家庭教師と友人A   作:灯火円

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第1話 出会い
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「よって答えはこうなる」

 

 夏休みが終わって新学期が始まり、そろそろ夏休み明けの浮ついた感じが消えた頃。

今日も変わらず学生らしく教科書を開き、教科担当が黒板に書いた問題を解きその答え合わせをしている。

 だが、この授業が終われば昼という時間。朝から真面目に登校し授業を受けている生徒達の集中力もそろそろタイムリミットを迎える頃。

 そして俺もまたそのひとり。

 そんな集中力の限界のタイミングで終了の鐘が鳴る。

 

「なら、ここまで」

 

 そう言って数学の教諭は教室を出て行くと教室は一気に賑やかになる。

 

「学食行こうぜ」

「今日は何するかな」

 

 昼休み、ほとんどが学食へと向かう人混みの中、俺は閉じた教科書を手にその流れに加わり学食へと向かう。

 その途中でとあるクラスを覗く。

 

「先に行ったみたいだな」

 

 それを確認した俺は今度こそ真っ直ぐに学食へと向かう。

 学食に来るとさらに賑やかさが増す。そんな中、学食を頼む為に列に並ぶ。

 

「焼き肉定食。焼き肉抜きで」

「なんだあいつ」

 

 並んでいる間に聞こえてきたとある注文の仕方に近くにいた男子生徒が首を傾げる。

 焼き肉定食なのに焼き肉を抜けば残るのはライスと味噌汁、そしてお新香。

 それは最早焼き肉定食ではなくただのご飯と味噌汁のセットだ。

 だが、この学食にはそう言ったセットは無い。あってもライスと味噌汁でそれぞれ単品のしか用意されていない。

 なら、それを別々に頼めばいいだけだと思うのだが、単品ずつ頼むと意外と高くつく。

 しかし、焼き肉定食の焼き肉抜きだと400円から焼き肉の200円を抜くと200円でこれらを頼める。

 目から鱗だ。

 ま、そんな細かい事に気付く人間はかなり稀だと思う。

 

「注文は?」

「あ、かき揚げそば」

 

 自分の注文をするとすぐにそれは提供された。

 蕎麦をゆで、温かい汁の入ったどんぶりに入れてあとはすでに揚がっているかき揚げを添えるだけのスピードメニュー。

 立ち食いそばが重宝されるのはこのスピード感だと俺は思う。けど、立ち食いそばなんて利用した事は無いのだけど。

 

「さてと。いつもの」

 

 かき揚げそばを受け取り席に向かう。

 別に決まった席なんてないが、大体いつも座る席は決まっている。

 

「私の方が先でした。隣の席が空いているので移ってください」

「ここは毎日俺達が座っている席だ。あんたが移れ」

 

 いつもの席に向かうとロングヘアで星の髪留めをしている女子生徒と先ほどの焼き肉抜きの焼き肉定食を頼んだ男子生徒もとい俺の長年の友人である上杉風太郎が言い合っていた。

 内容からして席の取り合いだが、彼女の言うとおり隣が空いているんだから隣でも良いじゃん。

 

「関係ありません。早い者勝ちです」

 

 たしかに早い者勝ちだよな。別に席なんて決まってないし。

 至極正論であると思っていると風太郎はドカッと席に座った。

 

「じゃあ、俺の方が早く座りました! はい、俺の席!」

 

 すると彼女もまた風太郎の前の席に座った。

 

「俺の席」

「椅子は空いていました。午前中はこの高校を見て回ったせいで足が限界なんです」

「だが、そこは」

「風太郎」

 

 正直、先ほどの光景を目にして風太郎に声を掛けたくなかったが、あまりにも風太郎の行動に思わず呆れて声が出てしまった。

 

「お、誠司来たか。すまん。席を取られ……って、お前なんでそっち座るんだ」

 

 こうなったら仕方ない。

 風太郎の友人Aとして風太郎と合流。だが、俺はその隣の席に座る。

 

「飯が食えればどこでも良いだろう。それに彼女、うちの生徒じゃないみたいだし。親切にしてやれよ」

 

 そう、女子生徒であるが彼女はうちの制服ではないものを着用している。

無断で侵入って訳でも無さそうだし、何かしらの理由でうちに用事があったのかもしれない。親切にして損はないはずだ。

 

「あ、すみません」

「あー、いいよ。そのままで。別に仲良くお喋りしながら食事する訳じゃないからさ」

 

 俺の姿を見た彼女は席を立とうとしたのを制止させた。

 

「俺との態度の差はなんだ」

「それは自業自得だ」

 

 この友人、いつからか残念なほどに人付き合いが下手になっていた。

 昔はもう少し出来てた気がするんだけどな。

 

「てか、昼休みの時間なくなるぞ。いただきます」

「お、そうだな。いただきます」

 

 その言葉に俺も風太郎も目の前の食事に手を付け始める。

 そして隣の彼女もまた「いただきます」と学食を食べ始める。

 だが、その彼女の手はすぐ止まる。

 

「行儀が悪いですよ」

 

 その言葉は風太郎に向けられた。その理由は単語帳を片手に食事をしているからだ。

 俺からしたらいつもの光景だが、確かに行儀が悪い。だが、それを注意した所で無意味なのも俺は知っている。

 

「テストの復習してるんだ。ほっといてくれ」

 

 その言葉通り、この間の答案用紙が机に置かれている。

 

「食事中に勉強なんて……よほど追い込まれているんですね」

「あ、いや風太郎は」

「何点だったんですか?」

「あ、おい」

 

 俺の言葉の前に彼女は風太郎の答案用紙を手に取る。

 

「見るな!」

 

 見るなって。お前さ。

 

「ええー、上杉風太郎くん。得点は……100点」

「あー! めっちゃ恥ずかしい!」

「俺はそんなお前が恥ずかしいよ」

 

 上杉風太郎。こいつの頭はかなり優秀。毎回テストでは100点というそんな人間いるのかよと思うがそんな人間が俺の友人。

 だが、少々難ありである。

 

「わざと見せましたね」

「なんのことだが」

「うぅ……悔しいですが勉強は得意ではないので羨ましいです」

 

 これまでのやり取りで風太郎を軽蔑してもおかしくないのに彼女は風太郎を羨ましいと言った。

随分と素直な子だな。

 

「そうです! 私、良い事思いつきました」

 

 両手をパンと叩き、まさにひらめきましたと言わんばかりの笑顔。

 

「せっかく相席になったんです。勉強、教えてくださいよ」

「ごちそうさまでした」

「はぁ」

 

 本当に難ありの性格だよ。風太郎。

 

「食べるの早っ お昼それぽっちでいいのですか? 私の分を少し」

 

 あぁ、ダメだよ。どこぞの学生さん。

 風太郎にその提案は。

 

「満腹だね。むしろあんたが頼みすぎなんだよ。太るぞ」

「ふとっ」

 

 うどんに海老天二つ、さらにイカ天、かしわ、さつまいも。さらにデザートのプリン。

風太郎からしたらこれほど豪華なものはないだろう。

 だけど、お前その発言は本当にダメだ。

 女子に向かってその言葉はダメだと俺でもわかるぞ。

 

「ん。メール。誠司。またな」

「あ、あぁ」

 

 正直、俺もとその場をあとにしたいが俺のかき揚げそばにはまだかき揚げが半分ほど鎮座している為、それは叶わない。

 

「あー、その、うちの校内ずっと回ってたならお腹も減るよな。俺も体育のあと腹の欲望のままに頼みがちだからさ」

「……」

 

 隣をチラリとみると顔を赤らめて顔を下に向けた彼女がいた。俺の発言は何もフォローにはなってない様子。

 

「そうだ。勉強の話。さっきのお詫びじゃないけどさ。俺が少し見ようか?」

「あなたがお詫びする事ではないと思いますが、けど、勉強を見てくれるのは助かるのでお願いしてもよろしいですか?」

 

 ようやく顔を上げてこちらを見てくれた彼女にひと安心。

 

「て、他校の子に教えるのはどうなんだ?」

 

 そもそも彼女はどうしてうちの学校に?という疑問が浮かぶがすぐに彼女からその答えが出る。

 

「あ、今日から転校してきたんです。午前は校内見学で午後から教室に」

「そういう事。なら問題ないか。えっと、あ、自己紹介しとくか。俺は長尾誠司」

「私は中野五月といいます。よろしくお願いします。長尾君」

 

 先ほどの喧嘩腰の態度とは一変、というかさっきのは風太郎の言動が原因で元はこっちが彼女の素なのかも知れない。

 

「あぁ、それと風太郎。さっきのあいつの事、気を悪くさせたのはごめん。あいつ、どうも人付き合いが下手でさ」

「あなた、長尾君とは上手くやってるみたいですが?」

「俺は付き合い長いから。一応小学校からの腐れ縁」

「なるほど」

「けど、本当に人付き合いが下手なだけだから。あいつはあいつで良い所あるから」

 

 腐れ縁な友人だが、やっぱり俺としては悪い印象を抱いてほしくなくてフォローしてみるが、初対面であの態度を取られたらそう簡単に印象は変わらないだろうな。

実際、今も彼女は「本当ですか?」と信じられないという視線で俺を見ている。

 

「とりあえず、さっそく飯食べたら勉強するか? 数学で良いなら教科書がある」

 

 俺は持ってきた教科書を広げる。

 

「長尾君も食べながら勉強するつもりだったんですか?」

「俺はしっかり食べ終わってからやるタイプ。飯はしっかり食べたいからな」

「そうですか」

 

 そうして俺達は昼飯をしっかり食べ終わってから軽く勉強を見て昼休みを終えた。

 

 

「得意ではないとは言ったが」

 

 自分の教室に戻ってきて先ほどの彼女との勉強会を思い出す。

 得意ではないと公言はしていたが、その得意ではないのレベルがかなりアレな事を知った。

 

「数学が苦手ってだけかもな」

 

 少し勉強を見るって話しはあれで終わりだろうけど、さすがにあれだとあの時間だけでどうにか出来そうにもない。

 だからといってまた勉強を見るというのはおこがましい気もするしな。

 

「皆さん、静かに。転校生を紹介します」

「お」

 

 そういえば、俺の隣に今朝から空き机が増えてたな。

 つまり、彼女はうちのクラスって訳か。

 とりあえず、本人から申し出あったらまた勉強を。

 

「入ってきて」

「失礼しまーす」

「ん?」

 

 入って来た生徒は先ほどの制服と同じ。だが、あの目立つ星の髪留めはなく髪も肩にも掛からない短さ。そして耳にはピアス。

 

「中野一花です。よろしくお願いします」

「中野……」

 

 同じ名字。そして顔も似ている。これでロングヘアだったら間違いなく判別できない。

 

「女子だ」

「可愛い」

「あの制服、黒薔薇女子だよね?」

「金持ち学校か」

 

 ざわざわする教室、俺は別の意味でざわざわしている。

 てっきり転校生は中野五月かと思っていたからこれは予想外。

 それも名字も同じ、顔もそっくり。

 

「席はあそこ。近くの席の子達に困ったら聞いてね」

「はーい」

 

 笑顔で答える彼女、その笑顔にまた可愛いという声が聞こえてくる。

 そんな彼女、中野一花さんは俺の隣の席へ。

 

「それじゃ、今日は」

 

 授業が始まる。俺はというと二人の中野という女子生徒について考えを巡らせていた。

 そりゃそうだろ。

 昼休みにあった転校生だと言った彼女ではない人物が俺のクラスに来た訳で。

それも同じ名字に似た顔。偶然ではないだろうからやっぱり姉妹。

 昼休みにあった彼女は同学年ではなかった?

 いや、勉強を教える際にそこはきちんと確認した。つまり。

 

「ねぇ」

「ん?」

 

 肩を突かれる感覚と俺に向けられたであろう呼びかけに思考を一度中断するといつの間にか隣の彼女と視線がぶつかっていた。

 

「そんな熱い視線向けられるとお姉さん困っちゃうな。なに? 私を狙ってる?」

「あー、ごめん。てか、お姉さんって」

 

 彼女の言うとおり、俺は二人の中野について考えてたのもあって無意識に彼女をガン見していたようだ。

 誰しもジロジロと見られるのは嫌だろう。素直に謝罪したが、どう考えても俺をからかうような発言には軽く俺はスルーする。

 

「ま、転校生ってどうしても興味引くしね。それに見られるのは慣れてる方だから」

「そうなのか? てか、だいぶフランクだな」

 

 転校初日、さらに初対面なのに気軽に俺に声を掛けてくる彼女。

 風太郎ほどではないが、だからといってそこまで積極的に人付き合いをする性格じゃない為、そんな彼女を素直に羨ましいと思った。

 

「お隣さんだし仲良くなって損はないし。君、えっと」

「あ、長尾だ。長尾誠司。中野さんの言うとおり、仲良くしてた方が良いしな。よろしく」

 

 俺は彼女の名前を知ったが、彼女はまだ俺の名前を知らない。

 隣の席なら今後話す機会もあるだろうと俺は自己紹介をする。

 

「うん、よろしくね。セージ君」

「あ、あぁ」

 

 自己紹介してすぐに下の名前で呼ぶって。人付き合いが上手い人はそうなのか?

 てか、なんか周りの視線が痛い事に気付く。

 いや、そりゃ転校生だもんな。皆が気になるのは当然。

 だけど、これは偶然俺の隣の席に来たからだからな。

 この性格だったら俺じゃなくても声掛けられてるから。だから落ち着け、俺のクラスの男子達。

 そうして授業が終わると早速彼女の周りをクラスメイトが囲んだ。

俺はというと避難するように教室を出てトイレへと向かった。

 

「誠司! 大変だ!」

「うわ、風太郎。ちょっと待ってくれ」

 

 用を済ませ。手を洗っていると風太郎が慌ただしく俺に声を掛けてきた。

とりあえず手を拭き、風太郎の話しを聞く。

 

「つまり、昼休みにお前が失礼な発言をした転校生の中野五月さんがお前のクラスに転入してきた。そしてその子の家庭教師のバイトをする事になったと」

「あぁ、そうだ。てか、お前、名前知ってたのか」

「どっかの誰かさんが空気悪くしたおかげでね」

「なんかとげとげしいぞ」

 

 あの時の空気は間違いなくお前が原因だからな。

 てか、風太郎のクラスか。さぞ、互いに見掛けた時は気まずい空気だったろう。

 

「んで? 受けるのか? そのバイト。いや、受けるから困ってるんだろうけど」

「あ、あぁ。なにせ相場の五倍だぞ? 逃す訳にはいかん」

「なるほどね」

 

 バイトならいくらでもある。断れば接点もなくなるのに風太郎がこうも必死になるのはそういう理由か。

 しかし、相場の五倍って。そこまでして家庭教師を付けたいって事はやっぱりあまり成績はよろしくないのか?

 それともめちゃくちゃスパルタな教育熱心な親御さんなのか。

 

「てか、仲良くなったならすまんが誠司が取り合って」

「いや、その前に自分でどうにかしろよ。自分で蒔いた種だろ」

「こんな事になると思わなかったんだ!」

 

 そりゃ、同級生。それも転校してきた初対面の子の家庭教師やるとは思わないけど。

 その前に風太郎が失礼な態度取らなかったら今頃こんなに悩まずスムーズに家庭教師やれたはず。

 実際、彼女から勉強を教えて欲しいと言ってきた訳だし。

 

「とりあえず、今日はもう無理だ。放課後俺はバイトがある。そんな時間はない。同じクラスならまずは自分でどうにかしろ」

「くっ」

「お前の良い所は諦めずに努力する事だ。ほら、俺と話している間にチャンスがつぶれるぞ。教室に戻れ」

「わかった。どうにかしてやる」

 

 そして風太郎は決心したのか教室へと戻って行った。

 

「そうそう。お前の長所はそれだ」

 

 風太郎を見送って俺も教室に戻ると見事に俺の席までの道は塞がれていた。

 

「長尾。さっき転校生と何話してたんだ?」

「お前、口説いて」

「何言ってんだよ。ちょっと名前教えて話しただけだ」

 

 俺を挟むようにして隣に来たのは浅井と朝倉。

 朝倉の発言を遮るように俺は否定しながら囲まれている彼女を離れた所から見る。

 質問攻めにあっているだろうに嫌な顔ひとつせずに笑顔で話している。

 そうしてその状況は鐘が鳴りはじめても戻る気配がない。

 これじゃ、俺が戻れない。

 仕方ない。

 

「おーい」

「みんなもう席に戻ろう。ほら、長尾君が困ってる」

 

 俺が囲んでいる連中に声を掛ける前に注意してくれたのは武田。

 すると武田は俺に向けてウィンクをしてきて俺の背筋がぞわっとする。

 とりあえず、これでようやく俺の席までの道が出来、俺は席へと戻る。

 

「ごめんね。私のせいで戻って来れなかったよね」

「別にいいって。そっちもお疲れさん」

 

 まだしばらく大変だろうけど、頑張れという意味も込めて俺は隣の中野さんに労いの言葉を掛ける。

 そうしてこの日の授業が全部終わって放課後、生徒それぞれがまた賑やかに会話を交わしている中、俺は風太郎に言った通りバイトがあるのでさっさと教室を出ようとカバンを背負う。

 

「また明日。セージ君」

「ん、あぁ。またな。中野さん」

 

 お隣さんが律儀にも挨拶したので俺もまたそれに返して今度こそ教室をあとにする。

 




今年、今更五等分の花嫁を読破しとある子にやられてしまい衝動的に書き始めたハーメルンど素人の筆者です。
温かく見守ってくだされば幸いです。
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