侍の国においたわしい兄上殿を突っ込んだ話   作:あんまん太郎

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何も違わない ジ●リは何も間違えない

 

「ヅラ!!」

 

 桂が崩れ落ちるより早く、鞘走る音が重なり、鋭い殺気が一点に収束した。

 3つの刃が一斉に振り上げられる。

 

 朧の身体を貫く軌道を誰もが正確に描いていたが──寸前で、全員の刀が止まった。

 

「賢明な判断だ」

 

 ()が、朧の口元で薄く嗤った。

 

「ここで()を斬ったとしても、死ぬのは()ではない」

 

 あらゆる殺気と刃が喉元に向けられているにも関わらず、反撃も防御の構えすらも取らず。

 朧の身体で、その場に立ち尽くしながら虚はせせら笑った。

 

「チッ……」

 

 あれだけ朧と凄烈な殺し合いをしていた高杉ですら──その先に踏み込めず、立ち止まっていた。

 

「ずいぶん手間取ったが、良いタイミングでこの体を使えるようになった」

「……貴様の因子は…私の血……ひいてはあの御方(鬼舞辻無惨)の血で抗体を作り…防いでいたはずだが……?」

 

 黒死牟が六つの目で鋭く虚を睨みつける。

 虚はそれをものともせず、冷たく笑った。

 

「江戸城での貴様の刀……あれは良い置き土産だった。まさか自身の肉体から専用の刀を造っているとは思わなかったが、おかげで、あの刀の血肉を介して解析ができた。しかし面白い……私の支配を邪魔できるほどとは……鬼の始祖は、よほど配下を見えるところに置かねば気が済まぬ小心者のようだな」

「……精神の核ごと…肉体と意識を乗っ取る貴様も……さして…変わらぬだろう……」

「どちらにしても、この体の支配権は私が握った。貴様の血如きが入る余地はもうない」

 

「そうか……。……ならば……──入る余地を作るまで」

「何?」

 

 黒死牟が突然、手にしていた刀を地面へと落とした。

 あまりに唐突な行動に、虚は思わず目を細める。

 

「何を──」

 

 虚が疑問を口にするより早く黒死牟は背後へと回り込み、朧の身体を羽交い締めにした。

 そして地面に伏しているはずの桂に視線を送ると──斬られたはずの桂が突然片手をついて跳ね起きた。

 

 黒死牟以外の全員が目を丸くして驚く。

 

「フ……狂乱の貴公子とも称された俺が、あのような不意打ちごときでやられるわけがなかろう」

 

 斬られたはずの桂の腹部には、人妻寝取られもののアダルト雑誌が鋭い刀傷と共に挟まれていた。

 御存じの通り、人妻とNTRは桂の性癖である。

 

「いや、この流れなら紅桜編のときみてーに松陽からもらった教科書とかだろ普通」

 

 銀時のツッコミはスルーされ、桂はそのまま体勢を整えて勢いを殺さずに虚に突っ込む。

 

 とはいえ、虚は現在朧の身体を乗っ取った状態。

 反撃をするにしてもそのダメージは全て朧に反映されるため、迂闊に攻撃はできないはず──だが、桂は虚へと飛び込む勢いのまま、懐から黒い波動を放つ“何か”を取り出した。

 

「師範から託されたこれで……兄弟子を解き放つ!!」

 

 武器でもなんでもない異物を取り出して見せた桂に呆気にとられていた虚は、その口に、暗黒物質もとい──()()()()()()()()をねじ込まれてしまった。

 

 途端──朧の身体がビクンと跳ね、目が見開かれた。

 まるで“何かとんでもないもの”が体内に入ったことを理解したかのように、全身がぶるぶる震え始める。

 黒死牟が羽交い締めにしていた腕を離し、距離を取った。

 

「こ、これは何だ? この私ですらも解析もできない……!! この世のものではない……!!」

 

 朧の喉奥から、低く、震えるような呻き声が漏れる。

 1000年以上生き続け古今東西あらゆる毒も罰も喰らってきたはずの虚が、恐怖と動揺を滲ませている。

 声にならない声を漏らしながら──そうして朧は口から悲鳴と黒い湯気のようなものを噴き出して膝から崩れ落ちる。

 

「……オイ銀時、なんだあれは」

「知らねーよ。いや正確にいえば知ってるんだけど、知りたくなかったよ。シリアス展開にギャグアイテム持ち出してラスボスにダメージ与える奴なんてよ」

 

 思わず高杉と銀時も胡乱げにそう話し合うしかない。

 

「やはり……。お妙殿の料理は…あらゆる毒への抗体を作り出せる…鬼の肉体をも……凌駕する逸物*1……。であれば…()にも通用するものと思い…残りを小太郎に託していたのが……功を奏したようだな……」

「やっぱおめーの仕業かァァァ! 何シリアス展開に平然とギャグアイテム持ち込んでんだ!! そういうのはご法度だろーがァァァ!!」

「ぎゃぐあいてむ……? ご法度……? 何の話を…している……?」

「何もかも間違ってるってことだよ!」

「何も違わない……私は何も間違えない……」

「なんで変なところで意固地!?」

 

 後方腕組みをして様子を見守っている黒死牟に銀時はキレる。

 しかしそもそも生きる世界が違っていた黒死牟に、ギャグだとかシリアスだとかお約束だとかの判断や自覚はないので、銀時の言っている意味はもちろん理解されなかった。

 

「てかどうすんだあれ! 俺らの兄弟子が千尋にニガダンゴ食わされた時のカオナシみたいになってるんだけど!?」

「察しがいいな銀時」

 

 代わりに答えたのは桂だ。

 

「事の発端は先日の金曜ロー●ショーを師範と見た時だ。そこで、川の神の団子は恐らく不浄や穢れを吐き出す効能があること──ゆえに、同様にこの世の性質を帯びないお妙殿の料理も、見方を変えれば穢れを落とす神聖な効力を含んだ霊薬の可能性があるのではないか……という話になり、こうなったのだ」

「いや川の神様とダークマター製造機(志村妙)を一緒にすんじゃねーよ、不敬にもほどがあんだろ! つかなに重要イベント前に仲良く金ローのジ●リ見てんだてめーらは!!」

 

 とはいえ、結果は火を見るよりも明らかだった。

 

「……み、巌勝……桂……これは……」

「兄弟子! 意識を取り返したか」

 

 朧の瞳に、かすかに本来の光が戻った。

 四人が駆け寄り、次いで黒死牟が透き通る世界を通して朧の身体を確認する。

 

「ふむ…虚の気配が消えている……。奴の人生でも……初めての……未知なる毒に…耐え切れず……残りの因子が……消滅したようだな……」

「ついに毒って言っちゃったよこの人」

「だが、その虚の因子(不老不死の因子)ってやつが消えちまったのなら、一度死んでるコイツ()自身もやばいんじゃねえのか」

 

 高杉が尋ねるが、黒死牟は首を横に振る。

 

「案ずるな……朧にはまだ…私の血が流れている……。私は……一度この卵焼きを喰らっている故……多少の耐性はついている……心配は無用だ……」

「その、ようだな……。身体から気配が薄れていくのが分かる……」

 

 まだ鬼舞辻無惨もとい黒死牟の血が流れているとはいえ、もともと一度死んだ上で不老不死の因子で命を繋いでいた朧は、やはりいくぶんか衰弱しているようでもあった。

 

(いやこれどっちかつーと虚の因子が消えたからってより、ダークマター過剰摂取が……)

 

 ダークマター過剰摂取が何だ? 言ってみろ。

 

(思考が読めるのか? まずい……)

 

 なにがまずい? 言ってみろ」

「いやてめーの存在がな!! さっきから地の文乗っ取ってんじゃねーよ! 何気に虚よりすげー芸当だわ!!」

 

 銀時がヅラに強烈なサマーソルトキックを入れて元気なやり取りをしている間、幾分か落ち着いてきたらしい朧が口を開く。

 

「だが……乗っ取られたことで、収穫もある。虚の居処が、分かったぞ……」

 

 虚に一時的に乗っ取られながらも、深く繋がりを経たことで、ある種の逆探知となったらしい。

 朧の視線が、ゆっくりと空に向けられる。

 それは、江戸の中心に佇む巨大な塔──地球の政権を握った天人が開国の際に造った宇宙船発着のためのターミナルに向けられていた。

 

「奴は──江戸のターミナルに、いる」

「! なるほど……あそこは江戸中のエネルギーが集束しているポイントだ。虚はあのターミナルのエネルギーを暴発させ、江戸とともに地球を破壊するつもりか!」

「チッ……こっち(地上)を陽動に、俺たちはまんまと奴の掌で踊らされていたってわけか」

 

 桂と高杉がターミナルを睨みつける。

 

「そういや、例のアホ巫女姉妹どもも、ターミナルはケツがどうのとか言ってたな……」

 

 銀時も顎を緩く撫でながら、ターミナルの重要性について思い出し始めた。

 地球の政権を握った天人が開国の際に造った宇宙船発着の基地であるそこは、地球のエネルギーが湧き出る龍穴でもある。

 かつて銀時もかかわった阿音と百音の巫女姉妹──龍穴を守護する彼女たちが定春含む狛神2匹と共に住んでいた神社はもともとターミナルのあった場所*2であったし、ターミナルの地下深くにあるエネルギー制御地区では、そこを伍丸弐號(流山)率いるからくりメイド集団に占拠されてエネルギーが暴発しかけ、たま(零號)が阻止したこともあった*3

 つまり、ターミナルは江戸を揺るがすほどの重要拠点でもあるのだ。

 

「どちらにせよ……あそこを暴発させられれば…少なからず…江戸は消滅する……急いだほうが……いいだろう……」

 

 黒死牟が空から視線を外し、朧を見やった。

 朧はその身を岩壁にもたれかけ、息を整えようともせず、静かに首を振る。

 

「……私のことは、いい。虚の居場所がわかった以上、時間は惜しい。お前たちだけで、行け」

 

 その声はかすれていたが、意志だけは鋼のように揺らがない。

 

「……」

 

 高杉は無言のまま目を細めると、刀をその手に強く握ったまま、朧へと歩み寄る。

 

「っ、おい高杉」

「高杉! 何をする気だ!」

 

 高杉の様子に、銀時と桂が反射的に声を荒げた。

 返事はない。高杉の歩みは止まることはなかったが、黒死牟はその様子を静かに見守っている。

 

 そうして高杉はゆっくりと朧の前へ歩み寄り、斬りかかる軌道に見える角度で刀を振り上げた。

 

 朧は抗わない。

 ただ目を閉じ、静かに受け入れるように呼吸を止める。

 

 刹那──。

 刀が突き刺さる音がしたのは、()()()からだった。

 高杉の刀身は、朧の肩の横、地面深くへと突き刺さっていた。

 朧が驚いたように目を開く。

 

「……どういう、つもりだ?」

 

 高杉は柄に手を添えたまま、視線だけで朧を射抜いた。

 

「一番弟子が聞いて呆れるな。死に体のアンタを斬ったところで、俺にとっちゃなんの手ごたえにもなりゃしねえ」

 

 高杉は地面に突いた刀の柄から手を離し、そのまま朧の腕を無理やり肩へ回す。

 朧は高杉の行動に、目を見張った。

 

「勘違いすんじゃねえよ。少なくとも、俺が斬る前にここで野垂れ死なれちゃ困るんでな。今のアンタでも、囮くらいにはなるだろ」

 

 拍子抜けしていたような表情だった桂も、冷徹な台詞と行動が矛盾している幼馴染に、「フ」と笑みを零す。

 

「そうとも。どのような形であれ、俺たちは()()()()()()()で、師を止めに行くべきだ。それが、先生への弔いにもなろうよ」

 

 桂もまた、もう片方の朧の腕を肩に回して支える。

 

「……ま。また知らねー間に闇堕ちされても敵わねーしな」

 

 様子を見ていた銀時も、やがて呆れたように肩を竦めながら、突き刺さった刀を抜いた。 

 その表情には、涼やかな笑みが浮かんでいた。

 

「行くぞ、馬鹿兄弟子。手前の刀が折れてなけりゃあ、俺たちはまだ──戦えるだろ」

「お前たち……」

 

 朧は、何か言葉を続けようとして、口を閉ざす。

 それを肯定ととらえ、弟弟子たちは、兄弟子を支えて歩き出した。

 黒死牟は眩しいものを見るように、その六つの目を細めた。

 

(……人は脆い……。……だからこそ……互いを支え……想いを繋げることができる……か……)

 

 かつて道を違え、バラバラになっていた彼らは──いま再び、吉田松陽の「弟子」として、強い決意とともに前に進もうとしていた。

 人の想い。人の繋がり。生前は孤高の強さ(縁壱)に囚われ続け、誰にも心を開くことがなかったからこそ、終ぞ気づかなかったことだ。

 

暗部の鬼()も…鬼の子(銀時)も…そして復讐の鬼(晋助)も……。道は違えども…行く先は…人としての道に在れるとは……。松陽……お前は……()()()()…人の道を……弟子たちに示していたようだな……)

 

 彼らが鬼から人に戻れたのは、紛れもなく、彼らが吉田松陽の弟子だからだろう。

 その人の子たる弟子たちが集結し──再び鬼となった師を、人に戻そうとしている。

 

(人の…心の光の……なんと面妖な……。かつての私には…無縁であったもの……。私は鬼になったことを……今も後悔していない……、が……あの陽だまりを……少し…羨ましいとも思える……)

 

 黒死牟は空を見上げた。

 太陽は、厚い雲の向こう側にある。

 

(縁壱……。もしお前が…此度のことを見たならば……今更…このような想いを抱き……生き恥を晒し続ける()を……いたわしいと……思うだろうが……、……そうだとしても……)

 

 黒死牟もまた、後に続いた。

 ()()はようやく歩幅を合わせ、ターミナル(最終決戦)へと臨む。

 

*1
8話参照

*2
原作9巻 第72訓、アニメ45話

*3
原作17巻、アニメ69~71話





・ダークマター
公式だと源外曰く「この世の物質ではない」そうなので、地球外物質=つまり地球外・別惑星のエネルギー(アルタナ)が弱点の虚にも効く可能性が微粒子レベルで存在する。
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