侍の国においたわしい兄上殿を突っ込んだ話   作:あんまん太郎

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間章
一番怪しい人が、一番可能性を持ってるんだよ 玄弥


 

「えーと……、何? つまり俺らは、意識高すぎ高杉くんのせいで、お前らが人間じゃねえってことをずーっと知らなかったって?」

「うむ……」

「で、オメーはオメーで高杉くんが報連相を怠った意図が分からなかったから、とりあえず高杉くんに合わせて黙っていたと?」

「うむ……」

「で、では……この前、晴れた日にうっかり師範に虫眼鏡の集合光をわたしが当ててしまった際、師範が死ぬほど苦しんでいたのは……」

「ああ……あれは…死ぬほど痛かった……」

「くっ、まさか虫眼鏡で日光を集め、白い画用紙と黒い画用紙どちらが先に穴が開くのかという自由研究結果よりも先に、師範に穴を開けていたとは……!! よもやよもやだ……攘夷の大黒柱として不甲斐なし、穴があったら入りたい!!」

 

「うまくねーんだよ何も!! なんでテメーは攘夷活動せずに小学生みてーな自由研究してんだ! 理科の実験感覚でコイツぶっ殺しかけてんじゃねーか!! 大黒柱どころか虫食い穴だらけの柱だよテメーは!!」

「柱じゃない桂だ!」

「天丼ネタしてんじゃねェェェ!! しつけーわ!!!」

 

 桂の頭を屋敷の柱にめりこませ人柱にしてから、銀時はようやく溜め息を吐いた。

 

「にしてもまさか、松下村塾の主要メンツの半分が人間じゃねえとはな……信じて鬼退治に送り出した桃太郎が、連載終盤で桃太郎は実は鬼の息子でした~ってのを鬼から明かされる並みの衝撃の事実だろコレ」

 

 それこそ銀時は、松陽、朧、巌勝といた時間は一番長く、彼らに育てられ、鍛えられたといっても過言ではない。

 なんとなく普通の人間とは違う違和感はあったものの、本当に人外だとは思いもよらなかった。だからといって、家族同然に過ごしてきた彼らに嫌悪感などは一切ない。それは桂も同じだろう。

 

「つまり、鬼から生まれた鬼太郎ということか」

「……桃太郎は…桃から生まれたからこそ……桃太郎と名付けられたのではないのか……?」

「物の喩えですよ師範。鍛冶屋で生まれたから鍛治太郎だとか、炭焼きの家で生まれたから炭太郎とならないようなものかと。しかし鍛治太郎はハム太郎のような語感になりますが、炭太郎だと少し呼びにくいですね」

「……ならば…「次郎」にするのはどうだ…それならば…音読みの語感が合う……」

「妙案ですね。そこに「次」ではなく一家を治める意の「治」を代わりに入れるのはいかがでしょう。一家と炭を治める()、つまり炭治郎というように──」

 

「なに? 何ここ? 俺の思考のチャンネルが合わないんだけど。ちょっとスルーしただけで宇宙方向に盛り上がるのやめれる? つかもはや何の話してんだテメーらは。新連載の設定詰めてる編集者どもか?」

 

 ツッコめば疲労感が増えるだけ、スルーしてもちぐはぐな会話を展開して無敵のループ。ボケ二人(天然と電波)を相手にするには荷が重すぎた。

 

「まあ、高杉の気持ちも分からなくもない。たとえ俺たちも、己が一人目覚めていて、師範の話を聞いたとして……きっと、同じようなことをしただろうさ。銀時、そうだろう?」

「ケッ……その結果が、俺たちの無知無知の生き恥晒しじゃねえか。思春期厨二病拗らせ闇堕ちした兄弟子()も含めて、どいつもこいつも、報連相怠りすぎなんだよ」

 

 そう文句は言いつつ、銀時は桂の問いかけ自体には否定も肯定もしなかった。つまりはそういうことなのだろう。

 「それで」と銀時は黒死牟を見やった。

 

「これからどうするつもりなんだ、オメーは」

 

 黒死牟の説明により、銀時も桂も、吉田松陽がこの星の生命力(アルタナ)から生まれた存在であり、虚という滅びの人格を持って復活したことを理解した。

 だからこそ、これからの話をしなければならない。

 

「話聞く限り、オメー()は陽に当たるか特殊な刀で首斬りゃ死ぬけど、虚ってのは地球そのものみてーなもんだからいくら殺しても死なねーんだろ。この地球巻き込んだ大迷惑自滅を止めるにしても、倒す方法がねえんじゃあな」

「それについては…当てがある……」

 

 黒死牟によれば、星の生命力(アルタナ)は、地球だけではなく、宇宙の各惑星それぞれに存在する。アルタナは基本的に目には見えないものだが、稀に結晶体として見つかることがあるという。

 さらに言うと、自分の母星と異なる星のアルタナを体内でバラまかれることは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、廃車確定なのだという。

 

「なるほど、つまり地球外のアルタナの結晶を集めて虚にぶつけて倒せば、蘇生することはない、と……。現時点で唯一無二の有効打ですか」

「ああ……。それで私は…しばらく宇宙を巡り……各地のアルタナの結晶を探していた……。奈落として…任務で宇宙各地を巡ることも多い朧とも…連携しながらな……」

「しっかしよー、知識と感性が戦国止まりのオメーが、よくそんなこと知ってんな」

「数年前……宇宙を巡っていた際…そこで出会った男から聞いた話だ……。その者は……アルタナの影響を受けた妻を延命すべく、妻の母星でアルタナの結晶を探したこともあるらしい……」

 

 その情報を教えてくれた宇宙を駆ける()()()()()とは、同じ境遇の(アルタナの影響を受けた)知り合いが共通していることもあり、虚の件も伝えている数少ない旧知であり協力者だ。

 

「その者の助力もあり……いま…宇宙の鍛冶師等に依頼して、アルタナの結晶刀を造ってもらっている……虚が予定より早く地球に姿を現したのは想定外だが…三人でかき集めた分、材料(アルタナ)が揃うのも…早かった故……刀が出来上がるのも、時間の問題だろう……」

「なるほど、つまり虚をぶっ殺せる刀ができあがるから、あとは地球に降りて来た虚をぶった斬るだけ……と」

 

 銀時の言葉にうなずいた後、黒死牟は視線を夜空に彷徨わせた。

 

「本当ならば…お前たちを巻き込まず……私が片をつけようと思っていた……。だが、こうして()が現れたとなれば、それはもはや叶わぬだろう……お前たちには、苦労を背負わせることになるやもしれぬが……」

「そうじゃねーだろ」

 

 銀時が制するように言って、溜め息を吐く。

 

「俺たちが求めてんのは、そういうウジウジした言い訳じゃねーよ。この前テメーに言ったこと、もう忘れたのか?」

「……」

 

 江戸城で再会した際、銀時との会話を思い出す。勝手な行動をするなと、まずは相談しろと。

 黒死牟は、間を置いてから、教え子二人を交互に見た。

 

「……銀時、小太郎。……友との約束を遂げるため…来るべき日が来た折は…助勢を、頼みたい……」

 

 フ、と桂と銀時がそれぞれ笑みを浮かべる。

 

「無論です。もとより俺たちは松下村塾の門下生、師の尻拭いは、弟子がするものだ」

「それはそれとして、報酬は貰うからな」

「オイ、台無しだぞ銀時」

 

「支払いは……電子まねぇでも、よいのか……」

「あー、うち(万事屋)PayPayやってないんで。現金のみなんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──てわけで、鬼の黒死牟くんで~す。仲良くするよーに」

「……よろしく頼む」

 

「いやどういうわけで!?」

 

 折角だしウチの従業員にも軽く紹介しとくかあ、あン時ぁ女装してたけど一回新八と神楽ともニアミスしてるしな。あ、不老不死とか虚とか松下村塾のこととか諸々面倒な事実は隠しとけよ。流石に俺らの事情に他の奴ら巻き込めねーしな。……え?普段は黒死牟って名乗ってる?なにその厨二病が好きそうな名前。まあいいや。とりあえず鬼的な天人で俺らの昔からの知り合いってことでテキトーにしとけ。

 といった銀時の計らい(?)で、黒死牟は「万事屋銀ちゃん」に赴くことになったのだった。

 

「銀ちゃん急にデケー木箱しょってきたからお土産かと思ったアル。ただの鬼アルかぁ~」

「いやなんでそんな浅いリアクション!? 端折られてるけど小さい木箱からバキバキ身体変形させながら二メートル近い六つ目の男の人出てきたの凄くホラーだったからね!!?」

「いちいちビビってんじゃねーよメガネ、うちには夜兎の宇宙人もいんのに今更だろーがよ」

「そうネ! 六つ目がなにヨ! 3つもメガネ掛けられるメガネ掛け機として上位互換だからって嫉妬してんじゃねーアル」

「そうなのか……すまぬ……。しかし、眼というものは2つで十分に事足りる……最も肝要なことは…心眼でものを見ることだ……」

「なんの話してんだァァァ!! 黒死牟さんも黒死牟さんで真面目に気を遣わないでください!! ていうかあんたもこいつらに馬鹿にされてますからね!!?」

 

 それよりも、と新八が改めて慄きながら眼鏡を持ち上げる。

 

「黒死牟さんって、この前道案内した方ですよね? 江戸城で女装してたひとっていうのも、銀さんたちの剣の師範っていうのも、まさか天人……鬼っていうのも、何もかもびっくりなんですけど僕……」

「ああ……道案内の折は、助かった……。そして、いつも銀時が…世話になっている……」

「あ、いえいえ……ご丁寧にどうも……」

 

 慇懃に頭を下げる黒死牟に、新八も釣られて頭を下げた。

 

「道案内ィ? 黒乳房(黒死牟)*1っておめーのことだったのかよ」

「こく…ち、……?」

「いやあ、新八が黒乳房とか意味不明なこと言うからよー。悪いなーうちの従業員が。多感な時期だからムラムラしてたんだろ、許してやってくれや」

「あんたが勝手に最悪な方向に変換したんだろうが!! ていうかテメーら揃いも揃って純朴そうなひとに謂れのない僕の悪印象を刻み込んでいくのはやめろォォ!!」

 

 天高く浮かぶ太陽の下、万事屋に新八のシャウトが木霊した。

 

 

 

 

 

 

「ったくよお、あんなにキレるこたあねーだろうが」

 

 万事屋で賑やかな挨拶を済ませてから、黒死牟の屋敷への道を歩く銀時。

 その背には小さな木箱が背負われており、内部に日が差し込まない機密性の高いその中には、黒死牟が身体を小さく変形させて入っている。

 

「…しかし……小太郎から自営業をしていることは聞いていたが……従業員まで雇い、養うほどとはな……見ぬ間に、お前もずいぶん成長したらしい……」

「だろ? 夜兎族の食い扶持もいんだから、報酬は非課税で弾めよな」

 

 なんやかんやあったが、万事屋への黒死牟の好感触な反応に、銀時は黒い笑みを浮かべた。

 従業員を二人雇っていることと、一見、しっかり事業を展開し働いているように装うことで黒死牟の情に付け込み、報酬をふんだくる算段だったのだ。

 

「──おいそこのブツブツ独り言呟いてる怪しい腐れ天パ、止まりやがれ」

「げ」

 

 背後から聞き覚えのある声をかけられ、銀時の足が思わず止まる。

 振り返ると、見覚えのある黒いV字前髪と黒い制服、そしてくわえ煙草。

 

「よお、税金泥棒。昼間から呑気に散歩とはいい御身分じゃねえか。さっさとむさっくるしいゴリラの巣に帰ってゴリラ(近藤)の世話してこいよ」

「近藤さんはゴリラじゃねえクソニート。こっちはちゃんと仕事中(巡回中)だわボケ。ろくに税金も納められねぇ奴にゴタゴタ言われる筋合いなんざねぇんだよ」

「おーおー、じゃあさっさと町の安全守って来いよ」

「その町の安全のためにテメーに話しかけてんだよ」

「え? 俺?」

 

 たりめーだろ、と江戸の治安を守る特殊警察──真選組副長・土方十四郎は静かに煙を吐き、その眼光を鋭く尖らせた。

 

「昼間から怪しいブツ(木箱)背負って独り言呟いてる野郎を不審者と言わずになんつーんだよ。職質だ職質」

「……いや~、これは…ねえ……」

 

 まさか鬼が入っているとは言えず、視線を泳がせる銀時。

 その様子を鬼の副長が見逃すはずもなく。

 

「てめえ……今度は一体何を企んでやがる。おい、その木箱を下ろせ、中を確認する」

「おいおい! 何の権限があってそんな横暴許されると思ってやがる!」

「警察の権限だわボケ! 職質つってんだろ!!」

 

 開けたら無論、黒死牟は死ぬ。それに、鬼だろうと人だろうとこの木箱に誰かいることがこのクソ真面目な男に知れれば、誘拐だの人身売買だのと難癖をつけられることは目に見えていた。

 無理矢理木箱を引きずり降ろそうとする土方に銀時は抵抗する。

 

「クソ土方と旦那じゃないですかィ、真昼間の往来でなにやってんでィ」

 

 そこに悠々と現れる、土方と同じ黒の隊服を着た栗色の髪の少年。その手には、近くの茶屋で買ってきたと思われる団子がある。

 

「総悟……ちょうどいい、その態度と手にあるサボりの証拠は見逃してやるから、手伝え。不審人物が不審物を持ってやがるからな」

「木箱……ですかィ?」

 

 銀時の背負う木箱を不思議そうに見つめる沖田総悟。

 

「総一郎くん!! あとでジャンプ買ってあげるから!! このクソヤニカスの言うこと聞かなくていいからね!!」

「総悟ですぜ旦那、でもちぃとその反応、面白そ……いや、怪しいんで……。クソ土方の言うことを聞くっつーのは癪ですが、今はこっち側につかせてもらいやす」

「いや言うこと聞くも何もお前俺の部下だよね!? そもそもこっち側だよね!? てかなんで刀抜いてんの?」

「死ね土方ァァァ!!」

 

 沖田が抜いた刀を二人に向かって真っ直ぐ投げつけた。

 「うおおお!?」と悲鳴を上げながら咄嗟に飛び退く土方と同じく避ける銀時。

 

 ──乾いた衝撃音が響き、刀は木箱へ()()()()()()

 

「何してくれてんのォォォ!?」

 

 銀時は冷や汗を流しながら、色んな意味で叫んだ。

 

「ああすいやせん旦那、ちぃと木箱が怪しくねえか調べようと思いやして」

「なにいけしゃあしゃあと嘘ついてんだ! 死ね土方つって完全に俺に狙い定めてただろーが!」

 

 土方の怒号を無視し、沖田は突き刺さった刀を木箱から抜いた、が──その前後に柄から伝わったその感触に「ん?」と目を眇めた。

 

「旦那……これなにが入ってるんでィ? 中にある何かに、刺さってるってより……()()()()()()()る感じがしますぜ」

 

 沖田の言い分や、血の匂いもしないことから察するに。木箱の中にいる黒死牟は、刀に貫かれるどころかその刃を受け止めたのだろう。確かにあの男なら暗闇の中だろうと狭い場所だろうと指二本あれば白刃取りできてもおかしくはない。

 

「え~とぉ……だからぁ……あれだよ……」

 

 銀時は少し安心したが、とはいえ状況は膠着するばかりだ。

 なんと説明するか言い澱んでいると──その間に、沖田は抜いた刀を()()()()()()()()()()。しかも、何度も何度も。

 

「いや人の荷物に何やってんのォォォ!?」

「すげえや、何回刺しても全部()()()()()()()()()。刺さった感覚がまったく無え。こりゃあ大層な黒ひげ危機一発ですねェ旦那」

「そんなでかい黒ひげ危機一発持ち歩く奴なんていねーから!!」

「オイ、これ以上黙秘したところでてめーの立場は悪くなるだけだぞ。ありゃなにが入ってやがる」

 

 土方の眼光がどんどん鋭くなっていく。

 これは隠し切れないし、いよいよ木箱ごと叩き斬られても困る。銀時はわーったよ、と溜め息を吐いた。

 

「とりあえず見せてやるから、陽の当たらねえトコで……ああ、この路地裏でな」

「なんだ? やっぱり怪しい違法物でも運んでたのか」

「ちげーよ」

 

 沖田から木箱を引き剝がす。木箱は何度も刺されてはいるが、沖田がちょうど影になっていたため運よく隙間から日差しが入り込んだ様子はなさそうだ。多分。

 

「おい巌勝、なんか、擬態できんだろ。こんな小せえ箱から六つ目の大男が出てきたら俺ごとしょっぴかれちまうから、怪しまれねーように、なんかこの状況に合わせて、良い感じに擬態とか演技とかしとけ」

「……擬態と……演技か……」

 

 銀時は小声で木箱に向かって囁いた。

 そのまま陽の当たらない路地裏に木箱を運ぶ。後ろに土方と沖田もついてくる。

 

「よし、開けるぞ……」

 

 銀時は木箱を地面に置き、縁に指をかける。

 扉がゆっくりと動き、ギィ……と、軋む音が路地裏に震える。古びた木の匂いがふわりと漂い、箱の中から冷たい空気が漏れ出す。

 その奥で、影がわずかに揺れた。

 

「おい、こりゃあ……」

 

 土方と沖田は目を瞠った。

 箱の中から、一人の()()()()()()が姿を現した。膝を抱えるように縮こまっていた身体は、暗がりの中で()()()()()ようにも見える。

 

「え……?」

 

 思っていた感じと違う状況と姿に、素っ頓狂な声を上げたのは銀時だ。

 

「いや巌勝くん。()()()()()()()()()()()()()って確かに俺言ったけど、それは場を誤魔化すほうであって、最悪の方向性には──」

「はい、未成年者略取及び監禁罪・誘拐罪で逮捕」

 

 カチャっと銀時の両手に手錠がかけられた。

 

「あと傷害罪もですぜ」

「それはおめーだろ!!」

 

 考え得る最悪の方向性で、銀時は捕まったのだった。 

 

 

*1
1話参照





少年巌勝は、兄弟がまだ一緒にいて純粋に兄上やってた頃くらいの姿です。
こっからなにかしらの新章に繋げたいところ。
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