家庭教師と友人A   作:灯火円

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「見つけられないか」

 

 北条さんの写真で写っていた周辺を探してみたが、その姿は見つけられず。

 聞き込みするか?

 いや、あっちにこちらが探しているのを悟られる方が厄介だ。

 

「とりあえず、戻るか」

 

 一応、店番している時間帯だしな。

 俺は諦めて店へと戻る。

 

「なぁ、お前の所のたこ焼き屋ダメになったんだって?」

「あぁ、だからやることねえんだよ」

「なんだよ。たこ焼き食いに来いってうるさかったのに」

「仕方ねえだろ」

 

 店へと戻る途中で見かけたのはクラスのやつ。

 パンケーキ班に対抗心強く持っていた中心人物の一人だ。

 

「んじゃ、何食うかな」

「あー、そういや、パンケーキがなんかすごいとか聞いたぞ」

「へー、出店でパンケーキとか珍しいな。ちょっと行ってみるか」

「……俺は他の買ってくるからあとで合流しようぜ」

「わかった」

 

 なんだよ。

 色々言ってたのに。

 でも、やっぱりまだ諦めなくてもいいのかもしれない。

 俺は少しだけ足取り軽く店へと戻る。

 

「長尾君、すごいです。長尾君の呼び込み効果絶大です」

「あー」

 

 戻ると列はさらに長くなっていた。

 けど、これは俺の呼び込み効果ではない。

 

「セージ」

「三玖、もう大丈夫か?」

「うん」

 

 顔色も悪くはなさそうだ。

 とりあえず、三玖の方は大丈夫か。

 

「三玖、相談がある」

「ん?」

 

 俺は三玖に男子と女子の説得について話をする。

 

「今日は間に合わなくてもせめて最終日にはクラスが分裂している状況をどうにかしたい」

「セージ、なんで私? 私よりセージの方が」

「どっちつかずに両陣営手伝ってたのがここに来て響いてな」

 

 男女共々、返ってきた反応を思い出すとさすがに俺も少し心が折れそうになる。

 

「中立ならきちんと中立でいるべきだったんだ。なのにあっちにもこっちにもいい顔してた」

 

 俺としてはそんなつもりはなくて、同時出店の発案者だから両陣営に関わったつもりが逆に両陣営から不信感を抱かせた結果になってる。

 

「昨日、三玖が橋渡しをしようとしてくれたのは聞いた。結果的にできなかったかもしれないが、それは無駄になってなんかいないと思う。だから、三玖に頼みたい」

「……」

「それに言いたい事、我慢するのはしんどいぞ?」

「……そうだね」

「悪いな。頼る形になって」

 

 以前なら俺は三玖にこんな事を頼まなかっただろう。

 だけど、この約一年間で彼女は変わった。俺が頼るくらいに。

 

「ううん。普段は私がセージを頼ってるから」

 

 俺はあまり頼られた覚えないけどな。

 でも、力強い眼差しに俺はどうにかなる気がした。

 こういう目をした時の中野姉妹は強いからな。

 

 そして昼になって俺はようやく自由の時間となってカメラを持って歩きながら写真を撮っていく。そしてそれと平行して例の人物の姿がないか注意深く見て回る。

 

「い、言わないでください!」

「ん? 四葉?……まさか」

 

 その声があまりにも必死なもので俺は例の人物と接触したのではとその声の方へと駆け出す。

 

「て、竹林かよ」

「ん? 誠司」

「長尾さん」

 

 四葉の前にいたのは竹林だった。

 

「お前、またなんかちょっかい出したのか?」

「何その言い方。私はちょっと確認してただけ。京都の子がどんな子か」

「あー、そういや風太郎が写真アホほど見せてたな」

 

 勉強を教えるきっかけとなった子だとあの頃はよく写真を見せて話してたもんな。

 

「他人事みたいに。誠司だって京都の女の子に会ってから変わったくせに」

「は?」

「勉強もそうだけど、なんかやたら写真撮るようになってたし。今だってカメラ持ってる」

「うっ」

 

 確かに俺がカメラに興味持ち始めたのはこの頃から。

 それは一花の言葉がきっかけなのは間違いない。

 

「この子の影響でしょ?」

 

 竹林は四葉へと視線をまた戻す。

 京都の子と言ったらあの写真の子だもんな。

 実際俺も少し前まで四葉だと思ってたわけだし。

 

「残念だけど、四葉じゃない」

「え、でも写真の子ってこの子だよね」

「お前……よくわかったな」

 

 写真の子が誰かなのか俺は結局自力では見つけられなかったってのに。

 

「さっき、二乃ちゃんと五月ちゃんに京都の事少し聞いたからね」

 

 何だかんだあの後、二人と色々と話したのか。

 

「となると、他の五つ子ちゃんの誰か」

「俺の事はどうでもいいだろ。それより四葉に何言った?」

 

 四葉の顔色が悪い。それはただの体調不良だけじゃない。

 今の四葉の表情は怯えている。

 この顔をする時、必ず六年前の事が関係している。

 

「な、長尾さん。別に彼女は」

「……自分は無意味で必要ない人間だと。同じような事を言ってた人を知っています」

 

 竹林は俺を無視するように四葉へと語りかける。

 

「そして、その人は今、前を向いて歩き始めています」

 

 いきなり何の話をと思ってたがこの話って。

 自分は無意味で必要ない。

 そう語ったやつを俺も知っている。

 

「あなたも過去から踏み出せますように」

「竹林」

「ごめんね。なんか五つ子ちゃん達にとって私は印象色々悪いみたい」

 

 そりゃ、風太郎の初恋相手。

 んで二乃と三玖、四葉に関しては現在進行形で風太郎に好意を抱いているからな。

 

「つーか、わざとやってる部分もあったろ?」

「えー、なんのこと?」

「はぁ」

 

 絶対わざとだ。

 そういや、学級委員のイメージばっか残ってたけど竹林って結構こういう所あったかも。

 

「でも、私は五つ子ちゃんに会えて良かったよ。風太郎や誠司を変えてくれた子達だから。ま、誠司の言う六年前の彼女が誰か気になるけど」

 

 一花が今日この場にいなくてよかった。

 絶対一花にも何か余計な事言いそうだし。

 

「ありがとうございます。風太郎と誠司に会ってくれて」

「!」

 

 竹林は四葉にそう言った。

 四葉にとってあの過去の出会いは苦く苦しいものになっているかもしれない。

 でも、その出会いに感謝している人もいることを竹林の言葉で気付いてくれたら良いと俺は思う。

 

「それじゃ、今度こそ私は退散するね。風太郎によろしく言っておいて」

 

 竹林は満足した様子で校門の方へと向かって行った。

 

「嵐が去ったか……四葉、大丈夫か?」

「え、あー、大丈夫です!」

 

 空元気のように見えるな。

 

「さて、私はもうひと仕事してきますね」

「四葉、お前」

 

 いつものように次の仕事へと行こうとする四葉。

 顔色も良くない。俺は引き止めようとするがその前に四葉の体が傾く。

 

「四葉!?」

 

 俺は咄嗟に四葉の体を支える。

 支える事は出来たが、腕に四葉の全体重が掛かっているのがわかる。

 

「意識、ない。おい! 四葉! すみません! 先生呼んできてください!」

 

 俺は急いで近くの人に先生を呼んでくるように伝える。

 そしてその間も俺は四葉へと声をかけ続けるが、病院に運ばれても四葉の意識は戻ることはなかった。

 

 

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