家庭教師と友人A   作:灯火円

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第20話 祭りのあと
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 学園祭終了した翌日。

 世間は平日であるが、俺達の学校は振り替えで今日は休み。

 昨日、一花に告白の返事をし恋人同士となった。

 そしてそんな彼女から初デートの提案をされ、俺は待ち合わせの駅で一花を待っている。

 

「変じゃないよな?」

 

 デートって言われて服装は悩んだが、今更一花の前で着飾るのも違う気がして結局下はグレーのスラックスで上は白のTシャツと黒ジャケットという無難な格好になった。

 一応清潔感ってのは気にしてはみたが、果たしてこれが正解なのかわからない。

 てか、俺、めちゃくちゃ緊張してるな?

 いや、そりゃ恋人との初デートだからな。

 むしろ緊張しないやついるか?

 

「学祭で付き合い出すカップル多いって本当かよ! 俺のところまで恩恵感じられないんだが!」

「俺達には縁の無い話だ」

「ん?」

 

 聞き覚えのある声が二つ、俺はその会話の方へと視線を向けると浅井と朝倉の姿が見えた。

 思わず俺は身を潜める。

 いや、あいつらに会ってマズいことはないんだが、今のあいつらに一花とのことを話すのはタイミングが悪い。

 遠くなる二人の姿に心の中で手を合わせていると俺の方へと駆け寄ってくる姿が見えた。

 

「待たせちゃってごめんね」

「一花」

「ちょっと、寝ぼ……準備に時間掛かっちゃって」

「寝坊だろ」

「準備に時間掛かったの!」

「はいはい。そういうことにしとく」

 

 これまでの俺達と変わらないこのやり取りで俺も少し緊張がほぐれた。

 

「んじゃ、行くか」

「うん」

 

 デートの場所は一花からリクエストされ、ボーリングやスポーツが出来る複合施設だった。

 

 

「やっぱ、学生の休日はこうでないとねー」

「そうか?」

 

 一花から打たれたシャトルを俺は拾う。

 着いて早々、一花が選んだのはバドミントンだった。

 一花は羽織っていた薄手のシャツを脱いで、動きやすい服装になったの見て全力で体を動かすのがわかった俺も羽織っていたジャケット脱いでいる。

 そして一花は上がったシャトルを思いっきり打ち返してくる。後ろに下がり、俺も素早く打ち返す。

 

「女優の先輩やスタッフさんと出かける事はたまにあるんだけど。なんで大人ってお出かけ=食事になるんだろうね」

「あー、確かにな。俺も仲良くなったモデルさんと出掛けた時、飯食うのがメインだったな」

 

 北条さんの付き合いで年上の人からそういう誘いは何度か受けたことがある。

 ふとネットの向こう側にいる一花の表情が少しむくれている気がした。

 

「言っておくが、複数人での話だからな。それにそういう時はほとんどが男性のモデル」

 

 俺は一花に余計な不安を抱かせない為にハッキリと告げる。

 

「……わざわざ言わなくても良いのに。でも、ありがとう」

「不安にさせないって言ったろ」

「ふふ」

 

 俺達はこれまですれ違いが多かったからな。

 出来るだけ一花が不安になる要素は消していきたい。

 

「私さ。周りには妙に大人びて見られてるみたいで。こんなことに付き合ってくれるの姉妹の皆とフータロー君やセージ君だけだったんだよね」

「大人っぽいか。見た目だけだろ。俺をからかってきやがる悪ガキだ」

 

 転校初日から俺をからかうような発言したやつが大人ね。

 

「可愛いジョークでしょ。でもね。そんな私を見放さずに付き合ってくれる。そういうセージ君に惹かれたんだよ」

「っ」

 

 俺はそれまで順調にシャトルを返していたが、その言葉に思わず反応が遅れてシャトルがコートに落ちた。

 

「不意打ちやめろ」

「本当のことだよ」

「っ」

 

 一花を見ると笑顔で照れる素振りもなくそう言ってきた。

 俺は落ちたシャトルを持つ。

 

「俺もそういうの全部含めて………好きだ!」

 

 思いっきりシャトルを打ち一花へ。そのシャトルに少し反応は遅れたが一花はしっかり俺に返した。

 

「っ! セージ君も不意打ちずるい!」

「うるせ!」

 

 そこから俺らはあーだこーだ良いながらラリーを続けた。

 

 

「あー、疲れた」

「一花、経験者か? なんかラケット振るのが様になってるって感じだった」

 

 満足するまで打ち合い、俺達は飲み物を片手に近くに置かれているベンチへと座る。

 俺は先ほどの一花の動きがどことなく経験ある動きに感じて一花に聞いてみた。

 

「中学はテニス部だったからね」

「そういうことか」

 

 ラケットの扱い方はテニスの名残か。

 

「中学はね。すっごい頑張ってテニスやってたんだ。けど、私は県大会止まり。四葉みたく全国には到底届かなかった」

「四葉は運動に関しては何でもできるよな」

 

 その分、頭の方はアレだけど。

 

「うん。中学の時から四葉が助っ人に入った部活は大体全国いってよく舞台で表彰されてたんだよ」

「マジかよ」

 

 高校でも結構結果出しているみたいではあるけど、中学からすでにそうだったのか。

 

「そんな四葉にね。私は勝手にライバルだと思ってた。だから私もテニスでって頑張ったけど、自分には向いてないって思って中三でスッパリやめちゃった」

 

 一花の昔の話しをこうしてきちんと聞くのは初めてかもしれない。

 俺は静かに彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「社長にね。スカウトされた時、女優なら四葉みたく舞台で輝けるんじゃないかって。そしたら長女として胸を張れるって思ったんだ」

 

 そういえば、一花が姉妹に女優の事を秘密にして欲しいって話した時も長女という立場が絡んでたっけな。

 

「一花はしっかり長女やってるよ」

「だといいんだけどね」

 

 てか、なるほどな。一花がやたらと四葉意識してる理由はそこか。

 ふと、四葉の名前が出て俺は昨日のことを思い出す。

 

「四葉といえば、また面倒なこと考えてるよな」

「え? フータロー君とラブラブになったのに?」

「なんだ? 聞いてないのか?」

 

 俺はてっきり四葉から聞かされているもんだと思ったけどそうではないらしい。

 

「昨日は久々にお父さんと一緒に食事だったから。フータロー君のことは……ほら」

「あー」

 

 中野先生がいる場じゃ話せないか。

 中野先生、風太郎に対してはあまり好意的でないのは姉妹達もなんとなく察しているだろう。

 それに以前、家庭教師と生徒という関係性に釘を刺されていたわけだし。いや、それも俺も同じだったけど。

 

「セージ君は何か聞いてる感じ?」

「あー昨日、風太郎から電話あった」

 

 それは俺が学園祭から帰って、ようやく興奮が収まった頃にスマホが震えた。

 

 

『四葉は俺の事を好きだと言ってくれた』

 

 その報告に俺はようやくかと思いつつ、風太郎に祝福の言葉を投げかけようとしたのだが。

 

『けど、やらなくちゃいけないことがあるとかで。俺の手を取らなかった』

 

 それはつまり。

 

「付き合ってないの?!」

「らしい」

 

 一花もまさかの結果に俺が風太郎に聞かされた時と同じ反応を見せた。

 風太郎が四葉の元へ行ったことは姉妹も周知の事実。

 四葉を選んだ事に対して俺は驚きはなかった。

 なんというか収まるところに収まったなと。

 つまり四葉と結ばれ、俺と一花のように付き合うことになったのだと思ったのだが。

 

「そういえば、私が起きた時には四葉はもういなかったんだよね」

「何考えてるかわからんが、面倒なことを考えているのはわかる」

 

 これまでだって面倒な考え巡らせて身を引いてたってのに。

 ようやくそれから抜け出せたかと思ったらそうでもないらしい。

 

「昨日、無理矢理でも時間作って話しておくべきだったかな。でも、私もお父さんに……そうだ!」

「ん?、うお」

 

 突然一花が俺のシャツの裾を引っ張ってきて俺は一花の方へと体が傾く。

 

「なんで昨日の夕飯にはお父さんが私とセージ君が付き合ってること知ってたの?!」

 

 一花は俺に問いただすように顔をグッと近づけてきた。

 この距離だとキスを思い出し、思わず視線をそらす。

 

「……なんでって。俺が話したから」

 

 それは一花と別れ、家に帰ってすぐに中野先生に俺は電話をした。

 電話した理由は一花との交際について。

 

 

「俺、一花と付き合うことになりました」

『……そうか』

 

 顔を合わせても感情が読みにくいのに電話越しだと尚更、先生がどんな感情を抱いているのかまったく掴めず、俺はスマホを握る手にじわりと汗をかく。

 

「すみません。先生を裏切って」

『裏切る?』

「だって、前に家庭教師だから」

 

 風太郎に圧を掛けるように俺にも釘を刺したのを俺は忘れていない。

 その時、俺は信頼を裏切らないようにすると先生に返事をした。

 

『あー、確かに言ったね。けど、勘違いしているよ』

「え?」

『紳士的にと僕は言ったんだ』

「紳士的に出来ているのかな?」

『一花君の表情を見ればわかる』

 

 ふと、電話の向こう側で一花の笑い声が聞こえた。

 さっきまで会っていたのにその声を聞いたらまた会いたいと思う自分がいた。

 

『君は、本当に律儀だね。だが、そんなところに僕は好感を抱いている』

「先生」

『大事な娘だ。よろしく頼むよ』

 

 その言葉に俺は力強く返事をした。

 

 

「セージ君だとは思ったけどさ。夕食後にお父さんに呼び出されて長尾君とは良識あるお付き合いをするようにって言われた私の気持ち。もう、お父さんに言うなら私も一緒にいるべきでしょ」

「あー、悪い。俺が先走ったな。いや、先生には俺もずっとお世話になってるからさ。黙って付き合うのは」

「はぁ……なら、私もセージ君のお母さんに挨拶する」

「は?」

 

 俺は一花の発言に固まるが、すぐに思考を再開させる。

 

「いやいや、別にうちは」

「お母さん仕事? 夜には帰ってくる?」

「ん? あ、あぁ……って違う!」

 

 いつもの調子で返事してしまった。

 

「もう、セージ君はそうしたじゃん」

「それは」

「とりあえず、連絡しておくねー」

 

 そう言って一花はスマホを取り出して文字を打ち始めた。

 そういえば、一花と母さんは連絡先を交換していたっけ。

 

「はい、もう送りました」

 

 一花は送った内容を満面の笑みで俺に見せてきた。

 

「……わかったよ」

 

 どうせいつかは話さなきゃならないことだ。

 

 

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