その日は、確かに「休日」だった。
もっとも、アビドスは人が少なすぎるから自由登校日も多い。自由登校日ではよく休んで過ごすため実質休みとも言えるが、だがまあ間違いなくその日はただの土曜日だったのだ。
砂嵐もなく、空はやけに澄んでいる。ゆっくり布団と結婚したいような…
そんな朝――
セツナは、生徒会室の机に突っ伏していた。
「……なんで休日に呼び出されてんだ俺?」
半目で呟く。
目の前では、先輩の梔子ユメがにこにこと書類を揃えていた。
「えへへ、ごめんね!でも大事なお願いだからさ!」
「その“お願い”、嫌な予感しかしねぇんすけど…?」
「大丈夫大丈夫!ちょっとしたお使いだよ!」
ちょっとした、の定義がアビドス基準なのが問題だ。
ユメは一枚のファイルに入った書類を差し出す。
「これ、ゲヘナの風紀委員会に提出してほしいの!」
「……ゲヘナ?」
セツナは眉を上げた。
「うん!書類の不備とか、追加確認とか、色々あってね〜」
そして、少しだけ声を落として、付け加える。
「私が行くと、話が長くなるから」
「あー……」
それは納得できてしまった。
ユメはにこっと笑う。
「セツナくんなら大丈夫でしょ?昔、ゲヘナにいたって言ってたし!」
「まあ、いましたけど…」
いた、というかなんというか――
「ついでに何かあったら、向こうの様子も見てきてほしいな!」
「あ、はい。わかりました」
ぱん、と手を合わせる。
「お願い!副会長代理さん!」
「……誰がいつそんな役職に!?」
「今決めた!」
即決だった。
セツナは深くため息をつき、立ち上がる。
「……わかりましたよ。行きゃいいんでしょ、行きゃ!」
「ありがとう!助かる〜!」
ユメは満面の笑みを向けた。
その笑顔に、少しだけ弱い自分を、セツナは自覚していた。
「あ、ホシノ巻き込んどきゃよかったな…」
ゲヘナ学園。
アビドスとは違う意味で、空気が荒れている場所。
校門をくぐった瞬間から、「治安」という言葉が仕事を放棄しているのが分かる。
風紀委員が懸命に働きこそすれど、イタチごっこ状態だ。
「……相変わらずだな」
休日だというのに、
どこかで爆発音、どこかで怒鳴り声。
平常運転。
セツナは迷いなく、風紀委員会の方へ向かった。
――この建物だけは、空気が違う。
無駄な喧騒が削ぎ落とされ、張り詰めた緊張が、床や壁にまで染み付いている…わけでもないが。他と比べて格段に静かなのは間違いない。
「……懐かしい、ような…」
「どちら様ですか?」
「あ、アビドス高校一年の加茂セツナです。えぇと…情報部に書類提出しにきました」
受付で名を告げると、
少し訝しげな目を向けられたが、すぐに通された。
おそらく刀のせいだろう。
情報部のドアを開けた瞬間――
「……」
一瞬、時間が止まった。
モニターの光に照らされて、机に向かっていた少女が、ゆっくりと振り返る。
銀髪…というより、白みがかかった淡いパステルパープルと言うべきだろうか。鋭い眼差し。
セツナの幼馴染兼元護衛(?)の空崎ヒナである。
ヘイローがないセツナは昔よくヒナに守ってもらっていた……らしい。自分が体験した出来事ではなく、記憶の中にあるだけだが。あくまで"加茂セツナ"の記憶であり、"加茂刹那"としての記憶ではないということだ。
「……久しぶり」
淡々とした声。
セツナは、ほんの一瞬だけ言葉に詰まり――
それから、いつも通りの調子を演じて言った。
「よ!…元気そうじゃん?」
「見ての通り」
ヒナは椅子から立ち上がる。
「……アビドスにいると聞いていたのだけど」
「情報部だもんな。そりゃ知ってるか…」
ヒナは否定しなかった。
視線が、セツナの腰の刀に落ちる。
一瞬、言葉が止まる。
その空白に――
「ヒナ様〜!!」
勢いよくドアが開いた。
「書類整理終わりました!次は――」
アコが、そこでセツナを見て固まる。
「……誰ですか、その不審者」
「初対面に不審者扱いはひどくね!?」
「刀持ってる時点で不審です!なんで銃を使わないんですか?」
即答だった。しかもここキヴォトスではごく当たり前の正論。
セツナは仕方ないからあの
「それ正論?俺正論嫌いなんだよね」
むしろ呪術師では銃を使う術師の方が少なかったりするからなのもあるが、刀を使うのはいけないことなのだろうか。
セツナは内心で"所変われば品変わる"とはこのことか、と思った。
「はいぃ!?」
ヒナが小さくため息をつく。
「……知り合いよ」
「知り合い!?」
アコは目を見開く。
「ヒナ様の!?この不審者が!?」
「不審者…。そんな驚くことか?」
「どこからどう見ても不審者でしょう!?」
「し、心外だなぁ…。
「男尊女卑系和服草履金髪ドブカス……?誰ですかそれは?」
「あ、いや…。…なんでもない。ていうか知らない方が絶対にいい」
「はぁ…」
アコは一歩前に出て、じろじろとセツナを見る。
「……そもそもその刀…。銃刀法に違反してませんか?」
「正解だ(適当)」
「認めるんですか!?」
「いや……。ぶっちゃけ銃刀法についてあんま詳しくなくてだな…」
「はあ…?」
ヒナが咳払いをする。
「……用件は?」
セツナはユメから預かった書類を差し出した。
「アビドス生徒会から。追加資料と確認事項。融資の件だろ」
ヒナは受け取り、目を通す。
その横で、アコが腕を組んだ。
「アビドス……あの借金まみれの?」
「おい、言い方…」
ヒナは資料を閉じる。
「……確認は取れた。あとはこちらで処理する」
「助かる」
「ただし」
ヒナは、セツナを見る。
「無茶な賞金稼ぎは控えなさい」
「……なんで知ってるん?」
「仕事が仕事だから」
淡々と。だが、その奥にある感情を、
セツナは見落とさなかった。
「……心配してんのか?」
確かに昔一切戦えなかった人間が突然戦うようになったら驚くことのは当たり前なのかも知れない。というか驚いて引き留める人の方が一般的には多いのかも知れない。
ヒナは、一瞬だけ視線を逸らす。
「業務上の判断よ」
「はいはい」
アコが割り込む。
「ちょっと待ってください!この人、ヒナ様に馴れ馴れしすぎじゃありません!?」
「今更…?…昔からこうだけどな…」
セツナは肩をすくめる。
「相変わらずだな、ゲヘナ」
ヒナは、小さく息を吐いた。
「……あなたが来ると、静かにならない」
「それ、俺のせい?」
「半分は」
「残り半分は?」
「アコね」
「え!?私ですか!?」
少しだけ、空気が和らいだ。
「ありゃ、もう時期帰らないとな…」
ヒナは、セツナを見て言う。
「……くれぐれも死なないで」
短く、しかし重い一言。
セツナは、いつもの笑みを浮かべた。
「努力目標にしとく」
ヒナは、それ以上何も言わなかった。
アコは腕を組み、むすっとしたまま。
「……二度と来ないでくださいね!」
「気が向いたらな」
セツナは手を振り、風紀委員会棟を後にする。
背後で、ヒナが小さく呟いた。
「……相変わらずね」
その声は、
昔と同じ温度をしていた…のだと思う。
というわけでまあ、ヒナは幼馴染っすね!異論は認めます。そしてキャラの口調が難しい…。ヒナは幼馴染というより元守護者?これから赤血操術がバレたら…どうなるんだろう。パニックになるのだろうか…。そしてアビドス編3章にようやく入ったんですけど……。ヤバい、めっちゃ改変しちゃってません?これ書き直しフェーズかな…
ユメ先輩助ける?
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助ける
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助けない