家庭教師と友人A   作:灯火円

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19-10

『これにて、旭高校学園祭、後夜祭。全てのスケジュールを終了となります』

 

 後夜祭の終わりを知らせるアナウンスが掛かる。

 

「さて」

 

 俺はとある教室の前まで立ち止まる。

 そしてポケットにしまっていた五月からのメモをもう一度広げる。

 

「あいつ」

 

 俺はそのメモを握りしめて教室に入る。

 そして外にいる彼女を見つける。

 彼女は月を眺めていた。

 

「待たせたな」

「……え」

 

 視線が月から俺に向けられると俺の姿を見て一花は驚いた表情をする。

 

「ええー? なんでここに来てるのさ。セージ君」

「は?」

「あ、さては行き先を間違えちゃった? 五月ちゃんからもらったメモ無くしちゃった? ダメだな」

 

 お姉さんモードで俺に接する一花に俺は少しムッとした。

 

「無くしてねえよ」

「それじゃ、見間違えちゃったかな。もしくは、もう会った後かな? 君は優しいから私の」

「一花!」

「……なに?」

 

 俺はさっき握りしめたメモを一花の前に突き出す。

 

「見間違えてもないし、俺はここにしか来てない。一花に会いに来たんだ」

「……なに言ってるの? そんな訳ないじゃん」

「俺はお前の告白の答えを言いに来たんだ。なのになんだ?! このメモ。一花が待っている場所はわかる。なんで四葉の場所も書いてんだよ!」

 

 渡されたメモ。

 そこには一花の場所だけでなく四葉が待っている場所も書かれてあった。

 何で告白してきた人以外の場所を書いてる意味が俺にはわからなかった。

 

「それは、君の本当に好きな人の場所に行ってもらう為に」

「は?」

「もう、私に気を使わなくていいんだよ。ほら、早く四葉の所に行こう」

「おま、ちょ」

 

 一花は強引に教室へと押し戻しそのまま四葉の所へと行かせようとする。俺は俺の背中を押す一花の方へと振り返りその手を掴む。

 

「俺は一花に会いに来たんだ! 俺の好きな人は一花だ!」

「……」

 

 俺は告白の返事をしたというのに一花は少しも嬉しそうにしない。

 

「だからさ。なに言ってるの?」

「なにって」

「わけわかんないっ! 意味わかんない!! なんで私なの!? なんで!! セージ君、おかしいよ!」

「おかしいのはお前だろ! そもそもなんで四葉が出てくる?!」

 

 俺に告白してきたの一花だけ。

 その返事をするためなのにいきなり四葉が出てきて、四葉が俺の本当の好きな人って意味分かんねえのは俺の台詞だっての。

 

「だって! セージ君の初恋の子でしょ。四葉は」

「初恋って」

「私、しっかり聞いちゃったんだもん。セージ君がそう言ったの。あれは聞き間違いじゃないよ!」

「俺がいつ……あー」

 

 俺の記憶の中にそんな言葉を確かに発した場面があった。

 京都の子が四葉であると発覚したその日の夜だ。

 五月を見送った時に何気なく発した言葉だったけど、一花に聞かれてたのか。

 

「ほら、やっぱり」

「一花」

「なに?」

 

 俺は出来るだけ落ち着いた声で一花に問いかける。

 

「これまでの俺の話を忘れたのか?」

「セージ君の話は忘れた事ないよ」

 

 いいや、忘れてる。

 それとも自分がその可能性に入ってないと思ってるのか?

 

「俺にとって、京都の子は旅館の子だ」

「っ……今は」

「つまり、初恋の子も旅館の子」

「……へ?」

 

 ここまで言ってようやく一花は気付いた様子で顔を紅くする。

 

「でも、あの時は確かに」

「あの時は京都で会った子は四葉だけだって思ったからな。自然とそういう答えに行き着く」

「……あ」

 

 ようやく勘違いだと気付いたか。

 しかし、なんで一花とはこう要らぬ勘違いですれ違ってばかりなんだ?

 でも、ある意味俺達らしいのかも。

 

「それとだ。初恋関係なく。俺は一花に惹かれてた」

「え」

「一花は出会ってからずっと夢や自分自身の為に頑張ってきた。それが眩しくてちょっと憧れで」

 

 俺が失ったものを見せられているような気がした。

 

「でも、本当は不安なことを考えると弱気で時にはわけわからん行動に出る」

「だから! 止めときなよ!」

「あ?」

 

 まだまだ語ろうとしていた俺の言葉を遮る一花の言葉に俺は思わ眉を顰める。

 

「自分の為に頑張っているって言ってくれたけど、出来てないよ。私はみんなより弱くてずるい」

 

 それは一花が前々から言っている暴走のことを指しているのかもしれない。

 

「そういう私は君を不幸にしかしないからさ。止めときなって」

「……勝手に決めつけるなよ」

 

 なんでこうなるかな。

 俺はそう思いつつ、やっぱり一花には言葉としてしっかり伝えなきゃダメなのだと再認識した。

 

「セージ君?」

「俺はな。一花の言葉で前に進めたんだ。それは六年前のあの時だけじゃない。初恋の子だと知らず再会して過ごしたこの一年で一花は俺にいくつものきっかけをくれた」

 

 初恋とか関係なく、俺は一花に惹かれていた。

 俺の写真を見て褒めてくれたその言葉や俺が弱くなった時に寄り添ってくれる優しさとか。

 だから五つ子が京都の子だってわかったとき思ったんだ。

 一花があの子だったらって。いいや、あの子であって欲しいと思ってたんだと思う。

 でも、もしそうだったらと思うと同時に恐かった。

 あの頃出会った俺はもういないから。

 だけど、一花は言ってくれた。昔の俺も今の俺も好きだと。

 俺の不安を取り除いてくれたように俺も一花の不安を取り除きたい。

 

「お前が不安がっている具体的なことはわかんねえよ。でも、ならその不安なんて抱かせないくらい俺は一花を幸せでいっぱいにしてやるし、それは……俺の幸せでもあるんだ!」

「!」

「だから一花。俺を幸せにしてくれないか?」

「なに、それ」

「無茶苦茶か? でも、誕生日プレゼントに一花との卒業を選ぶ男だぞ」

「……だね」

 

 あの時と同じように一花はどこか観念した様子で笑う。

 これできっと大丈夫だと俺はもう一度気持ちを一花に伝える。

 

「もう一度伝える。俺は一花が好きだ。隣に居て欲しい」

「っ……私は」

 

 一花は目を閉じる。

 そして少しの沈黙。それは一花が自分の気持ちと向き合う為の時間だという事がわかるから俺はジッと一花の言葉を待つ。

 

 そして一花の瞼が開く。そこには涙が溜まっていた。

 

「私は、君を好きになってもいいんだね」

 

 その言葉と共に涙は頬へと流れる。

 俺はその涙を拭うようにして手を伸す。

 

「ごめんな。何度も何度も辛い思いさせて」

「ううん……そんなこと……」

「ある。てか、すれ違いばっかだな。俺達」

「だね」

「でも、もう泣かせない」

 

 こんなすれ違いで一花を泣かせるのは今日までだ。

 

「……違うよ」

「ん?」

「これは今までとは全然違うよ。嬉し涙だから」

「そっか」

 

 そして一花はもう一度俺を見つめる。

 その眼差しは俺が憧れた一花の瞳。だけど、そこに愛おしさが加わったように思える。

 

「セージ君。私も君が好き。君のことがずっと好きだったの」

「あぁ」

 

 そして俺は一花を抱きしめる。

 後夜祭が終わっても外はまだ賑やかな声が響いている。

 でも、今の俺には一花の鼓動だけを感じていた。

 

「ね、セージ君。早速なんだけど」

「ん?」

「初デートしよ」

 

 

 




あえて誰がヒロインとは明記していなかったですが、読んでいけば絞れますから。
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