家庭教師と友人A   作:灯火円

101 / 135
19-3

「お待たせ」

「悪い。少し遅刻した」

 

 教室に入るとすでに俺達を除いた五人が揃っていた。

 一花もあの後、無事にやり過ごせていたようで良かった。

 そういや、結局五月の方行けてなかったけど。

 俺は五月の様子を伺うと持ち寄った屋台の物に目を輝かせている。

 とりあえず、いつも通りだな。

 

「これで本当に全員集合だ」

「なぜ、呼び出したのですか?」

「わざわざ学園祭中に呼び出さなくても良いのに」

 

 風太郎の言葉に五月は改めて集められた事に首を傾げる。

 二乃は口ではああは言っているがどこか楽しそうだ。

 

「でも、やっぱこの感じが落ち着くよね」

「確かにそうだね」

 

 四葉の言葉に頷く一花が一番この雰囲気を懐かしんでいる様子。

 

「せっかくだし食べよっか」

 

 そして三玖の言葉を皮切りにわいわいと買ってきたものに手を付け始める五つ子。

 それを眺めている風太郎。

 

「俺はお前たち五人が好きだ」

 

 いきなりの告白に二乃は口に含んでいたものを吹き出すし三玖は固まる。

 四葉は目を丸くしている。

 五つ子全員の視線が風太郎に向けられている。

 

「え……どういう意味ですか?」

 

 五月が問いたくなる気持ちもわかる。

 

「いきなり来たね。というかフータロー君、私とか関係ないよね?」

 

 風太郎に告白したのは今のところ、俺が知る限りでは二乃と三玖。

 一花の言う通り、返事をするならこの二人に対してだけでいい。

 なのに風太郎はわざわざ五つ子、そして俺の前でそれを宣言する意図が見えない。

 

「この七人でずっとこのままの関係でいられたらと願ってる」

 

 俺は窓際に立って黙って風太郎の真意を聞く。

 

「だが、答えを出さなければいけないと思う」

 

 その風太郎の言葉に緊張する二乃と三玖、そして四葉も動揺しているのがわかる。

 

「フータロー、いいよ」

「そうか」

 

 そして風太郎の言葉を待つ俺を含めた六人。

 

「とはいえ、こんな祭の最中に言うほど俺も野暮じゃない。俺も俺で整理しきれていないからな」

「おい」

「最終日まで時間をくれ」

 

 その答えに拍子抜けする三玖と二乃。

 二乃に関しては文句をもらす。

 そりゃそうだ。一番に告白して長い間待たされているんだからな。

 

「じゃあ、気を取り直して乾杯しますか」

 

 一花が仕切り直しと飲み物を取る。そして各々好きな飲み物を手にしていく中、五月が風太郎に近寄り、何か話している。

 風太郎は覚悟を決めた。最終日には答えが出る。

 俺もあまり引き延ばすのもあれか。

 

「はい、セージ君」

「ん」

 

 眺めていると一花が俺に飲み物を持ってきてそれを受け取る。

 

「それじゃ」

 

 全員に飲み物が行き渡ったのを確認し、俺達は学園祭初日を無事終えた事に乾杯する。

 

「しかし、五人が好きって。浮気男の台詞だったね」

 

 先ほどの風太郎の告白、一花の言う通り他人から見たらひどい告白だ。

 

「けど、風太郎の本心だろ。これまで恋愛なんて邪魔だと思っていた男が気付いた気持ちなんだ。あんまからかうなよ」

「わかってる。それにきちんと答え出そうとしてくれてるしね」

 

 最終日までには風太郎は答えを出す。

 そう宣言したのならそれを実行するはずだ。

 

「さて、私はそろそろ行かないと」

 

 時間的にもう一花はタイムリミットらしく帰る準備を始める。

 

「一花」

「んー?」

 

 俺の方を振り返る一花に俺は真っ直ぐな視線を向ける。

 

「俺も……最終日に答え出すから」

「え」

 

 さっき以上の驚きの表情を見せる一花。

 俺は照れくさくなり外へと視線を向ける。

 

「ん?」

 

 その視線の先に見えたのはひげ面の男性で仏みたいな顔。

 

「まさかっ」

「誠司?」

「セージ君?!」

 

 勢いよく教室を出ようとする俺に風太郎や一花ももちろん全員が何事かと視線を向ける。

 

「悪い! 用事思い出した。風太郎、一花をきちんとタクシーまで乗せろよ!」

「それはお前が」

 

 風太郎の言葉を最後まで聞かず俺は急いで外に出る。

 

「くそ、どこ行った」

 

 確証はない。

 でも、仏みたいな顔の男。

 あれが五つ子の実父の可能性がある。

 俺は校舎を出てさっきの人物がいた辺りを探すが、それらしい姿はない。

 しばらく学校を回ってみたが見つからなかった。

 

「くそ、こんな事なら写真か何か見せてもらうんだった」

 

 俺だとどうしても確信がない。

 そもそも仏みたいな顔って大雑把すぎるだろ。

 

「あ、誠司くんだ」

「え」

 

 俺の名前を呼ぶ声に振り返るとらいはちゃんと勇也さんがいた。

 二人はもう帰る様子。

 

「かっこよかったよ! 女王の腹心」

「げ、見てたの?」

 

 らいはちゃんは俺の殺陣の様子を真似するかのように剣を振るう仕草を見せる。

 

「結構、盛況だったぜ。四葉ちゃんの女王様と誠司の腹心。その後、あの役の人は誰だって周りの女の子達が騒いでた」

 

 勇也さんは俺の背中をバシバシ叩いて「モテ男だな」と茶化すがこっちとしてはそれで予定外の行動になってしまって素直に喜べない。

 

「ところで、変なおっさん見なかったか? 上下反対にしても顔になりそうなおっさん」

 

 勇也さんの声が低くなる。

 母さんと下田さんが気にしている。

 この二人の共通点は同級生。となると。

 

「あいつらの実父ですね」

「知ってたのか」

「母さんや下田さんから五つ子の事、気をつけて見るように言われて。理由聞いたら」

「そうか」

「お父さん、ずっと聞いて回ってたんだから」

 

 勇也さんも気にしているって。どんだけアレなんだよ。あいつらの実父は。

 

「そうだ。それらしい人を見掛けたんです」

「!」

「でも、俺はその人の事見た事も無いから確証なくて。それに遠くからだったし。俺、もう少し探して」

「いや、お前は学園祭の方に集中しろ。せっかくの高校最後の学園祭なんだ」

「でも」

 

 すると勇也さんは俺の肩に手を置く。

 

「とにかく、今日はもう気にすんな。一般客はもう帰る時間だしな」

 

 確かに外部への開放時間はもうすぐ終わる。

 

「……わかりました。気をつけて」

「またね。誠司くん」

「悪いな。お前にまで余計な頼み事して」

「いえ」

 

 そして俺は二人を見送り、校舎へと戻る。

 だが、その途中で異臭がした。

 

「焦げ臭い」

 

 その匂いは屋台が集中している方から。

 嫌な予感がして俺はそっちへと向かうと火が上がっていた。

 

「近づかないで!」

「消化器! 早く!」

「今、取りに行ってる!」

 

 火元に着くとそれは俺らのクラスのたこ焼き屋から火が上がっていた。

 消火器はまだ到着していない。

 このまま黙って見てたら燃え移る。

 

「水掛けりゃいいんだろ!」

「前田君! そんなペットボトルの水じゃ」

 

 男子連中の会話に俺は首に掛けていたタオルを握る。

 

「前田! その水貸せ!」

「長尾。あ、あぁ」

 

 前田からペットボトルを受け取りタオルに掛ける。

 

「な、火はあっちだぞ!」

「これでいいんだよ! お前ら! タオルを濡らせ! けど、あんま水分含ませすぎるな! 濡らしたタオルは火元に被せろ!」

 

 俺は見本を見せるように火元へと近づく。

 

「ちょ、あんた。何しようとしてんのよ」

「セージ! 危ないよ!」

 

 二乃と三玖の声が聞こえたがそれよりも目の前の火だ。

 空気を遮断すれば火は落ち着く、濡れたタオルを被せればその状態になるはず。

 

「あっつ」

 

 火元にタオルを被せると少しだけ火の勢いが収まる。

 それを見た前田を含めた男連中が真似て濡れタオルを被せていく。

 

「消火器! 持ってきたぞ!」

「風太郎!」

 

 待ちかねた消火器を風太郎が持ってきてどうにかボヤ程度で済んだ。

 けど、ボヤといっても火事を起こした以上、明日以降も続けられる可能性はかなり低いだろう。

 

 

「はぁ」

「お疲れ。風太郎」

「誠司。まだ残ってたのか」

 

 職員室から出てきた風太郎は肩を落とし、息を吐いていた。

 

「たこ焼き屋は出店停止だ」

「だろうな。悪い」

「誠司が謝る事じゃない。俺もきちんと見てなかったし、これはみんなの不注意だ」

「とりあえず、クラスの連中には知らせておく」

 

 俺はクラスのグループにメッセージを送り、風太郎と一緒に学校をあとにする。

 

「初日から波乱だ」

「そうだな。風太郎の告白もあったりもしたしな」

「……お前には見届けてほしいと思ったんだ。ずっと俺を見てきたお前には」

「思えば、小学校からずっとだもんな」

 

 きちんとした繋がりはあの京都。そこから中学、高校と何だかんだ来てしまった。

 

「答え、きちんと出すんだな?」

「正直、まだ自分の気持ちがわからないってのが本音だ」

 

 慣れた帰り道、でも、どこか騒がしいのは学園祭で浮かれている生徒達がまだちらほらいるみたいだ。

 

「……誠司。選ばないって答えはありだと思うか」

「ない」

「即答だな」

「選ばないってのはお前があの五つ子の誰にもそういう感情を抱いてない場合だけだ。そういう気持ちが全くないならこんなに悩んでないだろ」

 

 でも、そうじゃない。

 風太郎は自分の気持ちがわからないとは言うけど、まったく脈がないなら悩む事なんてないんだよ。

 それこそ去年みたく恋愛なんてとボロクソに言ってたはず。

 

「気持ちから逃げる言い訳に選ばないっていう選択を使うな」

「手厳しいな」

「お前は難しく考えすぎ。単純にさ。風太郎が誰と居たら嬉しいと思うか」

「ふっ」

「笑うところか?」

 

 俺は笑い話なんてしたつもりはないのだが、風太郎は口元を隠し笑っている。

 

「いや、違う。一花にも似たような事言われたんだ」

「は?」

「タクシーまで送る時にな。一花がもしかしたら来れなくなるかもだから答えを聞きたいって言われてな」

 

 今日も急に仕事空いたから来たみたいだしその逆もあり得るか。

 いや、それだと困るんだけど。最終日に俺も答え出すって言ったし。

 

「選ばないって伝えたら、素直な気持ちを大切にしろって。んで……その」

「ん?」

 

 今度は照れた様子の風太郎。

 なんかこの短い時間に色々な表情見せるな。

 

「キスされて……誰が嬉しいかって」

 

 一花のやつ、俺より具体的過ぎだろう。

 でも、選ばないって答えた風太郎の為にきっかけを与えたのかもだけど。

 

「んで? 風太郎の頭に過ぎった子がいたわけだ」

「なっ」

 

 なんだよ。選ばないなんて言う割にはきちんと居るんじゃないか。

 

「風太郎」

 

 俺は風太郎の心臓に向けて拳を向ける。

 

「目をそらすな。ひとつの答えがきちんとお前の中にあるって俺は思う。だから、その答えと向き合え」

「……誠司」

 

 そしてその拳を俺自身の胸に向ける。

 

「俺も向き合うからさ」

「……それって」

「さーて、明日も頑張ろうな。学級長」

「あ、おい!」

 

 波乱の初日が終わり、そして学園祭二日目を迎える。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。