言葉に詰まった。
(……一人?)
「……あなたも一年生ですか?」
「そうなるな。加茂セツナ。苗字は事情あって嫌いだから、名前で呼んでくれ」
「……そうですか」
少女は軽く頷く。
「小鳥遊ホシノです。一応、よろしくお願いします」
“一応”という言葉が、妙に重かった。
この学校の現状を、その一言がすべて物語っている。
だが、次の瞬間。
ホシノの視線が、ゆっくりと下へ落ちた。
セツナの腰元。
そこにあるのは――一振りの刀。
しかも、鞘の隙間から漏れる紫色の電光。
沈黙。
ホシノは視線を上げ、刹那の顔を見る。
そしてもう一度、刀を見る。
もう一度刹那に顔を向け、また刀に視線を移す。
「……」
数秒の間。
「……あなた、刀を使うんですか……?」
声は静かだった。
だが、その裏にある感情ははっきりしている。
――困惑と、若干の引き。
「……銃じゃなくて?」
セツナは内心で深くため息をついた。
(あー……初対面でこれはきついし…そんなことより…)
「まぁ……事情があってな」
「……危なくないですか、それ」
椅子ごと、ほんの少し距離を取られる。
(ホシノっつったか…?こいつ、呪力じゃない…
でも、何か別の“力”を纏ってるし量がおかしい!
五条並ってどういう冗談だよ!
怖ぇ…!怖ぇよ…!!)
セツナは緊張とちょっとした恐怖を隠しつつ片手を軽く上げる。
「振り回したりはしねぇよ流石に」
「……そういう問題じゃないと思います」
即答だった。
「普通、銃ですよね……それ」
「否定はできねぇ……!」
言葉に詰まりつつ、空いている席へ向かう。
机の数だけが無駄に多い教室。
生徒は二人しかいないのに。
腰を下ろすと、ホシノの視線は相変わらず外れなかった。
(完全に不審者だな、俺)
ふと、視線が合う。
「……あの」
ホシノが、小さく口を開く。
「一応、聞いていいですか……?」
「ん?」
「……それ、斬ったら……死にますよね?」
真顔だった。
セツナは少し考え、慎重に答える。
「キヴォトスの人間なら、ヘイローあるだろ?
銃弾よりちょっと痛いくらいだ」
「……本当ですか?」
「嘘つく意味ねぇだろ」
「……そうですね」
一拍置いて、ホシノは続ける。
「でも……あなた、ヘイローないですよね」
「ああ、ないぞ?だから撃つなよ?マジで死ぬから」
「……撃ちませんよ」
わずかに、ホシノの表情がわずかに緩んだ。
「それにしても……」
再び、刀を見る。
「なんというか…珍しい人ですね」
「よく言われる」
「ヘイローのない中学生がゲヘナにいた…って聞いたんですが引っ越してきたんですか?」
「…………さあな。っていうかどこ情報?」
「割と有名ですよ?キヴォドス中が知ってるんじゃないですか?」
「プライバシーとかないんか…?」
こうして。
一年生二人だけの、アビドス高等学校の高校生活は始まった。
入学式も、担任も、ホシノ以外のクラスメイトもいない。
あるのは、砂に囲まれた校舎と、
刀を差した不審者(?)と、どこか達観した少女だけ。
――前途多難、という言葉ですら、まだ生温かった。
一応活動報告のとこでいろいろ募集中なんで是非お願いします!
あと言い忘れてたんですけど1話であった赤翼は拡張術式です
ユメ先輩助ける?
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助けない