侍の国においたわしい兄上殿を突っ込んだ話   作:あんまん太郎

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将軍暗殺篇~銀ノ魂篇ごちゃまぜ最終章
だから夜兎である俺が来た


 

 江戸の空は、今日に限って異様に重かった。

 陽光は江戸の町にはほとんど届かず、街全体が灰色の霧に包まれているような鬱屈とした空気さえある。

 

 天導衆が発端となって執り行われた、建前上の平和的協議。

 だが、誰もが薄々感じていた。天導衆が両派の重鎮を一堂に集めるなど、ただの話し合いで終わるはずがないと。

 良くも悪くも愚直である徳川茂茂はまだしも、腹の底では黒い策略を巡らせているであろう一橋派も、天導衆の動きを怪しく思いつつもこの場に乗じて何をしでかすか分からない。

 だからこそ、茂茂の周りを固めるのは、真選組と、密かに潜入した万事屋と御庭番衆の面々だ。

 地上の守りが江戸の実力者たちで固められる中──

 

 

 

 

 

 

 天人で構成されている銀河系最大のネットワークを有する犯罪シンジケート、宇宙海賊「春雨」とも呼ばれるその軍団がひしめく戦艦内部に──黒死牟は潜り込んでいた。

 本来ならば戦艦ごと宇宙を揺蕩っているはずの春雨だが、現在、12からなる師部を引き連れて地球に降りてきていたのだ。それが意味するのは──

 

(……なるほど…やはり朧の言う通り…宇宙海賊とやらもまた、虚の手に落ちていたらしいな……)

 

 元老と呼ばれる幹部たち。彼らは「春雨」の最高責任者として内部を管理・統括しているものの、数日前、それが秘密裏に天導衆に売り渡されたと朧から連絡があった。

 「春雨」の12師団の団長は、元老院に振り回される状況に反感を募らせている状況であり、それを危機とした元老院は秘密裏に天導衆と接触し、揺らぎかねない地盤を強化しようとしたのだろうが──虚の血を取り込んだ朧だからこそ把握できたことだが──それを利用して、元老院たちは虚の血を取り込まされており、もはや、彼らの自我はあってないようなものだろう。

 

()が宇宙に上がっていたのは…春雨と接触し…乗っ取る機会を狙っていたということか……)

 

 このまま降下すれば、会合が行われているであろう江戸城に接近することになる。

 ただでさえ江戸城には徳川派と一橋派で一触即発な空気があり、裏では天導衆と奈落が待ち構えている。そこに虚により乗っ取られた「春雨」が降りてくるというのは──虚が、江戸に戦争を仕掛けようとしているということ。

 都である江戸で戦争が起これば、もはや徳川も一橋も関係ない地獄絵図が広がるのは目に見えているし、たとえ真選組や万事屋などの実力者が揃っていたとしても、流石に春雨まで相手にするのは荷が重すぎる。

 

 そのため黒死牟は春雨の艦に襲撃を仕掛け、既に()()()()()()()()()

 突然の襲撃による混乱を巻き起こしたため、虚に知れることにはなるだろうが仕方がない。

 とにかく、主要な命令系統を断絶し、戦力も削ぎ落とせば、春雨もしばらくは動けないはずだった、が……。

 

(……思ったより艦の中にいる兵の()()()()()……。空の軍艦は…囮か……とすれば…既に春雨は…地上に潜伏しているやも…しれぬ……)

 

 朧に虚の動向を見張らせたかったところだが、虚の行方は天導衆も奈落も誰にも伝えられていないため、その所在は不明だ。

 

(虚……江戸を火の海にしたところで…地球を滅ぼすなどという大層な目的には遠く及ばぬだろうに……混乱の最中で、奴が何をするか──)

 

「あれ~? 見ない顔がいるなあ」

 

 思考をゆっくりと巡らせていると、背後から飄々とした調子の声がかかった。

 振り返ると、桃色の髪を三つ編みに結った美男子がいる。

 春雨は基本的に天人で構成されているが、師部ごとの関係性は非常に希薄で無関心だ。そのため、どんな異形がいようとも基本的に不審がられることはない。黒死牟も擬態を解いて平常の姿で潜り込んでいた、のだが……。

 

(夜兎族……。つまり…春雨の中でも異端とされる…第七師団……)

 

 透き通る世界を会得しているその目は、青年の異常な身体能力を一瞬で把握し、何者かを推測するに事足りた。師団長の一部も虚の血を取り込ませられていると聞いたが、どうやらこの男は違うようで、はっきりとした自我と闘気を感じる。

 

「私は新参者ゆえに…()()()殿の目にかからぬのも……当然かと…」

「ははは、そういう演技慣れてない感じ? 別にいいよ気取らなくて、アンタでしょ? この混乱起こしたの」

「……」

「こんな状況で落ち着いてる奴なんて、逆に異様だよ。まああと、()()()()から事前にアンタのこと聞いてたから、その見た目で一発で分かったよ」

「なるほど……()()()()()…盟でも結んでいたか……」

 

 第七師団は「春雨の雷槍」とも謳われるほど強者揃いで、夜兎族の者たちのみで構成されているという特徴があるが、団長であるこの()()という青年含めて問題行動が多い。だからこそ、虚の支配からも逃れられていたのかもしれない。

 そんな彼らがシンスケ──つまり()()()()と繋がっているということは、鬼兵隊も()()()()()()()はとっくに把握しているだろう。寧ろ、過激的な攘夷活動を行っている鬼兵隊は、この事態に乗っかって政府弾圧に向けて動いているかもしれない。

 

「残念だけど、シンスケはここにはいないよ。地上にいる俺の団員達と一緒に、現将軍に奇襲でも仕掛けてるんじゃないかな? ……元老のじーさんたちの様子が何か変だな~って俺がチクったら、シンスケに一旦こっち()に残ってみろって言われてよくわかんなかったけど……ノっといてよかったや」

「……」

 

 神威は黒死牟ににっこりと笑いかける。笑顔とは裏腹に、隠しきれない殺意と闘気が溢れ出ていた。

 現将軍への奇襲という神威の口ぶりからして、高杉率いる鬼兵隊は第七師団だけではなく一橋派とも繋がりがあるようだ。

 

「あの銀髪の侍を吉原で見た時から、地球の“侍”ってやつと一度ちゃんと戦ってみたかったんだよねー」

(……銀時と…面識があるという…ことか……)

 

 ぐわん、と艦隊が大きく揺れ動く。

 

 黒死牟は大きな気配がまた一つこの宇宙艦に入り込んだのを察した。

 黒死牟自体は単騎で乗り込んでいたものの、後からやってくる予定の()()()()に空の春雨残党を任せ、また、()()()を受け取るために、この春雨艦隊を待ち合わせ場所としたのだ。

 遠くから聞こえてくる悲鳴と轟音に、神威も何か乱入者の予感を察知したようだが、加勢に行く気はさらさらないようだ。

 

「まあ一度俺を処刑しようとした組織だし? 強い奴と戦えれば、春雨(ここ)がどうなろうとどうでもいいよ」

「なるほど……報復でもなく…血気盛んな戦士としての……いや……夜兎としての…強者との闘争本能か……いや、あるいは……──」

 

 黒死牟の言葉が終わる前に、神威の姿がふっと掻き消え──背後から鋭い風切り音が迫る。

 だが黒死牟は振り返りすらしない。刀をわずかに向けただけで、神威の番傘を正確に受け止めた。金属が噛み合うような硬い音が響く。

 神威は目を細めた。

 

「へぇ、反応するんだ、今の」

 

 逆に神威の体勢を崩すように刃を滑らせるが、神威は傘をくるりと回し、遊びの延長のようにその場から跳んで間合いを取り直した。

 

「じゃあもっと速くしてみようかな」

 

 神威の足元がふっと沈んだ。

 空気が弾けるような音とともにその姿が掻き消える。黒死牟は静かに刀を構え直し、わずかに首を傾けた。直後、神威の傘が黒死牟の側頭部を狙って振り抜かれた。黒死牟は表情を動かさないまま、冷静に刀を滑らせてそれを受け流す。

 艦ごと揺るがしかねない重い一撃を受け止められながらも、「いいねいいねえ!」と、神威は愉し気に笑いながら、さらに速度を上げ続けた。

 その動きは、もはや音だけが遅れてついてくるようだ。

 

「……速さのみで押し切れると…思うな……」

 

 黒死牟の身体が動いた。

 

 月の呼吸、弐ノ型・珠華ノ弄月(しゅかのろうげつ)

 

 鬼となった黒死牟の「月の呼吸」は、一般的な呼吸法と違いれっきとした「血鬼術」である。

 ひとたび刀を振るえば三日月の斬撃が生まれ、当たり判定が広くなるだけではなく、その斬撃の長さや大きさも月が満ち欠けするように不規則に変化する。

 

「!」

 

 宙に舞い、襲い来る月輪の三連撃に、神威も目を見張ったようだ。

 だが、流石は夜兎族の卓越した身体能力と若くして団長にまで上り詰めた才覚を持つ青年というべきか。その鋭い感覚を用い、大きく身を捻って避けた。

 神威が翻した衣服に、三日月の斬撃が裂傷をつくる。

 

「ははっ、そうそう! こういうの待ってたんだよ」

「そう焦るな……。着物を裂かれた程度では… 赤子でも死なぬ……」

 

 回避に徹したということは攻撃の流れを断ち切られたということだが、夜兎族が持つ番傘は単なる近接武器ではなく、仕込みマシンガンとしての側面も持つ。

 神威は宙で身を捻りながら番傘のトリガーを引いて銃弾を先端から吐き散らし、追撃の隙を与えない。

 

「よいしょっと!」

 

 弾丸をすべて吐き散らすと、そのまま用済みとばかりに得物である番傘を思い切り振りぬいて黒死牟に投げつけた。

 銃弾をいなしていた黒死牟も、これには刀で防御に徹した──その合間に神威は拳を固め、黒死牟との間合いを詰めて果敢に飛び込んできた。

 夜兎は武器がなくても、その身体能力こそが最大の武器。そもそも、複数の斬撃を飛ばしてくる相手に、距離を置いて戦うのは分が悪い。

 

 刀が膠着しているその間に渾身の一撃を叩き込もうとして──。

 単なる日本刀にいくつもの目が生えてきたその光景に、神威は表情を変えた。

 

 月の呼吸 伍ノ型・月魄災渦(げっぱくさいか)

 

「マジか~!」

 

 番傘を受け止めた刀は()()()()()()()()のに、周囲の空気がねじれ、見えない斬撃が奔る。

 

「振り抜かずに斬撃飛ばせるんだ? もしかして、地球の侍ってみんな()()だったりするの?」

「残念だが……この術(血鬼術)は私のみが扱える……」

「ちぇ、残念」

 

 軽口を叩きながらも、流石の神威も驚愕している様子だった。

 夜兎としての優れた直感が全身を叩きつけるような警告を発したのが功を期した。神威は拳を振るう前に地面を蹴り、身体を大きく反らした。そのすぐ頭上を、弧を描く斬撃が風を裂いて通り抜けた。

 視認できる月の軌跡が残り、遅れて衝撃波が神威の頬をかすめる。

 

「迫る死線を……夜兎族の感覚だけで…読み切るか……。どちらにせよできて良い芸当ではない…初見なり…面白い…」

 

 黒死牟の虚哭神去(きょこくかむさり)は無限城においても江戸城の一件でも紛失しているが、この刀の媒体は黒死牟の血肉である。つまり黒死牟が生きている限り何度でも鍛刀することができるのだが──

 

(やはり……多くの血と肉を喰らった頃と比べれば…些か威力は劣るか……)

 

 とはいえ、人体等を容易く斬断しかねないその威力はやはり脅威である。

 一方で、その迫り来る斬撃に集中する若き青年の瞳には、恐怖ではなく──「強者」と戦っているという高揚が宿っていた。

 黒死牟はその姿に──只管に強さを求め、鬼となっても上昇志向を失わず、上弦の壱(黒死牟)を超えるべく入れ替わりの血戦を挑み続けた上弦の参(猗窩座)を思い起こさせる。

 

 黒死牟の斬撃が空間に閃き、神威の拳が再び振りかぶられた──その瞬間だった。

 

 轟音。

 再び艦全体が揺れ、床が波打つように震えた。

 黒死牟も神威も、わずかに動きを止める。

 次の瞬間、天井をぶち破るようにして、巨大な影が戦場へと降り立った。

 

「……おいおい、また面倒なことしてんじゃねぇかバカ息子が」

 

 粉塵が晴れると、そこには、宇宙最強の掃除屋(エイリアンバスター)と名高い──星海坊主が立っていた。

 神威は一瞬だけ目を丸くしたが、「いいとこだったのになあ」と笑みを浮かべた。しかし、タイマンを邪魔されたためかその目は一切笑っておらず、その笑みから怒りと殺気すら滲み出るようだ。

 

「いいもクソもあるか。これ以上艦の中で暴れられりゃあ落ちるだろうが。それに……そいつはお前が遊び半分で触っていい相手じゃねぇよ」

 

 神威の殺気を軽く流した星海坊主の視線が、黒死牟へと向けられる。

 黒死牟は静かに星海坊主と神威を見やった。

 

「……娘のほかに…息子がいるとは聞いていたが……この若き…修羅のことであったか……似ておらぬ…」

「当たり前じゃん。こんな(ハゲ)に似たとなったら、もう将来最悪だよ。自害しちゃうかも」

「オイィ!! てめえどこを見て言ってやがる!!」

 

 神威がチラリとその頭部に視線を寄越したのを、星海坊主は見逃さなかった。

 星海坊主は怒り心頭のまま、手に持っていた細長い袋をあてつけのように黒死牟に投げつけてくる。

 中を見ずとも、袋越しから伝わる重厚感で、例のアルタナソードが中に入っていると分かった。

 

「コイツは俺が殺る。親父の片腕もいでくようなロクデナシの息子は、ちゃあんと親子喧嘩して親の俺が始末しねーとな」

「ロクに子供の面倒も見なかったロクデナシに父親ぶられてもなあ」

 

 空気が重く沈む。艦内の空気は、先ほどまでとは比べ物にならないほど張り詰めた。神威の口元が獣のように吊り上がるが、その瞳には嫌悪感がありありと見える。

 人間時代だったころ、実の両親とも息子とも、はたまた一方的な確執を抱えていた(縁壱)とすら喧嘩をしたことはついになかった。弟との最期の戦いはもはや圧倒的な格差があったし、もはや兄弟喧嘩とも呼べない、ただの鬼と鬼狩りの殺し合いだった。

 この二人の親子喧嘩がいきつく先がどうなるかは分からないが、それでも横槍を入れるべきではないということは分かる。

 

「……では…私は先に…降りさせてもらう……」

「そうしとけ。地球に配置されてた春雨のやつらが既に襲撃かけて、地上はてんやわんやだ。この隙に虚が何してくるかもわかんねえ」

「その…ようだな……」

 

 黒死牟は朧を通して地上の様子を視ていたため、よく分かった。

 地上へと潜伏していた大量の春雨軍は、将軍たちが会合を行っている江戸城に襲撃をかけており、天導衆もとい奈落もそれに呼応している。

 徳川派と御庭番衆、真選組、万事屋が迎撃しているのはもちろんだが──現将軍の暗殺を企てていたであろう一橋派と見廻組、そして鬼兵隊や第七師団もまた、春雨や天導衆の全勢力が敵味方も関係なく牙を剝いてきた事態に、徳川派と協力せざるを得ない状況になっているようだ。

 

 朧はこの混乱に乗じて、虚を探しているようだが──

 

(……)

 

 そうして朧の視界を垣間見た黒死牟は、眉をひそめた。

 

 ひとまず()()の元へと急行すべく、衝撃であけられた艦の穴から躍り出る。

 艦はかなり下降していたようで、地上との距離は大したものではなさそうだ。

 

「あーあ、行っちゃうの? まあいいや、このハゲ殺したら次はあんただから。地球で先に待ってなよ」

 

 出る直前に、そんな声が聞こえてくる。

 しかし数分後──この親子の激闘で艦隊が爆発し、地上に降りた親子は神楽という娘も巻き込み、兄妹喧嘩すらも引き起こす宇宙規模の家族喧嘩を繰り広げることになるのだった。

 

 





せっかく銀魂映画見たから、戦わせたかっただけですね。
映画本編は当然面白かったんですが、冒頭の……あれはもう…!!映画館みんな爆笑してて良かった。

・神威
高杉とは春雨関連のゴタゴタで原作通り同盟済み。第七師団だけ別行動で鬼兵隊と一橋派と繋がっていたので虚関連を回避していた感じ。
吉原で鳳仙を撃破した銀時を見てから”侍”と戦いたいと思っていたところに、高杉から地球にとんでもなく強い”侍”がいることを聞かされ、黒死牟と戦いたいと思っていた。
なんと、煉獄さんと中の人が同じ。

このあと星海坊主と戦ったりして、地上にいた神楽とも戦ったり阿伏兎たちも合流して、なんか色々あって超スピードで丸く収まり、奈落や春雨の残りをぶっつぶしたりしますよ
うにお願いします。


・星海坊主
虚を完全に殺す方法を調べるために宇宙に上がって情報収集をしていた黒死牟を、別案件の天人討伐対象と勘違いして喧嘩を売った。殺し合いになったけどなんだかんだいい感じに知り合いに収まる。
虚の話を聞いて江華のことを思い出し、アルタナ関連の話をしたり、協力も申し出ることにした。
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