教室の外は、異様なほど静かだった。
さっきまで銃声と紫電が飛び交っていたとは思えないほど、
廊下には風の音すらない。
「とりあえず!」
ユメが、壊滅した教室から一歩外に出て言った。
「場所、移そうか。ここはその……危ないしね!」
黒板は割れ、天井には穴が空き、
壁には散弾の跡と、紫色の焦げ痕が残っている。
「よく無事だったな、ユメ先輩」
セツナが率直に言う。
「うーん…慣れ、かな?」
ユメは苦笑した。
その一言が、冗談なのかそうでないのか、
セツナには判断がつかなかった。
⸻
生徒会室は、校舎の奥にあった。
……とはいえ。
「……狭くないっすか?」
セツナの第一声は、それだった。
豪華さの欠片もない。
「前はもっと広かったんだけどね」
ユメが言う。
「人が減ると、部屋も減るんだよね…」
「減る…?」
ホシノが、眉をわずかに動かす。
ユメは、机の上に置かれた紙束を手に取った。
どれも、端が折れ、色あせている。
「ここが、今のアビドス高等学校の“生徒会”」
「そして……」
一拍、置く。
「現状は私が唯一の生徒会役員かな」
口調こそ軽いものの、その言葉は、静かだった。
淡々と、しかし悲しげに言っているように思えた。
だからこそ、重かった。
セツナは一瞬、言葉を失う。
「…一人?」
「うん」
ユメは頷いた。
「会長、副会長、書記、会計……今は全部、私が代わりにやってるよ!」
「決議も、署名も、責任も、全部ね」
「……それ、生徒会って言うんすか?」
思わず出た本音だった。
「うん、言うよ」
ユメは即答した。
「書類上は、ちゃんと存在してるから」
その“書類上”という言葉に、
なんだか嫌な予感がした。
⸻
ユメは棚から一冊の分厚いファイルを取り出す。
表紙には、
《アビドス高等学校 債務一覧》
と書かれていた。
「……これが、今のアビドスの現実だよ」
「知ってると思うけど、アビドスじゃ砂嵐がたくさん起きてるから、それを立て直すためにお金がたくさん必要でさ…」
机に置かれた瞬間、
鈍い音がした。
重い。
物理的にも、意味的にも。
「やっぱりそうですよね…」
ホシノが静かに言う。
ファイルを開くと、
数字、数字、数字。
ゼロの数が、異常に多い。
「……え、桁、おかしくないですか…?」
セツナが目を凝らす。だいたい10億はある。
当主をやってた時はこれくらいの額を平気で扱ってたとは言え、さすがに驚きを隠せない。
(…ていうかあいつに当主乗っ取られてなかったら
今頃まるっと返済できたんじゃね?…殺してやる…殺してやるぞクソメロンパン!)
今現状セツナにはカードがあり、その中には死ぬ直前に持っていた財産約1億5000万(なおかなり節約中)が入っている。もし偽夏油に家を乗っ取られていなかったら加茂家の財産全てを保有できてただろう。
「うん」
ユメは、あっさり肯定した。
「……これだったら潰れた方が早いだろ」
「うん」
「…えぇ?」
「普通なら、もう潰れてる」
ユメは、淡々と続けた。
「でもね、アビドスは“自治区”だから」
「簡単には潰せないの」
セツナは眉をひそめる。
「自治区……?」
「自治権がある地域、ってこと」
ホシノが補足する。
「外部の干渉を、簡単には受けない」
「その代わり、責任も全部自分たち」
「つまり」
セツナが理解する。
「助けも来ない、と?」
ユメは、静かに頷いた。
「返せないなら、切り捨てられるだけなんだよ…」
「それで……」
ホシノが続ける。
「借金だけが残った」
「そう」
ユメは、ファイルを閉じた。
「生徒が減った理由も、それ」
「なるほど…治安が悪くなって、支援が減って
人がいなくなって……さらに悪化ってわけか」
悪循環。
教科書に載るレベルの、最悪の流れ。
「……で」
セツナが腕を組む。
「俺らに、それを説明した理由は?」
ユメは、少しだけ迷ったあと、
正直に言った。
「……逃げてほしくなかったから」
「入学初日に、この話をすると大抵の人は、辞めちゃうって先輩達が言ってたしね…」
「でも」
ユメは二人を見る。
「二人は、もう教室を壊したし武器とか遠慮なく使ったよね?」
「だから」
少しだけ、笑う。
「今さら逃げないかな、って」
ホシノが、ふっと息を吐いた。
「……合理的ですね」
「でしょ?」
セツナは、しばらく黙っていたが、
やがて、頭の後ろを掻いた。
「……まぁ宿儺に殺されて、
砂漠に転がされて今さら借金くらいで驚かねぇよ」
「……スクナ?」
ホシノが首を傾げる。
「あ…いや、独り言。忘れてくれ」
ホシノは深追いしなかった。
「じゃあ」
彼女は姿勢を正す。
「改めて、お願い」
「二人とも、この学校を、手伝ってくれない?」
ホシノは、即答しなかった。
だが――
「……私は、元々ここにいる予定なので」
そう言って、静かに頷く。
セツナは、少し遅れて。
「……借金返しとか、向いてねぇけど…
それでもいいなら全然手伝う」
ユメの顔が、ぱっと明るくなる。
「それで十分!ありがとう!」
生徒会室に、しばらく沈黙が落ちた。
「……というわけで」
沈黙を破ったのは、ユメだった。
「生徒会として、最低限の体裁は整えたいんだ」
「さすがに会長一人っていうのは、いろいろ限界でさ…」
「いや、今まで一人でやってた方が異常っすよ」
セツナが即答する。
「ありがとう!でもね」
ユメは苦笑しながら続けた。
「書類上、“生徒会役員が複数存在する”ってだけで
交渉の席で、少しだけ話を聞いてもらえることがあるの」
「……大人の事情ですね」
ホシノが静かに言う。
「そう。とても、嫌な大人の事情」
ユメは、二人を見た。
視線は真っ直ぐで、逃げがない。
「だから……お願い」
「役職、引き受けてほしい」
「役職?」
セツナが眉を上げる。
ユメは、指を一本立てた。
「副会長」
次に、もう一本。
「書記か、会計かな」
ここだけ見ればどこの学校にもある普通の生徒会なのだろう。
「まあ今のアビドスには“軽い役職”なんて存在しないわけなんだよね」
その言葉に、ホシノが小さく息を吐く。
否定も、驚きもない。
「……で」
セツナが腕を組む。
「誰がどっちです?」
ユメは、迷いなくホシノを見た。
「ホシノちゃんは副会長をお願いしてもいい?」
「……私、ですか」
「うん」
「理由、聞いても?」
「もちろん」
ユメは指折り数えた。
「判断が早いのと、
無駄に感情で動かないのと…
銃の扱いに慣れてる」
「最後、関係あります?」
「あるよ!」
ホシノは、少し考える素振りを見せたあと、
肩をすくめた。
「……断る理由はありません」
「どうせ、ここにいるつもりでしたし」
「よかった!」
ユメの声が、少し弾む。
次に、ユメの視線がセツナへ向く。
「そして…セツナくんは会計、お願いしてもいい?」
「……俺?」
「うん、セツナくんに頼みたい!」
「なんで!?」
「一番、数字に敏感だからだよ!
借金見た時もそんな動揺してなかったでしょ?」
「……はい?」
「お金を軽く見ない人は“お金に振り回されない人”だからね!」
セツナは、言葉を失う。
しばらくの沈黙。
やがて、セツナは鼻で笑った。
「……まあ…確かにわけあって数字には敏感なんで」
刀の柄に軽く触れ、
そのまま手を離す。
「いいっすよ
逃げる気もねぇし」
「本当!?」
ユメが身を乗り出す。
「ただし」
セツナは指を立てた。
「なんの解決策思いつかなくても責任取らないですよ」
「それは私も同じだよ!」
三人の間に、微かな笑いが生まれた。
⸻
ユメは、なにやら古びた生徒会名簿を取り出す。
空白だらけのページ。
そこに、ペンで名前を書き込んでいく。
生徒会長:梔子ユメ
副会長:小鳥遊ホシノ
会計:加茂セツナ
書き終えたあと、
ユメは一度、ペンを置いた。
「……これで、やっと」
「“生徒会”って言えるね」
ホシノは、静かに頷く。
「形式だけでも、意味はあります。
特に…今のアビドスでは」
セツナは、名簿を覗き込み、
小さく呟いた。
「……会計、ねぇ…」
数字と借金。
ある意味一番自分に合った役職ではある。
(皮肉なもんだな…
当主の座を分取られてからまたこんなことやることになるとは…
それはそうとあいつは殺す)
「じゃあ」
ユメは深く息を吸う。
「最初の仕事、いこっか」
「もうあるんすか」
「今日はあるよ!」
そう言って、
借金ファイルを、どん、と机に置いた。
「まずは現状整理かな…
次に、校舎の修理見積もり!」
「……ちなみに」
セツナが手を挙げる。
「さっき壊れた教室は?」
ユメは、にこっと笑った。
「もちろん、生徒会名義」
「つまり――」
「借金?」
「そう!」
セツナは、天井を仰いだ。
「……前途多難とかいうレベルじゃねぇなおい…」
ホシノが、淡々と呟く。
「でもまあ、逃げ場はありませんね」
ユメは二人を見て、
力強く頷いた。
「うん!」
こうして。
アビドス生徒会は、三人になった。
ちょっとテンポ悪いような気がするんですけどどうですかね?もっと飛ばしちゃった方がいいですかね…?そして財産がある理由は…まあとある人の手引きですね。時期にわかります。
ユメ先輩助ける?
-
助ける
-
助けない